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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
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四日目の事

4日目の作業も終えて、おっさん達、蝶花、嫁ルシエと順々にコテジへと戻って来る。嫁とルシエのペアとかしまし娘二人は日を追うごとに作業に慣れて戻って来るのが早くなった。


全員で夕食を取り入浴を済ませる。リビングに戻り、ソファに腰かけて考え事をし始めた直ぐ後に帰還石が光を放ち、ヴァイスプレ閣下とジェントさんの姿が現れる。驚きつつも転移の仕方は教えてあるので可能性が無い事は無いのを想定していたおっさんは落ち着いて立ち上がり出迎える。


「ようこそおいでくださいました閣下、ジェントさんも、直接こちらに来られたという事は予想以上に調査結果が悪いと捉えるべきなのでしょうね・・・」

「突然の来訪で驚かせてしまって済まぬな、何分私の手にも負えない事態になってしまった故にな・・」

「立ち話もなんですから、会議室へ参りましょう。お茶の支度をしますので、蝶花!閣下を会議室にご案内して、私もすぐに向かいますから。」


乾き切っていない髪を拭きつつ浴室から現れた蝶花は一瞬ビクッと事態の把握とともに硬直してから。


「こちらです、どうぞ。」


何事もなかったように二人を案内していく。

私は手早く10人分お茶の支度を終えてなるべく急いで会議室へと向かった。


会議室は教会よりもかなり広めに設計していたため12人は座れるようにテーブルと椅子が置かれ、一番奥側に閣下とジェントを座らせ、蝶花は立っておっさんが入る前に扉を開けてくれる。


「有難う、蝶花は嫁とルシエにこの事を伝えてレミア様達を連れて来てもらえるかな?全員で話を聞こう、今回はお家騒動じゃ済まない感じだし。」

「はい、わかりました。」


緊張はしているものの少し表情が柔らかくなった蝶花は言いつけ通り嫁とルシエを伴って、最後にレミア様達がついて来る形となって戻って来る。おっさんは手早くお茶の支度を全員分してから席に着く。ヴァイスプレの斜め前におっさんとレミアが向かい合い、嫁、蝶花、ルシエと横に並び、向かいにはレミアの従者が座る。

ジェントはテーブル側では無く椅子をヴァイスプレの斜め後方に置き、聞きに徹する構えのようだ。


「お待たせして申し訳ありません。お話を伺いたいと思います。」

「こちらが先ぶれもなしに勝手に来訪してしまったのだから気に病むことなど無いのだ、それでは国王からの伝達を伝える。手紙では無く口伝えのみでの連絡となっていることを考慮してほしい。」


現代でもそうだが、最も確実な連絡手段は当人と会って内容を口で伝えることである。文章にしてどこかで紛失したり奪われたり、コピーされたりすれば機密情報とは言えない。さも普通の様におっさんはヴァイスプレを見つめて話を続けるように頷く。


「鷹便で今日の午後入った諜報部の話では、東の隣国ズーランとの国境の向こうの砂漠で大きな砂嵐が発生しているとの事だ、瘴気を纏い吹き荒れており詳細は危険が伴うため不明だが、ズーランの首都を中心として瘴気を受けた人間が体調を悪くする等の健康被害が出ていることが確認できた。」

「それと今回のフォンターレの事がどのように結びつくのですの?」

「まぁ、焦らずに聞いて下され。」


ヴァイスプレは今にも身を乗り出しそうなレミアを目で抑え、話を続ける。


「ズーラン国王の体調がここ数年芳しくなく、瘴気の影響を受けて重篤な状態にあることが判明したのだ、その機を狙って反国王派の派閥の者が国王の体調不良が始まってから数年がかりで切り崩していたフォンターレへの経済攻撃に拍車をかけた。フォンターレ領内の備蓄が干ばつ開始以前にズーランへと吸い上げられておるのが証拠となった。」

「そんな・・・」


蒼白になってワナワナとしているレミア、落ち着かせるように少し声のトーンを和らげてヴァイスプレは言う。


「レミア殿、そなたの御父上が亡くなられて以降内務担当と外務担当が結託しズーラン商業ギルドと繋がりを持ち領内の物品、人材を領の外へと誘導している。これがその証拠だ。」


バサッと紙の束がテーブルの上に広げられ、おっさんとレミアは素早く目で内容を追う。内務担当の名前でフォンターレの物品がズーラン商業ギルドへ流れている事を確認できる物と、外務担当が逃亡する兵士に紛れて国外に連れ出した人材のリストなどがある。


「明らかなる外患誘致行動ではあるが、関与した者がもう二人いたのだ。街会議議長カルチェと当時は王宮出納まとめ役だったメショーン伯爵、これらは既に捕まっておるので口を割らせるのに苦労は無かった。」


ああ、成程なという目で嫁が納得の頷きをしている。話に出たカルチェは起こったことの全てを書き残さないと気が済まない几帳面な男であり、メショーン伯爵もまたそうであった、首都での騒動の時に目の当たりにしている嫁はすぐさま理解し、納得できたようだ。


「外観誘致の発端が王宮出納庁から、というのは聊か国の運営に響く問題となる。そこでこの問題の解決を聖女に任せる代わりにフォンターレ領のお咎めも同時に無しにするという案が宰相から上がったのだ。」


何も無かったことにする代わりにそっちも黙ってて下さいね、というある意味ウィンウィンな提案であるがおっさんは忙しいだけである。意地が悪いのを承知で尋ねる。


「それで私に何の利益が出ますか?」

「レミア殿とフォンターレ領民の安寧が得られることが聖女にとっての利益だという事だ。」


あのタヌキ(こくおう)キツネ(さいしょう)め・・・と一瞬恨めしく思うものの、おっさんが求めるものはそれでありそれ以外は無い。理解が得られて少し嬉しくもあった。


「成程、承知しました。私はこの話を受けようと思います、王国からズーランへの対応はどのようにするべきか伺っていますか?」

「聖女の思うまま、望むように事を成されてくれ・・との事だ。」


あ~もぉ~!!って少し叫びたくなりつつも丸投げの方が動きやすいから問題は無いので良いのだけれど、一国の差配を私一人に投げちゃって良いものかなぁと訝し気にヴァイスプレを見る。


「国王と宰相に随分信頼をされているようだな?」

「有難い限りですよ・・」


トホホ・・と思いつつも信頼には応えねばなるまい。王国の利益の為でなく戦争の回避、国が揺れるのを防ぐことが第一である。それが民への一番の報酬となり、おっさんはそれが得られることに至上の喜びを感じるのだった。


「責任者は国王と宰相とこの私、全ての責はどのような事態になっても請け負う覚悟だ。」

「わかりました、王と宰相には宜しくお伝え下さい。」


満足げに言い切ったヴァイスプレとは裏腹に完全に掌の上で小躍りさせられているおっさんは不満げな顔だった。


その後レイネ様と共に獣王国ズーランへ入り、獣王宮で謁見の予定を伝え、移動についてはこちらで何とかする事も言い含め、会議はひと先ずの終了となった。


「旦那様絨毯使う気ぃ~?私も乗りたいぃ~。」


嫁が立ち上がってチョークスリーパーの体勢でおっさんの耳元で騒ぐ。


「嫁も持ってるんだから、ルシエと蝶花と乗ればいいじゃない?3人乗りだから出さないだけだし、荷物も積めないし、天候変化に弱いから馬車に軍配が上がってるんだよ。」

「私は旦那様と乗りたいの~!」


ギブギブっとタップして何とか離して貰えたので、閣下を見送るため転移陣の方へと向かう。

閣下はジェントと共に施設を見回った後。


「リア殿は良い屋敷を構えられましたなぁ、首都近くでこの大きさの屋敷は少ない。庭も広い、静かで良い屋敷だ。」

「一階部分は好きに使われていいですよ。2階の客間も同様に。ただし連れ込み宿ではないのでご配慮願います。あくまで隠れ家的な部分でご使用願います。」

「承知した。存外聖女も好きものなのかのぉ。」


ガッハッハと笑うヴァイスプレと苦笑気味のジェントが転移していくのを見守って、やれやれとした気分でローテーブル前のソファに座る。レミアが何か言いたげな表情で立っていた。


「どうしました?レミア様?」

「わたくし、何も知らずに領主をやっていたことが少し恥ずかしくて・・情けなくなりましたの。」


先ほどの会議の内容では臣下に裏切られ領の財産である物資と人材を横領され、知らずに過ごしていたダメ領主の様な感覚になってしまうに違いない。でも王宮もまた同様にそれに気が付くことは出来なかったのでレミア一人が不能というわけでは無いのだ。


「大丈夫です、物も人もこれから零れ落ちない様にしっかり守って下されば私はそれで。」

「わたくし精一杯精進いたしますわ!」


くるっと振り返って2階の客間へと戻っていくレミア、この騒動を経て少し大人になれるといいね・・っとおっさんはまた少し老け込んでニンマリとその後姿をみつめるのだった。




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