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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・教会を救いし聖女の憂い
17/86

王との謁見1




朝起きて、メイドさんたちに囲まれてバタバタと3人は入浴を済ませ、メイクと着付けをして朝食を取った


「化粧って実際初めてした、女は化けるって実感するわ」

「そうだねぇ、男の人ってそういう意味ではラクチンよね」

「痩せているのでコルセットが楽でまだ良いほうらしいですよ、メイドさん曰く」


本日の衣装はリアがお洒落法衣セット、白を基調としたワンピースタイプのもので、上着とマント部分が一体となり膝裏くらいの位置まであり縁取りは金色で前側は閉じないタイプ、袖は長めで指先が出るか出ないかのもの、金色の複雑な刺繍の大帯(オラリ)を縦に鎖骨下から臍の下腰帯の上にかかるまで着け、腰帯の下部分からは領帯(エピタラヒレ)が踝あたりまで伸びている輔祭と司祭の服がごっちゃになったような衣装である

着けたり外したりが面倒になろうと思い頭の部分はそのまま何も着けずに行く事とした


セシルは騎士鎧(儀式版)、黒基調とする色の金属に複雑な彫金が随所に施された派手すぎないものをチョイス

しかし結構な強度の素材なのでその辺の市販品の数倍の強度はあろう、これにマントで武器は持たない


蝶華は長に貰った布で誂えた衣装、露出を少なめにしつつも線の細い彼女に合う様に二の腕部分までは黒蚕そこから袖まではレースを配ったヒラヒラの白い布を用いている、腰までは黒蚕のみでスカート部分は前側中央に袖と同じ素材が使われ左右に黒蚕の布が使われている

鎖骨の内端から腰の部分にかけて白い二本の飾り紐を通し少し広めの間隔で編み込むようになっていてしっかりと胸元の寂しさを隠す演出が憎らしい



執事のジェントさんも非常に優秀だったが、メイドさんたちも働きは洗練されており丁寧で無駄がない

一流の仕事を見せられておっさんも主夫としてまだまだ成長できると変な競争心に燃えていた



「王宮には当家の馬車で向かうと良い」


ヴァイスプレさんの好意に甘えるほか無いだろう、馬なんか借りたこともない私達である

尚且つ公爵家の馬車ならば王宮に入る際も面倒な手続きが必要なくなるらしいので良いこと尽くめである

馬車に乗り込む前にヴァイスプレさんはにこやかに送り出してくれた


「そなた達の事なので心配は要らぬと思うが、成功を祈っている」

「もったいないお言葉、馬車も有難うございます」

「気にするな、私もすぐに向かうそれではな」


頭を下げてお礼をした後すぐに馬車に乗り込み移動する、王宮前の門で一度停車し謁見の許可証を守衛に提示してすんなりと王宮に入る、馬車を停めて降り立ったところは外来者用の入り口なのであろう

門の前にも衛視がおり扉を開いてくれる

扉の先には案内役の騎士がおり挨拶してきた


「本日皆様をご案内するシェルハウスと申します」


胸の前にバッと手を掲げて敬礼?の様な仕草をしている、この国の騎士の挨拶なのだろうと思って


「ご丁寧にありがとうございますシェルハウス様、私達は平民ですのでご無礼がないか心配です、本日は宜しくお願い致します」


リアはいつも通りに素敵な営業スマイルでシェルハウスを見上げつつお礼をする

リアが頭を下げたことに少し動揺しつつも平静を保ったシェルハウスはゆっくりと歩きつつ説明をしてくれた


「他国から聖職者の方が来られると聞き及んで居りましたので、年配の男性だろうと舐めておりました」

「女性でびっくりされましたか?」

「いえ、その、お美しいので・・」

「あは、有難う御座います」


口に手を当てて笑うリアをセシルが怖い顔で見ている

ゴホン・・っとセシルが咳払いを一つする

ハッとシェルハウスは姿勢を正し


「失礼、お客人に対して礼を欠いておりましたな」

「いえいえ、この人は私の夫ですから妬いているのですよ」

「なんと、重ねてご無礼をお許しください」

「・・許す」


何だか久々にセシルが寡黙モードなのでおっさんは少し可笑しくなってニマニマしてしまう

無口なセシルと緊張した面持ちの蝶華、普段とは状況があまりに違うそれでもおっさんは飄々とした態度で王宮を見ながら歩いてゆく


「こちらが待合室になります、順番が来ましたらまたお呼びに伺います」

「わかりました、ご案内に感謝申し上げます」


シェルハウスが去り待合室のソファに腰掛けて10分ほど、室内の調度品などを見回したり朝食の話をして場を和ませたおっさんは


「疚しいことをする訳じゃないのだし、胸を張って、堂々と、俯かないでねみんな」

「うん」

「ハイ」


皆の心の準備が整った所でシェルハウスが待合室に戻ってきた


「それでは皆さん、参りましょう」


床は大理石、その上に歩く部分だけカーペットが敷かれた王宮の通路を進み謁見の間の前まで到着する

持ち物検査をその場で簡易的に済ませて扉が開かれるのを待っていた



内開きの大きな扉が二名の手で開かれ王の姿が視界に入ってくる


王と、宰相と、今回は紹介者であるヴァイスプレさんも立ち合いである後は書記?なのだろうか離れた位置に机が設置されペンを持った者が見えていた

王の傍には護衛が2名、門の前にも2名

先に謁見した者たちが案内役に連れられて出ていくのを見送ったのちに声がかかる


「次の者入られよ」


衛視の言葉を受けて三人で横並びでゆっくりと歩く、俯かず、前をむいて

立ち止まって3人は跪き、リアが挨拶を述べる、挨拶はヴァイスプレに習った通り


「お初にお目にかかります、ここより彼方の国より参りました聖職者のリアと申します、本日は王にご挨拶を兼ねお伺いを立てたい案件が御座いましたので伺った次第で御座います」


「良い、面を上げよ」


王の許可が下りて顔を上げると宰相と思われる人物が私の執事さんに書いてもらった紙を持っていて確認をしてくる


「そなたが聖職者リア、右隣がその護衛騎士セシル、左隣は協力者の蝶華で間違いないか?」

「ハイ(全員で)」

「リア殿は聖職者としてこの国で何をされようとしておいでかな?簡単に述べられよ」

「私とセシルは唯一神スィーリズにより導かれ、遥か彼方の国より参りました女神の話ではこのデルエールという世界を見て回り、行動に関しては好きにしても良いとの事でした」


そこまで話した瞬間に王が口を開く


「それを証明できるものが何かあるか?」

「はい、こちらはどうでしょう?ご覧になってみて下さい」


リアはおもむろにアイテムボックスから本を一冊取り出したモンスター図鑑である、VRMMOのモンスターを倒した順に収録できるアイテムで写真と名前、特徴、討伐数、初回討伐日などの記載がある

受け取りに来た衛視に本を渡す、文字は読めるかどうかわからないが写真はこの国には無かったしモンスターはいるのだろうけれど全く同じでは無いはずである

宰相が目を通し、驚愕に打ち震えつつ王の元へと本を見せに向かう

王もそれを見てまた驚愕の表情を浮かべる


「これは、この本は一体何なのだ?この世界には存在しないモンスターの数々・・しかも凶悪そうなものが多い・・・」

「それは私たちが転移してきた世界のごくごく限定された空間の一部に存在するモンスターの図鑑で御座います、それらは全て存在しており討伐の記録とも言えるのがそちらになります」

「これらを全て、そなたらで・・か?」

「はい、そうです」


王は額に手を当てて少し考え込んでいる


「もう少し現実的なものはないものか?」

「そうですね・・・そうだ」


リアは衛視を呼び、衛兵や兵士の中で部位欠損の症状がある方がいたら連れてくるように頼んだ

この国の魔法は部位欠損は修復できるのだが新鮮なモノ(三日以内)に限られるそうだった

リアの魔法は全くそんなのは関係ない、それで証明できるのでは?と考えたのだ

暫くして扉が開かれ、左手首から先が無い兵士が連れてこられた

連れて来た衛視が説明する


「この者は一週間前の魔女の森遠征でウルフハウンドに手を食い破られ失ったもので御座います」

「報告にあったな、こちらも把握しておる」


王と宰相が頷く


「では、こちらの治療が出来れば認めていただけますでしょうか?」

「出来たならば、信じよう」

「はい、では治療しますね」


『天に捧げし我が祈り、全ての傷を払拭し、あるべき元の姿へと、神の御業を以て為せ』【パーフェクトヒール】


リアの髪と背中のマント部分が魔力放出と共にブワっと跳ね上がりゆらゆらとはためく、手のひらから光が溢れ負傷した部分を包み込み光が傷口に吸い込まれる、次の瞬間には無くなっていた部分から光が溢れ手が手首から徐々に再生し光に包まれたまま手の形を象り光が収まると傷はなくなり手は何事も無かったように再生されていた

信じられない物を見ているといった者たちを無視してリアは負傷していた兵士に柔らかな笑みを浮かべ


「動かしてみてください、違和感はないでしょうか?」


我に返った兵士は手の感触を確かめる、握って開いて、手の甲を抓んで、そして涙を流す


「何の遜色も無い、これは私の手だ、ありがとう・・ありがとう・・」

「いえいえ、急にお呼びだてしてこちらこそ失礼いたしました」


衛視に連れられて兵士は戻っていった


「信じねばなるまい」


王が一旦驚きに立ち上がっていたのであろう、ストンと腰を落として呟く


「先ほどの兵士に口止めをせよ、ここに居る者も全員が見聞きしたことの口外を禁ずるよいな!」


王の命令に全員が跪き肯定の意を表明する、指示を受けた衛士は急いで兵士の元に走って行った


場が落ち着いたことを確認したように王が再びこちらに対して目を向け


「これを知っているのは他にどれだけの数の者が居るのだ?」

「教会のシスター、ヴァイスプレ閣下、蝶華、この3名だけです知っているのは」

「そうか・・」


王は心底安堵した表情で話を続ける


「その力この国の為に使っては下さらないか?」

「ある意味では喜んで使わせていただきます、一方では使いたくありません」

「その言葉の意味は?」


王の問いかけにリアは一瞬会話を止め、背筋を正し、手のひらを胸に当てて訴える


「この国に入って一週間、貧民街、一般街、貴族街、そして今日王宮を見させて頂きました、私の判断では貧民街の皆さん以外には私の力は必要ないと考えました」

「どういう事だ?」

「私は人々を救いたい、でも、不必要にこの世界に無いものを与えたくはないのです、先ほどの兵士もたまたま私という存在がここに在ったので手が再生しました、無かったらそのままです」

「それは、そうであろうな」

「人の欲は絶大なもので有ると思うと皆欲しがります、でも、無いものと悟れば欲することは無いのです、私は貧民街の皆さん以外は私の救いが無くとも今まで通りの生活を営めると思うのです」

「それでは不平等ではないか?」


宰相が口を挟んできた、リアは少し口調を強くして低めの声で返事をする


「不平等、と申されましたか?」


怒りがリアの蒼い瞳から浮き出ている


「真に平等を謳うのであれば、私はこの国を一度焦土と化して、身分も生活状態もすべてをご和算にする覚悟があります、それでも私の行いは不平等ですか?」

「いや・・それは」

「生きるための苦労が少なく、食べるために働く以外の事が行える人々に私の慈悲は要らないと思うのです」

「だが、身分の高い者の中にも救いを求める者も少なくはなかろう?」

「その意味では、救いではなく利用になるのですよ」

「なるほどな、宰相、少し黙るがよい」


王の制止を受けて宰相が口を噤む


「リア殿、そなた聖女なのだな?」

「王様もその台詞言ってしまうのですね・・・」


おっさんは項垂れつつも姿勢は崩さなかった・・・


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