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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
43/86

領主の館にて2

レミアが去った後案内された部屋の中で再度作戦会議をするおっさん達。


「これが詳細説明した手紙、3通あるから最初に届けて。」

「はい、閣下と国王とシスターですの3名分ですね、閣下から王に届けて頂く形になってしまいますが問題は有りませんか?」

「無いよ。」


大きめの郵便局員が使用するような肩掛けの鞄に蝶華は手紙を大事そうにしまい込む。

おっさんはさらに布袋一杯のお金を蝶華に預ける。


「金貨で2000枚、これは水を入手するにあたって必要になるのを考慮して渡すものだよ。余ったら買えるだけ食料を買い込んでおいてくれればいい。」

「わかりました、大金です。気をつけないと!」


神妙な顔で蝶華がおっさんと話している傍らでは嫁とルシエが掘削と土砂運搬のシュミレーションをしていた。


「このピッケルで岩盤をど~んと割ってぇ、スコップで後ろに掻き出すからぁ、後ろに溜まった土砂を排出お願いね~♪」

「うん、土の精霊と換気の為の風の精霊とを並列使用してお助けするよ。あと、明かりはこれを使うと良いよ。」


ルシエは自分の鞄の中から小さなランタンを取り出す。


「可愛いランタンだねぇ。」

「このランタンは魔道具でね、熱をもたない上に光度も十分ある優れものなんだよ、光の魔石で動いてるから貴重品と言えば貴重品なんだけれど。」

「便利ぃ。」


この世界では光と闇の魔石は他の火、水、風、土、の魔石より高価で、入手も難しい。特に光の魔石は聖域と呼ばれるドラゴンの住むという大陸でしか発見されていないため数が少なく、小さなランタンだが売ればとてつもない金額の品となるようだ。


「掘るのと出すのができたら井戸の周囲に土が山盛りになっちゃうからぁ、領主さんに言ってどこかに運んでもらう様にしないとかなぁ?」

「畑作をする土に混ぜると栄養価が一杯詰まっている地層だと良い作物が出来るよ。」

「だねぇ、併せて説明をしないとぉ。」


口調はいつも通りで暢気な話し方だが、会話の内容は実務と今後の領地を見据えた良い考えである。おっさんは聞き耳だけたてつつも邪魔しないように微笑んで見守る。


今回は3つの班で行動するから、連携を取りにくくなる。単独行動中心の買い出し班の蝶華、嫁とルシエの掘削班、私とレミアの浄化と癒しの班。

最南端の村から多くの枯れ井戸が出ているため掘削班は南から開始する。

私とレミアは北側から物資の受け渡しも兼ねて回っていく。

蝶華は領主邸の馬車置き場の前に明日設置する魔方陣でのピストン輸送を担う事となる。

おっさんと嫁は通信が利くからまだ良いが、蝶華は一人で大変だろう。内務の詳しい人材をあす蝶華に着けてもらえるように頼もうと思うのだった。


そんな会議を終え、明日も早い予定であるため全員に浄化を行い少し早いが休むこととする。

乾燥する土地では夜間に急激に気温が下がりやすくなる、少し暖かくして皆休んだ。


妖しく赤紫に輝く月を見上げてレミアはバルコニーで一人夜風に当たっていた。

館の二階部分でせり出したバルコニーはレミアの一人になるための唯一の場所でもある。何か嬉しい事や悲しいことが有ったときにここに来て一人で物思いにふけるのが彼女の慣例だった。


「やはり夜は冷えますわね。」


先程のやり取りで顔も体も火照ってしまい、慌ててバルコニーに逃げ込んでいたがそろそろ落ち着いてきた。屋内に戻って執務室の席に着き、レミアは明日からの事を思案する。


王国を救ったという聖女様の助力を得た、幸運な事だ。しかしまだ何も出来ていない自分が楽観視など出来る筈もない、明日から聖女につき、粉骨砕身の心構えで臨むことを決意して床に向かうのだった。

急激な眠気がレミアを襲う。


「空腹で眠りが浅かったのが嘘みたい・・ですわ・・」


疲労と空腹で最近は深い眠りが得られていなかったレミアはベッドに溶けるように沈むのだった。




翌日目が覚めて、侍女のメイドが迎えに来た。


「レミア様、お食事の準備が整っております。」


つい2か月ほど前までは普通であったその言葉にレミアは違和感を覚えた。


「お食事?朝食が支度されているのですか?」

「左様でございます。聖女様が朝早くから厨房に入られ、食材を備蓄庫に仕舞われたりお料理をしたりと忙しく働かれておりまして。」

「なんですって、すぐに向かいます。着替えを。」

「かしこまりました。」


急いで支度を整え厨房に向かうとエプロン姿の聖女が朝食をテーブルの上に運び込んでいる所だった。従者達が目を瞬いてその動きを追っている。

聖女様というからには清廉潔白で厳かで慎ましやかな印象であったが全くの別物である。行動力に溢れ、朗らかに笑い、でも動きは洗練されている。領主邸のメイドと比較してもそん色ない働きぶりだった。


「あ、レミア様おはようございます。ぐっすり眠れたようですね、よかった。」

「おかげさまで、昨日は、その、色々と感謝いたしますわ。」


パっと振り返ったと思ったらいきなり話しかけてくるおっさんにドギマギするレミアだったが、落ち着いて席に着き、集まって来た家臣団と従者、メイド達に声を掛ける。


「本日よりこちらのリア様御一行と共に村々の救援作戦を決行致します。内務担当はこちらの蝶華様と、外務担当はセシル様とルシア様と同行し顔合わせや準備に滞りが無いようにフォローして頂戴。」

「わかりました。」

「仰せの通りに。」


内務担当と外務担当の返事に頷き、レミアは従者3名を選抜して声を掛ける。


「貴方たち3名は聖女リア様と私が向かう村へと同行して貰います。良いですね?」

「はっ。」


揃って3人は即座に返答する。レミアの話が一段落したのを確認しておっさんは朝食を勧める。


「皆さま初めまして、聖職者のリアと申します。本日から皆様と共に救援作戦に参加致します。まずは皆さんが十分に行動できるように腹ごしらえを致しましょう。簡単なモノですが召し上がって下さい。」


本日の朝食はサンドイッチとソーセージ2本と目玉焼き、総勢20名程の領主の館の人々に振舞う。

不安そうにこちらを見つめてくる面々を他所にレミアがサンドイッチを手に取り。


「頂きますわ、聖女に感謝を。」


レミアが率先して朝食を口にしたことで皆安心して食べ始める。悲喜こもごもの声が飛び交う中朝食は進んでいく。


「さて、皆さん食べながらで良いので聞いて下さい。本日より22日間で11の村全ての井戸の掘り直しを行います。併せて水と食料の配給も行っていかなければなりません。領地の馬車全てを使い物資を輸送致しますので、朝食後は各自準備を進めて頂ければと思います。」

「物資は何処から持ってくるのだ?」


内務担当がごく当然の様に聞いてくる。


「物資は馬小屋の手前にある広場に出していきます。初日の物資は私の手元に有りますので、ご安心ください。明日以降は首都より転送する形となりますので、広場には転移の魔方陣を描かせて頂くことになります。」

「転移魔法・・失われたと学院では習いましたわ・・ですがリア様なら、できるのでしょうね。」


レミアが納得することで他の面々はそれ以上の質問をせず、朝食を済ませた者から行動に移っていく。


「お皿はちょっともったいないですけど紙でこうして拭って、日光と風に当てておけば殺菌もされますから。メイドさんお願いしますね。」


おっさんは衛生管理のやり方をメイドさんたちに説明する。水気の無い食物であれば拭って日光消毒でも十分に効果は得られるだろう。

水の使用を控えた料理レシピ、無水調理レシピ、少量でも腹持ちの良いレシピなども同時に教えておく。


「では、私達も馬車の方へ向かいましょうか?レミア様は動きやすい服装でフード付きのマントをご用意しておいてくださいね、乾いたつむじ風が砂を巻き上げて襲ってくる場合もありますので。」

「わかりました。支度が出来次第馬車へと向かいます。」


レミアは従者と共に自室へと一旦引き上げていく。おっさん達は馬小屋の前に転移魔方陣を書くべくそちらに向かう。既に馬の支度は進んでおり、空の荷馬車が並んでいる。


「セシル、積み荷は100名分ずつ、食料はなるべく小分けの物から出して行って。」

「承知した。」

「蝶華は手紙を届けた後はわかってるね?多分断られはしないと思うから、転移後は手筈通りに宜しく。」

「はい、しっかりやります。」


おっさんはまず蝶華を送り出すための転移魔方陣を広場に書く。そして少し離れた所に帰還石を配置した。


「この帰還石の周りには近づかないで下さい。いきなり荷物に潰される恐れがありますので。」


おっさんは全員に聞こえる様大きな声で注意事項を述べていく。そうしているうちにレミアも外に出て来た。


「これが転移魔方陣ですか、初めて見る形です。」

「今から使用致しますので、見ておいてください。蝶華!がんばってね。」

「行ってきます。」


蝶華は慣れた様子で魔方陣に魔力をいきわたらせ、淡い光の中へと消えて行った。

おおぉおおぉ!と見ていた人々から歓声が沸き上がる。


「これから毎日何度も見ることになりますので、慣れて下さいね。」


そう言ってからおっさんも嫁とは別の馬車に本日分の水と食料を積み込む。馬車の数は6台。御者1名、従者2名の運搬係の者の4台と、おっさん&レミア組の移動用、嫁&ルシエの移動用の馬車に振り分ける。

幸い各村は馬車で半日以内の所にほぼ均等に存在しているので、物資が届かないという事は無いだろう。しかしこの日照りである、馬を労わらないと大変な事になるため、馬用の水と食料は多めに預けた。


「レミア様、荷馬車になりますので乗り心地は良くないとは思いますが勘弁してくださいね。」

「村人の為です。覚悟していますわ。」


その意気や良し、とおっさんは大きく頷いて今一度声を張り上げる。


「皆様の頑張りが領民を救うのです。私達も頑張ります。共に村々を救いましょう!」


おっさんが鼓舞すると少し沈んだ顔だった者も顔を上げ、奮起した。それぞれの馬車が順に村へと出発していく。おっさんとレミアの馬車はしんがりとなって見守り、最後に出発した。


「流石は聖女様ですわね、皆瞳に光が宿って、昨日までとは別人の様でしたわ。」

「多少でも希望の光が灯せたなら、来た甲斐が有るというものです。」


荷物が満載のホロの中で小さくなった二人は笑顔で会話しつつ最初の村へと旅立つ。


早朝のまだ涼しい時間に移動することで馬の疲労を少しでも減らしリスクヘッジを行う、確実に物資を運搬していかなければならないからだ。もちろん御者も楽であるし、積み荷の痛みも出にくい。


おっさん達、嫁たちがここに戻ってくるのは少なくとも11日後以降となる、帰還石は配置してあるので最悪の場合はおっさんが蝶華のフォローにつくことも想定してある。穴は出来るだけ減らせたはずだ。


不安げな顔は見ぜず気丈に振舞うレミアと従者3名とおっさんを乗せた馬車はゆっくりと最初の村へと向かう、動き出した救援作戦が成功することを皆祈っていた。



『退屈ぅ~♪』

『もう少し緊張感持とう!』

『え~気負うとつかれるよぉ~。』

『ま、いっか。体調には十分気を付けるんだよ。』

『はぁ~い。』


マイペースな嫁と通信を終えおっさんは積み荷に体を預けて瞳を閉じた。











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