事前準備と妖精の住処
夕食が終わった後でおっさんは嫁と蝶華を伴って森に一番近い畑にやってきていた
「この辺りでいいかな」
「魔方陣の上にケーキ・・何するのぉ?」
「どこかへ転送するとか?」
「いやいやこれはこうするんだよ」
おっさんは結界魔法を詠唱し、敵意ある者からケーキを守る様にする
「嫁、この魔方陣を【隠蔽】で消して」
「ほいきた」
薄い膜がフッと消え、畑の真ん中にケーキとお皿だけが残った
「魔方陣、二重でしたけど何か仕掛けがあるのでしょうね?」
「ご名答、この結界に敵意無しで飛びつくと一旦結界が消えて、ケーキに触れた瞬間に遅延発動で捕縛結界が発動するように魔方陣で調整してあるんだよ」
「なるほど、それで【隠蔽】で見えなくしてたんですね」
「そうそう」
罠の仕掛けが終わると宿に戻り、おっさんは嫁と蝶華に説明をする
「明日は妖精の元に行く事になると思う」
「やった~♪」
「昨日頂いた【物見の霊薬】を使うんですね?」
「そう、なんだけど蝶華さんは恐らく会話が出来ない」
「ですか」
少し、しょぼんとして肩を落とす蝶華
後ろから嫁がガバっとだきしめる、ビックリして振り返る蝶華
「ダイジョウブ~なんだよね?旦那様」
「うん、嫁、【感覚共有譲渡】を蝶華に試してみてくれない?言語知識の全て、で」
「なるほど~上手くいけば女神スキルがそのまま蝶華ちゃんの物だね」
「そそ」
【感覚共有譲渡】は渡す本人のスキルや知識、状態異常などのバッドステータス、バフなどの強化であっても何でも一日一個、指定したものをコピーして譲渡できるエクストラスキル
おっさんの絶対不干渉と並んで、嫁の感覚共有もまた特異点たる能力だった
しかし、おっさんも嫁もVRMMOのキャラ作成後に特典で付いたスキルだと認識しており、特異点と知っているのは今の所女神と天使のみだ
嫁の感覚共有のすごいところは永続性がある事である、バステやバフは期限が設けられているので時間経過と共に消滅するが、嫁が認識している知識やスキルは譲渡された者に残り、次の日以降も使用できるのだ
「間違ってもカット&〇ーストとかコピーして〇ったんとか言っちゃダメだよ」
「わかってるってぇ♪」
嫁とおっさんはわけのわからない会話をしつつ、蝶華へと譲渡の詠唱をする
『我と汝の合わさる所、通じて流すその想い、息衝く力を等しく分かち、今解き放つ』
嫁が蝶華を抱きしめたまま詠唱を終える
おっさんは紙とペンを取り出し、漢字で蝶華と書き込み蝶華に見えるようにひらッと差し出す
「これ、何て書いてあるかわかる?」
「蝶、華、私の名前です、分かります!」
「せいこ~う!よかったねぇ」
「ありがとうございます、これで私ももっとお二人の傍にいられますね」
「旦那様ぐっじょ~ブ!」
「グッジョブです!」
「??」
おっさんは少し引っかかった、言語が理解できたとしても使い回しは理解できないはずである
しかし、今、蝶華はグッジョブと言った・・ただのオウム返しか?おっさんは嫁に確認する
「嫁?蝶華ちゃんに譲渡したのは言語に関する全ての知識だよね?」
「え?全ての知識じゃないの?」
答えを聞いた瞬間おっさんは一瞬フリーズして頭に手を当て、何とも言えない表情をしていた
まさか嫁の知識の全てを蝶華にコピーして譲渡するとは考えていなかった・・・
「何か問題がありましたか?」
少し困ったような顔で蝶華が問いかけてくる、問題が無いわけではないが・・
「いや、いいんだ結果オーライだよ」
「よかった、何かしちゃったかと思いました」
おっさんは会話し易くなって良かったと思いつつも少し複雑な思いだった
嫁が二人になった気分だ・・・おっさんの苦労の日々が幕を開けそうである・・・
早朝、早めに朝食を宿で済まして3人は再び罠を張った畑に向かう
出発前に瞼に【物見の霊薬】を塗り準備は万端である
畑に近づくと大きな声で叫んでいる声がする
「何だコレー、出せ~、コノー」
近寄っていくと、ケーキの有った場所に羽妖精が一匹飛んでいた
髪の毛はショートカットで少し逆立った様な感じで木の葉を纏った服を着て、羽は虹色で透けて向こうが見えている
おっさんはこちらが認識していることをまず伝えなくてはと思い・・
「こんにちわ~、聞こえるぅ~?私はセシル」
「うわッ、ナンダお前、話が通ジるし、み、見えテルのか?」
あからさまに動揺している羽妖精に嫁が話しかけている、見かねておっさんは話に割って入る
「君はあの森の妖精なんだね?」
「そうダ」
「ケーキは美味しかった?」
「ナンダあれ、すっごく美味しくて、スグ無くなった、まダあるのか?」
「あるよ、でもただじゃあげれないかな」
「何ダ、どうすれバいい?食べタいぞ!」
「君たちの仲間のいるところに連れて行って欲しいんだ、危害を加えたり悪いことはしないと誓うよ」
「・・・ダメだ」
「じゃあこのクッキーはセシルにあげちゃうね」
おっさんはケーキと共に作っていた抹茶色のクッキーをセシルに渡す
セシルは一瞬にしてサクサク食べ始める
「旦那様これも美味しい~♪」
じっとその様子を羽妖精は見つめている、涎が出ている、前のめりである・・・耐えきれないようだ
「ワカッタ、連れてイく、だからソレ食べさせて!」
おっさんは結界を解除して袋の中から取り出したクッキーを羽妖精に渡す
羽妖精の大きさは拳三つ分程度なのでクッキーが大きな煎餅の様に見えて愉快だった
パタパタと音もなく羽ばたき、羽ばたきの跡にうっすら虹色のラメが舞い散る、その後ろをおっさんたちは森の奥へ奥へと進んでいく
時折振り返りこちらを見て確認しながら羽妖精は進んでくれている、ある程度の信頼は得られたようで良かったとおっさんは胸を撫でおろす
クッキーを2枚ほど与えたところ従順になり、話し方もまともになった羽妖精は
「もうすぐ入り口だ、人間が来るのは随分久しぶりだって言ってる」
「誰が?」
「妖精は全てで一つ、個々にあって、全が一つの存在なんだって」
「じゃあ皆ケーキ美味しいの知ってるんだぁ、取り合いかも?」
「約束したのは私だ、だから私が食う!」
そこは譲れないらしい、それでも全が一つの者に迎い入れられるのであれば、敵意は無いことが伝わっているのだろう、呆気ない程簡単に妖精の住処に到着した
大きな美しい湖のほとりに大樹があり大きな洞が空いているその中へ迎い入れられる
警戒心すらない若い個体とルシエが呼んでいた者達は外で楽し気に飛んだり座ったり水浴びしたりしていたが、洞の中にいる者たちはどことなく厳格な雰囲気をしている
「長老~言われた通り、ご案内したよ~」
羽妖精が声をかけると、大きな切り株がのそのそと近づいてきて
「よくいらっしゃいました、お客を迎えるなど何百年ぶりでしょうな、私は長老と呼ばれているこの地の妖精たちのまとめ役、とでも言うべき存在です」
「私はリア、旅の聖職者です」
「私はセシルその護衛だ」
「私は蝶華、その旅の仲間です」
「なるほど、それでリアさんは何故あの子、フェイを捕らえ此処に来られたのかな?」
「この妖精の住処から最も近い人間の集落の長に頼まれて、若い妖精たちの悪戯を止めて欲しいとお願いするためです」
スッとルシエに貰った手紙を差し出すと切り株から伸びた枝がその手紙に触れる、中身を読むというよりも何かを感じて読み取る感じの仕草だった
「これは・・女王は健在なのですな?」
「女王?これを下さったのは魔女の森のエルフ、ルシエさんですが」
「ルシエ陛下は精霊王より加護を賜ったハイエルフの王女、森と共に在る我々を統べるお方です、ここ200年近くはその存在を感じることもできなかったのですが、この手紙の魔力は間違いない」
「なるほど、この手紙は精霊魔法だったのですね」
「左様、ルシエ王女直々の指示であれば古き諍いなど無かった事としましょうぞ」
「話が早くて助かります」
それから蝶華と嫁がケーキを切り分けて、周囲にいる妖精たちに配って回っていく
「時々共に在るものとして、友和の印としてこのケーキを時々町からお供えします」
「おお、若き妖精たちは甘いものを好みますので喜ぶでしょう」
「快く村への悪戯を収めて頂いた事と、森の恵みを共有させて頂くことへのお礼ですよ」
そこまで話すと長老はバツが悪そうに少し角度を変えそっぽ向いた感じの姿勢になり
「150年前の飢饉で多くの人間がこの地を去った事を我々は知っています」
長老は語りだした、人は自由にどこへでも行ける、妖精はそうではない、行き場のないもどかしさが怒りとなり、裏切られたと思い込ませ、そのしこりが今回の事件の誘因になったのだという
「人間は恐らく我々ではなく自然に供えておるつもりだったのでしょう、それを知りながらも自分達にお供えして利を得ようとしていると言った者も多くおり、当時はその者たちの考えを止められなかった」
永く生きるが故に暴慢になってしまっていたと長老は深く反省し、この洞の周りから出るのを止めたらしい
しかし若く幼い妖精たちは自由で活発、森が150年で回復するのに合わせて彼らもまた勢いを取り戻していった
最近になって町にまで行くような者が出ていると報告が来ていたがそれも聞き流していたと語る
「何かお詫びできないだろうか?」
「そうですね、一つ提案があります」
おっさんは長老に言って住処にいる全ての妖精を集め丸く円になってもらうように頼む
円になった後、全員で手を繋いでもらう
「じゃあフェイちゃんいっくよ~♪」
嫁が今度こそ失敗しないと、フェイを起点に全員言語理解のみの感覚共有を行う、見えなくともその存在さえ知れれば人は大きく恐れることは無いことを伝えた
住処の全ての妖精に人間に協力的であること、友好的である事、対等の存在として考える事等を軸として、おっさんはお詫びよりも、今後を共に生きるその努力をするべきだと諭した
「有難うございます、今後は今教わった考えを新しき者達に伝える事を余生の嗜みとしましょうぞ」
「はい、期待しています」
フェイと戯れる嫁と蝶華、それを眺めるおっさんと長老、生きる長さは違えども共に在り、そこで流れる時間は同じだと認識しあって今回の妖精との出会いは終わりを迎えた
「そうそう、言い忘れておりました」
「何でしょうか?」
「その手紙は恐らくエルフの森への鍵となっておる、もし向かわれるならばこの森を抜け西へ向かわれると良いでしょう」
「なるほど、助言に感謝します」
「フェイちゃんまたねぇ~」
「おう、また遊ぼうな~」
「すっごい流暢に話せるようになってます」
「まぁそういうスキルなので・・」
おっさん一行は雑談しつつフェイの案内で町まで戻ってきた
戻って早々パトンが真っ青な顔で走ってくる
「聖女様~~~大変です~~!」
今やっと帰って来たばかりだよ、空気読もうよとおっさんは肩を落としていた・・・・・・




