シスターと教会
わたくしは首都にある教会のシスター、本日は蝶華さんがいらっしゃるという事でこの会議室にてお待ちしているのです。
先日聖女リア様より頂いたお手紙には驚かされました。まさか4人でフォンターレ領の村人全てを救う作戦を決行されているとは・・我々の想像を遥かに超える行動力、流石というか・・圧巻でした。
手紙の中にはレイネ様に伝えて、中小教会でシスター若しくはシスター見習いの中から22名を選抜し、干ばつの被災地の村人救援に助力を願う、と言うものでした。
しかも身の安全は無論の事、宿泊先、食事、衣服に至るまで聖女様が負担して下さると言う申し出、体一つで奉仕活動をする心が有れば良いとの事。私財を投じてでも困っている領地を救おうという気迫の籠った文章で心打たれます、わたくしはすぐに早馬便でレイネ様に文を書き送りました。
レイネ様からはすぐに了承の手紙が届き、人員の選抜と移動で5日程かかるという事です。
「しかし集合場所がここなのは何故でしょう?」
わたくしはひとり疑問符を投げかけます。
確かに中小教会は森以北の領地に多く、シスターやシスター見習いの練度も上がってきました。【浄化】【ヒール】を覚えたシスター達は日々の奉仕を続け、有能な者は【範囲回復】や【範囲浄化】を扱える者も出て来たと伺っております。ですがフォンターレ領は南の果て、ここから移動しては一か月以上到着にかかり、支援は遅れるばかり。
この時のわたくしはお恥ずかしい事に転移魔法を行使するという事を失念しており、思考が少しから回っていたようです。この後すぐに蝶華さんが帰還石から現れてここが集合場所なのを納得致しました。
「おはようございますシスター、お待たせしてしまいましたか?」
「おはようございます蝶華さん、いいえわたくしもつい先程ここへ来たばかりです。」
「なら良かったです。」
お互いに立礼を交わし蝶華さんに席を勧め、お茶の支度をしてから私も席に着きました。
「それで本日は何についてお話を聞かれたいのでしょうか?」
「支援に協力下さるシスターとシスター見習いの最低限の衣食住の程を見極めて、支度を進めようと考えたのですが、普段のシスター達の生活を私は詳しくは知りませんので。」
「それでわたくしに問いたい事がある、と言う言い回しだったのですね。」
「はい。」
わたくしは蝶華さんにシスターの衣装の説明から致します、髪は結って上げたものが成人を迎えたもの。このシスター達は素足を見せてはならない為踝までの長さのスカートを履き、そしてベールで顔が全て見えないように覆い、神への謙遜を示さなければなりません。未成人の巫女たちは膝下丈のスカートで、顔も全て出しても構いません。
蝶華さんはフムフムと頷きながら真剣に聞いてくれています。
「ただし、修道服はあくまで教会内でのもの、一般の方々との壁を作らないようにという配慮で使用していない所もあるのでそこまで絶対の取り決めではありませんのよ。」
「そうなのですね、食事に関してはいかがでしょう?」
「食事は一日2回、朝と夕方、女神へのお祈りの後に頂きます。こちらも3度食す所も御座いますので、それほど気にせずとも構わないでしょう。食べるものは贅沢品で無ければ何でもあり難く頂きます。ただし食事中に会話したり騒いだりという事はまずありません、沈黙を尊ぶ教えですから。」
「孤児院での食事は例外の様なモノだったのですね。」
「はい、そうなりますね。ですが黙想をするときは孤児たちもきっちり行っている事なのです。」
「成程、勉強になります。」
ふっと視線を上げて一口お茶を口に含み、意欲的な眼差しで蝶華さんはこちらを見ます。
この子も聞いた話では小さな頃孤児院にいたとヴァイスプレ閣下から伺い知っております、真面目でまっすぐな性格は誰から教えられたものなのか、さぞ良い親代わりのお方がいらしたのでしょう。わたくしは見ていて自然と笑みがこぼれます。
「居住環境については如何でしょう?」
「特に一般の方と違いは御座いません、女神の使途として奉仕を行った後はゆっくりとした時間を過ごします。夕べのひと時だけがシスター達にとって唯一とも言える自由時間なのです。」
「大切にしてあげたいですね。」
「理解があってこちらもとても喜ばしいです。」
蝶華さんはメモを取りながら真剣に最後までわたくしの話を聞いた後に、不明点や疑問に思われた事を述べられます。話す方としてはとても話しやすく、伝えた内容が分かってもらえたかどうかの判断が易くできてなほ彼女に親しみを覚えるのでした。
「あと二日程で奉仕をするシスター達がここへと集まってきます。」
「わかりました、二日後の夕暮にまた伺います。」
再び立ち上がって今度は深々と頭を下げお辞儀をして蝶華さんは転移の魔方陣に乗って光と共に消えていきます。二日後に会えることがわたくしの楽しみになりました。
「若いって素晴らしい事ですわね。」
そう呟いて窓の外を見ると起き出した孤児たちが中庭に飛び出して走り回っています。わたくしはきっと羨望とも哀れみとも違った見方で彼らを見つめているのだと思います。
所変わって、井戸掘り真っ最中の嫁とルシエは奮闘していた。
【ピック・インパクトぉ】
嫁のスキルの声が穴に響く、声を出さないと技が使えないという残念な仕様になっているため何をしても嫁がやっているという事が離れててもわかる。ルシエはそんな嫁の仕事ぶりを想像して杖を握りしめ。
「可愛いお嫁さんなんだろうなぁ、ボクも旦那様にあのくらい過保護にされてみたいかも。」
ぼそっと小さな声で言ったにも関わらず、遠くで4つの目がキラリと光る・・・
そんな事は気にせずに二人はせっせと穴を掘り、掘った土を上へと上げていく。一か所掘り終えて感じをつかんだのかペースはかなり早く、安定した進捗を見せている。
「他が~為に~戦うぅ~♪」
穴から響く歌には少し哀愁が漂っているが、嫁はノリノリだ・・この世界にその歌を知ってる人はいないけれど、そんな事は嫁には関係無い。知識だけあっても実際が分からないルシエは嫁の歌を聴きながら魔力を込め土砂を引き上げ、時々風の精霊を使い空気の入れ替えも行っている。
日差しは刺すように容赦なく降り注ぎ、フードを被っていても汗は吹き出し、体力は奪われる。
「ちょっと休憩にしよっか?」
見上げると嫁がルシエの傍に現れていて、水筒を持っている。おっさんが朝手渡した特性ドリンクが入った水筒である。一瞬で転移して上に戻って来てアイテムボックスから取り出したのだろう。
「そうしよう、さっきから太陽がいやらしくって、もぉ、ボク暑い。」
ペタンと井戸に寄り掛かる様に座り込んだルシエに嫁はコップに注いだドリンクを差し出す。
「旦那様からの差し入れだよ、多分元気になる。」
「わぁ、柑橘系の香りがする。ナニコレ? 甘い、しょっぱい、酸っぱい、冷たいが同時に来るよ。」
「汗をかくときに失われる物を補給するための飲み物なんだって、味はこれでも飲み易い様に薄めてあるらしい。でもこれちょっとした拷問だよねぇ。」
「だね、でもすごくリフレッシュできるよ。」
「それには同意。」
二人でなんだかんだ言いながら飲んでいると、日陰で様子を伺っていた二人も姿を現し。
「私達にも下さい、ああ、いえ、そのコップで良いんです。」
「そのコップが良いんです!」
ブレない二人だった。




