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第5話 メア



「お兄様、どうぞ」


 扉を開けたらメアがパタパタと走って行って、ベッドに飛び乗ったと思ったら女の子座りでふとももをパタパタと叩く。


「ええ……と」


 いや、わかる。多少普通のと姿勢が変わっているが膝枕というやつだ。膝を横になるのではなく縦になる方の。


「……お兄様?」


 こくりと首をかしげる。不思議そうで、何も疑問に思っていない。


「いや、それだとメアが眠れないでしょ」


 というか、この子の足は細すぎて頭を乗せたら折れそうな気もする。まあ、それは言い過ぎにしても――さすがに成人の頭を乗せれば足が痛くなるだろう。


「メア、眠くないよ。だから、きて?」


 ――引く気はないようだ。だから観念する。これ以上何かを言う気が起こらない。自分でも駄々甘のように思うが、どこかしょうがない気もしてくる。


「……重かったら言ってね」


 観念して頭を乗せると目と目が合った。


「えへ」


 にへら、と笑った。無邪気な表情だ。まったく、時々本当に子供のような笑顔を見せてくるから油断ならない。


「――」


 いいにおいがする。そして柔らかい。堕ちたら確実にダメ人間になるな、と思いつつ。もういいやと眠ってしまう。




 そして、朝。


「……ん」


 心地よいまどろみ。記憶にないような爽快な朝。


「おはよ」


 目を開ければメアの顔。


「ああ、おはよう。メア、ずっとこのままだった?」


「そだよ?」


 何を不思議なことを。みたいな顔をしている。霊王はこの体勢で眠れるのかと思ったが、そこはスルーしておく。本人に疲れた様子がないからいいだろうと。というか、本当に足にダメージを受けた様子がない。成人男性の頭を5時間も乗せていたのに。


 もっとも、事実は”それ”どころではなかったことを霊王は知らない。メアはそもそも眠っていないのだ。今は朝の8時まで、5時間ずっと起きて霊王の顔を見ていた。いたずらもすることなく、起こさないために身動きすらせず、ずっと――


「朝、ね――そういえば学園は」


 この学園では誰もが学生、もっとも校舎に通わない人間もいるがそれは闇の世界に属するか大変な変人かのどちらかだ。ここで生活するのに必要なのは単位なのだから、講義に通って稼がねば。他に稼ぐ方法もあるが。


「今はおやすみだよ。えっと……きゅーかきかん、だって。はじまるのは来月から、だね」


「なるほど」


 霊王は記憶喪失で、それは何者かの意思が確実に関わっている。それもそうだろう、メアを用意し、この家を用意し――しかもこの家には戦争ができる量の火器が保管されている。これを偶然と思えるほど霊王はおおらかな人間ではない。


 目覚めたこの時期にも理由があるはず。まあ、そんなのは準備期間に決まっている。来月から、来月までには後一週間しかないが。この一週間は色々慣れるために空けた期間と言うことだ。黒幕が居るとすれば、おそらくこちらを貶めるものではない。何かするのであれば安全地帯に逃げ込まれる前に襲っておかなければならない。


「また……やるの?」


 目を伏せる。


「時間があるなら、ね。さっさと落とせる錆は落として状況を確認する必要がある」


 おそらく、敵は”そこ”にいるのだろう。休暇明け、新学期に出会うこととなる大敵が。そして、その敵もこちらの状況は分かっていると見るべきだ――あの悪趣味なくまに殺されたNPCの記憶は継続している、なんらかの方法で聞き出すことは難しくない。


「そっか。お兄様はメアのためにがんばってくれてるんだよ……ね」


「……別に、自分のためさ」


 横を向く。そうだ、おそらくこの記憶喪失は自分自身が関わっている。それは根拠もないただの確信だが――心の底で何かが囁いている。”戦え”と。


「ううん、わかってるよ。お兄様はいろいろとめんどうくさがりだもんね」


「そういうわけでは……ない、と思いたいけどね」


 面倒くさがり――まあ、言い得て妙でもある。この世界の人間を襲うナイトメア――正義感などと言う面倒なものがあれば、それを刈る正義の味方になるだろう。そんな気は一向に起きてこないのが、メアの正しさを物語っている。


「ありがと、お兄様。でもメアのことだけは別。大切だから、ちゃんと守ってくれる。――メアだけ。メアだけは、守ってくれる。そんなお兄様がメアはだいすきだよ」


「――」


 そっぽを向く。照れた。


「ね、お兄様。まもってくれたとき、とってもかっこよかったよ」


 メアの顔は見れなかった。




 そのあと、メアの作った朝食を食べて地下へ。


 銃、剣、槍――多くの武器を試した。武器屋など、目ではないほどの品ぞろえである。その中でしっくり来たものはナイフであった。


「っふ!」


 飛ばした斬撃がターゲットを両断する。機関銃でも元の形を保つレベルの大岩を。夢使い、ならば――現実に縛られる必要はない。ただし、逆を言えば”夢”には縛られてしまう、相性などと言うのがあるのがその証。


「分かったことは二つだな」


 整理するために口に出す。


「俺の適正はナイフ……いや、迅法に適しているのがナイフかもしれないがそれは同じことだ。そして、ナイフにしても強力な武装というのはある。RPGの攻撃力という概念がアビスでは適応されているらしいな」


 霊王の手に握られているのはナイフというには少々大きすぎる、過度な装飾の施されたものだった。使い手との一体感を上げ、魔術によって攻撃力を底上げする魔道具。ただのナイフでは斬撃を”飛ばす”ことなど笑い話だ。


「そして、武器は適性のあるものを使えば威力が上がる――逆に言えば適性がなければあまり期待できないということでもある」


 とはいえ、その適応されるのも適正と関係がある。例えば今握っているナイフとて、適性のない者が握れば、無駄な装飾のついた金属の塊になってしまう。


「そして、迅法の本来の使い方も思い出した――やれやれ、あの子に応援されただけでこれとはなんとも現金なものだな」


 実を言うと、覚えるべきことは多くない。武術の鍛錬というのは型を体に覚えさせるということが目的だ。意識せずとも体が勝手に型の形をとり、修行することで型に適した肉体へ己の身体を作り”上げる”。


 ……夢使いならば後者は不要だ。なぜなら、己の体を異形へと作り”替える”のが夢使い。ゆえに型さえ覚えれば問題ない。そして鍛えるにあたり時間を取られるのは圧倒的に後者である。1週間で腹筋を割れるだなど思う人間はいないだろう。


「アルファ、銃撃戦プログラム開始――〈モード:インフェルノ〉」


 機関銃が10丁、火を噴いた。狙いなどつけていない、もはや狙ってくれれば弾が集まる分楽に領域にまで達している。もはやキリングゾーンそのものと化した部屋の中を霊王は駆け巡る。


「……ははーー」


 身体にあたる銃弾を両手に持ったごついナイフで全て叩き落す。だが、この程度ならインフェルノなどとは言わない。


「……っは!」


 そして、狙いをつけない乱れ撃ちの中にスナイパーライフル。それも弾く。さらにロケット砲。狙いすました一撃だが、もちろん跳弾にあたって暴発する。厄介なのは爆炎と破片、さらに破片にあたって跳弾と化した銃弾が四方八方から襲ってくる。ゆえに


「シィッ!」


 斬る。爆炎そのものを斬る。その一瞬にできる空白に飛び込むが、瞬きの後には爆炎に包まれている。その前に別に空白地帯へ。


「--ふぅ」


 終わった後、部屋は地獄絵図の有様。薬莢ではなく銃の弾頭と爆発物の破片が降り積もって砂浜のようになっている。床が見えない。


「これで、まあ――多少は見れるようになったか」


 霊王の服には焦げ跡一つ見当たらない。錆は落とした。”動ける”――殺せるかは、また別の話ではあるが。人間を殺すと言うのは、実は適性が必要だ。人間が人を殺そうとすれば本能が邪魔をする。ゆえに殺すには本能を誤魔化す必要がある。けれど、生まれ付きの異常者ならばそんな”手間”は不要。


「――アルファ、片付けておけ」


 部屋を出ていく。ここでできることはあらかた終えた。ならばあとは実戦で試すほかない。果たしてほし薙薙霊王という人物が人を殺せるかどうか。命を奪えるかどうか。


「それは――明日か」


 金策を兼ね、冒険に出ることにする。スマホを弄っていると、どうやら冒険で魔物を倒しても単位は稼げるらしいことが分かった。まあ、朗報と言えるだろう。



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