ポーションを作ろう
翌日、早めに起きて朝食を済ませ教会へと向かう3人
素材はアイテムボックスに入っているのでいつも通りなのだがリアだけが雰囲気が違う・・
「白衣に、眼鏡ですか?」
蝶華が疑問符を投げかけると嫁が答える
「あー蝶華ちゃんは初めましてだよね、この子は通称『ドク』旦那様が薬剤師をするときはこの子が基本メインで毎回やっているんだよ」
「そうなんですね、びっくりしました何か猫背で小さいリアさんがさらに小さくなった気がして・・その、こう言ってはなんなのですが、可愛いです!」
リアは身長150センチほど猫背になって145センチ程で、傍から見れば子供が背伸びして白衣を着込んでいる様でもある
しかし、ドクの白衣は使い込まれており身長にきっちり合わせて作りこまれているので流石に裾がダボダボとか丈がずるずるとかということは無い
可愛いと言われて一瞬ぴくっと反応したドクはそれでも黙って教会に向かって歩く
内心は反論してやろうかと考えたがやめた、面倒だった
ドクは薬学、錬金術、魔法学に特化した思考パターンを持ち、それ以外の事はとても面倒くさがる
故に反論する時間そのものを無駄に感じて会話をキャンセルしたのだ
教会の小会議室に辿り着くと、シスターと巫女見習いが二人で3人でお茶の支度を終えて席に座っていた、小会議室の壁には小さめの黒板が準備してあった
「おはようございます、今日は3人の皆さんにポーションの作り方を伝授します」
挨拶と同時に背筋が伸び眼鏡をくいッと上げてドクが講義の開始を宣言する
「ああ、スイッチ入ったね、2時間はこのままグイグイ話すかもだわ・・」
「さっきまでとは別人の様ですね」
「ね~」
見学の二人は孤児たちの面倒を見るために孤児院施設部分に向かった
のべつ幕無しに語り続けるドクは丁寧で早口だった
残された3人はメモを取りながら黒板とにらめっこしている
「では、実際に最上級ポーション作成をします」
まずは下級からじゃないの?と3人が考えていると座学でやった通りにドクは工程をこなしていく
「この部屋の床に細工をします」
魔方陣作成用チョークを取り出しカリカリと床に描いていくドク
描かれたのは【浄化】の魔方陣と、【効率化UP】の魔方陣である
井戸水を蒸留器で薬効成分の高い薬草水とする
さらにそれを【浄化】の魔方陣で整えた後に【効率化UP】の魔方陣の上で他の材料と混ぜ合わせ、濾す、すると濾過された水溶液が紫いろから淡い水色になって淡い光を放つ
「意外とぱぱっとできてしまうモノなんですねぇ」
「この材料で簡単に作れるよう200サンプルくらいは試しましたからねぇ」
「そうなんですね、簡単とか言っちゃ失礼でしたね」
「いえいえ簡単にできるようにしたのですから簡単に作ってもらえればいいのです」
「はい!」
ドクが作成した後に3人も同じように作製して最上級ポーションを作成した
最上級ポーションが完成したところで、ドクはエーテル水を作成する、エーテル水は魔力を多く含んだ葉っぱを水と混ぜて煮込み、抽出した液体を蒸留してできる
「このエーテル水で最上級ポーションを5:1で割ります、すると中級ポーション5本になります」
「おおぉ~!」
3人が声を上げて驚いているのを満足げにドクは見つめて続ける
「さ・ら・に」
井戸水を【浄化】魔方陣の上にのせて3分、浄化水となった水と中級ポーションを15;1で割っていく
「これで下級ポーションが15本分できます」
「画期的な早さですね」
「はい、簡単に早く、大量にを目指しました」
残りの最上級ポーションのうち二本も薄めて増やしていきポーション150本中級ポーション5本最上級ポーション1本となり作業は終了した
「これを教会の運営資金の目玉として今後運用してください」
「素材はどうするのですか?」
「素材は明日巫女見習いのお二人に一緒に採集に付き合ってもらいます」
「なるほど、『魔女の森』に入るのですね?」
「魔女の森と言うのですね、あそこは、なるほど道理で様々な薬草が豊富なわけだ」
「何でも最奥には魔女の館があるとか・・・」
「ああ、ありましたよ中には入ってませんが・・おそらく魔女さんはご在宅だと思います」
唖然とする3人、モンスターは森の入り口付近こそ少ないが最奥にはそれこそ結構な危険指定モンスターがいると冒険者ギルドが注意喚起していたのだった
「薬草採取する場所の付近には簡易結界が張ってありますから安心して採取はできますよ」
ほっと胸を撫でおろす3人、ドクはもういいかなと思いおっさんとチェンジする
「採集地までは片道馬車と徒歩合計3時間かかります、護衛に冒険者ギルドから冒険者を3名つけて行動し、報酬は一回連れて行ってもらう度に下級ポーション一本、これなら確実に報酬が払えるでしょう?」
「確かに、下級ポーションであっても売れば相応の金額、冒険者なら自分の為に持っておく者も多いでしょう需要と供給が兼ね備えられた良い案ですね」
シスターは話を聞いて納得したうえで巫女見習いの外出を許可してくれた
「最上級ポーションは最低一本は教会で管理して下さい、何事かあった場合に躊躇なく3人が使いたいと思った方に迅速に使ってあげてください」
「はい」
3人は深々と頭を下げつつお辞儀をする
「そして中級ポーションと下級ポーションは、貴族街と一般街の商店に卸していきましょう」
「資金作りですね」
リアは頷く
「そうして出来た資金で月に当面は3回ほど貧民街で炊き出しを行い貧民の栄養補給を徐々に行います」
「それは何か理由があるのでしょうか?」
「ハイ、貧民街の元気が出た方で希望する方を選び、街道から森までの新たな街道の敷設事業に参加していくようにしたいのです、労働力として貧民街の皆さんも役に立てることを国に少しずつ見直してもらうためです」
「壮大な計画ですね」
3人は身の引き締まる思いでおっさんを見つめる
「それでも余れば教会の補修、孤児たちの衣類の改善や食事を一品増やしてあげるとかちょっぴり贅沢をしても神は怒りませんよ!」
茶目っ気たっぷりににッとわらって白い歯を見せるおっさん
シスターたちは思わず吹き出す
おっさんは真面目な顔に戻り3人に問う
「時間もお金もかかります、熱意も必要でしょう、皆さんはこの事業に率先して参加して下さる意思は御座いますか?」
「断る理由がございませんわ」
「やります!」
「やらせてください!」
「ありがとうございます、では3人に私から引き受けて下さることへのお礼を渡します」
おっさんはアイテムボックスから【ヒール】【解毒】【解呪】【浄化】のスクロールを3枚ずつ取り出して渡していく
「これは、まさか魔法の?」
「はい、そのまさかの魔法スクロールです、読むと習得できます、使い込むと熟練度によって【ハイヒール】や【エリアハイヒール】、【状態異常無効化】などの魔法も習得できるようになります」
「これはとても貴重なものではないのですか?」
不安げなシスターにおっさんは笑顔でそんなことは無いと手をフリフリ応える
「この国では貴重かもしれませんが、私にとっては自分で書くことのできる簡単なお礼の一つなのです」
「そう・・・なのですね」
「みなさんはこれから貧民街、一般街、貴族街、そして王室まで様々な方の治療も行ってほしいと思っています治療費は頂かずに、ポーションを礎として、活動を行ってください」
「そのための大量で簡単なポーションなのですね」
「そうです」
3人が今後の事で不安が無いように丁寧に説明するおっさん、明日森に入る二人には疲れにくい靴で来るようにと十分念を押しておいた
計画は動き出した、後は王の許可が下りれば完璧なんだけど・・とおっさんは天を仰いだ
一方そのころ孤児たちと嫁と蝶華は食堂でうどんを踏んでいた・・・
「ふみふみ」
「そうそう、しっかりと体重をかけて~」
「指の間でむにむにするのが気持ちいいかも」
「意外と楽しいね」
うどんは食塩と水(ぬるま湯)で小麦粉と合わせて捏ねて踏む、寝かせて、踏む、ある意味ではシンプルなお料理である
嫁の得意料理でもある
おっさんとシスター達が食堂に戻るころには平たく伸ばして切る所だった
「団子が麺になったよ~」
「こんな麺初めて」
「太いね~」
口々に感想を述べながら楽しそうにやっているのでおっさんはトッピングのネギを刻み、肉うどんにしようと甘辛く牛肉を炒め煮にしていく、酒、砂糖、少量のしょうがのみのシンプルな味付けである
出汁は嫁の田舎の方はすこし甘目で、色は淡く透き通っている
少し標高の高いこの街では温かいうどんは美味しく感じるだろうと推測出来た
皆で打ったうどんを茹で、器に盛り、汁をかけ、トッピングして戴く
いつもながらのシスターの『感謝の祈りを』に続いて孤児たちも祈るそして実食!
「うどん美味しい」
「もちもちだね」
「つるつる~」
孤児達も気に入ってくれたようで、ドヤ顔の嫁の鼻が高くなっていた
そういえば嫁の料理はこの世界に来て初だった事に気が付く
「懐かしい味だね」
「ふふ」
「美味しかったです本当に」
おっさんと、嫁と、蝶華と、なんだか可笑しくなって笑った
この笑顔を一時でも長く続けられるようにがんばろうとおっさんは王宮に思いを馳せていた
日付変わっちゃいました、無念です