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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
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領主の館にて1

馬車が走る、蝶華が手綱を強く握り速度を上げて干上がった川沿いを進む。


「国内でも有数の穀倉地帯のハズなんですけど・・」

「見る影もないねぇ」

「西の砂漠から乾燥した高温の風が吹き込んでいるせいだね、ボク暑いのは苦手だよ。」

「川が無いと思ったらまさか干上がってたなんて・・」


甘く考えていた、進むにつれどんどん気温は上がり、野生の動物の気配は無く、時々見かける白骨の獣達。

おっさんは少し考え方を正した、領主が国に援助や保護を願い出る場合は既に緊急事態なのだと。


「さっき話し合った通り、まずは領主の館に向かおう。」

「もうすぐ見えて来る筈です、このあたり唯一の街ですから。」


フォンターレ領は穀倉地帯、小さな村々が点在し収穫された作物が中央にある街へと集められ国内へと出荷される流れなのだそうで、先ほどつむじ風でやられてしまっていた村もその一つらしい。

街には領主の親族の館と領主に仕える者達の家々、あとは商店がいくつか有るだけで人口は極めて少数で、ほとんどの人口は農夫達が住む村に固まっており、街は収穫の持ち込みと買い出しのために作られたもので昔は領主も畑作を営んでいたそうだ。

そんな風に蝶華は様々な地域の情報を仕入れており、おっさんに詳しく報告してくれる。


畑と街道の境目も分からなくなった道を馬車は急ぎ駆け抜け街の入り口が見えて来た、日は傾きもうじき暗くなり始める頃合いだった。

領主の館は商店と倉庫街を抜けた先の広い土地にある、蝶華は真っすぐに門の前に馬車を進めるが、門番すらおらず玄関の前のロータリーに馬を停めて玄関のノッカーを叩く。


「すみませんどなたかいらっしゃいますか?」


暫く待っているとカントリーメイド調の服を着た女性が玄関へと現れ訝しげにこちらを見つめて。


「領主に御用でしょうか?」

「はい。先程二人の騎士とすれ違いまして、この領地の状況を知りました。微力ながらお力になりたいと考え伺った次第です。」

「わかりました、取り次いでみますので少々お待ちくださいませ。」


メイドが一旦館に戻って、10分も過ぎただろうか、とても長く感じる時間を皆黙って待つ。

再び玄関が開き、目の前に立っていたのは栗色の瞳の金髪美少女だった。


「私が領主のレミア・フォンターレですが、どちら様でしょうか?」


まさかの領主が直接玄関先に出てくるパターンだった。おっさんは少し驚きつつも丁寧に返す。


「お初に目にかかりますレミア辺境伯。私は聖職者をしているリアと申します。旅の途中騎士様二人にこの領地の現状を伺いまして、微力ながらお力になれればと思い参上致しました。」

「それはそれは、あり難い申し出では有るのですが・・恥ずかしながら現状この領地には何もお返しすることは出来ないというのが正直なところなのです。」

「ここまでの道のりである程度は理解しているつもりです。奉仕の為に旅をしているようなモノなので遠慮はいりませんよ。」

「ですが・・・」


領主は見ず知らずの者を受け入れる事を容認出来ないのかも知れないとおっさんは考えて、あまり出したくないがこの状況を打破するために胸元からペンダントを差し出し。


「これで信用して戴けないでしょうか?」

「これは、王家の紋章入り・・まさか貴方が国王からの伝達書の中に書かれた聖女様なのですか?」

「あ、はい。その聖女です。」


聖女様なのですか?と聞かれて妙にテンションが下がってしまったおっさんだったが、ここまで来たのだから割り切って人助けしようと踏ん張って。


「まずは状況の確認と、私たちが手伝える事についてお話をしたく存じますが、レミア辺境伯はお時間は有りますでしょうか?」

「はい、構いませんわ。中でお話しましょう!」


すぐにレミアは従者を呼び、馬を預かってくれる。飼い葉と水を渡すと目を丸くして従者は受け取ってくれた。

おっさんはその従者の瞳を見逃さなかった。少し移動しながらも思考を続ける。


レミアに案内され館の一室に入るおっさん達、レミアは何の話からしようかと悩んでいるようだった。

普通であればこういった席では茶の一杯でも出てきてから会話が始まるものであるが、現状それが許す状態では無い事をおっさんは既に理解している。


「不足しているのは水、食料ですね?他には何かありますか」


おっさんはストレートに核心から話し出す。虚を突かれたようなレミアは口をパクパクさせて。


「その通り、周辺の村では井戸が枯れたという情報も上がっています。現状水が最優先だと思いますの。水が無いために衛生状態が悪くなっていて、病気の蔓延等も心配していますわ。」

「なるほど、食料は領内備蓄でどの程度持ちそうですか?」

「内務の報告では家畜を食用とし、一日一食で繋げば3か月ほどは持つそうですわ・・」

「これ以上なく逼迫していますね。」

「何とかしなければと思い、この館の大井戸から村々へ配給して回させている状態なのですよ。」

「まずは水の問題を解決していきましょうかレミア辺境伯。」

「レミアですわ・・」

「へ?」

「レミアで呼び方は構いませんわ、と言っているのです。」


少し顔を赤くしてレミアはおっさんを睨んできた、何か私はしてしまったのだろうか?と思ってみるものの思い当たる節が無いため申し出に乗ることにする。


「ではレミア様、村の数と住民の総数をお教え願いますでしょうか?」

「呼び捨てで良いですのに・・まぁいいですわ、村は12いえ11村、人口は1200名弱です。」

「一つの村に約100名と思って良いですか?」

「構いませんわ。」

「では明日の朝一番から水と食料を馬車に積み込み11村全てに第一次の配給を行って下さい。」

「そんな物資がどこにあるというのですか?」

「ここに」


おっさんは満面の笑みでテーブルの上に革袋に入った水と保存用の食料を出す。4人で3食、100日分を首都で仕入れてアイテムボックスに保存していた。もちろんまだまだ入っているのだが、小出しにしないとどう状況が変化するかわからないため第一波としてはこの程度だろうと考えていた。


「まさか、1200人分の物資をお持ちとは・・想像をはるかに超える存在なのですね、貴方は。」

「しかしこれでは焼け石に水ですので、井戸を再度深く掘り深部の帯水層のある100m以下までは堀下げないと今回の様な干ばつの際にはなりません。1村1村回って、一か所ずつ掘るとして、一か所掘るのにどの程度かかりそう?」

「岩盤の硬さにもよるが・・およそ1日半といった所かな。」


セシルが久々に男前なセリフを口にした。

おっさんと嫁は採集、採掘、伐採、釣り(漁業)、などの基本的なスキルもマックスまで上げ切っており、特に嫁は鍛冶をするために採掘は必須だったのでピッケルやシャベルも高性能な物を持っているため道具で困る事は無いだろう。馬車内での作戦会議の結果ルシエが土の精霊に語りかけて井戸の内壁の強化と掘った土を地上に戻すことが出来ることもわかっている。


「1村二日として22日かかります、これを凌ぐ事が出来れば命の心配は殆ど無くなるでしょう。」

「井戸を二人で・・?一日半で??」


レミアはフリーズ気味で目を瞬きつつしかし話は聞こえている様だ。


「22日の間の水と食料は私が仕入れを致します。」


蝶華には今回の肝となる仕入れを担当してもらう事となっている。手筈通りに事が進めば井戸掘り完了までの間の水分は十二分に賄える筈なのだ。


「最後に私が各村の衛生状態を良好にし、体調の悪いものは回復して回ります。」

「わ、わたくしはそれに付いて行きますわ。聖女様と言えど土地の者の顔が知れている訳では有りませんし、地理にも疎いでしょうし。」

「領主自らが動かれても問題無いので?」

「構いません、緊急時なのですから。」

「わかりました、無理はしないで下さいね。」


おっさんは最初に会ったメイド、そして馬を連れて行った従者、レミアを見て既に逼迫した情勢下で食事が十分でなく、体を拭くことすら困難な状態に陥っていることを覚っている。


「ではレミア様、部下の方への報告は明日の朝なさって下されば良いので、こちらをまず召し上がって下さい。」


おっさんは作り置きから野菜スープとパンを取り出し、レミアの前に並べる。そしてレミアの肩を撫でる様にしつつ【浄化】を全身にかけてあげ、お風呂にも入れない領主を労うのだった。


「しかし、私だけがこんなに食事を摂っては示しが・・・」

「館の方々全員にレミア様の食後に配って参りましょう。」


スープから立ち昇る香りの誘惑に負けてレミアはスプーンを手に取ると一心不乱に食べ始める。

食べながら唸る様に涙を流し、現状の厳しさと自身の不甲斐なさを実感して俯いたままのレミアだった。


おっさんは笑顔でレミアの顔を両手で持ち。


「今だけですよ、俯くのも、泣くのも、他の人の前では許されません。厳しいでしょうが領主として責任ある在り方を私はこの先レミアに求めます。大丈夫ですよ、私たちはあなたの期待を裏切ったりしない。」


栗色の瞳が不安と安堵の狭間で揺れ動いて、安堵にカタンと振りきれる。


十代半ばであろう少女には酷な状況下である、それでもこの娘は小さな肩で全てを受け止めようと必死なのがおっさんにはわかる。

顔を把持したままでおでこをぴったりとくっつけておっさんはレミアを見る。顔を真っ赤にして涙を堪え、小刻みに震えている、この状況になるまで真に頼れる者はいなかったのだろう、領主として強く在ろうとすればするほど彼女の幼い部分は押し込められ、孤独だったに違いない。


暫くして落ち着いたレミアはおっさん達に寝室を用意して、自室に戻ると背を向けた。


「ありがとう」


誰にも聞こえないほどの微かな声で少女は呟いていたのであった。





15万字突破! そして今日も日付ギリギリです。

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