3話
2歳を迎えるころには食事も立派に食べれるようになり、端々の動作に目を瞑れば一般的な貴族の作法を習得したと言えるほどになった。小走り程度なら熟せる体力や動作自体は熟せる技量とは裏腹に根本が女性らしくないためか傍から見てとてもちぐはぐな様子。
「子供とは思えない程聡明で、なんとも言い難い大人びたご様子なんですが……」
「礼儀作法もたどたどしさがほとんどないし、私あの位の時なんて多分もっと酷かったとは思うんですけど……」
「物の見方というか、考え方というか、どうにも子供とは思えない点とは逆に……」
「「「御淑やかさとか女の子らしさが足りないのよねぇ……」」」
というのが私について話していた行儀見習いさんを盗み聞きしたときの事である。子供であることを上手い事免罪符にこっそり部屋を抜け出して回ったりするのも、どうやら腕白小僧ならぬ小娘っぷりに拍車をかけている様子。
かといって私も多少は改善のために努力をしたものの、魂の性別が拒んでいるとでもいうべきか、理性や本能を超越した魂レベルでとでも言うべきか。嫌悪感とまではいかないものの女の子になりきるということに対しては非常に抵抗を感じているのもまた事実。
実際中身だけで考えてみればおっさんが真面目に幼女の真似をするわけである。最早テロだ。その想像に嫌悪感を感じるレベルである。子供の真似ですら放棄しがちな私が多少なりとも努力したという時点で逆にすごい事なのではないだろうかと自己弁護すら始める程だ。
とかく、2歳児にしては異常ともいえるマナーを持ちつつも、常識的な問題とは別ベクトルの問題が発生しているせいで対応に困るお嬢様というのが、現在の私ことベアトリクスと名付けられた小娘に対する評価というわけだ。
「おい! おまえだれだ!」
そんな折、庭先を散策中に誰何された。舌足らず気味な子供の声に振り返ってみればおよそ3、4歳であろう男の子がこちらに向けてキラキラと視線を向けていた。
「初対面の女性にお前というのは、いささかマナーが悪いと思われますよ?」
「む! じゃあなまえでよぶからおしえろ!」
人に名を聞くときは自分から、などというルールは前世のものであって今生においても適用されるかは知らないが、少なくともこの子供が十分な教育を受けたと言えるかは論外という採点を下すほかないだろう。男子の教育は緩いのだろうか。
「……ベアトリクスと申します」
「うむ! べあとりくすだな! わたしはえーみーるだ!」
ふんすという鼻息すら聞こえてきそうなドヤ顔で自分の名前を言う小僧に、自己紹介程度は出来るのだなと多少評価を改める。精々がマイナスからマイナスになった程度の上昇だが。
「エーミール様はどうしてこの様な所にお越しに?」
「たんけんだ! いつもへやでべんきょうばかりだからな!」
どうやら女の子に対する教育基準が厳しいわけではなくコレも抜け出しただけのようだ。最低限のマナーも出来ずに万が一来客とでも遭遇したらどうするのだろうか。何も考えていないのだろう。現に大声でこちらに話しかけているあたり、見つかったらどうなるかの想像もできていなかったらしい。
「坊ちゃま、見つけましたよ」
「ぴゃ!」
私も見たことのある行儀見習い女史に軽々持ち上げられてあっさりと捕獲され連れていかれる光景はやはり子供でしかなく、異世界の貴族とはいえ子供はやはり子供だと認識する。
「子供の相手は大変だな……」
「それをお嬢様が言うのはどうでしょうか……」
名前を大声で呼ばれていた時点でこうなる事はわかっていたと持ち上げやすいように脇を開く私に対して、溜息が吐かれるのであった。




