掘削と買い出し
前半が嫁主観パート(気味) 後半は蝶華主観パート(気味)です。
乾いた大地の上を馬車はゆっくりと進み、日が完全に昇り切ったころに一つ目の村へと到着した。
村長への挨拶とか配給品の説明などというまどろっこしい事は外務担当の人に任せて、村人の案内を受けて井戸へとすぐに移動する。
私は掘削作業をするために半袖のやや体にフィットしたようなTシャツと作業用に持っているオーバーオールを着込んでいて、ルシエは日差しや風の影響を減らすためにフード付きのローブを装備していた。
井戸の直径は2m程、深さは30mらしい。かなり大きめで中で結構大きな動きをしても平気そうだったため、持ち込んだ太めの木の杭を井戸の外周に2本打ち、井戸の淵の上にさらに同じ太さの木を2本置いて打ち付けた木と置いた木を縄でしっかりと固定し中心の部分から真下にロープを垂らす。
「じゃあ行ってくるねぇ」
「気を付けてね、ボクは合図でどんどん上に土を上げるから。」
ロープを手に取り井戸の淵を蹴りながら後ろ歩きで懸垂下降していく。30mくらいなら飛び降りても良いけれど底が暗いため一応用心のためにロープを使う。30m程のロープを3組背負って懸垂下降し終えると乾いた底面に辿り着く。すぐにランタンを灯し、現場を確認していく。
『意外と広いから大技が使えそうじゃのう。』
『だねぇ~早く済むかな?』
『こちらはそれでも良いが、ルシエ殿が大変なのでは?』
『そだねぇ、様子見しつつやってみよう!』
脳内会議を終えて鶴嘴とシャベルをアイテムボックスから取り出し、ロープは端に置いておく。
地上に比べれば遥かに涼しいが、この位置の岩盤の上の水が既に干上がっている事を考えるとやはり後100mは堀り下げが必要だろうと推測できたため、最初に岩盤を打ち抜こうと鶴嘴を担ぎ。
【ピック・インパクトぉ】
採掘スキルが炸裂し、大振りにザクンっと鶴嘴の先が岩盤に刺さった後に刺さった部分を中心に80センチ程の周囲がドゴッと音を立てて粉々にひび割れてから崩れる。硬さは大した事は無い、何度も振りかぶって鶴嘴を打ち込み、足場が無くなるのに合わせてロープを3回引っ張る。
「あ、合図だね。」
ロープの上部には鈴がつけられており3回音がしたら土砂引き上げのサインと決めていた。ルシエは樹の杖を握り高速でエルフ語による詠唱を行い。
『我と汝の盟約、その力を我と共に行使せよ、来れノーム。』
ポンっと召喚されたように小人の様なずんぐりむっくりな髭を生やした精霊が姿を現す。
「この井戸の内壁の補強と土砂の地上への運搬をお願い、行って!」
嫁とおっさんと蝶華が使う魔法はイメージ力が大事な創造系の魔法が多い。一方ルシエが使う精霊魔法は思考がトレースされる形で意に沿う様に精霊がフォローしてくれる感じの半自動魔法である。利便性が高い分燃費が悪いのが特徴で、おっさんから大量にマナポーションを受け取ったルシエだった、魔力を樹の杖に込め意識を集中させるとノームはふわりと重力を感じさせない浮遊で井戸の中へと突入して行く。
そのころ嫁は土砂の上に座って水分補給をしていた。
「お?キミがノームさんかなぁ?これから宜しくねぇ!」
会話は恐らく出来ないだろうけれど意思は伝わると良いな、と嫁は思い話しかけるとノームは無言で髭を撫で、ゆっくりと頷く。その仕草がなんだか可愛くて嫁はキラキラした眼差しでノームが土を変化させるのを見学する。
ノームが土砂に触れると一瞬で崩した欠片はサラサラの砂の様な状態になる。一つにまとまって形を成していき大くて太いミミズの様に土が変形していって、ゆっくりと天へと昇っていく。土砂が昇り切る前にミミズの胴体から蜘蛛の糸の様に筋が伸び、井戸の内壁を整えてむき出しの壁面が三和土の様な質感へと変わる。
コンコンっとその質感をノックして確認する嫁、流石は和製コンクリートの質感で硬度は先程崩した岩盤の数倍は有りそうだった。ニンマリとしてから嫁は呟く。
「じゃあルシエの魔力が枯渇しないようにサクサク掘っていこうかなぁ~♪」
鶴嘴を担ぎなおし、嫁は休憩終了と言わんばかりに再び掘削を開始するのであった。
一方ヴァイスプレ邸へと転移した蝶華は執事服を着た長と会話し、アポを取っていた。ジェントは蝶華に簡単な説明を受けるとすぐさま主の元へと向かう、ゆっくりと優雅な動きであるにも関わらずとても速く洗練された動きは旦那様を髣髴とさせる。
ジェントの去っていくのを見て待合室で蝶華は独り言ちた。
「私もあの域に達しないとダメですね。」
朝食前の支度をしていたおっさんの所作は凄まじく早く、的確でそれでいて優雅、自然体を崩さぬままに数十人分の朝食を作り、盛り、並べる。本来手伝う筈のメイドがただ茫然と見学者になってしまう程洗練した動作だった。蝶華はおっさんと嫁に一歩でも近づこうと向上心を燃やしている。
そんな風に心中で自らの動きと他者の動きを重ねてシャドウで差異を見つめなおし修正していると、ジェントが戻ってきて蝶華を招く。
「時間の都合がつきました、お会いになるそうです。」
「はい、急な来訪でご迷惑お掛けして申し訳ありません。」
「いいのだ、お前の顔が時々でも見れれば・・・」
そう言ってパっと振り返って背を向けてしまうジェント、照れてるに違いない。背を向けたままヴァイスプレの執務室へと案内していく。
「良く戻った、今回は何やら良い報告では無いようだな?」
「戻りました。こちらをまずはご覧ください。」
蝶華は跪いており、顔を上げてからジェントに2通の手紙を差し出す。ジェントが丁寧にペーパーナイフで便箋を開け主へと手渡す。慣れた間柄の者でもきちんとした対応を取るのは流石公爵家である。
一通のヴァイスプレ宛ての手紙に目を通し、目を剥いてヴァイスプレは蝶華に尋ねる。
「ふむ、前回の領主報告では干ばつが広がり不作の恐れ有。との事だったフォンターレ領だが、ここまで逼迫した状況になってしまっていたとは・・報告に感謝を。それで蝶華よ、どのようにあの湖から水を抜くというのだ?」
「聖女の考えでは斜面に10~20名を配置し、桶を横渡しして繋いで行くという方法を採用されているようです。その集めた水をワイン樽に入れて馬車で運び、この屋敷の転移魔方陣からフォンターレへ転送するという作戦内容となっております。」
「成程な、現実可能であり、迅速に対応できる。変に道具が必要な汲み上げ方法では日数がかかりすぎる。」
「はい、転移魔方陣あればこそ、ですが。」
「そこは聖女の成す事だ、一般の常識の物差しで見てはいかん。わかった、全面的に協力しよう。」
「有難きお言葉。」
その後ヴァイスプレは王城へと向かい、蝶華はヴァイスプレの私兵20名を好きに使っても良いとの指示を得た。ジェントも私兵に入っている。
「長、荷馬車5台にワイン樽50荷を乗せ、19名と共に湖に向かって下さい。費用は聖女様から預かっていますので後程お渡しします。」
「わかった、が、費用はこちらで持とう。」
「しかし、それでは・・」
「閣下は全面的に協力すると仰ったのだぞ。」
「わかりました。宜しくお願い致します。」
長にバケツリレーのやり方を説明して、蝶華は買い出しへと商会に向かう。小売り店では数が無い筈の為大店から一気に仕入れを済ませようとする算段だった。
「乾燥と高温でも何とか持ち堪えられる食材を!硬いパン、干し肉、チーズ、ソーセージベーコン等の保存用加工肉、トマト、かぼちゃ、玉ねぎ、芋、人参、豆。リストの中の物を手に入るだけ迅速にかき集めて公爵邸に運んでください。運送費用と特急費用も持ちますので。」
「わ、わかりました。」
ドサっと金貨一杯の袋を見せつけて蝶華は商会の番頭との交渉に成功する。買い付けの後公爵邸に戻り、従者に食材が届き次第転移魔方陣の有る部屋へと運び込むように指示を出し閣下の戻りを暫く待つ。
馬車が戻ってきて、降り立ったヴァイスプレは満足げに。
「王からの承認は得た、湖に向かうがよい。」
「はっ。閣下は一度フォンターレで挨拶をして頂く必要がありますので、夕刻はお時間を頂戴できればと思います、それでは。」
跪いた状態から高速で北門方向へ走り出す蝶華、今回は時間との戦いでもある。夕刻の涼しい時間帯に出発する最終便に少しでも物資が届けられればそれだけでも村の人々は助かるだろうと考えたからである。湖まで30分程、前回はおっさんのヒール無しでは息が上がってしまっていたが今回は不思議とそんなことは無かった。
「私も成長している?」
蝶華は自問自答しつつも歩みを緩めず、馬車が並ぶ湖のほとりに辿り着く。湖はすり鉢状になっており縁は少し上り傾斜でそこから緩やかに水面に向かって傾斜は下がる。幸い足場は火山岩と土が混ざり合って踏ん張りは利く模様で、ヴァイスプレの私兵たちが手渡し出来る程度の感覚で並び最後尾の兵士の前にワイン樽が来るようにセッティングされていた。
水は茶色一色であったものが一か月ほどで沈殿が進み澄んで透明になっており。火山岩等で洗われた雨水の水質はとても良く口に含んでも問題は無かった。聖女の話だと他から流入が無いために雨水中心で水質は安定している筈、との事だったが正にその通りの状態だ。
「流石は旦那様、お見通しだった・・という事ですね。」
蝶華はすぐに汲み上げ開始の指示を出す。国王から汲み上げの許可が出ないと問題が出る懸念があったためヴァイスプレ閣下に国王に手紙を渡すのに併せて指示を仰いで来て貰ったのだった。
水は瞬く間に汲み上げられていく。1樽に約160リットルこれが二つあれば1村の飲み水が一日分確保できる。50樽でローテーションしていく事を考えると毎日数時間は水の汲み上げ作業は必要になる。
しかし降水が期待できない現状に於いて水が生命線、井戸に水位が戻り水質が安定するまではこの作業が全ての要になる、と旦那様からも説明を受けていた。
水を汲み終えた樽を馬車へと積み込み、蝶華はジェントと公爵邸へと戻る。時刻は昼を回って荷馬車の到着時間を想定すると最終便にはギリギリのタイミングになりそうだった。
先に外務担当の者とヴァイスプレの挨拶を済ませておくべきと考えた蝶華はジェントと執務室へと向かう。
「閣下、フォンターレの外務担当に一度お目通りをして頂きたいと存じます。」
「わかった、疾く向かおうではないか。実は少し楽しみなのだ、転移魔法をこの身で実感できることが。」
少年の様な瞳で蝶華に語りかけるヴァイスプレと共に公爵邸の転移部屋へと移る。既に食材のいくつかは運び込まれ、床の上に敷かれた布の上に並べられている。蝶華はその布の端をそっと摘まんでヴァイスプレに声をかけた。
「ではこちらへ、長も布の上に上がって下さい。」
転移の魔方陣は魔力を込めた対象とその触れたもの全てが転移の対象となる。布に触れている者も物も全てが転移の対象となり同時に運ぶことができる。事前にメイドに布を渡し、縫ってもらっていたため作業はとてもスムーズに進行していく。蝶華が魔力を込めると魔方陣から光が溢れ布全体へといきわたり次の瞬間には全てがフッと消えた。転移の瞬間に「おおぉ!?」っとヴァイスプレの驚嘆の声が聞こえていたが気にしないようにしようと蝶華は思った。
「着きました、フォンターレの外務担当の方がこちらです。」
「あ、ああ。ヴァイスプレ公爵である。此度は国王よりの伝達と挨拶を兼ねて来た。」
「おぉ、本当に侯爵閣下!?よくぞいらっしゃいました。」
ヴァイスプレが外務担当と話をしている。国からの支援物資は一か月後には必ず届くこと、それまでの水と食料は聖女の指示のもと責任を持って転送する事などを中心に話し込んでいる。蝶華は物資を従者を分担して振り分け、領主邸の分も小分けにして取っておく。
「これは従者の皆さんの分です、皆さんが弱ってしまっては今後の活動が大変ですから、きちんと食べてしっかり休むようにして下さいね。」
涙をながして歓喜する従者達を見つめて少しだけ口角を上げる蝶華、無表情に近い彼女も時折こういった場合に表情を崩すことがある。ジェントは長年の付き合いでそれはわかっている。ポンっと肩に手を置き。
「安心するのはまだ早いぞ、これからが長いのであろう?」
「は、はい。油断せずに作戦を遂行致します。」
父代わりの様なジェントに応援された気分の蝶華は話を終えたヴァイスプレとジェントを連れて公爵邸へと転移する。既に第2段の水が入った樽が布の上に置かれていた。
魔力使用量は少ないが転移は回数をこなすと船酔いの様な感覚に陥る。本日は今までになく回数をこなしている蝶華はフラリとして一瞬樽に掴まる。踏みとどまって、唇を噛みその痛みで正気を取り戻し再び布を手に取り転移魔法を使う。
決して挫けたりはしない、と自分を鼓舞し蝶華は魔方陣を残して消え去るのだった。
恒例の寝落ちでした、申し訳ありません。長くなったので分けようか考えていたら・・・zzzzでした。




