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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・妖精の誘いと聖女の憂い
32/86

穏やかな光差す森で

 翌日から王女の結婚式の準備が始まった。ルシエ、リア、蝶華の3名とセシルの合同結婚式として開催される披露宴の準備である。衣装はおっさんの分と蝶華の分はアイテムボックスのお洒落装備から選んでいく。


「黒系のドレスはこの4種類、蝶華ちゃん選んでね」

「このドレスは魔道具なんでしょうか?着た瞬間にサイズぴったりになってしまうなんて・・」


少しだけ驚きを見せる蝶華だったがすぐに落ち着きを取り戻し、手で持ってドレスを当ててみたりしつつ選別している。おっさんは白系のウェディング装備とヴェールを早々にチョイスしてまったりとお茶を啜っていた。


「随分と容量のあるマジックバッグをお持ちなのですね」


 覗き込むようにルシリルがおっさんの前に立ち話しかけてくる。マジックバッグというのはこの世界でのアイテムボックスであり、とても貴重で高価なものらしい。


おっさんと嫁はVRMMOの道具や装備を女神と会話している時点でおっさんのメールでの指示のもと選別し持ち込んでいる。その容量はほぼ無限、しかし戦闘中などに使えるのは装備欄とスキル欄の脇にセットできる12種のみであり、ドレスチェンジ毎に12個のアイテムが使用できることも考えれば12×5=60個のアイテムが即座に使える物となる。


ルシリルと雑談を交え蝶華の衣装を選んだり、装飾系のお洒落装備を出したりしてゆっくりと時間が流れていく。嫁とルシエはエルフ族の伝統衣装を急拵えで準備するとのことで、針子たちに囲まれ別室で採寸、裁断、仮縫いまでを一気に行われるそうで、忙しそうだなと暢気にお茶を啜るおっさんだった。


「聖女様は随分と余裕なんだなぁ、正妻の余裕って奴かぁ?」

「叔父様、口が悪すぎです」


悪い悪いとルシリルに手をひらひら振りながらルデスが現われた、このテンションが通常運転なのだろうなと思い、口元に拳を作りクスクスと笑っていると、ルデスと共に現れた厨房にいた女性エルフがおっさんに。


「結婚式のお料理で何か聖女様がお勧めの物が有りますでしょうか?」

「私達の国の物で良いのですか?」

「はい、他種族との交流を兼ねた合同結婚式ですし。」

「なるほど、厨房へ向かいましょうか。」


 日本での結婚式の定番料理と言えば【鯛】あとは腰が曲がるまで共に在ろうという長寿の願いの意味での【海老】など細々上げれば結構あるがどれも海産物が多く、森の中でのエルフの結婚式にはそぐわないだろうとおっさんは考えた。


厨房に着いてからエルフ女性にエルフ側のメニューを聞いていくと、やはり夕飯同様に質素で派手さは無いものが多かった。なので、おっさんは牛蒡と蓮根を用いたメニューから彩の鮮やかな煮しめ、栗を用いた料理として栗ご飯のお結びを提案する。


「この細長い根菜は長寿の願いを、栗の方は勝利祈願みたいな意味合いのモノなんです。」

「へぇ、剥いた栗をかち栗って言うのですか・・」


栗ご飯と煮しめの仕込みをしながら女性エルフと料理談義をしつつ、匂いに釣られて嫁のお腹がそろそろ限界になる頃合いだろうなと予測できる時間帯になってきていた。


「そちらは何をお作りに?」

「これはですね・・・」


 折衷料理を出せば喜ばれるだろうと思って、エルフの里の長芋の様な野菜と焼きのり、カツオ節をチョイスしてシンプルな長芋の和え物を一品作る、皮を剥いて塩もみして短冊切りにカットするだけなので一瞬で完成。アクセントに梅肉を少し入れてみた。

エルフ族の野菜と和食の根源たるカツオ節と梅干、これに醤油を数滴垂らせば・・・それを考えるだけで口腔内に唾液が溢れるほどのパンチの効いた料理だ。あっさりとしていて、しかしながら味わい深く、エルフにも好まれるだろうと考える。


「ご飯炊きあがりましたね。煮しめも程よく味が染みて、まだ角がありますが、一旦冷めると一味美味しく成る筈ですので。」


そう言いつつ、炊き立てご飯でおにぎりを作っていくおっさん、熱々のご飯を握るのは慣れてないと難しい。

手との接触時間を短めに、しかし全体を手で包み込むように、踊る様に舞う三角形を見てエルフ女性は唖然とした表情で呟く。


「本当に聖女様はお料理がお上手で・・素晴らしいです。」

「有難うございます、この煮しめも器に盛りましょう。」


お料理は片付けるまでがお料理である。鍋を洗ったり、包丁やまな板を洗って拭き取ったり、毎日熟すことで的確に早く上手な作業となっていくものだ。作る作業と片付ける作業は並行して行えて当然となっているおっさんはテキパキと厨房内を動いている。『そろそろかな・・・3・・2・・1・・』



 「お腹減ったぁ~」


バンっと扉を勢いよく開けて・・・言わずもがな、嫁だった。


「そろそろだと思って作っておいたよ」

「感激ぃ~♪」


嫁に続いて疲れた顔のルシエ、ルデスさんとルシリルに連れられて蝶華もやってくる。厨房にいる女性エルフもお誘いして昼食となった。


「頂きます」


いつも通りの4人の祈り、3人のエルフは一瞬やはりポカンとしてこちらを見てくる。それと同時に王女もほぼラグが無い状態で祈りについて来れている事に感心していた。


「本当に嫁に行っちまうんだなぁ・・」

「息ぴったり、です・・」

「ですね・・」


3人のエルフは王女が嫁に行ってしまう事を実感しつつ昼食に手をつけていく、米に慣れていないエルフ族がどのように食べるか興味深くおっさんは観察していた。

フォークとスプーンを使い危なげ無く食していく、所作に無駄がないことを考えれば良く躾けられている、流石は里の上層部の方達は対外的にも申し分の無い教育をエルフの里で身に着けているようだ。

一方嫁は・・・・


「栗ご飯久しぶりぃ~」


もろ手で一個づつのお握りを持ち、交互に食べておられる・・おお、何か恥ずかしい。

食べ方自体は正しいのだけれど、他の皆さんがきちんとしている分浮いている。


「セシル、はしたないよ。節度を持って・・」


少し席から身を乗り出して手を伸ばし、嫁の口の周りについたご飯粒を取っておっさんは口に運ぶ。目を剥いて見ているエルフ達の視線などお構いなしで、事も無し気におっさんは目を瞬き


「どうかしましたか?」


「やはり正妻の余裕か・・」

「姉さまも頑張って!」

「ちょっとエロいですね、今の・・」


何だか厨房の女性エルフが爆弾発言しているがおっさんは通常運転である。嫁の扱い的には普通なのだが、エルフ族的には結構な扇情的シーンになってしまった模様だ。状況を理解して取り繕おうとしても時既に遅く、食事中なのに何だか変な雰囲気にしてしまう。

その空気を換えるように話題を変えたのはルデスだった。


「この料理は披露宴に出すものだって聞いたけど本当か?」

「はい、私とセシルの国の料理とエルフの材料で何か作れないかと思いまして」

「味も良いし、彩も良い、聖女は止めて食堂でも開いたほうがいいんじゃないか?」

「あはは、私もできるならそうしたいですが、女神との約束があるのですよ」

「女神って唯一神スィーリズ様の事ですか?」

「そう、私とセシルは女神によって異なる世界から移動してきた者なんですよ・・」


それからエルフ達におっさんと嫁がこの世界に至った経緯と目的について話す、そして、もちろん結婚についても責任を持って大切にすることを嫁に言葉にして伝えてもらう。


「成程なぁ・・ルシエの結婚は大精霊の導きでもあるんだろうな」

「今の話を聞いて私もそう思いました」


ルデスとルシリルは得心がいったような面持ちで頷いている。厨房の女性エルフは「それであんなに多彩なレシピが次々と・・・」とぼそぼそ呟いていた。


その後エルフの古い民たちからもなんとか了承を得て、結婚式にも参加してもらえるようになった事、内輪のみの厳かな結婚式となる事、最後に里長とその補佐の任命式も行う事等が確認され、昼食を終える。


 明後日には結婚式である、屋外では準備が進み里の中は少し何時もよりも慌ただしくエルフ達が動いている。

空は晴れて浩々として、澄み渡った青空を眺めていると、上空から何かがフラフラと飛来してくるのが見えた。

近寄ってはっきり見えるようになるとそれが羽妖精(ピクシー)だと判明する。


「フェイ!フェイじゃないか?」

「あ、フギンとムニン・・妖精の住処が・・襲わ・・」


ストンと力を失ったように落ちるフェイ、とっさの事にフギンとムニンは対応が遅れた。おっさんはとっさにダッシュして落下地点へと行き、フェイを抱きとめる。酷い傷が背中を中心に斜めに入っている、これで妖精の住処からずっと飛んで来たのであろう、おっさんは即座に魔法をかける。


【パーフェクトヒール】回復系最高位魔法でみるみる傷は癒え、目をパチッと開いたフェイは。


「大変なんだ、大きな蜘蛛のモンスターが現われて、妖精の住処に向かって真っすぐ向かってるんだ」

「他の妖精は無事なの?」

「住処の戦うことが出来る妖精が守りに就いてる、長老の指示でここに来たんだけど来る途中でヘマしちゃって」

「それで、フェイ。私に長老は何て言ったの?」

「聖女一行の助力を願う、住処の者は戦いに向いたものが少ない、可能ならば来て欲しい。って」

「わかったよ、有難うフェイ、頑張ったね」


おっさんはおでこをフェイに少しだけ当てて感謝を伝えた後に振り返り


「嫁、蝶華ちゃん、ルシエさん、集まって。」


おっさんの声が村に響くとすぐに3人とルシリルとルデスが集まった。おっさんは事情を説明するとともに移動手段について考えていることを伝えた。


「ここからじゃ妖精の住処までは陸路だと遠すぎます」

「空を飛んでも結構な時間がかかるし・・」


おっさんたちが口論を始めて間もなくして、ルシリルが口を開く、深緑の瞳は意を決して何かに挑もうとする者のそれだった


「天馬を召喚します!」

「ちょっ、大魔法じゃない?出来るの?」


とっさにルシエが声をかけるがルシリルは詠唱姿勢に入り聞く耳を持たない。エルフ語で長い長い詠唱を終えて、最後の文句が空へと響き渡る


『我が名はルシリル、盟約の血の元へ集え、空を舞う大いなる翼持つ獣の番よ』


魔法発動の余韻が薄れたところ、ルシエがルシリルがふらついたのを抱きとめる。召喚は成功し、空から2頭の天馬が降りてくる。


「全くボクと違って体力無いんだから、無理しちゃダメだよ!」

「私にも少しは良い所見せさせて欲しいです。」


ふらつくルシリルをルデスに預けて、妖精の住処には聖女一行(おっさんたち)のみで行く事となる。

時間がないため天馬には、一頭目がおっさん、嫁。2頭目に蝶華、ルシエが乗り込む。おっさんの胸の間からフェイが顔を出している。


「では、天馬よ行ってください!皆さん気を付けて」

「無理するんじゃねぇぞー!」


エルフ達に見送られ天馬は上昇した後、風魔法で自身の周りの空気を遮断し、頭を少し低く構えて走り出す。滑るように、抵抗なく空を舞う。速度は通常の飛行の比では無くあっという間に町が見えてくる


「皆待っててくれよ、今行くから」


フェイの呟きに頷きつつおっさんは戦闘準備を進めていた。












あえて〇を使わない仕様にしていましたが、話が長くなるに連れ無理が出てきたため、今回より〇を実装致しました。

読み味が少し変わって、読みにくくなりすぎた場合はご報告願います。

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