第287話 災厄
僕達がヨハンへ着いて、夕刻、山道を進んでいると、
『やぁ、はじめましてー』
と、ラーフラが不意に登場したのである。
『…………』
ひとまず僕達は足を止めた。
『まさか、あの悪魔の大軍を君が止めるなんて意外だったよ。ルシファー』
警戒や恐れも見せず、僕の前へ来てラーフラが口にする。
『もう僕の名を……神が何の用だ?』
『ちょっと御礼を言おうと思ってさ。悪魔達の一件とパンドラの事でね。ありがとう』
『そうか……あの子に木箱などを与えたのは君か……』
『まぁね。でも、どんな理由であれ──罪には罰、大変だと思うけれどパンドラには清算して貰うわ。私は遊神、名は[ラーフラ]、天帝の次に偉いのよ?だから、特別な人間でも特別扱いはしないわ。平等こそ神よ』
『……君が天帝の次に?……[天帝]、ソイツが──このセカイを創造したのか……今、その天帝は何処に居る?』
僕が昔からマテリアだけではなくヨハンやゴッドセーブにも足を踏み入れ、流浪していたのは、このセカイを創造した者を捜していたからでもある。一度、会ってみたかったのだ。しかし、見つけられなかった。故に、ラーフラに会った事で僕は天帝の居場所を聞き出そうとしたのであった。
『……ま、天帝と戦う気は無いみたいだから教えても良いわよ。天帝はゴッドセーブ内でも更に特別な所に居るわ』
全てを見抜いているような瞳で僕を見つめ、易々とラーフラが天帝の居場所を教える。
『特別な所?』
『そうよ。ゴッドセーブの南端に[須弥山]と言うメチャクチャ高い山があってね、その麓に天帝は居るわ。見た目は白髪の老人だから、すぐに分かると思うわ』
『……ゴッドセーブの南端にある[須弥山]、その天辺じゃなくて麓に居るんだね?』
『ええ、そうよ。まだ天帝も[有頂天]にはなれないのかもねぇ。きゃはっ!』
ラーフラから天帝の居場所を聞いた僕は──次の日、早速、皆とゴッドセーブを目指していた。
恐らくラーフラの配慮だろう。ゴッドセーブに入り、南端へ行くまでに一度も天使や神々は災厄の僕達の前に姿を現さなかった。
『……あの山か……確かに高いな』
夜、ようやく僕達は南端へと辿り着き、遠方に見える唯一の高い山、星明かりに照らされた[須弥山]を確認する。
須弥山の周りには森があり、とりあえず明日、僕達は天帝に会いに行く事にした──
明朝、
『皆、今日は僕が天帝と会ったらさ、二人だけで話をさせてくれ』
そう皆に伝えてから、僕は森の中を歩き出す。
──数時間後、須弥山の麓に到着し、天辺へと続く道を見つける。加えて、その道の端、頭上に二つ光輪が浮かぶ白髪三千丈の老爺が岩に腰掛けていたのを僕は目にするのだった。
『アンタが天帝だな?』
もう何となく[天帝]と分かっていたけれど、それでも一応、僕は老爺の近くまで行って聞いてみた。
『ああ、そうだよ』
少し頷いては、[天帝]である事を老爺が答えてみせる。
『別に長居する気は無い。聞きたい事を聞いたら、すぐに帰るよ』
『……聞きたい事とは?』
『何故、このセカイを創造──いや、もう、それは構わない……何故、[災厄]を誕生させた?何故、[僕]を……』
ただ正直に僕が問い掛けると、
『……調和だよ。[幸と不幸]の……その為に[災厄]は存在しなければならなかった』
表情一つ変えずに天帝は返した。
『調和の為……』
『誰かがやらねばならないのだ。それが[君]だったんだよ。それだけの話だ……君自身は、やっぱり[災厄]なんて嫌だったかい?』
『……もしも、僕が[僕]に生まれない事で……そう、僕が[災厄]に生まれない事で、別の誰かが[災厄]に生まれてしまうのならば、僕は[僕]に生まれて良かったよ。僕のような存在は、もう誕生させるべきじゃない。僕だけで充分だ』
『……そうか……』
僕と天帝の会話を──森の中、他の災厄達は草木に隠れつつ聞いていたのであった。




