王との謁見2
「王様もその台詞言っちゃうんですね・・・」
おっさんは項垂れつつも、薄々はこうなることを想定していたため何とか踏ん張って王の方を見つめる
「リア殿はただ与える側になる気はないと仰るのですな?」
「そうです、そのための今回の謁見だったのです、計画をお話しても?」
「伺おう」
ようやくと教会のポーション作成計画についての説明に入れそうだとおっさんは嬉々として話し出す
国王は席に着いて、宰相が聞き取りモードに入っている
「魔女の森で採集した薬草を用いてポーションを教会独自のレシピで制作し、貴族街と一般街の商店に卸します、卸す数は相場が大きく変動しない程度、頻度は月に1~3回くらいになるでしょう」
「ポーションのランクは?どのランクの物をどの程度一度に出荷出来そうなのですか」
「下級150本、中級5本、上級1本が上限ですね」
「なるほど、無理のない程度で金額の変動は抑えられそうですな」
王に代わって再び応対し始めた宰相は商人の様な眼差しになってこちらを見ている
「そのポーションの材料になる薬草を月に1~3回魔女の森に取りに行くわけですが、採集地まで馬車で街道の森近くまで行き、そこからは徒歩で現状片道3時間かかります」
リアは指を3本腕を前に突き出しつつ語る
「それは結構な労働になりますな、往復6時間ですか」
「ええ、それで草原に新しく馬車の通れる道を作らせて欲しいという提案です」
「森に行くためだけの道ですか?採算が国としては全く釣り合わない」
「承知しています、なので、貧民街の住民の力を労働力として使わせて頂こうかと」
「貧民にそのようなことが?」
宰相は心底訝しそうな顔でリアに尋ねる、リアは間髪入れずにグイグイ押す
「できます!教会と協力して栄養状態の改善と衛生状態の改善を既に始めております」
「なるほど、では、国に求める物は?」
「国家事業であると認めてもらう事です」
「それにどのような利点が?」
「まず、この事業を頓挫させようとする者を減らせます、国に楯突く形になりますので」
「ふむふむ」
「さらに、恐らくですが街の魔道具屋さんが喜ぶでしょう、国に利益をもたらします」
「??それは何故ですかな??」
「魔女です!あの方お忍びで街に時々足を運んでいる様で来られた後は街の魔道具屋さん、魔術素材屋さんが非常に潤っているというのが現状です、足跡で確認は取れてます」
「魔女が健在とは・・事実なら素晴らしいことだ」
宰相はワナワナしつつもまだ決定打に欠けると目をギラつかせている
もう一押しだな、とおっさんは最後のカードを切る
「もし、国家事業と認定されましたら、教会が国民すべてを相手として解毒と解呪を行えるようにする準備があります」
「こ、国民全て・・だと?」
困惑する宰相を見ていると謁見室にノックの音がする
「ああ、来られましたね、王、大変申し訳ないですがもう一人謁見に加えさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「この際だ、最後まで付き合おうではないか、衛視よ通せ」
扉が開いて、中に女性の神官が一人入ってくる、年の頃三十路過ぎと言った所の彼女ではあるが母性に溢れるスタイルの良い、それでいて派手さの無い落ち着いた雰囲気だった
「王にはお初にお目にかかります、中小教会を束ねております神官のレイネと申します、突然の謁見への参加をお認め下さり誠に有難うございます」
レイネは感謝して跪き、王の承認を得て顔を上げる
「神官レイネ様が束ねる中小教会で解毒と解呪についてはお引き受けすることとなっております」
リアはウィンク一つをレイネに向けて放つ!レイネはわかってますよと続ける
「各領地に点在する中小教会の神官長、もしくはシスターに解毒、解呪を習得させてリア殿が提案される内容に対応することが可能であると断言します」
「そして、この国では貴重な品となっている魔法スクロールですが、私が全ての教会へと無償で提供致します」
「な、なるほど、全ては織り込み済みであった、という事なのだな?」
「左様に御座います」
宰相と王はリアの説得にまんまと丸め込まれてしまっていた
だが、そんなに悪くは無い気分だった
「申したいことは以上か?」
「はい」
「では、以上の内容を王の采配によって決する」
王は答えは既に出ているのだがな・・と髭をひと撫でしてから立ち上がる
「聖女リアよ、そなたの進める街道計画を国家事業として着工を許可する、後日正式な書状を国から届けさせる事とする」
「国王陛下のご理解に感謝致します」
リアは今一度大きく袖を振りつつ跪いて頭を下げた、ここまで固まって動かなかった左右の二人も一瞬遅れて跪いた
「では謁見は以上となる、速やかに退室せよ」
謁見室の扉が開かれ、一度待合室に戻り、4人となった一行はソファに抱き着くようにもたれ掛った
「ふ~ヒヤヒヤした、旦那様宰相にキレちゃうんだもの」
「自分でも怒りが振り切っちゃって、申し訳ない」
「でも素敵でした」
「レイネ様が来て下さるのはわかってたけれど、最後の最後だし本当に寿命が縮むね」
レイネが立ち上がりすっと教会式の礼をしてからリアに跪く
「この度は手紙でのやり取りしか事前に行えませんでしたが聖女リア様にお会いできて大変感激しております、これからの中小教会のために尽力下さる事重ねてお礼申し上げます」
「顔を上げて、立ってください、人と話すときは人の顔を見て目線は同じ高さで、人に上も下もありませんから」
リアは立ち上がり、レイネを立たせ、真っすぐと瞳を見てゆっくりと笑う
レイネは観念したように少し表情を崩し微笑んだ
「成程、シスターが手紙に書かれていた通りの人物だわ、とても敵わない」
「そんなことありませんよ、至って普通だと自覚してます」
「それは無理があるかなぁ~♪」
「ですね」
「そこは助け船を出してくれてもいいんじゃない?」
狼狽えるおっさんに3人が笑っている、シスターに頼んでレイネ様に手紙を送ってもらい、2度程の手紙によって今回の立案は成った、わざわざ来て下さったレイネにおっさんは感謝の品を取り出す
「レイネ様、これを受け取ってください」
「こ、これはまさか?」
「【ハイヒール】のスクロールです、レイネ様ならもう読めばすぐに使える事でしょう」
「有難うございます、このお礼は必ず!・・・!?」
お返しとかお礼とか続けて何か言おうとしているレイネの唇に人差し指をピッと当てて黙らせる
「そんな事は良いんです、教会と、民の心の平和と安寧を一人でも多く守ってください私が求めているものはそこに在りますから」
レイネは押し黙って少し俯いて、意を決したように顔を上げリアに宣言する
「わかりました、何年かかろうとも聖女が目指す理想へ一歩でも近付ける様努力いたします」
「この街の教会は資金的にポーションを利用していくので良いのですが、ほかの町は少しでも教会への寄付を取らないと立ち行かないでしょう、苦労も多いとは思いますが宜しくお願いしますね」
そこまで話をしてソファに座った瞬間に地面が揺れた?建物がガタガタと軋むような音を立てている
「地震かな?」
「大きいねぇ」
おっさんと嫁は日本人なのである程度までの地震は慣れきっていて、あまり動揺が無い、それに対して蝶華とレイネは怯え切って座り込んで丸くなっている
「時期におさまるよ~」
「収まった、震度5くらいはあったかな?」
おっさんと嫁が呑気に震度の話をしていると衛視が待合室に飛び込んできた
「リア殿、王の元へと急ぎ向かわれて下さい、皆さんもご一緒に!」
大慌ての衛視に導かれて街の外から見えていた塔のせり出しのベランダ部分へと到着した
王と宰相と護衛が顔を真っ青にしてこちらを見て王が口を開く
「北側を見てほしい、土煙でまだ遠く見えにくいかも知れんが、土石流がこちらにむかっておるのだ」
「こんな標高の高いところで土石流?」
「この国の北側には山があったであろう、あの山の山頂は巨大な火山湖なのだ、川には流入しておらず水位は想像もつかん」
「その火山湖の崖がさっきの地震で事もあろうか首都側に崩れたのだ」
王と宰相はオタオタして冷静ではない、おっさんと嫁は顔を向き合わせて頷く
「では、市民が混乱して大騒ぎにならぬよう事を荒立たせないで待っててください」
「なんとかするしかないね」
おっさんと嫁はすぐに行動に移ろうとする、蝶華が嫁にしがみつく
「危険です、お二人も逃げないと!」
嫁はゆっくりと引っ張る手に自分の手を添えて歯を出して笑う
「危険だからこそ、動かなきゃでしょ?来る?待ってる?」
嫁は優しいなとおっさんは関心する、一瞬で切り捨てる判断をしても良い場面である
それを個人の判断に委ねることが出来ることがおっさんには少し羨ましく思えた
「行きます!行かせてください」
「わかった、遅れたら置いていくよ」
「レイネさんは王と宰相の指示に従って待ってて下さい、もしかしたら怪我人が出るかも知れませんし、地震で崩れた家も有るかもしれません」
「はい」
王と宰相は目をぱちくりしつつ3人を見ている、時間も無いことではあるし問答するのも勿体ない
「王!事態を収めてきます、ご安心を」
「いってきま~す」
「頑張ります」
それだけ言って、ベランダから飛び降りる嫁とおっさん、身体能力の確認でこの程度の高さから降りても平気なのは確認済みだった、蝶華も流石に元諜報員だけあって付いてこれるようだ
「北ってどっち~?」
「こっちです、北門へ最短ルートで案内します」
「蝶華さん、任せます」
3人はものすごいスピードで屋根の上を走って行く
ポカーンとしてレイネは付いていくって言わなくてよかったと後日語っている
「あ~あ、遂にやっちゃったか、バスティ羽衣の用意は良いわね?暫くしたら特大のが来る筈です!」
「はい、準備に抜かりは御座いません」
まだ首都の人間が城以外では危険を感知していない状態で、事態は刻一刻と進んでいた