商人パトン
馬車を停め、おっさんと嫁は真っ青な顔の男に向かって歩いていく
蝶華は馬車の停車後の仕事をこなしている
「助けてくれ!良くは分からないが襲われているんだ!!」
慌てた様子の男の言葉を受けて周囲を見回す二人
気配が無いのを確認しておっさんは安心するように言い含める
「落ち着いて下さい、私はリア旅の聖職者です」
「私はセシル、その護衛騎士だ」
「おお、ご丁寧に、私はこの先の町で商会を営んでおりますパトンと言う者です」
「それで、何があったのですか?」
「わからないのです、馬が怯えたように走り出し、ホロに木々が追いかぶさるように倒れてきて、先ほどは何もなかった地面が急に泥濘に変わってしまって、今に至ります」
「追い出そうとしているか、面白がられている・・と言った所でしょうか」
おっさんは少し顎に手をあててむ~んと唸る
手にパッと【月下の僧杖】を取り出し
「とりあえず町まで送ります、セシルは馬車の車輪をお願いします」
「わかった」
返事と共におっさんは僧杖に魔力を込めて詠唱を開始する
『我の捧げし祈りよ届け、浩々と広がる世界に、潜む邪なるものを打ち払いて、我らが安寧を守り給え【破邪顕正】』
周囲に光のドームが展開され馬車2台を包み込む形で10メートル程の結界が完成した
「何が来ても干渉することの出来無い結界なので、ご安心を」
リアはパトンがへたり込んでしまっているのを起こして【浄化】で綺麗にして馬の支度をする様に促す
パトンは脂汗だくだくだった服までがすっきり清浄に清められていることに驚きつつも指示に従って動き出す
「蝶華さん~申し訳ないけれど反転して、この商人さんを町まで護衛します」
「はい、了解しました」
蝶華が馬の手綱を木に結び付けていたのを解き、立って歩きつつ大回りに反転させていく動きに合わせるように結界の位置が移動する
「ふむ、起点固定は任意でやはりできるんだな」
リアはボソボソ呟いてからセシルの様子を見る
「車輪は上がりましたか?」
「はい、車輪に痛みはありますが少しの距離であれば走れるでしょう」
「そうですか、良かった」
リアは状況を確認しながらパトンの馬車へ近づき
「パトンさん、宜しければこちらを飲んでおいてください」
リアはにこやかに液体の入ったポーション瓶を手渡す
「これはどうも、しかしこれは何ですかな?ポーションでは無いようですが・・」
「手製の気付け薬とでも言いましょうか・・元気が出ます」
リアが手渡したのは魔女の森で採集した薬草を使ったオリジナルレシピのポーションであった
VRMMO時代はレシピ以外の作成は制限があったが、ここには無い
故にドクが暇を見てはあれこれ調合したがって、効能的に安定しているものがそれだった
パトンは一瞬で商人の顔に戻り、蓋を手にしてキュポっと開けて、一気に飲み干す
「爽やかな香り、柑橘系の様な飲みやすさ、そしてこの効果は!」
状態異常の回復と体力回復を同時に行えるよう調整した薬だった
「非売品ですので、口外無用でお願いしますね」
おっさんは見透かすようにパトンに釘を刺す
「あは、バレましたかリア殿は聡い方なのですなぁ」
「顔が思いっきり商人でしたから」
口元に手を当ててフフフと笑ってリアはパトンから空き瓶を回収する
少し口惜しそうに瓶を見つめているパトンを無視しておっさんは蝶華の方に向き直り
「森を抜けます、ゆっくりと歩きながら護衛していきます前が私、後ろがセシルで」
「承知しました」
「じゃあパトンさんは御者としてこのまま馬車で行きましょう」
「はい」
そこから町までは何事もなくゆっくりと歩いた、2時間程であろうか
馬車の車輪が心配であったため速度は上げなかったが日暮れ前には到着し、パトンの商会の厩をお借りしてこちらの馬車を停める
パトンの馬車からは商会の下働きの者が満載の荷物を順々に降ろしていた
礼は必要ないと断りを入れておいたのだがどうしてもというパトンに押し負けて一行は商会の商談室の様な場所に移動した
「本当に有難うございました、あのまま夜になってしまったらどうなっていたことやら」
「気にしないでください、人々に奉仕して回る事が私たちの喜びでもあるので」
「そう、なのですな・・」
パトンは何か思い出したようにリアを見つめている
「リア殿、宜しければそのネックレスを服の外に出してみては貰えませぬか?」
リアが付けているネックレスの先には王家の紋章が入ったペンダントがあった
やはり、といった顔をしてすぐさま跪き詫びてくる
「王国認定の聖女様御一行であったとは、知らぬとは言えご迷惑をおかけして申し訳ありません」
ワナワナと震えて跪いているパトンの肩にそっと手を当ててリアは
「先ほども言いました通り、奉仕こそ喜びなのです、お気になさらずに」
「寛大なお言葉・・本当に有難うございます」
お礼や謝罪を断り、お茶だけ頂いて一行が商会から出ようとしていた時パトンが飛んできて
「本日の宿は決まっておられないでしょう?我が商会の宿を手配いたしましたのでお使いください」
「それは、そうですが」
「では決まりですな、近くなので馬は責任もってお預かりさせていただきます」
商人らしい逃げ場を作らせない押しに負けて結局三人は宿へと向かう
小さな町にしてはとても立派なもので首都で泊まっていた宿屋よりもしっかりした造りだった
「丁度部屋が空いておりましてな、夕飯はお部屋にお持ちしますかな?」
何故かパトンが給仕まがいの事をしている少し可笑しくなってそのまま対応してもらっていると宿屋の主人がパトンの元へとやってくる
「大事なお客様なのは分かってますが、対応はウチの店員がしますから会長は大人しくしてて下さい」
「おお、そうだな」
主人の言葉をうけて我に返ったようにパトンは引き下がり
「ゆっくりと休まれて下され」
「ご厚意に感謝します」
パトンは商会へと戻っていく、やっと3人になったところで嫁が口を開く
「結界に干渉があったねぇ~」
「うん、気づいてた?」
「モチロン♪」
「私は手綱握ってましたので後ろは見えないし」
「蝶華ちゃんはいいんだよ適材適所だよ」
蝶華ちゃんの頭に手をあててナデナデすると目を閉じで少し顔を赤くしている
おっさんの方が小さいので絵的には不思議な感じなんだろうなと思いつつ
「さて、私たちはあの森を抜けるルートを選択しているのだけれど」
「多分妨害?があるよね~」
「森迂回ルートだと、2週間は付近に町や村は有りません」
ふ~むとおっさんは腕組みをして首を少し傾ける、そこに嫁が飛びついてきて頭をギュッと抱きしめて
「妖精に会いに行きたい~」
「まだ、妖精って決まった訳じゃ・・」
「しかし、人の仕業であれは気配察知に引っかかるはずです」
嫁を両手で引き離して少し離れながらおっさんは
「ルートはこのままで、妨害が激しければ結界を張ろうか」
「結界張ると多分何も起きずに通過しちゃう~」
「セシルさんそれフラグバッキバキです」
なんだかすごいこと言っちゃってる蝶華を一瞬2度見してから
嫁が言い出すと聞かない事も知っているおっさんは本日3度目の折れを見せた
今日はなんだか良い様に動かされている気分だなぁ・・・
一行は夕食を取り明日に備えるのだった




