町の過去とマナケーキ
朝目が覚めると左に嫁、右に蝶華ちゃんがいて、眠っていたはずなのに体は重かった
『女帝、後で詳細教えて、プレイ内容とかはいいから、どのくらいの時間してたか、とか』
『心得ておるわ、今日に差支えはせぬ程度よ』
思考内でカカカっと笑う女帝を恨みがましく思いつつも交代してくれた彼女に文句も言えない
今回もおっさんは入浴後にノックダウンして今に至る
嫁の寝顔を見る限りしっかり毒抜きは出来たのだろう
おっさんはゆっくりと下にすり抜けてベッドから這い出し、キッチンへ向かう
昨日の夕飯で使った分の残りの【石キノコ】を細かく刻んで、玉ねぎ、人参、鶏ひき肉とバターで炒め合わせる、塩コショウで味を調えて、ケチャップ投入、ざっくり合わせながらご飯を投入してチキンライス完成
ちなみに【石キノコ】は確かドイツの呼び名で、ポルチーニとかセップとか呼ばれているキノコである
魔女の森付近のキノコがまんべんなく採取されていることからおっさんは魔女のキノコ好きを察していたのだった
「完成したチキンライスを半熟の卵でふわっと包み込むように・・・っと上手くできたかな」
石キノコのオムライスが完成した、石キノコは固く身のしまりの良い物が上質であるとされ、油なじみが良く歯ごたえがあり、香りもいい、日本ではまず生の物は手に入らないのでおっさんは嬉々として料理をする
3人前作り終える前に蝶華が起き出してきた
「おはようございます、良い香り、昨日のキノコ使ってるんですね?」
「そう、炒めても香りが立って美味しいんだよ」
「わぁ、今度作り方教えてくださいね」
「もちろん」
そんな話をしつつ嫁が起きるのを待って3人で朝食を取る
その後嫁と蝶華ちゃんには少し薬草採集をお願いしておっさんはドクと入れ替わり調合をしていた
ゴリゴリと薬研で薬草を磨り潰す、味を確認して少し別の薬草を足してまた磨り潰す
紙に容量を書き込んで、計測して、また書き込む、お昼前になるまで狙った味を模索する
「何を作っているの?それ、食べ物になるの?」
「薬研を使って調理って中々シュールですよね・・」
嫁と蝶華ちゃんが好きな事を言っているがドクは反応せず黙々と作業をする
支度が終わったという事でドクと交代しておっさんが二人に言う
「じゃあ転移して戻ろう」
二人に少し待ちくたびれている感があったので、すぐに移動する
宿屋に戻ったおっさんは主人に声をかける
「厨房を昼食の作業が終わってからお借りしたいのですが平気でしょうか?」
「夕飯の仕込み前の時間なら平気ですよ」
「わかりました」
厨房の予約を入れて、宿屋の外に出た後で
「今日は別行動で動くよ、私は厨房」
「私は~?」
「町長にこの村の歴史を聞いてきて、出来るだけ古いところから」
「はーい」
「わ、私は何をしましょう?」
「蝶華ちゃんは買い出し、その後は私の助手で」
各自に指示を出して、おっさんは宿屋に戻り、厨房が借りれる時間まで支度を進めていた
蝶華はパトンさんの商会で蜂蜜酒と生クリームをひと瓶ずつ購入しておっさんと合流する
一人村長の元へ向かうセシルは町長の家の戸をたたく
「御免下さい」
木の扉を軽くコンコンと叩きつつセシルは声をかける
「は~い」
扉が開くと見た目40代くらいの女性が現われた、町長の目鼻と良く似た雰囲気なので娘さんだろうと推測できる、愛想よく礼儀正しい感じの女性だった
「町長はご在宅だろうか?」
「ああ、お父さんですか?今日は近くの村に所用で出てしまっておりまして、どのようなご用件です?」
「例の悪戯事件の解決に向けて、この町の歴史を少し聞こうと思いまして」
「そうなのですね、私で良ければご説明させて頂きますが?」
「お願いします」
「立ち話でも何ですから、中へどうぞお入りください」
誘われるがまま村長宅にお邪魔していくセシル、応接間のような場所で椅子をすすめられ腰掛ける
すぐに町長の娘はお茶の準備をしてセシルの前に座り、話し出す
「この町の始まりからで宜しいですか?」
「はい、構いません」
娘さん曰くこの村は約200年前に起源があり、一度150年前に会った飢饉で町人の8割が散り散りになってしまって、残った人々と再び戻った人たちで今の町を支えているらしい
「飢饉の前後で町で行われることに変化はありましたか?」
「150年前の村は開拓直後で、畑作中心だったそうで、毎年収穫祭を行っていたそうです」
「収穫祭ですか?」
「ええ、何でも収穫出来た作物を森へお供えして、来年の豊作を祈願していたとか」
「成程、しかし飢饉に見舞われた・・と」
「そうです、それから後は町の祭りとして行っているそうですが、奉納は止めてしまいました」
「奉納していたのは作物だけでしょうか?」
「いいえ、料理や当時は貴重だった砂糖を用いたお菓子もあったと聞きます」
「参考になりました、丁寧に有難うございます」
立ち上がろうとするセシルだったが、娘さんに引き留められとりとめのない話に付き合わされることとなる
セシルが解放されるのは夕暮れ近くであった
一方蝶華が戻り、厨房が借りれる時間になった事を宿屋の主人が伝えに来るとリアは荷物を抱えて厨房へ向かう
「何を作るんだい?時間があるから休憩がてら見てても構わないかい?」
厨房にいた女将さんに声を掛けられる
「勿論構いません、出来れば作り方を覚えておいて欲しいのです」
リアは道具をキッチンに降ろすとエプロンを着け、腕まくりをする
蝶華にもエプロンをおっさんは着るようにと手渡す
「まずは小麦粉を計って、振るいます」
「ザルで振るうのですね・・ダマにならないように・・っと」
「いいでしょう、次は卵を割って、黄身と白見に分けます」
「ああ、これは難しいですね・・殻が残る・・出来ました」
「最初にしてみれば上出来です、砂糖も計って振るいます」
「はい、この作業は慣れました」
「常温で無塩バターを溶かしておいて、次はいよいよ混ぜ合わせていきます」
「はい」
おっさんと蝶華と女将さんの3人で同じ作業をしている、女将さんは手慣れたもので伝えたことが有る程度はすぐ形になっていく
蝶華も遅れつつも何とか上手くこなしてくれている
「卵白に砂糖を足して、冷水でボールを冷やしつつかき混ぜます」
「冷水?どこにあるんだい?」
女将さんはおっさんに問いかける、おっさんは荷物の中から氷の魔石(小)を取り出して水の中へ落とす
「これですぐに冷たくなります、ここからは根気との勝負ですよ」
ひたすらに混ぜる、角が立つまで、ひっくり返してもびくともしない程度まで混ぜる
「これ、大変ですね、結構抵抗が出て、手首疲れて来た」
「休み休みでもいいので、しっかりと崩れないメレンゲを作りましょう」
3人のメレンゲが完成したところで卵黄をメレンゲに落としさらに混ぜる
そして振るった小麦粉とこの配合した粉を一緒に混ぜ合わせます
「今朝薬研でやってた粉ですね」
「そうです」
混ざったら、バターと牛乳を混ぜてから投入してざっくり合わせていく
あわさったら、方にバターを塗って、型に流し込む
あとは160度くらいのオーブンで焼きあげていく
「温度管理が大変そうです」
「炭火のオーブンは特に火力が難しいので、女将さんの感覚をよく見ておくと良いよ」
「リアさんはお料理上手なんだねぇ、感心しちゃうよ手際の良さに」
女将さんはただただ感心しているようだ、焼きあがるまでの40分程は調理トークしていた
焼きあがったらうつ伏せに型を置き、濡れ布巾で冷ます
クッキングペーパーなどは使っていないのでしっかり冷えてからゆっくりと型を抜いていく
「おお~きれいに焼けてます、こんなに膨らんで」
「上出来だねぇ」
これでマナケーキのスポンジ部分が完成である
粉末にはマナポーションの素材と、魔力を多く含む苦みのある薬草をブレンドし、食べやすさを重視した
小鍋で柑橘系のリキュールと蜂蜜酒、砂糖、ゼラチンをほんの少し加えて加熱し、刷毛でカットしたスポンジケーキの上側にだけ塗っていく
「まぁ、試作だしこのくらいかな?」
「食べてもいいんですか?」
「もちろん、女将さんも一切れどうぞ」
「ありがとうよ、こんなに膨らむケーキは初めて見るよ」
口にケーキを含んだ二人は顔を見合わせてから目を見張り、黙々と食べていく
女性ってスイーツの前だと本当に従順だなぁ、とおっさんも自作のケーキを食べる
「思ったよりも甘すぎなくて、この上にかかってるトロッとしたのが良い香りでアクセントになって凄く美味しいですね」
「でも中身はマナポーションの材料だったりするんだけれどね」
「そっか、それで薬研なのですね・・・」
信じられない物を見るかのような目で蝶華はケーキを見つめている
3個ホールケーキが完成し、一個目は試食で食べきってしまい残る二つは明日に味が落ち着いてから
餌、になってもらう予定である
尚、嫁は宿に戻った後ホールケーキの半分を夕食前に食べて、夕食もお替りしていた
「それはもぉ別腹じゃなくて宇宙だよ?」
嫁の食いっぷりはおっさんの心の中の突っ込みが言葉に出てしまう程であった・・・・




