町長の願いと魔女の館
パトン商会の直営の宿屋に一泊して聖女一行は宿屋の食堂で朝食を食べていた
「このキノコ入りスープが美味しいぃ」
「だね、良い出汁が出てる」
「この町の確か特産品って聞いたことが有ります」
「売ってたら買っておいて何かの料理に使おうか?」
「賛成!私天ぷら食べたい!」
挙手するかの様に手を上に挙げつつ嫁が訴えてくる
「てんぷ~ら?何でしょうかそれは?」
「小麦粉と水を使ったシンプルだけどとても奥の深い料理だよ」
「そうなんですねぇ」
焦る旅路でもないのでゆっくりと支度をしようという話をしている所にパトンと老人が一名やってきた
「聖女様おはようございます、本日はこちらの町の町長が挨拶とお願いがあって直接お会いしたいという事で連れて参った次第です」
「はい、聞くだけなら何なりと」
「お初にお目にかかりますこの町の町長のマイレと申します、聖女様が来られていると伺いましてこの町で起きている怪奇現象をどうにかして戴けないかと思いお願いに参りました」
「怪奇現象、ですか?」
「そうです、町の畑が朝になると荒らされていたり、煙突に葉っぱで蓋がしてあったり、井戸の桶がはずされていたりと子供の悪戯のような事が連日続いております」
「本当に子供がやっている可能性は無いんですか?」
「一度全ての町の子供を集めてこの宿屋で一泊し、確認したのです、それでもやはり翌朝には何らかの悪戯がされておりました」
「そうですか、ちなみに町のどちら側の畑と家が狙われやすいですか?」
「どちら側・・主には森側・・が多いですかな、どうしてです?」
「いえ、まだ確信がないので詳しくは分かりません」
リアは立ち上がり、町長の方を向き
「原因が分かった場合、村長はどうしますか?」
「魔物やそれに類するものならば退治をお願いしたいと思います」
「退治ですか・・穏やかではないですね」
リアは顎に手を当てていつもながらの思考のポーズを取りつつ
「意思疎通ができる場合はそれを止めるだけでもよろしいですか?」
「はい、構いません」
「ではお引き受け致しましょう」
「おお、有難うございます」
町長との会話が終わってすぐにリアはパトンに声をかける
「パトンさん、恐らくあと2~3日は宿泊することになりそうなのですが部屋は大丈夫でしょうか?」
リアの言葉に満面の笑みでパトンは答える
「勿論です、何日でもお泊り下さい、町の為に動いて下さるのです無料で構いません」
「無料は気が引けますので、宿泊費は取って下さい」
「そういうわけには参りません!」
相変わらず引かぬパトンにおっさんは折れた、しかし無料は本当に気が引けるので
「パトンさんのお店でキノコは取り扱ってますか?」
「はいもちろんです、この村のキノコは特産品ですから」
「セシルが気に入っているので、後で宿泊代の代わりに買いに行きますね」
「お待ちしております」
一旦部屋に戻ったおっさんは、魔方陣作成用のチョークで床にカリカリと転移魔方陣を作成して詠唱していく、嫁はそんなおっさんに突っ込みを入れてくる
「ほよ?調査するんじゃないの?」
「うん、一応専門家の意見を仰ごうかなって思ってさ」
「専門家、ですか?」
「ゴーストバスターの知り合いでもいるの?」
「魔女さんだよ」
「あ~成程ね」
「とりあえず現場の確認に行って、キノコ買って、コテジに戻ってから魔女さんに会いに行く」
「キノコは大事な事なんですか?」
「確信は無いけど、恐らくは大事なファクターになると思うよ」
「勿論、食べることは大事なファクターだよぉ!」
不思議そうな顔をしている蝶華をよそにキノコを食べることで頭が一杯の嫁だった
支度を終えて3人で宿を出る
標高が下がったことで温度も少し上がったようなので、嫁は鎧を皮鎧に替えて動きやすさを重視している
蝶華はハーフパンツにダメージが入ったようなデニム素材の物にショートブーツ、上は町娘風の着飾りであるがインナーは防刃素材らしい
おっさんはいつもながらのスカートタイプの法衣、蹴りを繰り出しても、逆立ちをしても決して見えないという不思議使用の便利なものである
町長が言っていた朝に悪戯されたという井戸に3人は到着し辺りを調査していく
足跡、匂い、縄の状態など思い思いに見回っている
「獣の線は無いよね、桶外せないもん」
「だね、しかし綺麗に結び目が解かれている」
「そうですね、まるで小さな手で何度も縄の糸を一つずつ解した様な感じです」
結局それらしい手掛かりは無いままに、パトンさんのお店に行きキノコを買う事となった
「生の物とあれば乾燥したものを下さい」
「乾燥したものの方が高いですね・・」
「干すと旨味が出るから、手間賃だねきっと」
「そうなんですね、私も少しずつお料理覚えようかな・・」
「いつでも試食には呼んで良いよぉ~♪」
そんな暢気な雰囲気で宿屋に戻った一行は、夕食は要りませんと主人に断りを入れてから部屋に戻る
転移魔方陣に入りコテジへ移動する、コテジ設置場所の国王の許可はきちんと得てあるのでそのままだ
「今日はコテジに一泊の予定なので夕飯は私が作るよ」
「天ぷらだね~♪」
「期待してます」
「やる事がちゃんと終わったらね」
まだお昼にもなっていないのに夕飯の話をしてしまったため嫁のテンションは鰻登りで森の中へズンズン進んでいく、さして危険のある道のりでは無い
国と冒険者ギルドでは危険なモンスター分類に入るモノでもおっさんと嫁には可愛い小動物の感覚である
採集場所からさらに奥へ進む事30分程で、認識疎外と幻惑の結界が張ってある場所までたどり着く
「あれ?皆さん何処ですかー」
蝶華ちゃんが幻惑にかかっていた・・おっさんと嫁は回復職と盾職、状態異常にはなってはいけない職であるので準備は万端だった
魔法を封じるもの、幻惑、魅了、気絶、麻痺、石化等はきちんとシャットアウト、毒や継続ダメージのあるような攻撃の場合は冷静に対処すれば回復職と盾職の場合はなんてことは無い
蝶華ちゃんは前衛に近い援護魔法職?といったところなので無理もないのかも知れない
【状態異常解除】の魔法を無詠唱で行う
「あ、お二人ともそこにいたんですね、探しちゃいました」
「うん、いたよ~」
何とも天然な蝶華に少し癒されるおっさんと嫁である、顔を一瞬見合わせて微笑み前へ進む
暫く行くと少し開けた場所にコテジよりも一回り大きな家が建っていた
苔が生え、草木が生い茂る屋根、棟の中から生えている木もある
しかし、庭部分は綺麗に手入れがされており、人?が住んでいることを感じさせた
「ここが入り口だね」
玄関らしき部分の前に立ちおっさんはノックしようと手を前に出す
「空いてるよ」
ドアが内側に開き迎い入れるように開き中から声がした
想像していたよりも高く澄んで凛とした声がしたことに驚く一行
「お邪魔します」
「入ります~」
「失礼します」
三人が揃わない文句で挨拶を投げかけると奥からフードを被った女性が現われた
「結界を抜けて入ってくる人なんか100年ぶりくらいかな、流石は聖女様一行って所?」
「勝手な侵入をお許しください、私はリア、成り行きで聖女をしているものです」
「私はセシル、その護衛です」
「えっと私は蝶華です、旦那様の・・なんだろう・・・・僕です!」
僕って・・とおっさんはあんぐりと口を開けて固まった・・
「あはは、ボクの家まで来てそんな喜劇を見せてくれるんだ?」
クックックと肩を揺らす女性はボクっ娘らしい、年齢は不詳だが、聞いてはなるまい
「ボクは君たちの言う所の魔女、名前はルシエ、よろしくね」
「本日は、ルシエさんにお尋ねしたい事があって参りました」
屋内は物がとにかく多いのだけれど丁寧に整頓されていて掃除も行き届いている
本棚、薬棚、魔道具の棚、素材、かなりの量が置いてある
4人掛けのテーブルにルシエは腰掛けて、ルシエの隣におっさん、向かいに嫁、その隣に蝶華が座った
「何でも聞いて、長生きだからねボクは知ってることなら答えれる、最近少し忘れっぽいケド」
「じゃあ、迷いの森に妖精はいますか~?」
「うん、いるよ、姿は見せてはくれないだろうけれど・・・彼らは臆病だ臆病になってしまった」
「なってしまった?ですか」
「人の傍にあり人を愛する、そんな種族だったんだけど、人に裏切られ、人に利用され姿は見えなくなった、今外に出てきている子達は若くて好奇心にあふれている子だけだよ」
「なるほど、大体掴めてきました、彼らと接触する手段はありますか?」
「見えても話が通じるのかい?」
「その点は問題なしです~」
今日は良く会話に参戦してくる嫁である、妖精に会いたいのだろうか?それとも早く終わってキノコ食べたいだけなんだろうか・・後者だけでちゃんと喋ってくれるなら毎回何かで釣ろうか・・などと考えてしまう
「そうなんだね、見えるだけでいいんだね?」
そういいながらルシエは指先で円を描き、薬棚の奥から一本の小さな薬瓶を取った
取ったというか魔法で釣り上げたと言って良い程慣れた仕草で
「この【物見の霊薬】を使えば、見る事だけは可能になる」
ルシエがすっと手をおっさんの方に出すと霊薬はふわふわとおっさんの手の前に飛んでいく
「有難うございます、お礼はコチラでいかがでしょうか?」
おっさんは蝶華に持たせていたショルダーバックから大ぶりなキノコを10本取り出す
「ま、まさか【石キノコ】かい?懐かしい物を出してくるね、ボクの大好物さ」
慌ててキノコに飛びつくルシエのフードが取れる
キノコに夢中でルシエは香りを嗅いだり、硬さを確かめたりしていた
嫁が思った事をスパッと口に出す
「エルフさんだぁ♪」
「キミ達はエルフが怖くは無いの?」
「なんで?全然だよぉ」
「私とセシルは女神の力で異世界から来た者なのでエルフやドワーフ、獣人、リザードマン、等々亜人と呼ばれる種族に偏見や差別は一切ないのですよ」
「それでこの館に警戒心無しで入ってきちゃうんだね」
キノコを大事そうに食在庫に運んでいくルシエ
戻ってきた彼女は一通の手紙を携えていた
「キノコのお礼に紹介状を書いておいたよ、ボクの紹介なら多分奥に引っ込んでる子にも会えるかも」
「有難うございます」
「いいってことサ、君たちなんだろう?この森までの街道を作る計画を立てたのは」
「そうです」
「すごく助かっている、大きなものは飛んでは運べないし、草原は馬車が使えない」
「森が荒れたりはしていませんか?」
「大丈夫、あの可愛いシスター達は無理せずにきちんと分けて採取しているよ」
「よかった、人が入るようになって住みにくいようになったのでは無いかと心配でしたので」
「ボクから忠告するとすれば・・・コレかな・・」
ルシエは紙束のようなお札を腰のポシェットから取り出し蝶華に渡す
「これは?」
「特製の消音のお札だよ、夜になったらあの小屋の寝室に貼ると良い」
「??」
「ボク達エルフはとても耳がいいんだ、夜になって艶っぽい声が聞こえると・・ねぇ」
「は、はい、確かに、こ、困りますよね」
真っ赤になって蝶華は首を縦に機械人形の様にコクコク動かしている
おっさんと嫁も少し動揺しつつもお礼と騒がせた謝罪を伝えておく
「気にしないでいいよ、この森がボクの物では無いし、何時でも遊びに来てよ」
雑談を交えて小一時間、エルフの話や魔法の話、キノコの話をして過ごし、帰る時間となった
ルシエは微笑み3人を見送ってくれる
大きく手を振りながら嫁がボソッと最後に怖い事を言う
「お札あるし久々にしちゃうぅ~?」
「て、天ぷら先に作らないとだから・・」
「そうですね、お風呂にも入らないと」
おっさんと、蝶華は真っ赤になってコテジへと戻るのだった
分割すればよかったかも知れません・・




