エルフの里
エルフの里に向けて出発した聖女一行は低空飛行のフギンとムニンを追って歩いていた
「イメージだと木の上に家がある感じだねぇ~」
「ですね、地面には家が無いイメージ」
「ゴメン多分地面にバンバン家建ってるよ・・・」
何だかルシエが申し訳なさそうに言っている、別にルシエが悪いわけじゃないのに律儀な子だなぁ、とおっさんは深い森を見上げながら思いつつ歩く
「里なのに王女なのは何故なんですか?」
「精霊王の加護を受けることが出来ると王の資格が得られるんだよ」
「得られなければ?」
「里長?かな」
一気に会話が疑問符一杯になって詰まった、ルシエは細かいことを気にしない子、しきたりが重苦しくて出奔という経緯がある以上政には全くと言って良いほど無関心だった
しかし、恐らくではあるが何らかの心残りや心配事の種を残して旅立ったに違いない
でなければ成り行きでも戻ろうとは思わないだろうから
なにせ200年である、人間種族には想像もできない途方もない時間、ルシエは悩んだのだろう
「エルフ料理はどんなのがあるの?」
「ん~素材の味が生きている?料理かな」
「違う小説の台詞使用するの禁止!」
思わずわけのわからない突っ込みを入れてしまうおっさんだったが気にしない気にしない
4時間の道のりの半分ほどを過ぎたあたりで早めのお昼休憩になった
「作り置き今日は何かなぁ?」
「朝は簡単にサンドイッチだったしお昼は天むす準備しておいたよ」
「天むすぅ~♪」
海老は無いけれど川魚のフライと、キノコと、アスパラベーコンみたいなのの3種類で
手早くランチマットをアイテムボックスから出して広げて、【浄化】で綺麗になってから頂く
「頂きます」
ルシエも少し遅れつつも食いついてこれたようだ、馴染んだようで結構結構と思いつつ暫しの休憩を取る
「それにしても広大な森ですね精霊王の住処なんでしょうか?」
ほえ~っと辺りの景色を見上げるように蝶華が呟く
「ボクの感覚では精霊は何処にでもいるし、何処にもいない、妖精と違って実体は無いし触れることはできない、でもそこに在る事と力を貸してくれることがわかる、そんな感じかな」
「何だかわかるようなわからないようなそんな感じですね」
「実はボクもよくは分かってない、物心付いたころにはもう感じることが出来てたし」
「王女の精霊魔法は精霊の助けを借りて理に干渉しているのです」
「物の移動などには風の精霊、土壁作成には土の精霊と言う様に・・・」
フギンとムニンは必死に自分たちの解っている知識を蝶華へ伝えてくれている
2羽とも真面目だ、と嫁と目を合わせてクスクス笑っていると
「精霊が教えてくれる情報だと、既に近くに里の護衛部隊の子が何名か来てるみたいだよ」
「んとね、ちょっと前から4人程、遠いけど等間隔で見守るように移動しているねぇ」
嫁があっちにいるよ、と指を差す
「この距離で見えるのセシルさん?」
「見えはしないよぉ~ただ気配を消すだけじゃ違和感が残ってそこに居ますよって言ってるのと同じなんだもん」
「それは達人レベル以上でないと判らない内容だね」
「蝶華ちゃんはもっとこう幻術魔法とか駆使して景色と同化したり胡麻化したりできるよねぇ~」
「はい、それが一応専門でしたし」
「あ、こっちが気づいてるのが分かったみたいだねぇ、一人向かってくるよ」
おっさんは敵意が無いかを判断だけして、お昼ご飯の片づけを進めている
嫁には警戒を厳にと伝えてある、信頼してこの場は任せようと考えた
暫くすると木陰から細身の男性エルフが出て来た
位置がバレるとは露ほども思っていなかったのか、男性エルフは緊張した面持ちだった
「王女様よくぞ戻られました、案内をさせて頂きますエルフの里の護衛団団長のリーフラと申します」
跪いて、弓を地面に置き、首を垂れてリーフラは言った
「面を上げていいよ、ボクは出奔してた身だし偉そうなのは好きじゃないんだ」
「仰せのままに」
「あと、この人たちは連れじゃないからね、ボクの家族になる人達なんだから」
「な、何と!?失礼致しました」
仰天しているリーフラ、ブツブツなにか呟いて・・立ち上がり
「それでは里に参りましょう、こちらが近道です」
すっかり昼食の片付けも終わっていたので聖女一行はリーフラに続く
全く同じ景色を繰り返し歩いているような感覚になる不思議な森を抜けると一時間程で到着した
木でできた門が見え、先回りしたのであろう残りの3人と、女性が一人、少し背の高い貫禄のあるエルフが一人待っている
「姉さま!!」
小柄な女の子エルフがルシエの胸に飛びつくように抱き着いた、深緑の瞳は涙でいっぱいだった
「ルシリル・・ゴメンね不甲斐ない姉で、ただいま」
「女王、お帰りなさいませ」
歓待ムードのルシリルと里護衛団、打って変わって貫禄のあるエルフはバツの悪そうな面持ちで
「お帰りなさいませ、王女、募る話も御座いましょう、まずは屋敷へ」
そう言って背中を向け歩き出してしまう
屋敷までの道を歩く、地面に沢山家があった、レンガや土壁が多く使われて自然と風景に溶け込むような里の情景を眺めていると、窓から何人ものエルフが顔を出し
「お帰りなさいませ」
ルシエは手を振りつつも、参ったなぁと言うような硬い表情で内心はいっぱいいっぱいだったのだろう
不意に蝶華がルシエの腋に両手をスポッと差し込む
「あは、あははは、何するのさ?」
「怖い顔してますよ、スマイルスマイル」
蝶華は脇から手を抜いて自分の口角の端に人差し指を当てて上に引っ張り笑顔を作って見せる
ハッとしたルシエは穏やかに微笑む
「有難う、ボク何だか情けないね」
「これからちゃんとすればいいんですよ、遅すぎる事なんてきっと無いと思います」
「うん、頑張ってみるよ」
少しだけ振り返っていたルシエは胸を張って前を向き、笑顔で手を振って歩く
里で一番大きな木の脇に3階建ての大きな家があった、ルシエの家かな?と思っていると
貫禄のあるエルフがルシエに近づき
「この中へ再び入られるという覚悟ができたのですな?王女」
「ううん、ボクは中途半端だった、止めた時間を動かしに戻って来たんだよ」
「そ、それは!?そうですか・・・中へお入りください」
中に入ると一回は開けたホールの様になっていて左右に階段があった突き当りに扉があり幾つか部屋がある
二階へと案内されてぞろぞろと後に続いて歩き、15畳程の部屋にテーブルとイスがある部屋に案内された
中へ入ったのはルシエル、貫禄のあるエルフ、フギンとムニン、そして聖女一行だ
「ここは里の管理棟、本来なら王女が里の指揮を執るための執務室と言った所でしょうか、お座りください」
全員が席に着いたのを確認して、おっさんたちは簡単な自己紹介を済ませた
するとルシエがお腹に手をあてて肩を少し震わせて
「爺、いつまでその堅苦しい言い回しで話し続けるんだい?ボク吹き出しちゃいそうなんだけど?」
「ですが、お客人もおられます故・・」
「へ~そういう事言ってるとまた200年くらい戻らないよ?」
「わかったわかった、あ~もう、口の減らない子に育ったもんだよお前は」
唖然とした、爺と呼ばれる威厳がすっかり抜けて、お兄さん?的な口調になってしまった
「爺の名はルデス、父の兄だ、ボクの両親は亡くなっているから親代わりみたいなものだね」
「全く・・・反抗期かと思えば200年も里を離れる奴があるかよ!」
「そうですよ、私ずっと心配してたんですから」
ルデスとルシリルに責められるルシエ、しかし彼女は俯かず、深緑の瞳に強い光を込めて
「今回戻ったのは、こちらのセシル殿とボクが結婚する挨拶をしに帰ったんだ」
「な・・」
「お姉さま?」
固まる二人をそのままにルシエは続ける
「200年、世界中を回って、見て、聞いて、考えてたんだ、精霊王のお告げでもあった」
「その答えが結婚なの?姉さま」
「結婚は答えの一つなんだけれども、もう少しこの里も外部と繋がっていかなくちゃと思った」
「だけど、村を守るには閉鎖的であったほうが安全度も高い、外部と繋がれば何があるか・・」
「うん、確かに不安もある、怖いことだろう、しかし、エルフ族も変化しないといけないとボクは思ったんだよ」
「姉さまがお決めになったのでしたら私からは何も」
「爺はどうなんだい?」
「ん~個人的には賛成だけれど、古い民は納得しないんじゃねぇか?」
「うん、そのための結婚だよ!異種族と王女が交われば対外的には交流ムードでしょ?」
隣に座っていたセシルに抱き着くルシエ、名演技の嫁は阿吽の呼吸でそっと手で受け入れる
おっさんと蝶華は演技っぽい仕草にニヨニヨしそうになるのを心の中で必死に抑えていた
「あとは、嫁ぐって事で基本的には今まで通り里の外で暮らすことになると思う」
「それでは里は・・」
「正式にルシリルを里長、ルデスをその補佐として任命、もちろんボクは時々帰ってきて里の事を聞き政にも手助けはするつもりだよ」
「ここまで出来た話を持ち込んでくるってことは決意は固いんだな?」
「うん」
そこまで話してからルシエはセシルから離れおっさんの元へ来る
立っているルシエはおっさんの肩に手を置き
「こちらの聖女リアさんが何時でも里に出入りできる魔方陣をここに描いてくれるから、安心してね」
「転移魔法!失われてなかったんだな?」
「すごいです、聖女様!」
勝手にまた聖女株が上げられていく・・別にセシルも出来るんだけれどなぁ・・とおっさんは胸中複雑である
「まずは手始めに最寄りの小さな村から交流を少しずつ深めようと思う」
「ルシエがフードしてなくてもあの村の人はフレンドリーだったしねぇ♪」
「村長には私からも助言を致します」
ルシエは切れるカードを切った、満足げな顔である
嫁とおっさんで後押しもした、あとは村の代表である二人のエルフの出方次第だ
煮え切ってないような二人の表情をみておっさんは立ち上がり、執務室の端のほうに魔方陣を描き出す
『彼方から 此方へ あるべきものを あるべき場所まで 運ぶ縁を 紡ぐ力を』
デモンストレーションであった、無詠唱でも十分なところをわざわざゆっくりと詠唱しておっさんは手を差し出して言う
「見てみた方が早いんじゃないかな?この先に最寄りの村があると思えばいいよ」
「転移先の村の村長さんと話して、空き家を買い取り、エルフとの接点として認可してもらえればまずは足掛かりの一歩としては十分でしょうか?」
蝶華も参戦してグイグイ押す、首都の時もそうだったが交渉は押すに限る
おずおずと魔方陣に乗る二人のエルフ、それを繋ぎ止めるかのようにルシエが二人の手を取る
聖女一行も乗り、フギンとムニンはお留守番である
「では、行きますね」
見慣れた光景だ、光が魔方陣から溢れ視界が一瞬消える、魔方陣に吸い込まれるように光が収まる
「ここ、が?」
「一瞬ですね・・」
二人のエルフはきょろきょろしているが勢いのままにルシエは村長の元へ向かおうと言った
村長は友好的な方々なら何の問題も無いとすんなり一軒家の購入を認めてくれた
「この村が有事の際は必ず助力いたします」
「小さな村ですが、エルフさんの力になれれば幸いです」
がっちりと握手して話はまとまったのだった
友好的な関係の構築に向けて、エルフの里へも村から何名かの村人を案内する
お互いの発展を祈りつつ今後は話を詰めていく段階へと移る
ものの1~2時間のうちに最寄りの村との交流を確立させ、おっさんたちは再びエルフの里の執務室でお茶を戴いていた
「今ので十分わかったよ、ルシエ、お前の言う通り結婚を認め里の古い者へ説明することを誓おう」
「私もお姉様の期待に応えられるよう頑張ります」
二人は納得してくれたようだ、よかった
すっかり夕暮れも近づいて、夕餉の支度の香りがしてくる
「お腹減ったぁ」
相変わらずの嫁である・・・
「おお、客人を腹ペコのまま放置はできんよな、上の部屋で飯の支度させてるから」
「では、私が案内します」
ルシリルの案内で三階の食堂へ向かう
「エルフ料理ぃ~♪」
「どんなのでしょうね?」
「楽しみだね」
エルフ料理に興味津々のおっさんたちであった・・・
おっさん同様、帰宅後に寝落ち・・上げ遅くなり申し訳ありません




