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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・妖精の誘いと聖女の憂い
27/86

使者とともに王女の元へ

パトンが真っ青な顔で駆け寄ってきた


おっさんは、少し諦めがちに問う


「どうされたのですかそんなに慌てて?」

「カラスが出たのです!」

「カラス、ですか?」

「そう、喋るカラスなのです」

「喋る・・そうですか、そのカラスはどこに?」

「聖女に面会を乞う、と言い放って宿屋の看板の上にいますよ」

「わかりました、向かいましょう」


聖女一行(おっさんたち)は宿の前までやって来た、遠目でも2羽のカラスが視界に入っていたが

見た目は普通のカラスで近くに行くまではパトンが蒼くなった理由はわからなかった


「足が三本だぁ~がんばれニッポン!」


「サムライブルーの胸に刻まれている子ですね、2羽ともカワイイです!」


「うん、八咫烏(ヤタガラス)もしくは三足烏サンゾクウだね・・何者かを導くにはぴったりの存在だけれども自分たちがそうなるとは思いもしなかったね」


嫁と蝶花はノリノリでカラスを見上げている、二羽のカラスは重力を無視したかの如く垂直にスッと浮いてふわりと地面に降り立った


艶のある漆黒の羽、瑠璃色の薄い膜を帯びた美しい姿に細めの嘴、大きさは全長80センチほど

我々を見上げて嘴を開く


「私の名はフギン」

「私の名はムニン」

「貴方たちが戻って来るのを待っていました」


なんだかラー〇アの神殿の巫女さんみたいな口調で語りかけられ一瞬吹き出しそうになるが堪えて

おっさんはこのまま見上げて話すのも大変だろうと


「初めまして、私はリア成り行きで聖女をしているものです」

「その護衛のセシルだ」

「そのサポーターの蝶花です」


だんだんと蝶花の挨拶が迷走しているが気にしない

さっさと挨拶を終えて、一緒に付いてきちゃったパトンさんに了承を得てから宿屋の食堂のテーブルの上に2羽のカラスに移動してもらい会話を続ける


「それで、お二人は・・お2羽?・・まぁどちらでもいいか、どういったご用件でしょうか?」

「エルフの里の女王、ルシエ様とお会いになられたと妖精達から聞きましたので確認に参りました」


頭から首の付け根までは瑠璃色を帯びてほぼ一緒なのだが、胸のあたりから少し淡く紺鼠かかった色をしている方のフギンが返答してくる、もう一羽のムニンは胸のあたりから本紫を帯びていた


「私たちはルシエさんからエルフの女王だという話は伺っておりませんでした」

「妖精との接触の為に【物見の霊薬】を頂いて、この手紙を持っていくようにと渡されました」


説明に加わって来た蝶花は鞄からルシエに託された手紙を取り出す


「その精霊魔力はお嬢の・・いえ女王のモノで間違いありません」

「女王陛下は長く行方が分からなくなっていたので、懐かしや懐かしや」


2羽のカラスがトットッとテーブルの上を跳ねるように蝶花の傍に来て手紙の匂いを嗅ぐ仕草をして感慨に浸っている、その後フギンとムニンがスッと嘴を上げて


「女王の元へ連れて行っては下さいませんか?」

「里の民はやはり女王が心の拠り所なので、お願い致します」


こうなることは予想がついていたが、ルシエの考えも分からないので


「私たちは口止めもされていませんでしたし、ルシエさんの元へご案内する事自体は問題ないのですが本人の気持ちがどうなのかは分かり兼ねます」

「無理強いしない、というのであれば案内しよう」

「そうですね、家出の理由も私たちは聞いてないですし」


烏2羽に懇願されおっさんと、嫁、蝶花はルシエを無理やりに連れ戻さないことを確認して魔法陣のある部屋に向かって移動する

嫁は会話していたテーブルの近くにいたパトンに


「パトンさん」

「何ですかな、セシル殿?」

「キノコまだお店に在庫があるだろうか?」

「【石キノコ】ですかな?有りますとも、見繕ってお持ち致しましょう」


嫁は数枚の金貨の入った袋をパトンに手渡すと、パトンは少し困ったような顔をしつつも渋々受け取った

暫くして麻袋に入った【石キノコ】を受け取って、セシルは部屋に入って来た


「お待たせした、少々準備があってな」

「では、参りましょうか」


2羽のカラスは転移魔法陣を見て、古の・・とか、現存していたのか・・とかブツブツ言っていたが

恐る恐る魔法陣の中へと入る


おっさんが魔力を込めると光があふれ、視界が戻った時にはコテジの寝室に移動していた


「これが転移魔法、初めて体験いたしました」

「さすがは聖女様ですな」


2羽はとても感心しているが、おっさん達にとってはもう慣れっこだった


ちなみに転移魔法は基礎魔法のジャンルに入り、セシルも使えるVRMMOのキャラなら全員最初のイベントが終了した時点で使えて当然の魔法だった

チョークも石灰と魔力水でできた簡単なものであり、こちらでも簡単に作成できたし、弱いモンスターから入手できる魔石で帰着点となる帰還石も作成できたので、足代わりである


コテジから外に出て目視できる結界を見て、2羽は固まっている


「これほどの密度の結界を常時維持なされているのですか・・」

「噂に違わぬその力、御見それしました」


聖女と言ってもどうせ噂だけだろう、と思っていた2羽はその聖女の力を目の当たりにして見方を改めていた


「大したものではありませんよ」

磊落(らいらく)なお心もまた聖女らしい」

「感動しました」


なんか聖女株が鰻登りなのだけれど?とおっさんは不思議に思いつつも森を進む

幻惑の結界のほうは2羽も平気だったのだけれど、認識阻害の方で引っ掛かり迷っていた


「こっちですよ、あまり私から離れないでください魔法の影響が出ます」

「ああ、失礼した」

「すみませぬ」


前回と全く同じ道のりを進んでいるので、森の中に獣道ならぬ聖女の道が形成されていた、3度も連続で同じ道を歩けばまぁ当然の結果ではある、長く突き出た枝などは先行するセシルがナイフで全て落とし、深い葦等もセシルがラッセルして進んだ結果の産物だ


「着きましたね、此処です」

「ここが・・」

「ここに・・」


セシルの肩にとまっている2羽がルシエの家を見上げていると今回も自動で扉が開く


「二人とも久しいね、中に入りなよ」


ルシエの声だった

3人と2羽は言われるままに家の中へと入っていく

前回来た時も良く片付いていた家の中だったが、今回は更に片付いており物の多さも感じられない程になっている、客を招くことを想定したのか若しくは・・とおっさんは思考を始める



「よく来たね」


ヒラヒラと手を振りながらルシエは出迎えてくれる

衣装は前回と違ってフード付きのマント、ボディラインが分かる民族衣装の様な服装であり、エルフらしいと言っては語弊があるかも知れないが、そうとしか表現できないものだった


「女王」

「お嬢」


2羽がルシエに飛びついて羽をバタつかせながら腕にまとわりついている

2羽を撫でながらテーブルの上に持っていき、ルシエは3人に席を勧める


「座ってよ、ボクに話があるんだろう?」


おっさん達から話す事は無いのではあるが、連れて来てしまった以上部外者面も出来ない

席について、2羽の行動を見守ることとした


話が始まる前に嫁がルシエに声をかける


「ルシエさん、この家の竈借りてもいいですか?」

「ん?い~よ、何か作るの?」

「私達はさっき迷いの森から戻ったばかりで何も食べてないんだぁ~」

「成程、フギンとムニンが迷惑をかけたね申し訳ない、好きに使っていいよ」

「ありがとう、行こう旦那様」


どの道部外者であるおっさん達が聞いていても何も口が挟める内容ではないだろうし嫁の提案は有難かった

おっさんは何を作ろうかと思案しようとしていると麻袋が手渡された


「これでグラタン食べたい~」


嫁のリクエストはキノコグラタンだった、出発前から準備していたのを考えると流石の食にかける情熱だなぁと脱帽するおっさんである


「じゃあ二人とも手伝って、洗い物は蝶花、切り物は嫁、調理は私がやるよ」

「はぁ~い」

「わかりました」


おっさんはまずホワイトソースを作成にかかる

鍋に無塩バターを落として加熱、振るった小麦粉を少しずつ加えて、牛乳も少しずつ加えて焦がさぬように加熱していく、味付けは塩、少量のホワイトペッパー


次は素材を炒める、キノコ、タマネギ、ニンジン、アイテムボックスにあった黒羽鷲を塩コショウを下味にして炒め合わせてからバターを塗った素焼きの器によそう


ホワイトソースをかけてチーズを振りかけ、アクセントにハジルの粉末を一振りして窯の中へ

炭火の窯は火力調整が難しいが火の入りが良く、まんべんなく味がいきわたる

加熱したものばかりなので焼き時間は強火で10~15分とお手軽簡単


添え物としてブロッコリーのような野菜を塩ゆでして冷ましておく

グラタンが焼けるのを待ちつつ会話の行方をちらりと覗くと



「本気で言っておられるのですか王女?」

「お考え直し下さい!」

「い~や!そうでなかったら帰らないよボクは・・」


何やら不穏な話が続いている様だった










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