表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

5話

 お仕置き、と言えばどのようなものを想像するだろうか。大人と子供で想像する物は違うだろうが、子供が受ける物と言えば例えばおかずが1品減るだとか、お尻ぺんぺん的な物を想像するのではないだろうか。少なくともいきなり鞭打ちまでは飛ばないだろうと。


 結果から言えば、別棟へと隔離されることになった。母上殿に反省してないと判断されたのだろう。言い訳こそしなかったもののもう2度と抜け出さない旨について明言しなかったのだからむべなるかな。出来ない約束はしないのが仇となった。


 物置小屋に反省するまで閉じ込める的な、今までの生活に比べて大分貧相な、しかし恐らくは一般階級に比べて圧倒的に豪勢な生活。加えて今までの教育に比べて大分適当な態度の行儀見習いは、あたかも見放されました感が漂うほどだ。


 まあ実際心情的にはお嬢様教育が無くなったおかげで有難さすら感じるわけであるが、そんなことを表に出してぐーたらしていたら最悪の場合存在しなかったことにされかねないという常識的に考えれば危機的状況である。


 そんな訳で大人しく過ごしていたある日の夜の事である。小腹が空いたのでいつも通りにこっそりと、しかし恐らくはばれているであろうつまみ食いの帰り道の事であった。窓が開き、雨が吹き込んでいる。明らかな異常事態である。


 先程通った時には閉まっていた窓が開いている。当然ながら全自動で開くシステムなどは搭載されていない古めかしい木の作りの窓である。つまり開けた人間が存在している。では何の為に雨の日に窓を開けるのか。開けるか普通。


 であれば当然考えられるのは、外から中に入ってきた人間がいるという可能性。足音を消して歩くなどしていないので、入ってきた人間からは私の接近ははっきりとわかっていたのではないだろうか。つまり窓を閉める間もない位に。


 よく見れば、濡れた足跡がはっきりと最寄りの部屋の戸まで続いている。夜の暗がりのせいでそうと思って見なければ分からない、しかし偽装するには杜撰な痕跡はつまり外からの侵入者の存在を明示している。実に不愉快だ。


 選択肢としてはいくつかあるが、普通の子供が選ぶのであれば気が付かずに窓を閉める、気が付いてしまったので大声を上げるといった所か。あるいは好奇心旺盛であればわざと足跡のある部屋に入っていくかもしれない。


 ……最大の問題と言えば、現在私の部屋となっている場所がその問題の部屋だという点であろうか。つまり何も気が付かずにのほほんと部屋に帰れば侵入者とご対面である。わざわざ命の危険にさらされるなんてのは実にぞっとしない話だ。


 かといって現在この別棟にいるのは私に加えて子供一人、それから行儀見習いの若いのが3人である。誰か大人の人呼んでと叫んだところで来る前に始末されかねない。犯人の手際次第では全滅の危機というものだ。


 そして足音でさっと身を隠す程度には頭のある侵入者。足音で子供とばれていないのは別に相手を侮る理由にはならず、成人男性が見回りをしている可能性を考慮出来る程度には危険度にプラスを加えなければいけない。


「むぅ……べあとりくすか? まどなんてあけてこっそりぬけだすつもりか?」


 だから、そんな抜けた事を言いながら向こう側から歩いてくるじゃりに対して怒りが込み上げて来ても仕方のない事だろう。聞き耳さえ立てていれば今この場に居るのが子供2人だと想像できる内容を、わざわざ聞こえやすい声で。


「ぴゃぁっ」


 音を立てて開くドア。驚いて転ぶ馬鹿。油断なく左右を見回した侵入者は服装こそボロだが手にはキラリと光る長物。剣と呼ぶには短すぎても、子供や寝ている人間の喉を掻き切る程度なら実に容易に成し遂げてくれること請け合い。


 転んで声も出ない様子の子供と、明らかにこちらを警戒している子供。つまり侵入者がこちらを先に始末する事に決めたのは実に当然の結果であり、私にとってみれば最悪の事態の到来に他ならなかった。


 声を出されては困るとばかりに、空いている方の手が口へと伸びてくる。武術の心得など無く、護身術など欠片も習っていない我が身に出来ることなどは無い。諦める思考とはまた別に、身体は反射的にその手を払うように動く。


 手を払うのに間に合わなかった手が侵入者の前腕へと当たる。肉が潰れ、骨が折れたようなべきゃりという音が聞こえて、関節を増やしたように外側へと弾かれる腕。手に残る感触は大きく、しかし見た光景は信じられない。


「あぎゃぁぁぁ!! 腕、うでがぁっ」


 ナイフを取り落とし、ひしゃげた腕を抱えるようにしながら大声を上げる侵入者。もたれかかってきそうになったところを脇へ避けながらローキック、はこちらの脛が痛むかもしれないので踏みつけるようなキック。この状態では走ることはできないでしょう。


 念の為にナイフを回収しながら、四肢の内2本が不能になった様子の侵入者から離れて未だに床に腰を下ろしている役立たずの傍に寄っておく。どたどたという足音はおそらく行儀見習いの足音だろう。これだけ大声を上げれば寝ていても起きる。


 眠気こそ多少あるものの、若干の興奮状態はそれを書き消して余りある。まして部屋の前で大声で叫ばれていては眠れないなぁなどと、現実逃避に走るのは悪い事だろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ