コテジの拡張
「おかえりなさい姉様」
「うん、帰ったよルシリル。天馬ありがとね」
エルフの里に降り立って、ルシエがルシリルに妖精の森で起こった事態を説明している。
「そうですが、この森にも瘴気の影響が・・」
「このくらいの可愛い小鹿が原因となってて、ボクもびっくりしたよ。」
手と体で小鹿の大きさをジェスチャーしながら話すルシエは少し子供っぽくて、少しおかしかった。おっさんはクスクスと口の前に拳を出して声を抑えて微笑ましく見守っていると・・
「会場準備は殆ど整ったぜ、明後日には結婚式。今日明日はゆっくり休みを取ればいいさ。」
ルデスが現れておっさんの肩をポーンと叩きながら言う。
「そうなんですが、ちょっと先にやる事ができまして。」
「おう?なんだ?どっか行くのか?」
おっさんはいつも通りの顎に手を当て思考のポーズで。
「ホーム、この世界で言えば家なんですけれど。手狭になりそうなのですよ。ルデスさんルシリルさんを含めて様々な種族の方々と連絡を取りつつ、この世界を見守る為の本拠地と言ってもいい物なんですが・・」
「必要なのは、大工か?」
「いえいえ、魔道具の一種と考えていただければいいんです、拡張しに戻ればいいだけなんですよ。」
「じゃあ何に悩んでるんだ?」
「寝室のベッドの大きさを・・どうしようかなって・・」
「つッ、おまッ!」
恥ずかしそうに頭を少し下げ顔を赤らめるようにおっさんは口にしただけなのだが、ルデスには少し破壊力が強かったらしく言われたルデスも動揺し少し顔が赤くなっている。
「間取りが決まってるんなら工房へ案内するぜ?」
「助かります。」
おっさんとルデスは木工職人がいるという家へ向かって歩いていく。
一方、嫁と蝶花は厨房にいた。
「ふみふみ・・」
「そう、ふみふみ・・」
「こう、ですか?ふみふみ」
嫁、蝶花、厨房の女エルフの3人でうどんを踏んでいた。結婚式料理の相談を受け、嫁はお決まりのうどんを提案して実際に作っている所だった。
うどんや蕎麦などの麺類は長寿だったり、末永くの意味だったりの意味を込め結婚式の料理に出ることもあるのでそこまで的外れではない。
調理知識が乏しい嫁と蝶花は厨房女エルフに頼んで、現地素材で作れないかと試行錯誤していた。
「この乾燥させた柑橘系の皮の粉末を混ぜ込んで仕込んだうどんは良い香りがしますね」
「でしょ?雑誌で読んだことあったんだよぉ~」
「雑誌とは、この世界で言う本です。」
何故か厨房女エルフと嫁の会話に蝶花が通訳を入れている。嫁は異世界人としての自覚がまだ薄く、会話の内容に地球にしかないものを含んでしまうので、必要になっていた。
「よし、ふみふみはここまでで~お休みタイムに突入だね。」
「熟成の為に3時間程この捏ねた物を休ませます。」
「成程、生地の熟成!」
説明をしているのは嫁であるはずが、ほぼ蝶花の方向に向いて話している厨房女エルフ。ワイワイと姦しい会話をしつつ夕飯までの時間が過ぎていくのだった。
話は戻って、おっさんとルデスは木工工房の中でベッドの枠を注文していた。
「こいつはデカいな、5人は寝れるサイズじゃねぇか?」
「ええ、市販品だと良いものが無さそうだったので悩んでたんです。」
おっさんは事前に拡張するコテジの間取りとベッドのサイズを紙に書き起こして、ルデスと木工職人に見せる。横6m縦2,2m高さ50センチの特大サイズのベッドの枠の注文に流石の親方エルフもびっくりだった。この世界にもキングサイズは存在するが、それを遥かに凌ぐ物らしい。
「ここをこう、3つに分割できるようにすれば2mずつになりますから搬入が楽になります。」
「ははぁん、成程な、嬢ちゃん中々見どころがあるなぁ、うちで雇われないか?」
「親方、この方は王女の客人に当たる。多少は気を使ってくれ。」
「なッ!?それは失礼した。」
「いいですよ。」
図面をテーブルの上に広げ制作にあたっての注意点や拘りポイントを述べていると、人間族の職人関係の者と間違われてしまっていたらしい。慌ててルデスが仲裁する。謝罪を受け、おっさんは構わないと首を振り振り応える。
「今はこのなりなので想像できないかも知れませんが、私は元々生産とか技術職方面の方が好きなのです。」
「だろうなぁ、さっきの図面お嬢ちゃんが書き起こしたんだろう?緻密で繊細な・・一流の仕事だ。」
「有難うございます。それで制作して頂けるとして、どのくらいかかりますか?」
「そうだなぁ、素材はあるから断って削って組み上げ・・明後日の夕方には仕上がる筈だ。」
「早いですね、親方の腕に期待します」
柾目の木材をうっとりと撫でながらおっさんはサラリとそんなことを言う。言われた親方は少し照れたように作業場へと移動していった。
ルデスと共に木工工房から出て、ルシエの家に向かう。丁度うどんを休ませにかかった嫁と蝶花、ルシリルとルシエが合流して全員が揃った所だった。
「皆さん、今から少し時間はありますか?」
おっさんは全員に尋ねる。
「あるよ~。」
「予定は無いです。」
「ボクも暇かな。」
「私もご一緒でいいのですか?時間はありますが。」
全員時間が空いていることの確認が取れたので、おっさんは転移魔法陣の操作の実演も兼ねてコテジへ皆で移動することを伝える。
「それで・・俺はお留守番かよ・・」
里で何かあった場合に備え、ルデスはお留守番決定である。少し残念そうな彼を置いて一同は転移魔法陣の中へ入る。
「では、里の平和を守ってくださいね。」
「またあとでぇ~」
「またです」
「お留守番・・ぷぷっ、お似合いだね」
「申し訳ありません叔父様、行ってきますね」
魔法陣に魔力を込め、光に包まれる。光が収まるとコテジの寝室だった。
「やっぱり4人になると既に狭いよね。」
「かもぉ~」
「でしょうか」
「くっつけるから狭くてもボクは平気かも」
ふむふむ、とおっさんは全員の意見を聞きつつ屋外へと全員を連れて移動する。
庭の外の門の前に立ちおっさんはアイテムボックスから大ぶりの魔石とコテジ拡張キットを取り出す。
「さて、今からコテジの拡張をします。元々は二人用で考えてたから、最近手狭になってきた事と今後の社交性の向上が主な目的です。」
「おお~ギルドハウス並みに大きくしちゃうの?」
「そうだね、一階は食堂兼リビング、キッチン、浴室、トイレ、会議用部屋で間取りは広めに取ってある。」
おっさんは図面を嫁に手渡して、全員で見てもらうよう促す。3人は頭を寄せ合い図面の上から覗き込むように見て口々に思うことを述べる。
「2階は部屋ばかりですね。」
「私、角部屋がいぃ~」
「ボクは階段が近いからココかな。」
「2階だけで12部屋、大きな建物になりますねこれは。」
2階は個人部屋と客間の10部屋とトイレ、さらにちょっとしたお茶などを入れたりするためのレストルーム、最後に先ほど特注したベッドを入れる主寝室の12部屋となっている。個人部屋は6畳、レストルームと主寝室は20畳程の広さを取ってあり、各部屋には防音のお札を設置する予定だと伝える。
「お札作成しないとだね丁度ここなら家も近いし、ボクは家にいったん戻るよ。」
「私もお姉様の家に行ってみたいです。」
説明を受けてルシエはお札作成に向かう、ルシリルも姉の家に行けるとあって興味津々の様だった。
「じゃあ、ぱぱっとやっちゃいますか。」
「ワクワクするねぇ」
「ですね」
おっさんは図面をコテジ拡張キットに吸い込ませる、クリスタルの様な片手で持てる大きさの青い鉱物に図面がスッと入っていく様は中々にファンタジーしていて、おっさん自体も楽しんで作業していた。
「次にこの核となるクリスタルを門の前に刺してっと。」
おっさんはおもむろに地面にザクっとコテジ拡張キットを突き刺し、大ぶりの魔石を四方向に並べるように4つ程並べる。
設置した瞬間に中心にあるクリスタルから一筋の光が上へと伸びて今まであったコテジが光に包まれて一旦作成キットの中に納まる。そして次の瞬間最初の光の筋の数倍はあろうかという太い光がクリスタルの先端から放たれ次のコテジの形が形成されていく。
VRMMO中の通常のコテジは二人用仕様の物であり、プレイヤーはイベントで全員入手可能な物である。コテジ拡張キットはレイド報酬でギルド作成に必要となるキーアイテムで、100名までを収容可能なギルドハウスを各個人の采配で図面を指定して入力することで拡張可能とする。魔石は拡張する部屋とか広さによって大きさや数が異なる。
光が収まった。木の柵だった門が鉄の格子になり、レンガの塀だったのが高さ3m程の壁となって、格子の隙間から拡張されたコテジが見えている。大手ギルドのギルドハウスよりはやや小ぶりだが、十分に館の大きさではある。
「入ろうか、キッチンの中身とか出して、寝室の物も備え付けしないとだし」
「そだねぇ」
「頑張ります」
意気揚々と駆け込む嫁と蝶花を見ながらゆっくりと扉を開けおっさんは新しくなったコテジに入っていく。




