東の隣国との関係
レイネは椅子に掛けたまま静かに語りだした。
「今から13年前、私は東の隣国の王の第二王妃として嫁ぐ予定となっておりました。巷では政略結婚と囁かれましたが、私も王も合意の元正式な婚姻だったのです。」
「ええ、わたくしお姉様が幸せそうだったのを良く覚えていますもの。」
何かを思い出すようにレミアが相槌を打つ。
「ですが周囲の者はそうは思っておりませんでした、70年前の戦争の遺恨がぶり返す形となり、王国内、獣王国内で大きなデモが行われ、両国は大きく揺れました。結果として私は国王の指示と保護を受けた形でシスターの元に預けられ、数年後には中小教会の司祭まとめ役に落ち着いたのです。もちろん婚姻は無いものとなり、両国内の動乱は収まりました。」
「そんなことが、では、御姉様はまだ獣王の事をお慕いしているのですか?」
「ええ、わたくし・・その・・モフモフしたものがとても好きなのです。」
頬を少し赤らめながら小さな声でレイネは呟く。ああ、本当に獣王国に嫁ぎたかったのだな、とおっさんは同情と共に沸いた疑問を投げかける。
「しかしそれだと今回のフォンターレ領に対する扱いがあまりに酷くないでしょうか?」
「私の予想を述べて宜しいのでしたら、完全に王とは別の派閥による独断ではないかと思われます。」
「なるほど、今になって王の派閥以外が出てくるという事を考えれば・・王の求心力が低下していることが考えられますね。ヴァイスプレ閣下の手の者が今獣王国の偵察に向かっているので報告によっては向こうの動きも分かるかも知れません。」
一旦全員が沈黙する、おっさんは思考のポーズを取り、くいッと顔を上げてレイネに言う。
「獣王国をどうしたいですか?獣王国とどうありたいですか?レイネ様の願いをお聞かせください。」
レイネは少し呆気に取られた表情となり、その後落ち着きを取り戻して訴える。
「私は争いは好みません、友好的で共に支え合って成立できる両国関係を望みます。」
「レイネ様はそれに対してどのような行動を取れますか?もしくは取ろうと思っていますか?」
おっさんはレイネの意志を窺っている。ただ思うだけ、願うだけで現状は変わらない。行動を伴う意思でなければ人は動かない。レイネにおっさんが動くに足る動機を求めているのだ。
「こちらの品が何かのお役に立つと思われます。これを見せれば獣王国には立ち入れるでしょうし、獣王との謁見も叶うかも知れません。」
胸元から獣王家の紋章の入った大ぶりなネックレスがスルリと引き出される。ペンダントトップには獣王とレイネ二人の名前が彫り込まれており見事な彫金細工だった。
「獣王国に向かうとすればレイネ様もご同行願えるでしょうか?無論和平の交渉の為ですよ、多少強硬的な部分も出るかも知れませんが。」
「勿論協力は惜しみません。」
即答だった、彼女の意志は固い。レイネの瞳を見つめ、おっさんは信じるものを信じる覚悟をする。
「3日後の早朝、日が昇る前に獣王国に出発致します。覚悟と準備をお願いいたします。フード付きのマントとその下は修道服では無く、謁見も可能な派手すぎない衣装をご用意下さい。」
「獣王国へはどのように?砂漠を一週間は砂馬で行かねばならないのですよ?」
「その点はご心配なく、考えが有ります。」
ぱちっとウインクしておっさんはレイネ様を見る。不安げな表情だったレイネの緊張が解れ笑みがこぼれる。
「聖女様は本当に・・・」
「御姉様!」
話が一区切りついたことで、レミアがレイネに飛びつく様にすり寄っていく。久々の姉妹の再開であるゆっくりと話をして貰おう。従者3人はその姿を見て静かに微笑んでいる。
おっさんはシスターの方へ向かい立ち上がると。
「シスター二日後に此処に召集される中小教会からの支援者は22名で間違いないですか?」
「いいえ聖女様、わたくしも参加致しますので23名です。」
「し、シスターもご協力頂けるのですか?」
「聖女様が獣王国に向かわれるのでしたらまとめ役が必要になるでしょう。わたくしとて無駄に年を取っている訳では御座いません、自ら若い者の前に立ち、導いて行く事こそがシスターとしての役目だと思っておりますわ。」
「ご協力に感謝を。では、詳細を詰めていきましょうか・・」
おっさんとシスターは地図を広げ、11か所の村の位置と帰還石の位置、転移魔方陣の設置個所の確認を行い、それぞれに何人割り振っていくかを検討して、紙に書き込んでいく。朝・夕の食事は孤児院で、昼ご飯は嫁に作り置きを持たせて各自に持たせる事となった。
11か所への転移はシスターが1組、蝶華が4組、嫁が6組の人員を行う事とした、転移に慣れている嫁を中心として、負担を減らす算段である。
住居環境としては教会の中庭に仮設のテントハウスを設けさせて頂く事となった。テントは4~6人仕様だが広く使ってもらおうと7組で一つのテントに3~4名の振り分けとなる。毛布やランタンはこちらで準備する、スペースはぴったりでちょっとした繁忙期のキャンプ場の様に見えた。
「こんなところですかね、何かあれば蝶華に伝えるか、セシルに伝えて貰えれば私にはすぐ連絡がつきますのでご安心ください。文字通り飛んで駆け付けます。」
「そうはならないように皆で成功させますわ。」
「心強いお言葉、安心して任せられます。」
ひとしきり全体の話がついたところでおっさんはアイテムボックスから先程作ったアイスを取り出す。全員の席の前に一皿ずつ置いてスプーンを並べていく。
「頭を使うと糖分が欲しくなりますよね、さっき作ったんです。食べてみてください。」
バニラアイスが平皿の上に2個並んでいる。ちょこんとミントの様なハーブを一枚乗っけて飾りがしてある、アイスクリームはこの場にいる全員が初体験らしく、スプーンでつついて硬さを確認したりしながら皆が思い思いの食べ方で口に運ぶ。
「冷たくて、甘くて、爽やかな香り、美味しいですわ!」
ぱぁっと華が咲いたような笑顔でレミアが声を上げた。他の面々の表情を見ても同様に舌鼓を打ってくれているようなので味は上々、成功してよかったとおっさんは胸を撫でおろす。
「私と嫁の国では一般的なお菓子(氷菓)なのですが、お口に合った様でなによりです。セシルに預けておきますから支援の皆さんにも食べて貰えれば幸いです。」
嫁に預けると一人で食べてしまいそうな気もして不安だったが、まさか全部は食べれないだろうと考えておっさんは暑い所へ向かう皆を労う事に決めた。
「では、時間も遅くなってきましたしそろそろ失礼しましょうか。」
最後にもう一度レイネにしがみつくレミア。
「もう逃げたり隠れたりは致しません、また会えるのですよレミア。」
「わかりました、御姉様が戻られても恥ずかしくないようにしっかりと領地と領民を守りますわ。」
パっと離れてカーテシーを行いレミアは転移魔方陣に駆け寄ってくる。従者3名も続いて全員が魔法範囲に入ったことを確認して。
「それではレイネ様、3日後早朝にここでお会いしましょう。」
「はい、お待ちしております。」
転移魔方陣に光が溢れ、コテジのリビングの一角に設置された帰還石の元へと移動した。
移動したスペースの最も近くのテーブルに嫁、蝶華、ルシエが陣取っている。
おっさんは無言でアイスの皿を3人の前に並べて。
「遅くなってゴメンね、食べて機嫌直してね。」
3人は何も言わずにアイスに夢中となる。
「扱いが手慣れてますわね。」
「給仕が早すぎて目が追いつきませんでした。」
「3人ともちょろいな~」
「チョロインですわ。」
おませな二人にはその後おっさんのちょっとした説教が有ったのは言うまでもない。
何にせよ今後の動きも固まって、あとは閣下の報告待ち・・と言った所である。
事態が丸く収まる事を祈りつつ3日目は終わるのだった。




