〈閑話6〉瘴気の渦
時系列はエルフの里の結婚式後あたりとなっています。
最近は女神が大人しいので胃薬を飲む回数も減り、健康的な毎日を送っているセドムです。
件の女神は自室に籠り神力を蓄えると言って見かける事も、呼ばれることも少なく、逆に悪だくみの心配が出て来るほどです。
安心して生活を送っていたのもつかの間の夢だったのでしょうか?いい笑顔の女神の姿が見えました。
「セドム、これを見て、貴方の意見を聞かせて頂戴。」
珍しく執務室である女神の間に現れたスィーリズ様は黒い水晶の様な物体を手にして私に問いかけます。
「これは・・黒の結晶じゃないですか、邪気を封入する器ですね、なにやら手が加えられているようですが・・・容量が倍?邪神でも復活させるのですか?」
「違うわ、これを瘴気を纏った生物の核の部分に植え込んで、負の力を増大させ反発して正の力が増大することを計画しているのよ。」
なるほど、正と負のパワーバランスは一定になる様に調整されている、一方が跳ね上がれば他方もそうならざるを得ないって・・・通常の2倍の力が相克を起こさないでしょうか?心配です。
「大地に眠る負の力を一点に集約できるこのコアを使って、大きな正の力を引きだすのよ!」
「理屈は分かりますが・・周囲に危険は無いのですか?」
「なるべく人里離れた部分でやれば問題無いでしょう。」
「わかりました、仰せのままに。」
女神に指定されたポイントは、中央大陸東の砂漠の真ん中、西側大陸の山中奥深く、南の大陸の高原の3か所でした。確かに生物の住処からはかなりの距離が有り、直接影響が出る事は少ない様に思われました。
私は不安は残るものの命令ですから、渋々コアの埋め込みに向かいます。
砂漠で力尽きたサソリを発見し、まず埋め込みます。そして黒の結晶を起動し、その場をはなれました、みるみる黒い靄がサソリに集まり小さなサソリは見えなくなりました。
「一瞬でコレか・・・本当に平気なのだろうか?」
通常の2倍の速さで負の因子を周囲から取り込み増大していく瘴気を見つめつつ私は独り言ちます。そこから離れ、他の2点の核にも同様に埋め込み作業を行い、周囲の生命に危険が無い事を確認してから女神の間へと戻りました。
女神の間に戻ると遠見の写し鏡を覗き込みつつ、考え事をしている女神の姿が有り、ブツブツ何か呟いておられます。
「何・・あれ、聖女・・神がかってきてるじゃない?以前よりも強くそして神々しい力を感じる様になって来てる、嫁もね・・セドム何があったか報告をお願い。」
独り言かと思えた発言でしたが私が戻ったことを確認しての事でした。私は女神が籠っている間に起った事のあらましを伝えていきます。
妖精の住処の事、エルフの里の事を伝え、フィーリズ様より羽衣の件を秘匿するように言われていたことを忘れずに守り、当たり障りのない説明を終えました。
「なるほどね、大きな瘴気を纏った蜘蛛を倒して聖女一行のLVが上がったと。」
「左様に御座います、新たなスキルも得て、現在は南下するため移動中である事が確認できました。」
「ありがとう、下がっていいわ。」
私は言われた通り跪き礼を尽くしてからその場を離れます。
説明をしている最中からずっと女神は鏡から目を離さずじっと何かを見つめていましたが、女神の瞳が影を落とし、表情から嫉妬の様な黒い印象を覚えて主に恐怖を覚えました。
「触らぬ女神に祟りなしです。」
女神の間から離れてから一人吐き出すように低い声で私は呟いていました。
その後一週間ほどで核を埋め込んだ生物たちは異常発達をし、黒い黒い瘴気の塊のような存在となってました。サソリは竜巻を纏い砂嵐を巻き起こし、山中のモノは毒沼を形成し周囲に何も寄せ付けず、高原のモノは瘴気の霧を発生させ周囲を覆っています。
危険が無い地域に有る筈だったのでその時の私は女神の言いつけ通りの仕事が出来ていることに満足し、あまり警戒をすることなく時は流れていきました。
聖女がフォンターレ領に入る頃には砂漠の竜巻の勢いは増し、西側のフォンターレ領にまで悪影響が出ていることを確認して私は頭を抱えます、生物の存在する地域に影響が出る程その力が増大するとは私自身考えてもみなかった事で、慌てて女神に問い合わせます。
「スィーリズ様、ご覧になられてますよね?その、あれ、平気なのでしょうか?」
「いい感じよ、良い感じだわ、凄く周囲の生命から危機感と不安を煽り、祈る様な力が私に注がれてくる・・・上出来ですセドム。」
「いえ、その力はいいとしても渦中の民や生物への危険は無いのですか?」
「暑く、乾燥した風を巻き起こす砂漠のサソリ・・もう魔蠍ね・・今のところは環境への影響で済んでいる様だけれど、いずれ負の瘴気の影響で体調を崩す者も出るかも知れないわね。他の所は今は平気の様だわ。」
「十分悪影響出ているでは無いですか!中止は出来ないのですか?」
「無理ね、もう深い深い所まで核が定着してしまっている、ただでさえ少ない神力を行使出来るほど私は暇じゃないわ、そこまで心配なら貴方が手を打って頂戴。」
手を振りながら言い放つ女神に・・「わかりました・・」と返事を返して私はすぐにフィーリズ様の元へむかいました、少なくとも私の権限と力では対処できないと思われたからです。
地球の女神の間に到着すると同期のバスティが出迎えてくれました。
「バスティ・・其方は何だか、その、美しくなったな・・」
「え?私が?・・・馬鹿な事を言ってないでフィーリズ様に何か用が有るのでしょう?行きなさい。」
バスティは明らかに女性的な美しさを得ている様にセドムには見えた。思い人でも出来たのか?真面目が取り得の彼女にも春が来たか・・・と同僚の新たな変化を喜んでいるとフィーリズ様の方から声がかかった。
「そろそろ来るとおもったわ、貴方結構危険なものを仕込んだ様ね?」
「はい、まさかこれほどの瘴気を集めてしまうとは思いもよらず、手に負えそうに無いため参上しました。」
「わかっています、ですが、今回は見学だけで良いと思いますよ?」
「そ、それでは周囲の生命に危険が!」
私が身を乗り出すように言い放つとフィーリズ様は手スッと前に出し私を制し。
「既に手は打ってあるのです。聖女に任せておけば平気です。」
「まさか・・あの力を聖女一行でどうこうできると言うのですか?」
「ええ、そのまさかを平気でやってのけるのが今の聖女です。私が預けた羽衣、貴方は何度か遠見の写し鏡でご覧になっているでしょう?あれを人が使いこなせるようになりつつ有るのです。面白いとは思いませんか?」
不敵な笑みを湛え女神は私の顔を覗き込むように上目遣いで言葉を紡いで来られる。姉妹ともども好奇心の塊だな・・・と心中で愚痴を零しながらも表面上は冷静を保ち。
「面白くはありませんが、フィーリズ様が安心だと仰るならば疑う余地は有りません。」
「もう暫くはあの子には隠しておきたかったんだけれど、使わざるを得ないかも知れないわね、言い訳はバスティと一緒にお茶でもしながら考えておいて。」
「わかりました。」
周囲の生命に影響が有っても聖女が居れば何とかなるという女神の言葉を信じ私はバスティの入れてくれたお茶を飲みつつ女神スィーリズに対する羽衣の言い訳を考える。
何故か少し顔が赤くなったバスティと向かい合う様に女神の間のテーブルに向かい合う様にして座り、暫く会話を続ける。会話の合間を狙って女神フィーリズが爆弾を落としてきた・・・・
「バスティの春の訪れを祝うために神酒を準備しましょう!アンブロシア取ってこなきゃ♪」
「は、春など訪れてません!!どの口が申されるのですか!」
女神と天使が追いかけっこしている様など中々見れるものでは無い。私は先程までの緊張した感覚が緩み微笑ましく真っ赤になって女神を追いかけているバスティを見ていた。
「彼女に訪れた春が良い物であるといいな・・」
ふと思った事が口から洩れていた事を自覚はしていなかったが、女神はちゃんと聞いており、バスティから逃げながらもニヨニヨとこちらを見つめてくる。
「貴方もそんなのだから独り身なのですよ、自己分析なさい!」
女神の言葉の意味がわたしにはこの時はまだ理解できなかった・・・・




