第297話
ルシファーが空中で俊敏に回転し、トモエを大地に振り落とす。
「まだまだ、これからよっ!」
着地と同時にトモエは即座にジャンプし、再度、ルシファーに挑むのであった。
それから五分以上、トモエとルシファーの激しい攻防は続いた。
「ふぅ……アンタ、本気を出してるの?」
「ハァ、ハァ、当たり前だろ……そう言う君は本気を出してるように見えないな」
「そう?じゃあ、これなら──どうかしらっ!」
ここでトモエがルシファーの尻尾を両手で掴み、物凄い力で地面に投げ付けてみせる。
「──ッ!」
爆音を立ててルシファーは大地に衝突したものの、
「クッ!」
と、すぐに起き上がった。
(今だッ!)
(この機を逃す訳には行かないでござる!)
晴十郎と海人はルシファーが地面に落ちている今が攻めるチャンスと見て、走り出そうとした。けれど、
「ルシファー君……」
アランがルシファーの前に立ち、小さく声を掛ける。従って、
「アランさん」
「…………」
思わず晴十郎と海人は足を止めていた。すると、
「ハァ、ハァ……アラン……」
「弱り過ぎや。ルシファー君、これ以上は……」
「僕は、[僕]で在るよ……アラン、ここは危険だ……ストレンジエッグ」
「えっ!?」
ルシファーは[孤独]となる白濁色の球体[ストレンジエッグ]にアランを閉じ込めた。
「ルシファー君?……ルシファー君ッ!」
ストレンジエッグの中からはアランの声は外に届かない。
空へと飛び立つルシファー。
「晴十郎、ちょっとしたチャンスだったのに何をボーッとしてるのよ。わざわざアタシがルシファーを地に落としたのに」
突っ立っている晴十郎の所へ行き、ガッカリしつつトモエが口に出す。
「いや、あの、アランさんがルシファーと話してたから……」
そう言い訳する晴十郎に、
「良い?晴十郎、アタシがルシファーの所までアンタを運んであげる。だから、その後はアンタが頑張りなさい」
などと、色を正してトモエが述べる。
(……やはり闘神が邪魔だな……)
トモエを目障りに思いながら、ルシファーは空中で停止飛行したまま全身に力を込めるのだった。対し、
「──皆ッ!気合い入れなさいッ!この感じ、ルシファーは何かとんでもない事をする気よっ!」
逸早くトモエがルシファーの妙な威圧感に気付き、警戒するように全員に告げる。
「ハァ、ハァ、出し惜しみはしない。俺の[切り札]を見せてやる」
千代のスウィートハートで高度を制限される中、ルシファーは弱った状態で言った後、
「……ダークスター」
あっさり切り札を使うのであった。
けれど、何も起こらずに五秒が経過し、
「……何?[切り札]って、ルシファーは一体何をしたの?別に何も──」
なんて、ルシファーの切り札が分からずにノノメが呟いた時である。
ルシファーが飛行する位置よりも高い上空から、漆黒の球体が晴十郎達のいる大地を目掛けて落ちて来たのだ。それに気付き、
「何だ?アレ」
晴十郎が目を丸くする。
十メートル以上ある大きな漆黒の球体──[ダークスター]は、見る者に恐怖を植え付け、滅亡を思わせる程の禍々しさがあった。
「チッ」
軽く舌打ちをしてから、果敢にトモエはダークスターに向かってジャンプしてみせた。しかし、その途中で、
「──グッ……」
容赦なくルシファーが尻尾でトモエの脇腹を打って吹き飛ばす。
「トモエちゃんッ!」
叫ぶノノメ。同時に、
「風刃ッ!五連ッ!」
五つ、海人が風刃を連続で放つ。だが、ダークスターは風刃を物ともせずに落下を続けた。そこへ、
「使うべきは今──おおおおおおっ!」
魔具[クスノキ]に宿る魔法[巨大化]を使い、黄左衛門が二十メートル近くまで大きくなる。
(あの球体の威力を少しでも弱めるッ!)
より神パワーの結界を強力にして、ダークスターを小さく弱くしようとゼロイチは自身の力を限界まで引き出していた。
「黄左衛門、俺を肩に乗せてくれ!」
「拙者も!」
晴十郎と海人を両肩に乗せて黄左衛門が天を仰ぐ。
ゼロイチの力もあり、大地に迫るダークスターは一回り小さくなっていた。
「行くぞ~!」
黄左衛門は姿勢を低くしてから思い切りジャンプし、
「ふんっ!」
落ちて来たダークスターに頭突きをするのだった。結果、
「ぐあっ」
強く弾き返されたが黄左衛門は怯まず、すぐに後ろ足で立ち、ダークスターを前足で受け止めた。次いで、
「海人、行くぞッ!」
「うむっ!」
黄左衛門の両肩から晴十郎と海人が跳躍し、
「うおおおおッ!」
「旋風斬りッ!」
全力でダークスターに向かって行った。
「ウググッ!」
踏ん張る黄左衛門。
「おおおッ!」
「むううっ!」
晴十郎と海人の猛烈な攻撃により、ダークスターはヒビ割れ、派手に砕け散った。次の瞬間、凄まじい衝撃と爆風が周囲に広がったのである。
「……ううっ……皆、無事か?」
荒れた平原、ヨロヨロと晴十郎は立ち上がった。
「うむ、何とか……」
「オイラも平気さ。ギリギリだけどね」
海人と元の大きさに戻った黄左衛門も起き上がる。加えて、ノノメや千代やゼロイチなど──皆、負傷はしているが戦意を失う事なく、ルシファーとの戦闘を続けようと顔を上げていた。更に、
「皆、無事みたいね。とりあえず良かったわ」
とてつもない速さでトモエが舞い戻る。
──薄暗かった空は、白々と明け始めていた。




