王女として姉として
夕飯は言うなれば精進料理だった
肉魚を使わない(豆、山菜、根菜、葉野菜、キノコ等)精進出汁を用いた素朴な味で、カロリー控えめ、塩分控えめ、山菜と根菜が多い分消化が少し悪そうな点以外はおっさんは大変満足だったのだが・・
「あ~ぶ~ら~の~う~ま~みぃ~」
嫁にはパンチが足りなかったらしい、最近の夕飯は結構重たいものが多かったので胃を休ませるには良いだろうと思い、我慢させた
日本の料理ばかりで甘やかしたのが悪かったかな?と反省したおっさんは現地の作物での新レシピ開発を企み始める
といっても料理の基本は煮る、焼く、蒸す、揚げる、炒める、くらいのもので、あとは食材のチョイスが変わる程度なのだ、料理は慣れるとどんな食材を使ってもある程度のモノが良い塩梅でできてしまう
漫画肉とかはロマン料理ではあるが、焼くのに途方もない時間がかかろうし現実的じゃない、おっさんは割と真面目に黙々とお料理の思考を繰り返す
「ふ~ボクはここの料理より旦那様の料理の方が好きになっちゃった」
地元民のはずのルシエまでこんなこと言う始末
「ん~水に浸してあるエルフ豆余ってるよね?厨房借りるよ!」
「うん、何か作るの?」
「まぁね、簡単なものだよ」
精進出汁を取るためには必ず水に浸した豆が必要になってくるので当日に出来る物は少ない
そのため余っているだろうとおっさんは思って厨房へ向かう、案の定あった!
「豆で何か作られるのですか?」
「簡単なおつまみみたいなものですよ」
おっさんは豆を茹で、それを擂粉木でひたすらつぶし、さらに水を加えて加熱して、布布巾で濾す
おからと豆乳になったら、豆乳を膜が張るまで煮詰めてスッと抜き湯葉ができる
予め温めておいた油で良く水を切った湯葉をカリっと揚げればお終いである、仕上げに岩塩を少し
興味深そうに見つめていた厨房の女性エルフに味見してもらう
「ああ、豆の旨味と香りが引き立って、塩味が利いて良い塩梅ですね~止まりません!」
「私の生まれた国では結構作られてる料理です、今回はオツマミですけど」
このままでは作った端から食べられてしまいそうなので、おっさんは作ったものを熱々で運ぶ
「はい、オツマミ程度だからね」
「旦那様大好きぃ~!」
「流石です」
「スゴイ・・短時間でこれを?エルフ豆だよね?」
植物性の油だからきっとこれも精進料理だろうなと思いつつ作ったおっさんだが
里の水が美味しいのとエルフ豆も甘みが強かったため濃厚な豆乳が出来、想像以上に美味しかった
「パリパリぃ~♪」
「美味しいです」
「旦那様、男だって実は嘘なんじゃない?ボク心配だよ」
何の心配かはわからないが、おっさんはおっさんであっておっさんである
料理と実験は似ている、トライ&エラーの繰り返しで正解に近づくのだ、おっさんは両方大好きでひたすらに繰り返し、今があるのだった
夕食後の夜食?をペロリと平らげてしまう3人、お皿を仕舞おうと厨房に向かう途中にルシリルがいた
「あんなに楽しそうに笑うんですね、姉様は・・・」
少しショックを受けた感じの表情でルシリルは姉を見ている
「そうだね、出会ったばかりのころは馴染むのが大変そうな時もあったけど今は大丈夫」
「そう、ですか姉は居場所を見つけたんですね」
胸の前に拳をギュッと握りしめてルシリルは決意を固め姉の元へ向かう
「御姉さま、今日は私と寝ましょう、お話を聞かせて下さい」
「うん、そうしようか」
あっさりとルシエは了承し、ルシリルの部屋へと向かって行った
おっさんたちは3人で客間を一部屋を使わせて貰う事となりそちらへ向かう
ルシリルの部屋で二人きりになって、ルシエから声をかける
「それで、ルルは何が聞きたいの?」
寝室の脇に置かれた椅子を反対に向けて背もたれに胸を当てルシエは幼名であるルルとルシリルを呼ぶ
その表情は姉のものであり、両親を失ったルシリルにとっては母の様でもある
「わたし・・いえ、私は里長となって良いものでしょうか?」
「いいよ、200年里の事を忘れることは無かったしそれなりに情報も集めてたんだボク」
「それで、御姉様は何を知っているのですか?」
「爺が実質の執務を代行していたこと、ルルが私の事を想って心配してくれていること、エルフの悪い噂が無い事、エルフの里が平和である事、ボクが知ってるのはこのくらい」
指折りながらルシエはルシリルに語る、ルシリルはベッドにポスっと座り食い入るように見つめている
「そんなことで何が分かるって言うんですか!」
「わかるよ、爺が、ルルが、ボクがいなくなって大変だってこと、寂しがってるってこと、それでも里の民の為に以前と変わらぬ里の在り方を守ってるってこと、痛い程わかったよ」
ルシエは瞳に涙を溜めながらルシリルを真っすぐ見つめている
「私は、御姉様の代わりになればと思い、ずっとやってきました、でも私自身は何もしていないのです」
「そんなことないよ、私の代わりなんて誰にも出来やしない、それでもやってくれてたんでしょ?」
「ただの見様見真似です、私は飾りの様な物だったのです」
両手で顔を覆う様にして九の字に前屈みになるルシリル
立ち上がってルシエはルシリルの隣に座って肩を抱きしめるように寄り添う
「只の物真似は200年は続けられないよ、ルルは本物になってるんだよ、嘘じゃない」
「本当に?」
グズグズになった顔でルルは顔を上げた、幼い少女、自分の小さな妹、年月を経て体も心も成長している筈なのに酷く小さく幼く見えてしまう
「本当だよ、王女として、姉として自慢できる立派な妹になってるよルルは」
「御姉様、私、わたし、寂しかったです、寂しかったんです!」
「ボクもだよ、寂しかったし、会いたかったし、辛かった、でも、ルルは決めたんでしょ?」
必死に涙を堪えようとして目の周りを擦ったせいで真っ赤になった顔でルシリルは瞳に光を灯し
「はい、先程食堂での皆さんを拝見して正直嫉妬しました、私は何故お姉さまにああいう風に接してもらえないんだろうって、御姉様は私の事なんか忘れちゃってるんじゃないかって思いました」
「うん」
「その瞬間に気が付いてしまいました、私が御姉様をそういう風に見て、御姉様を縛って、里だけの、いいえ私だけのモノにしようとしていた事を」
「ルルは賢い良い子になったね」
頭を抱えるように抱き、頭を撫でつつルシエはルシリルの言葉を待つ
「里長になり、御姉様を縛る鎖を解き放ちたいと、私は・・思い・・ます」
「有難うルル、長い間構ってあげられなくってゴメンね・・」
二人とも抱き合った状態で涙し、静かに時は流れる、外には満天の星が輝き、窓から一筋の光が差すのが見えた
「そっか、そうなんだね、わかったよ精霊王」
「御姉様?」
急に独り言のように話し出したルシエにルシリルは問いかけた
「精霊王がルルに祝福したいって、これまでも、これからも見守りたいって」
「本当?」
「本当だよ、ごらん」
窓際に光の粒が集まり膨らんで人の形を成していく、輪郭はぼやけたようではっきりとは分からないそれでも二人には精霊王だと認識できた
「ありがとう、ございます」
「ありがとね、精霊王」
そう言うとすぐに光はパぁっと消え去り見えなくなった
「私頑張らないとだね」
「うん、頑張ってボクも頑張るから」
抱き合う形から少し離れて二人で窓から外を見つめる
「あとね、これはまだ先の話なんだけれど」
「何ですか姉様?」
「私の子じゃなくってルルの娘に精霊王は加護を与えるって言ってたよ」
唖然とするルシリル、その顔を見てルシエは満面の笑みでコツンと頭だけルシリルに寄り添う
「よかったね、里は安泰だよ」
今日は一緒に眠ろうと言って聞かないルルだったので姉妹で抱き合う様にして眠った
朝になるといつも通りのルシリルがいて、でも昨日までとは違う強さを一つ手にした眼差しで
「おはよう!姉様」
「おはよう、ルシリル」
一つ心残りが減って気が楽になった反面、妹の成長が少し寂しい心地のルシエだった・・




