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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・教会を救いし聖女の憂い
16/86

公爵邸で昼食を




いよいよ王との謁見が明日へと迫っていた


蝶華の謁見用衣装も完成し、準備もした、あとは時を待つべし!と思っていた矢先



公爵邸の使用人が一通の手紙を持って宿屋に現れた

嫁は使用人に対して礼をしてから受け取り、チップとして銀貨を一枚忍ばせて渡す

慣れた手つきでペーパーナイフで封を開けて中身を確認していく


「なになに、難しい言い回しで分かりにくいよぉ旦那様この手紙」

「よかったらお昼でもご一緒にどうですか?3人のお話が聞きたいです、内容はそれだけ、しかしまぁ公爵ともなれば一般人に対しての手紙にこれほど礼を尽くすものは珍しい」

「公爵は、お二人に期待しておられるのですよ」


蝶華は買い物で何種類かの衣装を買いそろえていた、気温が低めの土地なのであまり薄着は必要ないために今日はパンツスタイルの衣装を着込んでいる

細身で体の凹凸が少ない(決して貧相ではない!)彼女は縦のラインを強調したスラリとした衣装がよく似合っている

動き易さと、どこにでも着ていける落ち着きの有る衣装のデザインは彼女らしい


「旦那様と私はドレスチェンジで礼服や儀式服、お洒落装備も万端だけれど、蝶華は大変だねぇ公約邸に行ったり、王との謁見があったりで衣装代だけでも馬鹿にならないでしょ?」

「いえ、今までがお給金をまともに食費以外で使ったことが無かったので服を誂えるだけでも嬉しいんです」

「なるほど、仕事人間だったんだね」


そんな話をしながら3人でワイワイ言いつつ公爵邸に向かう支度をする



ノックの音が響き女将さんが少し慌てた表情で部屋の入り口でおっさんに


「や、宿の前に公爵家の馬車が停まってるんだけど・・アンタの仕業かい?」

「あ、そうですねまさか公爵家に歩いて向かうわけには行きませんし、気を使っていただいたのかと思います驚かせて申し訳ありません」


蝶華が失念してたと言わんばかりに女将に頭を下げて言う


「公爵家の昼食に招待されてるので直ぐに出ますね」

「そうかい、アンタらかい、ならまぁ納得だよ」


そう言うと女将さんは食堂の方へと戻っていった


私達も馬車へと向かい御者にお礼を述べてから馬車に乗り込む

おっさんはお洒落衣装のドレス、嫁は燕尾服、嫁がきっちりと馬車へのエスコートを二人分こなしているのを見つめておっさんは車内で隣に座っている嫁に


「エスコートなんてどこで覚えたの?」

「えへへ、人間観察の賜物です」


嫁は別行動で貴族街に潜伏することも多かったため度々馬車の乗り降りをする貴族を目の当たりにしていたそこで得た情報から所作が洗練されつつあるのだという


貴族街へと馬車は向かっていく、一般街には無かった大きな門と庭を備えた家が多く立ち並び一軒一軒の間も広くその分軒数はすくなくなる

王宮が大きく見える区画の一角に公爵邸はあった、門から入って庭を抜け玄関前まで移動するのに結構時間が必要なほど広かった


「は~、流石はお貴族様」

「だね、言葉使いは少し自重してね」

「はーい」

「あはは」


玄関前に降り立つと執事服を纏った白髪の紳士がビシッと立っており洗練された動きで礼を述べ案内してくれる

エントランスは大きなシャンデリアで飾られ、突き当りから二階へと左右に広がる階段、踊り場の前面にはヴァイスプレのモノであろう勇壮な肖像画があった

執事に案内されるがままきょろきょろと見回しながら後を歩いていく3人


「蝶華も珍しいの?」

「はい、本館に入って仕事をすることはまずありませんでしたから」

「そうなんだねぇ」


そうするうちに昼食会場であろう部屋の前に辿り着き、執事が扉を開けてくれる

教会の小会議室の4倍ほどはあろうか、それでもこの屋敷では比較的狭い部屋にあたるのだろう

そんな部屋の椅子にヴァイスプレは腰掛けて待っていた、立ち上がって歓待の文句を述べる


「ようこそ我が屋敷へ、おまちしておりましたぞ、ささ席に座られて下され」


おっさんも負けじとカーテシーを行い謝辞を述べる


「本日は公爵家にお招き頂き有難うございます、平民ですので何分不慣れな事も多いでしょうがご容赦下さいませ」

「構わぬ、私とそなたらの仲ではないか」


ワハハと豪快に笑いつつ皆が席に着く、無論執事とメイドが全員の椅子を引いて

私の前にヴァイスプレ、左右に嫁、蝶華、という席どりである


「先に食事だな、話は大事であるがまずは腹ごしらえとしよう」

「そうですね、お腹を空かせていると落ち着きの無くなってしまう子が一人いますし」


口に手をあててフフフと笑いながらリアは隣の嫁の方を向く


「公爵家の食事には期待しています」

「そうか、うちの専属料理人達も気合十分だったからきっと満足いただけるであろう『金獅子亭』から引き抜いた者も何名かおるしな」


おっさんはその言葉を聞いて得心が行ったようでヴァイスプレに言う


金獅子亭(あそこ)のギャルソンは閣下の手の者だったのですね貴族街と一般街の繋ぎ用のパイプ役、と言った所なのでありましょう?」

「慧眼恐れ入るなリア殿の答えで正解だ、まさか紹介して初日に向かい尚且つ看破されてしまうとは流石というか驚くべき洞察力であるな」

「お褒めに預かり光栄です」


食前酒を運んで来た、本日は後に話をする予定があるために酒精が低めの飲みやすい物をお願いした


「こちらは高山で取れた梨を原料にした果実酒でございます、酒精は低めですっきりとした味わいで果肉が多く含まれている分食前酒にはぴったりでございましょう」


流石は公爵家執事、ギャルソンもびっくりのチョイスと説明である

侯爵閣下は酒がものすごく強いらしいのでワインをチョイスして、全員の杯に酒が満たされた

いきわたったのを見図ってヴァイスプレが乾杯の音頭を取る


「聖女との良き出会いと、明日の成功、そしてこの国の平和と安寧を願って・・乾杯!」

「乾杯(ヴァイスプレ以外全員)」


食事は申し分無かった、前菜2種、メインはお好みで肉・魚、スープは濃厚な沢蟹を用いたモノで嫁がおかわりを所望していた・・デザートはジェラートにミントのような爽やかな香りのするハーブを用いていて食事の重さを感じさせない絶妙なバランスである


食後のお茶を戴きながらリアはヴァイスプレに切り出す


「大変美味しい食事でした、厨房の皆さんにも激励をお願いいたしますね」

「そなたは変わっておるな、リア殿、こういう場所に来て厨房の者にまで気を使うとは」

「いえ、感謝を述べるのに身分や立場が邪魔になるのであれば私はそんなモノは全く必要としない、ただそれだけの事なのですよ、閣下もどうしてもそう言った部分が重荷になって冒険者ギルドに隠れておられるのでしょう?」

「バレておったか、そうなのだ私もどうにも身分が重荷に感じられてならん」

「少し私の暮らしていた世界のお話を致しましょう」


おっさんはヴァイスプレに人払いをしてもらってから地球の話、日本の話、貴族制度や身分が無い社会の話、その利点と欠点などを簡潔に話していく

ヴァイスプレと蝶華は見たこともない異世界を想像しつつ目を見開いて真剣に聞き入れてくれている


「ほう、興味深いな身分無き社会か」

「私とセシルにとってはそれが普通なのですがね」

「勿論、身分制度の残る国もあるのですが、足並みが揃わないというのが実態ですね」


嫁が珍しくまともな事を述べているので、おっさんは感心、感心、っとお茶を一口啜る


セシルはヴァイスプレに対して貴族の立ち回りを残しつつ、今後の自分たちの行動の後押しをしてくれるように望んでいると語った、おっさんが考えていたのとほぼ同じことを嫁も考えてくれたことが嬉しかった


「そなたらの言い分はわかった、私には国と民に奉仕するという貴族の義務があるという事が再確認でき大変嬉しく思う、反面、それから逃れる事も出来ないという事実も・・な」

「人は生まれる場所を選べません、ですが、生き方を選ぶことはできる立場の閣下はまだ恵まれていると言わざるを得ません」

「貧民街には生き方も、生きる術も、生き残ることさえ・・選択肢の無い民が多くいます」

「自分の抱えた悩みがちっぽけに思えてくるな、そなたらと話しておると・・」

「悩み、思考し、導びき出した答えを真っすぐに謳い俯かない者こそ真に貴族たる人物だと思いますよ、ヴァイスプレ閣下はそういった意味では十分に全うされておりますので」

「感謝する、そなたらの信頼を得られたことが私の最大の利益だと痛感した」


ヴァイスプレはこちらに向いて躊躇なく頭を下げた、公爵が一般民にこれほど低姿勢であっては本来はならないが今は人払いされており誰も部外者がいない為に気が緩んでしまったのだろう


「さて、そろそろ本題を聞いてみてもいいでしょうか?」


おっさんは会話の空気を入れ替えて切り出す


「おお、そうであったな謁見の趣旨と概要について先ぶれと共に陛下に提出する書類があるのだ」

「そうでしたか、基本はご挨拶と行動方針を伝える事が主だった目的ですが」

「よし、ではそれを執事に書かせようもはや人払は必要あるまい?」

「そうですね」


そこまで話をしたところ執事が紙とペンとインクをお盆の上に携えて入室してきた、人払いの最中の会話までこの人は聞いているのではないかな?と思えるほど迅速な対応だった


執事さんに王との謁見への内容を簡単に説明し、執事さんが王に失礼のない言葉に翻訳して記入していく、見れば見るほど有能な執事さんである


書き終えてまた一口お茶を啜っているとヴァイスプレがメイド達を下げた、執事はそのまま残っている

何事だろうか?と訝しげにヴァイスプレを見ると


「いつまでそうして仏頂面の仮面をしているつもりだ?せっかく愛娘が来ておるのだ、会話の一つもしてやらんかジェントよ」


執事に対してヴァイスプレはやれやれといった表情で穏やかに言った

ジェントと呼ばれた執事は、ですが・・と反論しそうになったが蝶華の方へ近づいて頭に手を置き


「花影、今は名を戴いて『蝶華』となったのだったな、捕らえられたと聞いた時から心配しておったぞ」


蝶華の頭を撫でながらジェントは先程までとは違う温度の有る声色で話しかける


「はい、長も元気そうでなによりです」


蝶華がここへ来てからほとんど会話に参加しなかったのは、育ての親とも言える長がここの筆頭執事で普段は親しく接することを制限されているためだった


「大変高価な服を誂えて頂き感謝しております、長」

「せっかく年頃になったのだ、しかも王との謁見、私にも親代わりとして良いところを見せさせて欲しいと閣下にお願いしたんだよ」

「そうだったのですね、嬉しいです」


ジェントに抱き着いて子供の様に喜びを伝える蝶華を見ていると血の繋がりなど無くとも信頼でここまで硬く絆は結ばれるものなんだなと思い、おっさんは胸が熱くなる


「ぶえ~~よがったねぇ~!!」


嫁が涙腺崩壊して蝶華に後ろから抱き着く、ジェントが驚いている


「ワハハ、このように驚いているジェントが見れただけでも本日は聖女を招いた甲斐があったな」

「閣下もお人が悪いですな」


苦笑いのジェントを見て、ヴァイスプレは満足げである


こうして謁見前の準備は全て整い、本日はこのまま別館に宿泊させて戴く流れとなった


明日は本番だ、おっさんは気合が入り、入念に会話を想定して思考を繰り返していた・・・・・・










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