五日目の日中
いよいよ5日目である、おっさんは朝から少し憂鬱な気分が拭いきれないが、レミアと従者を心配させてしまいそうなため明るく振舞いつつ最後の村の浄化と治癒を終える。
「私はこれから嫁とルシエの手伝いに行こうと思っていますがお二人はどうされたいですか?早めにコテジに戻る事も出来ますが。」
「いいえ、ご一緒致しますわ少しでも、村人の心配を減らせるよう会話することも必要でしょうし。」
「お供します。」
「わかりました、私は井戸に居ますので、夕刻までは自由行動で。」
転移を終え、本日嫁とルシエが滞在している村の井戸へと向かう。従者2名が私の方に向かってくると。
「レミア様もご一緒ですか?」
「はい、今は村長の家に居られると思いますよ。」
従者二人は顔を綻ばせ頭を下げた後村長の家の方向へ歩いて行く。なんだかんだで本当にレミアを慕い共に在りたいと願っている娘達である。おっさんは少しテンションを上げてドレスチェンジをして村娘風の作業着に着替えると井戸の前に居るルシエに声をかけた。
「ペースを上げるけど、きつくなったらすぐに合図してね。回復しに上に上がる事もできるし。」
「わかったよ、ボク精一杯頑張る、だから今日は・・」
「うん、わかってるよ。それじゃあ行くね。」
おっさんは期待の籠った視線をルシエから受けつつロープを使いスルスルと井戸を下りていく。そこに着く前に安全確認の為嫁に自分が来たことを伝える。
「来たよ。」
「ああ♪旦那様、そっか今日はもぉ回る所一か所だけだったんだよね。」
「そそ、だからこっちを手伝いに来たってわけ。」
「助かる~穴が結構広めで一人だと小技多用でもクールタイムの関係で時間かかっちゃってぇ。」
「大技は使ってないの?」
「ん~壁の強度を考えると【ピック・ストライク】はちょっと危険な気がして安全策でゆっくりやってるよ。」
「ふむふむ。」
おっさんは少しだけ悩んでからアイテムボックスから【流星棍】を取り出しおもむろにザクっと地面に刺す。
テキストによれば【流星棍】は隕石を削り出した棒であり、硬度は地上の鉱物の全てより高いとある。なので鶴嘴にも負けないし、岩盤よりも硬いであろう。
「アナタ、まさかそれに向かって【ピック・ストライク】する気?」
「そのまさかだね。いくよ、少し離れてて。」
ニッコリと笑って突き立てた棍の先端に向けジャンプしてから的確に鶴嘴の先がミートする位置で大技を繰り出す。
【ピック・ストライク】
キィイインと金属がぶつかり合うような音と共に棍が一瞬で地中に刺さりこみ、技の衝撃波は面でなく棍の先端分の面積で垂直に伝わっていく。一気に足元の岩盤が3mほど崩壊したかのようにバラバラになり、収まった衝撃の跡は小技を数回繰り返したのを遥かに超える作業率だった。
硬い岩盤にスパイクを打ち込んで、その後に衝撃波で崩壊させる大技の特性を生かしたものだが、棍がまずピックより硬くなければならない事と器用さ<DEX>が低いと命中率が下がり、一点に力が集約できない恐れが有るので、器用さの低い嫁にはお勧めしなかったのだ。
唖然としつつも出来ることを確信していた嫁は。
「私じゃそれは無理ぃ~。」
言いつつロープを3回引く。
「じゃあ休憩がてら上でルシエの応援を頼むよ、私はガンガン掘っていくから。」
「了解、邪魔になりそうだしね。」
嫁は土砂をよけてから壁に魔方陣を描き上へと転移していった。合図したのでルシエのノームがおっさんの傍まで降りてきて魔力を放出し、土砂はゆっくり上へ上げられて行く。
「精霊魔法便利だなぁ。」
おっさんはしみじみ思いつつ再び棍を突き立て、鶴嘴を振りかぶる。
「クールタイムも土砂引き上げと時間的に丁度いいね。あと20回くらいこれをすれば・・・・」
そう言いつつ飛び上がり鶴嘴を振るうおっさん、何かしらの作業をすれば無心で考え事も減ると思いつつ【ピック・ストライク】を発動させる。
「静かだね。」
紐を引きつつおっさんは久々の一人の時間を堪能していた。
一方首都教会では各地の領地から集められたシスターや巫女見習いが続々と教会に到着し、あらかじめ決められていたテントに荷物を降ろしたり、日程の確認を行っている。
名簿を確認しつつシスターが全員の到着を見守り、誘導していく。とてもつい最近まで目が悪く寝込みがちだった人の様には見えない働きぶりである。
「シスター、全員が揃ったそうですね。」
「はい、今しがた確認致しましたよレイネ様。」
「では、支度が出来た者から夕飯の準備を手伝って頂きましょう。」
「そうですね、お客様では有りませんから全員が支え合う仲間として作業に臨む姿勢が大事でしょう。」
シスターは中庭に入り全てのテントに通達して回っていく、レイネはその様子を見つつ自分の故郷の領地のために集まってくれている全ての者達に感謝で一杯になっていた。
「私も私に与えられた責を果たさねばなりませんね。」
レイネは客間へと戻り明日からの支度を始めていた。しかし、謁見用の派手すぎない衣装・・・これが非常に難題だった。レイネは修道服を纏って長く、その他の服などめったに着る事も無い。手持ちの荷物の中にはそれに相応しい衣装は存在しなかった。
途方に暮れているとドアがノックされ首都教会の巫女見習いの一人の声がする。
「レイネ様、針子が数名来られておりますがどちらにお通しすれば良いですか?」
「針子?わたくしは頼んではおりませんが・・今向かいます。」
レイネがミサ室と孤児院施設の間にある待合室に向かうと首都被服ギルドの職員が数名待ち構えていた。
「アナタがレイネ様ですか?王宮より依頼を受け特急で仕事をこなせという事で参りました。」
「王宮?まさか・・オジ様(国王)が・・。わかりましたお願いしたい衣装が有るのですどうぞこちらへ。」
国王は古き友人の娘としてわたくしを遠くから見守る様に支援なさってくれております。謁見の時に少しだけ久々に会話出来たもののまさか今回もこのような配慮を下さるとは思っても見ませんでした。心中であれこれ考えつつもきっとオジ様ならばこういう事をしてくれると思い、勝手に信じることにした。
「布とデザインは既に指定されておりましたので採寸、裁断、縫製、仕上げを一気に行います。」
「宜しくお願い致します。」
数名の針子たちが物凄い勢いで作業をしていく。私は服を合わされたり、質問に対して答えたりしながら作業を見ているしか出来ない。この作業は深夜になるまで続く、王宮の指示だとは言え少し申し訳なく思ってしまうわたくしでした。
夕刻が過ぎ、蝶華がコテジに戻ると今日は誰も戻って居ない事に気が付く。
「今日は旦那様が戻られてませんね。」
少しがっかりした口調で一言呟いてから、お風呂の掃除と湯はりを行っていく。
食事はおっさんが基本準備をする事となっているため蝶華をはじめ嫁もルシエも厨房に進んで立つことは無い。各自が出来る仕事をこなすことでコテジの平和は保たれている。
嫁とルシエは庭で何か小屋を建てる計画を練ってばかりなので、ほとんどの作業は蝶華が担っている訳であるが、それも含めて蝶華は自分の置かれたポジションに満足していた。
当初は奴隷の様な扱いをされる覚悟でリアとセシルの元に身売りされたと考えた事も有ったが。そんな事は全くなく、家族として、配偶者として、女性として、時に女の子として扱ってくれる旦那様とセシルを蝶華はとても慕っている。
表情は変化しないままに鼻歌交じりに水が溜まっていく浴槽を眺めていると人の気配がリビングに有る事に気が付き足早に向かう。
「ただいま蝶華、今日は一番だね。」
「おかえりなさい旦那様。みなさんも、今日は揃って行動されていたのですか?」
「旦那様が応援に来てくれたんだよぉ~。」
「凄かった、早くて、ボク付いていけないかと思った。」
「ですが一日で掘り切ってしまうなんて・・流石ですわ。」
皆が口々におっさんを称賛している中。おっさんは食事の支度を始めようとキッチンの方向へと向かう。
「では、今日はルシエさんが一番手で。続いて蝶華、最後にセシルさんがアタックの順で参りましょう。」
「何のお話ですの?」
「アハハハ・・こっちの話だよぉ。」
「お嬢様こちらへ!」
首根っこを摑まえられるようにしながらレミアがキッチンとは反対方向の離れたテーブルに移動させられて耳元で従者3名が囁く。
「本日の夜はなるべく大人しく、お手洗い以外では部屋から外へは出ないことが大事です。」
「何故ですの?」
「本日は・・その・・夫婦の秘め事をする予定なのだと思われます。」
「みんなソワソワでしょ?」
「ドキドキぃ。」
真っ赤になったレミアにも言葉の意味は通じたらしい。コクコクと頷いて自然に振舞えるように注意を払う従者達とレミアだった。
晩御飯が終わり、後かたずけを終え、おっさんがお風呂へ向かおうかな・・と思っていると。
「旦那様今日はこっちだよ。」
「ルシエ?こっちって、今日は混浴風呂にお湯が張ってあるの?」
おっさんは手を引かれ混浴風呂に引き込まれていく。混浴風呂の壁にはルシエの防音のお札が数枚張られているのが脱衣所の時点でも見受けられた。身構えるおっさんを背後から蝶華とセシルが剥いていく。
「じゃあレッツゴぉー♪」
「行きましょう旦那様。」
「今日は一緒だね。」
おっさんが風呂に引き込まれていく姿を見ていた4人は真っ赤になり、かしまし娘すら少し慌てた顔で。
「何かスゴイ勢いを感じましたわ。」
「流石嫁達って感じでした。」
「迂闊にも見とれちゃった。」
「あれが正妻の余裕か・・」
「私達もお風呂を済ませてしまいましょう、早めに部屋に戻っておかないと。」
「そうですね、参りましょう。」
「コップ壁に当てたら聞こえるかな?」
「どうだろうね?」
なにやらぶつくさ相談をしている二人を引き連れてレミア達も入浴していく。
今夜は毒抜き予定日、嫁を含む女性陣は朝から何やら算段を練っている様でありおっさんは憂鬱だったのである。お風呂から先制攻撃されて、既に後手に回ったおっさんの運命や如何に・・・




