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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
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三日目の動き

三日目早朝。


おっさんは一人で昨日までに各村の入り口に置いて貰っていた帰還石の再設置へと向かう。転移して各村へ入り井戸の滑車の無い方に向けて設置し、結界で紛失を防ぐ。これで実質各村への移動は転移石のみでも可能となった。


コテジへと戻ると全員起きて集まっていた。おっさんは本日の予定を改めて伝える。


「好き勝手やってる外務担当を内務担当と共に補給の手伝いに戻します。嫁とルシエにレミア様の従者を二人付けたいのだけれど構わないでしょうか?」

「もちろん構いませんわ。貴方達、しっかりと役目を果たすのですよ!」


選抜されたのはおませな二人の従者だった、渋々受け入れるかと思われた人選だったが。


「お任せください。」

「しっかりと役目を果たします。」


二人の従者はやる気に満ちている・・おっさんにもこれは想定外だった。まぁ、やる気になってくれているのであれば問題無いと送り出す。無論レミアとおっさんが乗ってきた馬車を転移しての移動となる。

外務担当は馬車を領主邸に戻して、内務担当と合流させて様子見だ。

全員でコテジの外へと移動し、馬車停めの付近の転移魔方陣前に集まる、円陣の様に向かい合って補足をおっさんは言い渡す。


「あとは・・蝶華、ちょっとこっちに来て。」

「はい。」


スッと前に進み出て来た蝶華におっさんは酔い止めポーションを数本手渡す。転移の連続で間違いなく無理をしている状態が続いているためだ。


「頑張らないで!とは私からは言えないけれど、無理はダメだからね。」

「お見通しですか・・了解しました。」


おずおずとポーションを受け取った蝶華が一歩下がる。おっさんはレミアと従者に目を向け。


「今日からの移動は転移で行なう事になります。お二人もこれを持っておいて下さい、沢山有りますので遠慮せず酔いが出る前に飲んでおくと効果的です。」

「ありがとう存じますわ。」

「感謝いたします。」


おっさんと嫁は転移酔いすることはまず無いが、慣れない者だと顕著に症状が出るらしいので対策を打った。


まずは、嫁とルシエの班と共に外務担当のいる村長宅に転移する。嫁とルシエの説明では納得しない可能性も考慮し、領主であるレミアを同行させ反論の余地を無くそうという算段である。


蝶華は今日も単独行動、無理は本当にしないでほしい。


「それじゃあ夜にはまたここに集合で。」

「はい!(全員)」


一足先に魔法の光と共に消え去る蝶華を見送る、表情は無いが決意が籠った灰色の瞳は静かに燃えていた。


転移の光が全員を包み込みそれぞれが三日目の行動へと移っていく。


転移後のおっさん達は馬車と共に転移なので周囲を確認しつつ潰された人がいないか等チェックしてから村長宅へと向かうのだった。




蝶華は一人転移後の公爵邸広間に佇んでいた。


少し寂しくは有るが、フットワークを買ってもらっているのだから喜ばしい事だ。自分に言い聞かせ暫しの時を待つ。

気配も殆どないままジェントがいつもの様に静かに、だが蝶華が気が付けるように向かってくる。


「おはようございます、長。これをヴァイスプレ閣下の目に入れておいて頂きとう御座います。」

「確かに預かった。今日も水と食料の運搬か?」

「はい、とても頼りにされているのですよ私。」


ドヤ顔を蝶華はしているつもりらしいが表情が変化に乏しいため腰に手を当て反っているだけのポーズとなっている。しかしそこはジェントの愛娘フィルターによって補完され、ジェントは深く頷き。


「嬉しそうだな、ならば良い。」


言葉少なくジェントは領主邸を移動していく。流石に早朝である、水汲み部隊以外は誰も動いていないため、手紙をヴァイスプレが見るのはもう少し先になる事が予想できた。公爵邸の外には馬車が並び、水汲み部隊の面々が今や遅しと待ち構える。

蝶華は皆の前に立ち挨拶と共に状況を少し語り、今後の作業予定を述べていく。


「連日お疲れ様です。本日も宜しくお願いします、各村への一次の配給は完了しましたが井戸は難航しておりまだまだこの水がフォンターレの生命線と言っても過言では無い状況です。恐らくあと3週は毎日このペースのまま推移していく事となりますが気を抜かず、一丸となって聖女様を支えましょう!」


蝶華の指揮のもと馬車は出発していく、蝶華は湖へとは向かわず教会の方へ足を向ける。


「進展が有れば良いのですが・・」


足早に移動しつつ独り言ちる蝶華は屋根の上を舞う様に朝の霞と共に消え去った。





一方おっさん達は村長宅へ到着し、外務担当が部屋でまだ寝ていることを確認してから、村長に穴埋めの差し入れを手渡す。食料と水を追加で手渡した後、レミアと従者を村長宅に残し、時間も有るので井戸の浄化をしておこうとおっさんは嫁とルシエと再び深くなった井戸へと向かう。


「掘削深度はどの程度だったの?」

「んとね、110~120mの間だったよぉ」

「本当にちょっと深いね、滑車の滑りを良くしててこの原理で軽く上げられるように細工お願い。」

「了解。」


嫁は金属の加工が可能なため動滑車を複合滑車にして固定することを提案した。ルシエの作成した消音のお札を張り金属と木材の加工音が響かないようにして、嫁は作業を開始した。

おっさんは【浄化】を使い井戸の内壁と溜まり始めた濁り水を浄化する。深さがあるため底は全く見えないが魔力の反応は底部まで届いて反響してくるため問題無いだろう。


そうこうしているうちに滑車を3個複合させたものを嫁が縄を通して確認している。


「これで重さは半分以下に・・なる・・筈!」


もともと固定されていた部分に吊り下げる形のまま周囲を少し補強して設置し嫁は満足げな表情になった。


村長宅に戻ったところ、起きて来た外務担当とレミアが会話していた。


「ですから、何度も言っている通り領主邸へと戻って内務担当と共に水の配給の支援業務に就いて下さいませ。」

「で、ですが聖女様御一行の案内役が居なくなってしまいますぞ?」

「本日からはこの2名を御供させる予定なのです。貴方は屋敷に馬車で戻り、街で待機です、いいですね。」

「了解致しました。」


外務担当は2名を睨みつける様にしながらも渋々と馬車の方へと向かって行った。恐らく領主邸に居る時よりも待遇が良かったのかな?とも考えたが、どうでもよい事だろうと軽く思考をスルーした。


「それでは村長、村人を全員井戸の前に集めて下さいな。」


レミアの提案を受け、村長の指示で村人は集められおっさんの手による【浄化】と癒しが行われる。

この村は井戸の開通もできたので、残るは食料問題となる。水は本来だと濁り水が落ち着くまでは使用できないがおっさんの【浄化】によりその辺りの問題は解決できた。湧水量もルシエ曰くかなりある模様なので一安心だ。


「何から何まで有難うございます、領主と皆様に最大の感謝を。」


村長をはじめ村人総出で見送られおっさん達は井戸の前に馬車を回し、滑車の反対側には近づかないようにと注意喚起してから次の村へと転移する。

レミアと従者に挨拶を任せ、村人が井戸の周囲に集まってくるのを待つ。


「旦那様・・お腹減ったぁ・・・」


出たよ!とおっさんは頭を抱えているが、どのみち炊き出しも予定には入っていたため早いか遅いかの違いがあるだけである。


「仕方ないなぁ、ご婦人方が集まってから何か作るからそれまで待っててね。」

「はぁ~い♪」


村人が集まり同様に【浄化】と癒しを与えていき、ご婦人方に問いかける。


「この辺りの家で一番大きな竈を持っている方はどなたでしょう?お貸し頂きたいのです。」


おっさんの問いかけに付近の主婦の一人が進み出て、竈場をお借りできることとなった。

早速アイテムボックスから大きめの中華鍋と5段蒸篭、ジャガイモと人参を取り出し。


【浄化】を唱え、皮付きのままのジャガイモに切り込みを入れ人参と共に蒸篭に放り込み少量の水で蒸し上げる。水が貴重な場合であっても少量の水で大量の物を調理できるのが蒸篭の魅力だ。綺麗な真水の少ない中国で発達することが良く分かる調理器具である。


蒸し上がった芋と人参を人数分にとりわけ、スプーンでバターを乗せていく、広がる甘い香りに胃袋が少しキュッとなるが100人分を作り終えるまで手は休められない。出来た物から主婦の皆さんに配って行って貰う。嫁とルシエはと言えば、隣の家の竈場でフライパンで厚切りベーコンを炒めてもらっていた。


「こんなに香りのするものを調理させるだなんて、旦那様ぁ~生殺しぃ~!」

「確かに空腹時には堪える香りだね、生唾が・・」


何だかとても恨めしいような悲鳴が聞こえたような気がしたがきっと気のせいだろうとおっさんは4回に分けて蒸していく。2時間も経たずに調理と配布は完了し、おっさん達にも食べる機会が回って来た。


「じゃがバターうまぁ~♪」

「人参の甘みが生きるね、ボク野菜大好き!」


喜んで食べてくれている様だ。レミアと従者3名も思い思いの事を口にしつつ朝食を食べている。この後は嫁とルシエ、おませな娘っ子2名を残しおっさん達は別の村へと移動になる。夜には合流するのだが今生の別れの様に抱き合って従者はレミアとの別れを惜しんでいた。


「リア様の活躍を直接見れないのが残念ですが、レミア様後でちゃんと教えてくださいませ。」

「どういう絡みか詳細説明宜しくです。」


感動的な場面を想定したおっさんが馬鹿だったようだ・・・切り離して正解だったかも・・と顔を背けて独り言ちてからおっさんはレミアと従者一名に向き直り。


「では、私達も次の村へ参りましょう!」



朝日が昇り切って明るさを増す村に転移の光が溶け込み眩く光り、転移後の村に静けさが戻る。


「じゃあ掘ろうかルシエ!」

「うん。」


従者2名は馬の世話をしつつ熱いまなざしで掘削を見つめているのであった・・・





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