4話
「やあ、初めましてだなベアトリクス」
ある日の事である。朝食を食べ終え今日も淑女教育かと若干憂鬱になっている私の下に珍しい来客があった。というか初めて見る人物に一瞬固まる。
成人男性などという存在を久しぶりに見たが、どことなくエーミール何某に似通った風貌は血の繋がりを感じさせる。フランクな挨拶と若々しい姿に違和感を覚えるものの、一緒に入ってきた豪華なドレスの女性の存在を鑑みるに。
「初めましてお父様」
「ぶっ」
教育の様子を見に来た、あるいは試験のようなものかもしれないと一層気合を入れて挨拶してみれば、何がおかしかったのか男性は腹を抱えて笑い出す。
「ははは、違う違う、くくっ、俺はお前の兄だよ」
「では、隣の方は私のお姉さまでしょうか?」
「だぁっはっはっは、マジかよ、こんな……ふふっ、いや、こっちは俺とお前の産みの母だよ、なあ母上」
「その笑いの意味によっては今すぐ仕置きしますよカール」
「ひぇっ、それはご勘弁」
おどけてみせた男性の方がキリッとした女性の一言に本気で委縮する。それだけの迫力がある人物だった。ハイかイエスで答えさせるタイプではないが返事の前と後にマムを付けさせるタイプの迫力である。
「失礼しました、改めまして、初めましてお兄様、お母様、ベアトリクスと申します」
とはいえ確かに一見すれば姉とも間違えるほどに若々しい美人であるが、好き好んで機嫌を悪くするために動く人間などではないため仕切りなおす。どうあれ間違えたという事は事実なのだから、これ以上失態を重ねる必要はない。
「私にしてみれば産まれた時に抱いて以来になるけれど、確かに貴女にとってみれば初めましてね。第二夫人のカタリナよ」
「俺は家としては次男で、母上の子供としては長男のカールだ」
どうやら実の母親とやらは第二夫人であるらしい。それがどう意味を持つのかは正直分からないが、寒村の貧農の末っ子などとは比ぶべくもない事は確かだ。兄のカールというのは次男、ということは恐らくだが第一夫人に長男が産まれている家督的には理想的な状態なのではないだろうか? 楽観視しすぎか。
「カタリナ様にカール様ですね。どうぞよしなにお願いいたします。ところで、お兄様とお話しできるという事は、作法については最低限認められたという事でしょうか? それとも先日の遭遇が問題に?」
「んー、母上、俺って子供のころからこんなに賢かったっけ?」
「賢しいように見えて問題は起こすあたり、貴方の妹よ」
溜息を吐かれた。はて、心当たりが多すぎて困ったな、どうせ全部含めてを指しているのだろうが。