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7話

 犬とも兎ともつかぬ不思議な小動物は、弱らせてあるのか微動だにしない。これが無邪気な子供であればかわいそうだからできませんだとか、あるいは逆に虫を潰すかの如く容易く実行に移して失敗したりするのだろう。あるいはそういった情操教育の一環かとも思うが、それにしては視線が冷たい。


 世界が変われば価値観が違うなど当然の事であろう。まして前世とは恐らく階級的な世界が違うではなく文字の通りに世界が違う。であれば求められるとおりの成果を出すのが理性的な判断というものであろう。


 自分で言うのもなんだが、未だ3歳にもならない女児の小さな手が小動物の首へと伸びる。そのまま撫ででもしていれば絵にもなるだろうが、実際には驚くほど容易くぽきりという感触を味わうことになった。これほどに簡単ならなるほど凶器の一つも渡されぬわけだ。


 と、殺した所で何かが身体へと流れ込んでくるのを知覚する。何とも形容しがたいソレは、私の身体の何かを変容させていく。自身が変えられていく感覚は本能的に嫌悪感を抱かせるには充分であるが、そもそもとして私からしてみれば元の身体から全く違う身体だ。


 恐らくだが、これは俗にいうレベルアップとかそういうものなのだろう。『経験』により『格』とやらが向上するのであれば、つまり成長痛のようなものだ。であれば受け入れる事も充分にできたし、何より抵抗しようとすれば余計に力を使いそうだった。


 終えてみればさして違いが理解できない。劇的な身体能力の向上などは無く、そもそもとしてある程度の『格』、レベルがある状態で小物一匹ではさほど変わらないという事なのか。まあ元々箸を折るよりも容易く骨が折れるのだから、恐らくはそういう事だろう。


 手を握って開いて確認していたところで判断はつかなかったが、取りあえずの推測で十分だろう。なにせ現状は私以上に私を観察している、私以上に知識のある人間が存在しているのだから。まあ直接質問が出来るかと言えばそうではないが。


 先程までの実験動物を見るかのような眼差しは今の過程に何らかの価値を見出したのだろうか、どことなく大切なものを見つめるような眼差しに変わっていた。あくまでも情などではなく、宝石の原石を見つけたような視線。いや、それも一つの愛の形ではあるが。


「どう感じた」


 どう答えるのが正解なのか。実はこの世界では今の不快感は正常な人間であれば感じる事が無く、娘が正常で喜ばしく思う父親……という可能性は排除しても良いだろう。むしろあからさまな不快感を示さなかった事が何らかの価値である可能性の方が高い。


 あるいは生き物の命を奪った事に対しての質問だろうか。殺すことに何の良心の呵責も覚えない人間だけが真の家族なのだ……無し、という訳ではない。貴族が持つ相応の義務とやらが庶民の虐殺などであれば笑顔で人殺しでも出来る方が適切だろう。


 まあ流石にそこまでの飛躍は無いだろうとも同時に思う。狭い世界でほんの数年しか過ごしていないとはいえ、それでも同じ人なのだ。人間は、理性的な生命は。すべてがそうだとは言えないにしても、善や正義といった方向を良いものだと感じる筈で。


 無条件の殺人は悪であろうとは思うが、殺人が無条件に悪であるなどと口走れるほどに理想を信じているわけでもない。その上で考えてみれば、自身の娘を道具の様に見ている父上殿はよほど『人間』だろう。つまり理性的に、能力に関して考察している可能性の方が高い。


「成長を」


 故にそう答えた。果たしてその判断が間違っていたかは、父上殿の口の端に浮かんだ笑みが答えだった。

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