冒険者ギルド1
観音開きの大きな扉を手前に引くと広い空間にテーブルが8つに各椅子4脚があり数人が談笑している、壁際には冒険者であろう人々が掲示板のようなものの前に集まって話し込んでいるのも見えた
リアとセシルはまっすぐに受付であろう場所を目指して進んでいく、視線はギルドに入った瞬間から二人に集中しているが平然とした雰囲気でゆっくりと受付嬢らしき人物の前に立つ
茶髪で髪は後ろで束ねてあり腰まではあろうか、事務職員風の衣装に黒ぶち眼鏡をかけた20代後半?の娘だった
「ようこそ冒険者ギルドへ受付のレセフィーレと申します、お見かけしない方ですが新規のご登録ですか?ご依頼でしょうか?」
「初めまして私はリアでこっちの騎士はセシル、守衛さんに説明を受けて身分証代わりに登録を二人分お願いしたいわ」
「わかりました、こちらの書類にご記入をお願いいたします」
「はい」
リアとセシルは女神の加護で読み書きができるのですんなり日本語記入で登録を進めていく、記入した用紙を渡しレセフィーレが確認していく
「職業はハイプリースト様とラオ・パラディン様でよろしかったでしょうか?」
おろおろとした様子で挙動不審になったレセフィーレがおずおずと尋ねてくる
「様?」
「失礼致しました、下級冒険者に上級職の方がなられるのは珍しいもので」
「そうなんだ、普通は上級職ってどんな人がやっているのかしら?」
「そうですね、王族・貴族がほとんどであとは高位の神官あたりでしょうか」
「ふーん、私たちは昨日この国に来たばかりでそういう事情が全く分かっていなかったから」
「そうなのですね」
「あと私達は王族・貴族、神官ではないからそう改まらなくてもいいのよ」
そうリアが告げるとレセフィーレは心底安堵したようで両手を胸に当てて深呼吸し、落ち着いてから事務作業を再開した
細々とした説明と書類を纏める作業を終える頃には少し砕けた会話もできるようになっていた
「よかったぁ、一瞬不敬罪になるかと思ってドキドキしました登録は以上で完了です」
「あはは、気にしなくていいのに」
身分証である銅でできたプレートのギルドカードを受け取る、首から革紐でさげると何だか少し気分が高揚しているのが自覚できたセシルもプレートを手で触って口元が少しニヤけている
その後、リアはレセフィーレからこの国の基本的な情報を収集していく
「よくわかんないけど身分差でそんなに対応が違う物なの?この国は」
「ええ、特に首都近郊の領地は身分の上下でモノを言わせる方が多いので・・・」
「そっか、私たちも無意識に不敬罪にならないように気を付けないとだね」
ずっと黙って私だけが話し込んでいるため振り返ってセシルに声を掛けると、テーブルの方を見つめながら何やらぶつぶつ呟いている
私の声は届いた様で、はっと向き直って会話に参加する
「そうだな、気を付けないといけないな」
「話をちゃんと聞いてたなら問題無いかな」
リアはセシルを上目使いで見上げるようにしてニコっと笑った後にすぐにレセフィーレの方に向き直って
「レセフィーレさん、登録が完了したしギルドマスターかサブマスターが今日いらっしゃるならば会いたいのだけれど可能かしら?」
「本日はサブマスターがいらっしゃいますがどのようなご用件で?」
「ん~可能なら立ち合いを少しお願いしたい、かな」
「立ち合い?実技指導ですか?」
「ん~そうじゃないけど、それでいいです」
「わかりました、伺ってきますので席にお掛けになってお待ちください」
レセフィーレは席を立ち二階へと階段を上がっていく
言われた通り二人で端っこのテーブルを陣取って待っていると周囲の冒険者に動きがあった
スキンヘッドで痩せた男がリアに近づきつつ話しかけてくる
敵意や害意は感じられないため好奇心と興味本位なのだろうと考え時間つぶしに対応することにする
「アンタ神官なのか?神官は神殿勤めが仕事なんじゃないのか?冒険者より安定して稼げるだろうに」
「そうなんですね、でも私は神官じゃないんですよ聖職者の一部・・ではあると思うんですけど」
「へぇ~回復魔法ってやつが使えるんだろう?ポーションなんかよりずっと効果が高いって噂の」
「はぁ、まぁ、回復魔法使える方って少ないのです?」
「冒険者にはほとんどいないと思っていいな、ああ、最上級PTに一人高位神官の男がいたっけなぁ」
「へぇ~勇敢な神官様もいるのですね」
「まぁ最上級PTなんぞ首都近郊の平和ボケした領地の周囲には現れんからなぁ」
「喰いっぱぐれない程度に平和なのが一番でしょうね」
「そうだな、違いねぇ」
フランクに会話をするだけして手を振って去って行く男、冒険者そのものといった感じで一期一会とを楽しむ彼らと当たり障りのない会話をしつつも少しずつこの国の情報を得ていくリアだった
しばらくすると大柄な男が二階の踊り場に現れた、恐らくあれがサブギルドマスターなのだろう
ゆっくりと階段を降りてくる、武人なのだろう歩きにすら隙を感じさせない
威圧感こそ出していないにしても流石だなぁと見つめていると二人のテーブルの傍まで来て立ち止まり腕を組んでから口を開く
「首都冒険者ギルドサブマスターのヴァイスプレだ、直々に指導が欲しいというのは君たちでよかったかな?」
「そうです、わたくしはリアといいます性はありません」
立ち上がって会釈を済ませてからリアはヴァイスプレと向かい合う、セシルも立ち上がってからきちんと会釈をしていることに安堵する
筋肉質で脳筋な風貌と反したきちんとした物言いに少しだけ驚きつつもこれなら願いを聞いて貰えそうだなと安心して願いを口にするリア
「何分この国での対人戦の経験がほとんど無いため、失礼とは思いましたが『強き者』を見ておきたいと考えお呼びした次第ですわ」
「他にもギルドの職員はいるだろうに、私か?」
「そうです」
「そうか・・・面白い、ついて来るがいい」
肩が少し上下しているヴァイスプレの後ろをついて歩き、階段を降りると20メートル四方はある地下室があった
地下なのに空間は昼間同然に明るく天井は高く床は土、壁には魔法で結界が張られていることがわかった、恐らく新人教育用の訓練場か何かなのだろう
壁際の木でできた箱にバットを収納するかのように様々な種類の練習用武器が差し込まれており、そのすぐそばに来たところでヴァイスプレは立ち止まる
「二人とも好きなのを選べ、私はこれで行く」
ヴァイスプレが持ち上げたのは大剣の模擬剣だった、リアは杖がなかったので長い棒(棍術用っぽいもの)を選びセシルは大剣じゃ面白くないと懐刀型の模擬刀を2本選んだ
「棒・・・か?魔法を使うのでは無く?」
「ええ、まぁこれで」
リアの背丈150センチよりもやや長めの170センチくらいの棒を撫でながら答える
「もう一人は・・その鎧装備でナイフ2本か?」
「問題ない・・」
セシルは重さと武器重心を確認するためにくるくるとナイフで遊ぶような仕草で持ち替えをしている
「そうか、ならば良い二人まとめてでも良いがどうする?」
「一人ずつでお願いします、怪我したら私が治療しますし」
「ふむ、回復魔法が使える・・というのは本当なのか確認ができるわけだな」
ニィっと口角を上げてヴァイスプレはリアを睨む、リアはセシルに視線を向けるとセシルは返事もなく武器が置いてあった箱の近くまで距離を取った
「最初は私からお願いします、全力でやってもらって構いませんので容赦無く来てください」
「応」
返事と共にリアとヴァイスプレの間の空気が変わる、肩に大剣を垂直に背負う様な構えは示現流にも近い様な大きな構えである一方リアは右足を大きく下げ左手左足が前に出て一字構えの変形型で棒を握っている
「後の先か、この構えに対してそれをやろうというのか?」
「ええ、見せてください『強き者』を」
笑顔で向かい合う両者
二人はじりじりと距離を詰めていく
おっさんがやっていたVRMMOゲームはノンターゲットであり、回避と防御は盾職以外には特別スキルが存在しない自由度の高いものだった
それは即ちPS頼みだということである
回復職の防御力というのは基本、『紙』である、そのため幾度となく繰り返して防御・回避動作を反復する
自分の死亡=PTの全滅を回復職は常に意識しなければならないからであった
二人が一合の間合いに入った刹那ヴァイスプレの大剣がまっすぐに振り下ろされる、じっと大剣を見つめているリアは左足をわずかに踏み込みヴァイスプレの振り下ろしが最高潮になる前に棒を大剣へと下から合わせる
乾いた木のぶつかる音だけが響き、驚愕の表情となってバックステップで少し下がって動きを止めるヴァイスプレ
「失礼した、まさか本当に受けに来るとは思わなかったのでな」
「いえいえ、こんなに楽しい手合わせもこちらは久々なので」
「新人教育というにはいささが語弊があったようだ」
「わかってもらえて何よりですわ」
再び間合いを詰めて数分間打ち合う、リアは基本重心が後ろにあり防御・回避が最もし易い反面前に打って出る速度が出しにくい構えである
一方ヴァイスプレは初撃こそ最速なものの次手に欠ける構えであった故に二人の攻防は拮抗した
簡潔に言えば初手を完封されているヴァイスプレに勝ち目はなかったのである
「そろそろお疲れでしょう」
ストっと右手に垂直に棒を立ててリアは終了を促す、息一つ乱さない彼女に対してヴァイスプレは額から汗を流していた
「そうだな」
構えを解いたことで互いに終了を確認しあった後にリアはヴァイスプレの前に立ち構える
『天に捧げし我が祈り、慈悲を以て、神の癒しを【ヒール】』
詠唱する必要は恐らく無いが、念のためリアは完全詠唱で魔法を唱えた
光が優しくヴァイスプレの全身を包み込みやがて消えた・・
するとヴァイスプレの額の汗も治まり肩で息をする事も無くなる
「ありがとう」
得心した面持ちのヴァイスプレはリアに深く頭を下げた
「必要ないかも知れないが、そちらのセシルさんも手合わせするのだろう?」
「ああ、リアばかり楽しんではつまらないからな」
セシルが中央に向かって歩いてくる、リアは距離を取るためにセシルがいた方向に歩いていく、すれ違う二人は笑顔でハイタッチをする
セシルは両手で懐刀型の模擬刀を刃を外に向けて構え、ヴァイスプレの前に立った
何名かの皆様に読まれ始めたことに喜びを感じています。ご愛読感謝