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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
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聖女と領主の奉仕

レミア視点です。

私達を乗せた馬車はもうすぐ最初の村へ着こうとしていた。聖女様は平然と途中から眠ってらっしゃる様でしたけれど、日が昇り始めると暑くてとても涼しい顔でなんていられませんわ。


「もうすぐ到着しますね、リア様を起こしましょうか?」


従者の一人、父の代では無く私が領主となり採用した3人の女性従者のうちの一人が私に声をかけます。


「そうね、起こして差し上げて。」


従者が揺すって起こそうとした瞬間に聖女様はパチッと目が開いていてこちらを見ていました。もしかしたら寝てはいなかったのかもしれません。


「到着ですか・・2時間半ってところですか、意外と近くて助かりますね。」


伸びをして体のこわばりを取りつつ聖女様が言います。やはり寝てはいなかったのですね・・失礼な会話をしてしまったのかも知れないと私は少し焦ります。ですが聖女様は全く我関せずといった表情で。


「村長への挨拶と配給品の配布はお任せしても良いでしょうか?私は村人を集めて衛生状態の確認と栄養状態の確認がしたいのです。」


聖女様は自分の行動目的をしっかりとこちらに伝え、私達にも仕事を与えて下さいました。


領主邸にいても悶々として従者達の顔を見ているだけでうんざりしていたので思い付きで付いて来た・・とは口が裂けても言えません。

もちろん領民の安否は知りたいと思っておりましたし、聖女様の仕事ぶりも気にかかりますが、一番外に出たかったのは父の代からの従者や会議に参加していた重鎮たちのプレッシャーが強くて嫌気が刺したためなのです。快く受け入れて下さった聖女に感謝しつつ答えます。


「わかりました、配給品の配布が済み次第そちらに向かいますわ。私リア様の仕事ぶりに興味が沸いてきましたの。」


正直に打ち明けたところ聖女様は目を瞬いてから口元に拳を当ててクスクスと笑い。


「見ててもあんまり面白いものでは無いですが、ご覧になりたいのでしたらご自由になさって下さい。ここはレミア様の領地なのです領民も、従者も、畑も、家畜達も、私ではなくレミア様自身の判断で生かしも殺しも出来る事を自覚し、行動して下さい。」


一瞬ドキっとしました。確かに物見遊山に来たわけではありません。何かしらの目的意識を持って行動しなければ領主失格です。流石は聖女様・・・こちらの魂胆などお見通しなのでしょうか?ちょっと怖いです。

そんなことを考えているうちに村の入り口を入り、村長の家の前で馬車を停めて一人の従者が手を差し伸べて。


「レミア様お手を。」

「ありがとう。」


手を引かれ馬車から私は降ります。それを見ていた聖女様はとても微笑ましいものを見る目でした。何か私したのでしょうか?思い当たりませんわ。


「村長はいらっしゃいますか?領主がお見えになりました。」


従者が家の戸をノックしつつ声をかけます。屋内でガタガタッと大きな物音がしてから慌てた村長が飛び出してきました。


「こ、こ、これはレミア様。はるばる村まで、何か御用でも御座いましたかな?」

「井戸が枯れかかっているとの報告を受けて、食料と水を少しばかりですがお持ち致しましたわ。手分けして住民に配布して頂きたいのだけれど。」

「なんとっ!あり難い事です、レミア様自ら足を運びになって下さって・・感激しております。」


私は挨拶をして聖女様に振り分けられた仕事をこなしているだけなのですが、凄く感謝されています。これも聖女様の作戦のうちなのでしょうか?私は少し不安を覚えつつも村長に続けて言います。


「こちらは聖職者のリア様、住民の皆さんの健康状態を見に来て下さいました。食料や水も領地へ寄付して戴いているのですよ。住民を一か所に集めて下さるかしら?」

「わかりました、感謝の言葉は住民全てで言わせていただきましょう。」


村長が家の中に声を掛けると、家族が3人出てきて村長の指示で村人を中央にある井戸の周りに集めます。

従者が一人馬車を動かして荷台から残りの二人が荷を降ろします。聖女様は皆が固まっていることを見計らっていらっしゃったようで。


「そのまま動かないでかたまっていて下さいね、体を綺麗にしますから。」


そう言い終えた聖女様の手には僧杖が握られており、明るい時間でもわかるほど魔力が込められています。


範囲浄化エリアプリフィケーション


聖女様は無詠唱で範囲魔法を行使し、村人全員を一度に洗浄、浄化なさいました。これほど広い範囲魔法はこれまでに見たことがありません。私をはじめ従者達も浄化されとてもすっきりした状態です。


「よしと、それでは体調の悪い方、痛みがある部分の有る方は私の前に来て下さい。」


浄化魔法でびっくりしている住民に対し聖女様は優しく声を掛けていきます。一人、また一人と前に進み出て聖女様に調子の悪い所を訴えています。聖女様は住民の話を聞き、一人一人に手を当てて触れ合い、治癒魔法を使って癒していきました。その後聖女様は何やら女性陣と話し込んでいる様子です。


私達もぼやぼやしていられません、馬車から降ろした配給品を順々に家族人数に応じて配っていきます。肉体労働などほとんどしたことの無い生活でしたから、食品と水の入った革袋を手渡すだけでも段々と疲れがたまっていきます。荷を持ち上げた瞬間に足がもつれて・・・倒れるっ・・・


「っと、そろそろ限界・・かな?」


とてもとても小さな声で聖女様は呟きつつ私を支えて下さいました、先程まで女性たちと話込んでいた筈ですのに、どこから?と考えていると聖女様は村長に。


「領主がお疲れの様なので、ここに簡易テントを設営しても良いでしょうか?」

「ええ、構いませぬよ。好きに使って下され、領主様の土地なのですから。」

「有難うございます。」


お礼を言いきった瞬間には三角形のテントがポンと設置され、村長他はビックリして声も出ません。

聖女様はマジックバッグをお持ちなのでしょう。4人~6人は入れそうなテントが一瞬にして井戸の脇に姿を現しました。


「レミア様、従者さんも全員一回中へ入って。」


聖女様の声掛けに応じてテントの中へと入ります。中では石筆の様なもので床に聖女様が魔方陣を書いています。朝見た転移の魔方陣に似ていますが?どうされるのでしょうか。


「じゃあ、私と手を繋いでください。輪になる形で、そう。行きますよ」


フッと魔方陣が眩い光を放ったと思うと目の前が真っ白になり・・次の瞬間には見覚えのある屋内の風景が広がっていました。


「ここは、領主邸(わがや)!?」

「そうです、想像はしていたのですがレミア様の体力が持ちそうになかったので。一旦休憩です。これを食べて、水分もしっかり取って、2時間程休んでいてください。私は村へと戻り炊き出しをする予定なので。またお迎えに参りますので、笑顔が作れる程度にはなってて下さいね。」


手渡されたのはパンの間に何か揚げ物が挟まっており、茶色いソースがつけられた物でした。従者と私の分を転移された客間のテーブルの上に置き、水袋もだしてから。


「この部屋からは出無い方がいいですよ。見つかっちゃうと領主の仕事を全うしてないとかって言われかねないですし、大人しく休憩してて下さい、いいですね?」


茶目っ気たっぷりに口元に人差し指を立てつつ、聖女様は言い放ち再び転移の光と共に村へと戻られました。


「やはりリア様はお気づきになられていたのですね。」


わたくしと重鎮たちの間の軋轢も、この3名の従者以外に私に信頼できるものが居ないという事も、私が館から外に出たいが一心でリア様に付いて行ったことも全て、全てわかった上で何事も無く振舞って下さるのですね・・・


「レミア様。」


従者の一人がハンカチで私の涙を拭ってくれます。私は感謝で涙が溢れ、少し震えていたようです。3人の従者は心から私の心配をしてくれます。私は心強くなり、何とか涙を拭って持ち直します。


「さぁ、折角準備して戴いたのですから皆で食べましょう。」


手で持って見た瞬間からこのパンは異質でした。柔らかい、ふわふわなのです、ナニコレ?口に含むと揚げ衣をまとった芋の食感とソースとパンの甘みが一体となって・・


「美味しい。」


3人ともそれ以上は何も語らず黙々と食べ、あっという間になくなってしまいました。水分を取り、言われた通り休憩を取ります。隙を見てお手洗いにも行きました。こっそりと誰にも見つからないように。


「何だか小さい頃の事を思い出してしまいますわ。」


何と無しにでた呟きでしたが、父が亡くなって以降私は子供っぽいことはすっぱり止めて大人の中にどっぷりと浸かってしまう毎日でしたので、仕方が無い事なのかも知れません。ほんの少しの時間だけですが我が家でかくれんぼしているようなそんなスリリングな時間を感じていました。私と従者3人は体を寄せ合いコソコソと扉から離れた位置に移動し、声を潜めて会話しつつ聖女様を待ちます。


あっという間の2時間が経過し、聖女様が戻ってこられました。


「じゃあ村へ戻りましょうか、住民は皆家に入っているので今は平気です。」


再び輪になって転移します。先ほどまでは暑くて嫌な気分だった外の空気が戻ってきてからは何故だか心地よく感じました。不思議だなと思っていると。


「お疲れが取れて何よりです。」


にっこりと朗らかに笑いつつ聖女様に声を掛けられました。本当にこの人には敵わないと私は脱帽致します。名ばかりの聖女と噂されておりましたが、噂など何の当てにもならないほど本物の聖女は眩しく、そして優しかったのです。心身共に癒された気持ちで一杯でしたわ。


それから村長の元へと今後の説明に向かい、22日間の予定を述べます。この村はまだ井戸が生きているため家畜も生きており、聖女様のお力で元気を取り戻したと報告を受けました。その後は感謝の嵐で私は配給品の手渡し最中にダウンして家で休んでおりましたのに、私の手柄の様に村長が褒めたたえるのです。


なんとか村長の家から出ると、日が暮れ始める時間帯となり、少し涼しさが出てきました。


「次の村へ移動ですかね?積み荷も降ろしたし、真っ暗になるまでには到着できそうです。」

「そうですね、参りましょう。」


再び荷馬車へと乗り込みます。先ほどまでとは違い広い荷馬車のホロの中なのですが、御者以外の従者は館の時と同じく近くに寄ってきていました。聖女様は変わらぬ笑顔のままで。


「よかったですね。村が一つ見回れましたね。」


そういって蒼い瞳を閉じられました。私は領主として次の村でも聖女様のお役に立てる様全力で臨む事を誓いつつ揺れる馬車の中目を閉じます。


聖女様が来て下さって本当に良かったですわ。私は返すことの出来なかった返事を胸にしまいつつ口元だけで喜びを表すのでした。



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