第294話
校庭の真ん中で立ち止まり、ゆっくりとルシファーが振り向く。
「アランさん、これ、もうボックスゲートを閉じちゃって下さい」
と、晴十郎はアランにパンドラの箱の[蓋]を渡した後、ルシファーと対峙した。
「あ、うん」
すぐにアランが持っていたパンドラの箱に蓋をする。
「……全てをぶつけて、命懸けで戦う気になったかい?晴十郎」
落ち着いた声でルシファーが聞くと、
「ああ、命懸けでオマエに全てをぶつけてやる!」
強く答えてから、晴十郎はリッカを左手で持つのであった。
「そうか……ならば、君の全力を今すぐ俺に見せてみろ」
そうルシファーが促すや否や、
「言われなくても見せてやるよ!」
と言って、晴十郎は右手を前に出すと、
「──皆ッ!来いッ!」
召喚魔法を使い、全員を一斉に呼び出してみせたのだ。
「……ついに、この時が来たでござるな」
海人、
「アッ!あのパンドラ様をお姫様抱っこしているのが、ルシファー……」
ノノメ、
「これが最後の戦いになるのでしょうか」
千代、
「皆を一斉に呼び出すって事は、本当に本気なんだ。晴十郎」
黄左衛門、
「いよいよ最終決戦か」
ゼロイチ、五人がルシファーと対峙している今の状況を把握して、真剣に身構える。そんな中、
「晴十郎、時間外の呼び出しは契約違反よ。後で、大量の甘き物を要求するからね」
緊張感も無く、普段通りの調子でトモエは晴十郎に伝えていた。
「あ、うん、分かった」
そうトモエに返した後、パンドラの身を案じて晴十郎が皆に述べる。
「皆、パンドラはルシファーとの一対一の戦いの末に──今は気を失ってヤツの腕の中だ。とにかくパンドラを救い出すまでは無茶しないで慎重に戦おう」
「慎重にって言われても、パンドラ様が解放されない限りは戦う訳にも行かないんじゃ……」
芳しくない現状を見てノノメが口に出す。続けて、
「せめて、あの二人が少しでも離れたら、その隙に私がスウィートハートでパンドラさんだけを引き寄せるのに……」
魔具の杖[ベルカント]を両手で握り締めながら千代は言った。
「無茶は出来ない、か」
気絶しているパンドラを見てはトモエが呟く。そこへ、
「なるほど……今、晴十郎が持てる全ての力という訳か、良いだろう。君の全力に対し、俺も全力で戦おう!」
などと、ルシファーは晴十郎の全力に応えて、
「ハアアアアッ!」
惜しまずに全ての力を出してみせるのだった。
「──何だッ!?……煙?」
数歩、前に進み晴十郎が口にする。
突如として、ルシファーの全身から勢いよく黒煙が噴出し、瞬く間に周辺に広がったのだ。
「ムッ!?これでは何も見えないでござる」
顔を歪める海人。
校庭全体を包むかのような奇妙な黒煙に、晴十郎達の視界が封じられてしまう。
だが、一分ほどで黒煙の噴出も終わり、
「ん?」
徐々に晴十郎達の視界も復活する。
「晴十郎、そして、その仲間達……これが、俺の本気になった姿だ」
消えて行く黒煙の中からルシファーが言う。
「エッ!?こ、これがルシファー!?……マジかよ……」
神パワーを引き出し、視力を上げつつ晴十郎は真っ先にルシファーの姿を確認していた。更に、
「ルシファーも本当に本気を出したって事ね」
「大きくて、物凄く強そうだ……」
ノノメや黄左衛門、
「ここまでルシファーがするって事は、かなり追い込まれている証拠でもあるわ。当然、追い込んだのは[三代目パンドラ]ね」
「さっきまでとは威圧感が全然違うな」
トモエやゼロイチなど、次々と皆も本気を出して変わり果てたルシファーを目にする。
「こ、この姿は……ブラックドラゴン……」
凝然として千代が呟いた通り、黒煙が消え去って出現したルシファーの姿は──闇よりも濃く、体長が15メートル以上、大きな翼のある黒竜であった。




