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王都のそうらん???~階上攻防戦と、階下の殲滅戦 その1~

「所長?」


「所長ぉ!」


「所長ぉぉぉぉ!」


 C.E.(A.D.)3702年4月10日 PM13:14


 本来なら午後のけだるい昼下がり、外気に当たりぼーっとしたい時間。ここは、空調完備で、気圧も調整された研究所のカフェテリア。



「所長? どこですかぁ~!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「所長!」


 どこか、遠くで何かがよぶような声が聞こえる。


「所長?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「あっ、いたいた! 所長?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「こんなところで寝てるし、起きてください。所長!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん」


「し・ゅ・ち・ょ・う!」


「・・・・・・う・・・・・・・・・・う・・・・・・・・・・う・・・・・・・ん・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん」


「起きてください!」


「む・・・・ふぅ・・・・・ふわぁ~~~」


 けだるそうに大きくあくびをするリーダー


「やっと起きた! 所長!」

「ふぅむ・・・しょちょう?・・・・・だれ?それ?」

「所長は、所長です!」

「だから、だれよそれ?」

「あ・な・た・です!」

「はぁ?なんで?」

「ここの責任者ですから、所長です!」

「えーっと・・・・。だから、なんで?」

「ですから、責任者だっていったじゃないですか?」

「え~っ、やだよぉ~って、それより、君は誰?」

「あ、申し遅れました。この研究所の事務経理担当の主任やっておりますミネラムといいます」

「ふ~ん、あ、そう・・・・経理のミネミムさんね・・・じゃあ、君が責任者やってよ?」

「ミネラムです。それから、それは駄目です! 所長が責任者だと、皆さんが言っておられます!」

「はい~ぃ?みんな?」

「はい、リヨン卿とか・・・・」


 上げられる名前を聞いて、『げっ』という顔をするのだが、結局、所長の役職からは逃げられないリーダーである。


 男は、隊員達が配置についたことで、一斉突入の合図を、何も考えていないのか、大声で掛けようとしていた。”ここで首級を討ち取れば、出世する”そんな考えに捕らえられ、また、指示に従わない隊員達へのイライラも相まって、ここに気配を殺してここに来たのか。全くもって忘れていた。だから・・・・


「ぜん×▲☆・・」


 部屋に立てこもるであろう犯人に、自分たちの存在がばれることなど、気にせずに、大声で号令を出そうとした。だが、その意識は、一瞬で飛ばされる。周りに控えている隊員には、何が起こったか理解などできず、また、男も、自分の身に何がおこったかわからないまま、突発的にその場に仰向けで倒れた。


「!!!!」


 突然の出来事に隊員達は、一瞬なにが起こったか理解できなかった。ただ、一人の男が、突然、倒れて、口から泡を吹き、よく見ると股間にはシミが広がっていた。当然、このような状況となれば、現場は混乱する。その場にいるもの、それこそ、隣の部屋で突入待機をしている者や、廊下の角で待機している者達は


『撤退? or 突入?』


 この場で、次にどうするかの選択を迫られる。その彼らの頭の中に浮かぶのは3つ選択肢があるのだが。第3の選択として、この場で待機というのもあるが、今、その選択を選ぶことは、倒れている男が再び立ち上がるのを待つことを意味するのだが、いつ気がつくかわからないものを待つほど愚かなことはない。


『て、撤退!!』

『いや、突入!!』

『いやいや撤退だ!!』

『いやいやいや、ここまで来たんだ突入!!』


 ”今は、”昏倒している男(馬鹿)を見捨てて、突入するか、それとも、回収して撤退するか。隊員達は互いにハンドサインを送りあいながら、どうするかもめにもめ、状況は混乱していく。そうして居る間にも、次第に、妙な匂いが廊下に充満していく。


『!!!』


 漂う悪臭・・・・


『てっ、撤退! 撤退!』

『あいつはどうするんだ?』

『放置だ!』

『え? よいのか?』

『あんな状態のやつを担いでいけるものか! それとも、おまえが担いでいくのか?』

『・・・・・放置で撤退しよう・・・・』


 全員の意思は統一された。男は、2階の廊下に放置されることになる。ジョワン達の部屋の隣から突入しようと対していた者達は、撤退の合図に、部屋から廊下の曲がり角へ移動する。途中、悪臭漂う中を通り抜けた際に、わずかに精神を削られたようであるが、なんとか、廊下の角まで撤退する。


「おい、どうする?」

「ん? どうするとは?」

「このあとのことだ」


 と、先ほどまで、犯人がいると思われる部屋へ突入するため、その隣の部屋に潜んでいた男が、今、そこの廊下で泡を吹いて倒れている男から副官というか、雑用係に指名されていた隊員に尋ねる。


「ああ、一度、本部の指示を仰ごうかと思う」

「じゃあ、このまま、ここで見張ると言うことだな?」

「そうなるかな・・・・ともかく、本部にひとを向かわせてから、最終的にどうするか決まるかな」

「わかった。それじゃあ、本部への確認には俺が行ってくる」

「んん? ああ、よいが、随分と珍しいな?」

「いや、どうもこうもない、さっきからずーっと」


 男はそう言うと、左の袖口をまくり上げる。


「この有様、右も同じような状況なんだ」


 腕は、完全な鳥肌状態。話を聞いていた隊員だけで無く、その場にいる者、全てが、その腕を見て唖然としている。


「腕だけが、突然こうなったんだ」

「腕だけ? おまえ、何かのアレルギー持ちか?」

「いや、アレルギーなんてないぞ?」


 男のうでを見ているだけで、一部の者達まで、なぜか腕に鳥肌が出たようである。


「だから、一時的にこの場を離れさせてくれ。こんなことは初めてだし、軍医に確認してきたい」

「わかった。じゃあ、おまえに任せる。異常が無いようなら、指示をもって戻れ」

「ああ、了解した。それじゃあ、本部へ行ってくる」


 そういうと、袖を元に戻し、男は、廊下の端まで進むと、階下を伺うように、下へ降りていく。やがて、彼の姿が見えなくなると、残った者達は、戻ってくるであろう彼が、本部からの指示をもってくるまで、この場で待機となる。だからといって。何もしないわけではなく。


「おい、あれは、意識を取り戻したか?」

「いえ、ピクとも動きません。それより、悪臭が・・・・」

「あ、もう少し下がるか?」

「でも、それだと、あの部屋を見張ることが・・・・」

「ああ、それもそうだな・・・・しかし、この悪臭は・・・・う~ん・・・」


 立て籠もり犯が居ると思われる部屋をこのまま見張るとしても、そこはかとなく漂ってくる悪臭を我慢するなんてことは、耐え切ることなど、この場にいる者達には、出来そうもなく、今も、SAN値直葬まっしぐらである。


「ここに一人だけ残し、もう少し後ろへ下がる。ここで監視を希望する者はおるか?」

「「「・・・・・」」」

「希望者無しが、それでは、一人指名「待ってください。それならクジにしましょう!」、は?」

「公平なくじで決めれば、もめることはないですよね?」

「ふん、誰がそのくじとやらを作るんだ?」

「それはこの提案者の「「ちょっと待て!」」、な、なんだ?」


 結局、ジョワン達の部屋から離れているとは言え、話し合いをする声は、次第に大きくなり、廊下で倒れている男同様、自分たちの任務を忘れて、階下まで聞こえるような口論にまで発展する事となる。


 ---

 ジョワン達に下賜された屋敷は、王国軍の訓練施設でもあったことからそれなりに広い。実際、ナインが侵入した裏手から、玄関へ続くであろう廊下も、一見するとまっすぐに見えるのだが、一部行き止まりにみえるところや、急に廊下の幅が変わるところなど複雑な構造になっている。


「前方に複数の気配・・・・このまま進めば、遭遇するか・・・・どうする・・・・」


 そして、今、ナインは、そんな廊下の見えない前のほうから先から数名の人間がこちらに向かってくる気配を感じていた。


「戦うか、それとも、あの方と合流を急ぐべきか・・・」


 その気配は、一般人ではなく、明らかに訓練を受けた人の気配、それも相当手練れであり、彼女は、その気配から感じ取っていた。


「下手に、戦うと、あとから応援が来て、私にとって、不利になる。それに師匠やリタ姫との合流も難しくなるわね・・・ここは、どこかでやりすごしたほうがよいかしら」


 彼女は、少しばかり考える。本来ならば、ここで優先すべきは、王弟姫(リタ姫)との合流である。が、屋敷の中にその気配が感じられない。


『となれば』


 そして、彼女は、階上を目指す。


「階段はどこだ?」


 彼女にとって、ここは、初めて訪れる屋敷であり、構造など知る由もない。なので、これまでの経験則からの勘で廊下を進んでいく。


「それにしても、普通の廊下が続いているようだが・・・・なんだ、この違和感は・・・・」


 ふと立ち止まり、振り返る。そこには、ささくれだったように分岐して廊下が所々に見える。


「向こうからくると、廊下が変に分かれていくように見える? どういう構造????」


 彼女が最初に忍び込んだ所から玄関、または階段があるであろうとところへ向かって行くと、直線と直角の廊下にしか見えない。廊下をどちらからあるかで、見える風景が異なるようである。ここは、元訓練施設を改造した屋敷であるため、こういった不思議な構造をしているのだが・・・・


『ん? 気配が近い?』


 このまま進むにしても、ここで立ち止まるにしても、敵と遭遇することはほぼ確定である。


『ここで切り伏せるしても、狭い廊下で戦うのは・・・・』


 彼女の得物、”剣”。振り回すにしても、少しばかり立ち回りが難しい場所であり、先ほどのように、敵が、煙幕と投擲系の武器を使ってきた場合、躱すことは、造作もないにしても、無傷でいられるかと言えば、この場では難しく、特に、神経性の毒など使われたら厄介この上ない。


『そうだ・・・・』


 ナインは、来た道をすこし戻る。そこには、廊下に面するように扉がある。どちらから見ても、それその扉は見える。たまたま先ほど振り返った特に見つけた扉である。ノブに手を掛ける。


 ・・・カチリ・・・ 


 少しばかり小さな音を立てて、扉が開く。と同時に、こちらへ向かってくる気配が、より強くなる。


『・・・・・開くようだな。。。。さて、ここへ誘い込むか・・・・』

 

 ナインは、部屋の中へ滑りこむと扉を閉める。


 バタン!


 その音は、廊下に響き渡るほどに大きく。当然、ナインの方に近づいてくる気配は、先ほどより早くなる。ナインは、微妙に狭い廊下を避け、部屋に誘い込むためにわざと大きな音を立てて閉めたのである。そして、『クリア!』という声と人の気配が次第に彼女の待つ部屋へ、そう、ナインが、手ぐすね引いて待ち構えているとも知らずに。


 ---

 

「おい! どうなっている?」


 屋敷前に設営された対策本部、この場の責任者風の男、この事件は簡単な仕事と見て手柄を立てたいだけの男が、偉そうに座っている。


「は! そ、それがまだ」

 人質救出という名の下に非番の兵士までも呼び出し、屋敷へ突入させた。それから数刻。何の報告もない。だから、男はイライラしていた。


「どういうことだ? 王国軍の最精鋭達を送り込んだんだぞ?」

「は、はい。それが・・・・」

「「それが」なんだ?」


 確かに、要人救出を最優先にしろと檄を飛ばした。だがそれは、要人である”宰相”以外の人質は、どうなってもかまわないと言う命令であったため、ほとんどの兵士達が、その命令に嫌悪感抱くことになる。なので、その場にいる兵士の動きは鈍い。ただ、一部、男の命令に従う者も居るのだが、そういう者に限って、日頃の行動に問題がある者達が多い。


「宰相誘拐犯が、元訓練施設であるこの屋敷に立てこもっている以上、すぐに解決できる話だろうが? 一体、どうなっているんだ!!」

「ですから、まだ」

「”ですから”だと? この屋敷の図面が、こうしてあるんだぞ?」


 男のイライラが次第に募っていき、怒りのボルテージがMAXに近づいていく。


「さっさと、片付けろ!」


 だから、”当然”、怒鳴る。その顔は怒りで真っ赤である。


「た、隊長! た、大変です!」

「なんだ!」


 なので、不機嫌さ満載で返事をする。


「リタ王弟姫様が、こちらにいらっしゃいました」

「はあ? 王弟姫(リタ)様? どういうことだ?」

「それが、警戒線の所に来られまして。この近辺を滞在されているとのことで・・・」

王弟姫(リタ)様が、このあたりに?」

「はい!」

「わかった・・・・そうだな・・・・」


 少し考え込むと


「この場の状況について説明を求められております。いかがいたしましょう?」

「わかった。こちらで”儂の方から”詳しく説明をするからお連れしろ。だが、急いでお連れするなよ。ゆっくり、ゆっくりこちらへお連れしろ。いいな?」

「はっ!」


 男は、自分が事件を解決する際の証人としてうってつけの人物がきたと思った。そのためには、我々へ立て籠もり犯に対して懸命に呼びかけているという状況を作り出そうとした。これがうまくいけばと思うと、顔がにやけてくる。


「今すぐ、立てこもり犯へ呼びかけろ!」

「はっ!」


 男の命令に従い。屋敷に向けて呼びかけが行われる。


『立て籠もり犯に告ぐ、無駄な抵抗はやめ、直ちに人質を解放しなさい!』


 それも、わざと周りに聞こえるように、それこそめったに使われるとが無い拡声器を使われる。


『立て籠もり犯に告ぐ、無駄な抵抗はやめ、直ちに人質を解放しなさい! 命の保証はする』


 繰り返し、繰り返し。やがて


 ブン!


 風を切る音が聞こえたかと思うと、男が設営した本部テントの屋根が、ズタズタに裂け、目の前にあるテーブルも真っ二つに割れる。


「あ゛っ?」


 男が理解できない事が起こる。一瞬、男の顔が真っ青になるのだが、次第に、事態を理解するにつれて、すぐに顔が真っ赤になる。


「はっ! 犯人に告ぐ、む、無駄な抵抗はやめ、すぐに人質を解放しろ! さも・・・」


 兵士は、その惨状に動揺し、小声で呼びかける。


「貸せ!」


 真っ赤な顔をした男は、拡声器を奪いとると


『犯人に告ぐ、無駄な抵抗はやめ、すぐに人質を解放しろ! さもないと貴様らの命の保証せん!』


 それこそ大声で怒鳴る。


「た、隊長。リタ「それは、どういう意味ですか? ジョワン様たちがまだおられるかもしれないお屋敷に対して、どういう意味ですか?」」


 リタは、男の”呼びかけ”の言葉が人質となって居るであろうジョワン達の身の安全を考えられていないことに、疑問の言葉をぶつける。


「だ、誰だ? その「隊長、リタ王弟姫様です」!」

「・・・・・こ、これは、これは、リタ王弟姫様。こんな危険な所へ、殿下の身に何かあると私共の責任になります故、申し訳ございませんが、立ち入り禁止の線より外へお戻りいただけますか?」

「いえ、ここは、”わたしが”滞在しておりますお屋敷であり、命の恩人であるジョワン様達が住まわれるお屋敷でもあるのですよ? それに、先ほどの、”命の保証はしない”! とか、どういう意味で言われたのですか?」

「いやいや、参りましたな。殿下、立て籠もり犯は、宰相閣下を誘拐した極悪人なのですぞ? もし、住人がいたとしても、とっくの昔に殺されているかしているに違いありません。それに、王都における要人警護については、要人の生命確保が最優先となっております事など、王弟姫様におかれましては、ご存じでございますでしょう?」

「そ、それは、父より聞いておりますが、それでも、ジョワン様たちが無事かどうか確認されたのですか?」

「確認するも何も、この手の犯罪者は、人質の命を盾にして交渉するのが、当たりまえ。それがこれまで全く無いのですよ? ならば、宰相閣下と住人を比べれば、逃亡するのに邪魔になる住人などはいない」


 結局、男は、『住人など言う邪魔な存在など、とっくに始末されており、ここらの逃亡に利用できる宰相閣下のみが、屋敷の中で生きている』と、”何の確認もせず”判断していた。


「それは、王国法で定められた規則に違反する行為であり、きちんと、住人の安否の確認を。それに、たとえどのような犯罪者であっても、殺してよいわけはありません!」


 リタは、男の言葉に、顔をしかめながらも言い返す。が、


「建前上はそうでしょうが、宰相閣下の安全が第一です。そのためには、多少の犠牲など取るに足らない。おわかりいただけますかな? 殿下」


 リタの抗議など全く意味がなく、この場にリタが居ること自体が邪魔でしかないと言わんばかりの態度で言葉を返す。


「とにかく、先ほど、”ここ”は、屋敷の中から攻撃を受けました。王弟姫様のような方がこの場に、居ていただくわけにはまりません。申し訳ありませんが、安全なところまで、お下がりください」


 言葉こそ丁寧ではあるが、慇懃無礼な態度をとる男は、リタを連れてきた兵士の方を向くと


「おい、殿下を”安全な所”まで()()()()()()()()

「はっ!」


 王族である王弟姫に対して男がとった対応は、不敬にあたるのだが、この場にいる兵士達は、異を唱えることもなく


「リタ王弟姫様、どうぞ、こちらへ、ご案内いたします」

 

 兵士の一人が彼女を案内するため声を掛ける。


「・・・・・・」


 父親が王弟であったとしても、リタの身分は、その娘としての王弟姫なだけであり、この場ので、男の指示を覆せるだけの権限を持っているわけでない。あるのは王族であるという立場のみ、この場で彼女が出来ることは。ただ、無言で男をにらみつけることだけである。


「立て籠もり犯へ呼びかけろ、それから、待機班には突入の指示を出せ」

「はっ! 宰相以外の人質が無事な場合は「ド、ドーン!」」

「な、なんだ、あの音は!?」


 遠くから何かが破壊された音がする。その突然の破壊音に本部はいきなり慌ただしくなる。


「なっ、なにごとだ!」

「わ、わかりません!」

「ただいま、状況の確認をしております」


 しばらくすると、「敵襲!」と言う言葉とともに一人の兵士が駆け込んでくると共に、事態は急変していく。


「なんだと? 共犯者か? 立てこもり犯の共犯者なのか? 人数は? 裏手へ応援を、いや、一刻も早く屋敷を制圧しろ、宰相閣下の確保を急げ! もう一刻も猶予はならん! 急げ! 最優先だ!!」


 男は、”檄”を飛ばす。だが、この突然の出来事に、リタの案内は後回しになっていた。だから、リタは改めて人質の安否確認を優先するように、強い言葉を投げかける。


「ジョワン様たちの、住人の安全も確認して「何をしている、さっさと殿下を()()()()()!」」


 リタが必死の訴えかけるのを遮るように、男は命令を下す。かくして状況は一挙に進み始める。このとき、連れて行かれるリタ王弟姫の肩に、いつの間にか鳥が舞い降りていた。


 ---


「ふう。なんとか片付いたわね」


 ナインは、大きく深呼吸をすると、これでもかと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。空き部屋に兵士を誘い込むこと2回。近づいてくる気配もなくなったことから、彼女は、2階にいる師匠に合流するため、慎重に先へと進む。とは言え、辺に入り組んで複雑な形状をした間取りと廊下ではあるため、実際んいは、それほど広い屋敷ではない。


「このまま進むと、玄関付近まで行くことになるけど、この連中、おそらく玄関方向から来たんだろうから・・・・・」


 彼女は、このまま進むと面倒になりそうな気がした。あくまで気がするだけ。なので、確認する必要がある。


「仕方ない・・わね・・」


 倒れている兵士の一人を起こす。


 パチパチ


「おい、起きろ!」

「・・・・うっ、う~ん・・・・」


 ほおを軽く叩いて起こそうとするのだが、うなるだけである。

 

 パチ~ン、パチ~ン! 


「おい。起きろ!」

「・・・い。痛い! な、何を・・・・はっ、こ、お、おまえは誰だ!」


 叩かれた痛みで起こされ、あたりを見回すも、その胸ぐらは、きつく掴まれている。


「誰だと? 問答無用で襲いかかってきたくせに、何をいうかな?」

「う、うるさい! 犯罪者が!」

「は? この私が、犯罪者だと?」


 いきなり犯罪者呼ばわりをされ、ナインは気分を害したのか、さらに胸ぐらを締め上げる。


「く、くるしぃ」


 息が出来なくなり、彼は再び意識が遠のき始める。後の、このときの事を彼は、『胸倉を掴まれ締め上げられただけなのに死を覚悟しました』と、語っていたとか。


「眠るんじゃない。聞きたいことがある。おい?」


 当然、再び意識を手放し掛けていた男の頬を”ぺちぺち”と軽く叩く。当然、意識を取り戻すのだが


「ひぃ~! 。い、命ばかりは、お助けを!」


 開口一番、命乞いである。ナインには、ここで兵士を殺す気など全くなく、単に無力化しただけである。が、彼にしてみれば、周りに、ものいわぬ塊と化した同僚の兵士たちが転がっており、自分の胸ぐらを掴んでいる女性が放つ殺気のようものに飲み込まれていた。


「いや、命を取るとそんな弱い者いじめのようなことはしないわよ」

「・・・・!?」


 相変わらずの殺気が放たれているが、にこやかな表情を浮かべている相手を見て、兵士は完全に怯えていた。なぜなら、目の前にいる女性の目が全く笑っていなかったからである。なので、『自分は、ここで死ぬんだ』と、絶望感に襲われていた。


「いくつか質問するから正直に()()()()?」

「・・・・」

「いいわね?」


 彼女の圧に対して、彼は無意識に大きく何度も頷く。


「私のことを犯罪者と言ったわよね? その理由は? それに、どうしてここに来たの? 誰かの指示?」

「・・・・・」


 彼は、弟子の称号など持たない、単なる兵士であり、上官命令は絶対である。ここに来たのは、その上官の指示であり、具体的な内容は聞かされてはいない。ただ、ここに王国要人を誘拐した犯人が逃げ込んだ。だから、要人の救出と犯人の生死不問の捕縛しろと命じられただけである。

 

「黙ってないで、答えなさい?」


 全く目が笑っていないままで、にこやかな表情のナインが、兵士に詰め寄る。知っていることは、大雑把な内容だけであり、それを話しただけで、済まないような気がしていた。


「お口は付いているんでしょ? だったら、答えなさい?」


 彼女は、彼に問いただしていた。その彼の視野に、同僚の兵士が、頭を振り意識を取り戻しかけているのが見えた。女は自分に詰問している。このままうまくいけば、背後から、この女を押さえ込むことが出来る。彼はそう思い。答えるのを引き延ばそうとしていたのだが・・・


 ビシッ!


 硬質な音がしたこと思った瞬間。


「うっ・・・・・」


 軽いうめき声とともに同僚兵士の身体が、一瞬、痙攣したかのように跳ねる。


「話を聞くのは一人でよいからね?」


 女が何をしたのか、兵士には理解できなかったが、ただ、何かを飛ばして、背後の兵士の意識を刈り取ったことだけは、理解できた。


「で、答えてくれない? ああ、別の子を起こして聞いても良いけど、どう?」


 その言葉に、彼は、高速で何度も頷くしかなかった。

 

 この後、ナインは、兵士が知る範囲の内容を聞くことになるのだが、自分を目当ての追っ手では無いことが確認できただけで満足するも、最初の部屋でおいてきたのが彼らの探している重要人物であることをなんとなく察することになる。が、それが誰なのかを知るのは、もう少し後のことになる。


 ---


「指示を仰ぎたい」


 2階から下りてきた兵士が、玄関付近に陣取る部隊長らしき男にそう尋ねるのだが、


「は? おまえ達の上官はどうした?」

「それが、人質か犯人が立てこもる場所は特定できたのですが、突然、2階の廊下で倒れてしまい」

「はぁ? 倒れた? どういうことだ?」

「突然、倒れました」

「犯人に撃たれたとか、攻撃を食らったのか?」

「いえ、そんな痕跡はありませんでした」

「じゃあ、どういうことだ? どうして、倒れた?」

「それが、どうして倒れたかのか、全く我々には皆目見当もつきません。ですが、そのため、作戦を続行しても良いかどうか、判断が難しく・・・」 

「続行に決まっているだろうが? 貴様、なにを寝ぼけたことを言っている?」

「はあぁ、ですが、上官が廊下で倒れたままでして、そのまま突入作戦を続行するのはどうかと・・・・」

「貴様ら、倒れた上官の救護をしておらんだと? どういうことだ!?」

「ですから、特定した場所に近い廊下でして、教護するにも救出した際に、また、攻撃を受けると、さすがに・・・」


 この場にて、なし崩し的に突入の指揮を執ることになった男にとって、兵士の言うことは”確かに”と理解は出来るのだが、それでも、上官を見捨てたままと言うのは、看過できない話である。


「それにですね・・・・」

「なんだ? 言ってみろ」

「はあ、それが廊下に汚物が・・・」

「なんだと? 犯人は卑劣にもそのような事を!」


 と憤るのだが。


「いえ、そうではなく手ですね・・・・なんと言いますか・・・・」

「はっきり言え!」

「・・・わかりました。上官殿は倒れた拍子にですね・・・・えーっと・・・察してください」


 さすがにここまで言われたことで、彼は、階上廊下の状況を把握する。


「あ、うん。まあ、そ、それでもだ、上官を救出するのは最優先であろう?」

「ご理解していただきありがとうございます。ですから、上官殿を救出するためにも、何卒、増援をお願いできませんか? その後でしたら、作戦続行も可能かと・・・」

 

 事態がわかっただけに、この増援を求める申し出に渋い顔の指揮官。彼にすれば、屋敷奥の捜査へ向かった者からの知らせが無い以上。さらに捜索のために人を送り込むかどうかの判断をしなければならない中、階上に増援を出すほど余裕はない。


「我々の方も、奥の捜索に人を割いている以上、増援は無理だ・・・そうだな、後方のお偉いさんにでも増援を頼みに行くのが良いだろうな」

「了解しました!」

「いや、ちょっとまて・・・そうだ! この際だ、屋敷を一気に制圧するための小隊以上の増援を出せないか頼んでこい!」

「はっ!」


 彼は奥へ行ったまま全く戻ってこない十名あまりの兵士のことから、後方に増援を求めることにした。今のこの場にいるのは、捜索へ送り出した人数と同数しかにない。階上で待機する兵士とあわせても、今、この屋敷内にいる戦力は心許ないものとなっているのだった。


 ---


 所変わって、王国軍官舎前、非番のカーネル大佐は、王都内で人質立て籠もり事件が発生しているという事態と、非番の兵士に呼集が掛かっていること、それから、その指揮を執っているのが軍の中でも、実働から最も遠い事務局詰めの名ばかり士官だと聞き動かざる得ない状況となっていた。


「ジンじぃの言ってたことが事実として、早朝から宰相閣下を引っ張り出せる人物は、やはり・・・・」


 誰がこの騒動の中心にいるのか。おおよそ見当はつく。そして、その犯人と言われている人物が高級住宅街の屋敷に立てこもった聞いて、当然、どの屋敷に立てこもったのかも、自然とわかってしまう。


「だとして、けが人が出るのだけですむとは思うが、いや、重傷者が出る可能性もある、か、これはジョワン君達の屋敷へ急いで向かった方が良いな・・・・」


 状況を整理すればするほど、大佐では焦る。現場指揮官が、全くの現場知らずで、ずぶの素人である以上、一刻の猶予もない。大佐は、部下数名を急いで呼び集めると、ジョワン達の屋敷へ急ぐ。不必要なけが人が出るのを防ぐために。


「あ~もぉ、所長でよいけど、一体何のようなんだ?まったりと昼寝をしていたのに・・・・」

「あ、そうでした。そうでした」


 ミネラムは、そう言うと、


「お~い。こっちだ。頼む!」


 そう合図をすると、台車に積まれた書類の山が持ち込まれる。


「げっ・・・・なんだこれ?」

「こちらは、第一四半期と、昨年の四期、各期のまとめです」

「まとめって?何?これ?」

「執行予算の残額等等を含めた決算情報です」 

「はぁ?って、えっ?」

「それから、未決裁分の書類と、これが今期の残りの予算書です。確認をお願いします!」

「えーっと、未決って?というか、これまでこんなことやってなかったような・・・」

「はい、その通りです。ですが、ようやく、状況も落ち着いたことですし」

「はぁ・・・で?」

「今後の復興計画も含めて、きちんと予算管理をしておかないと大変なことになりますし」

「そういや、復興会議をするとか、知らせが来ていたな・・・・って、えええええ?」

「ですから、予算確認とか、前期までの未決裁の処理などもしていただきたいのすが?」

「な、なんでぇ・・・・」

「ここで、きちんと経理面で立て直しておかないと、大変なことになりますし・・・・皆さん、これについては賛成しております」

「うげぇ・・・・・・」


 リーダーの顔は青ざめる。この後、カフェテリアの夜営業時間になるまで、数時間にわたり、書類の説明を受け続けることなり。終わる頃には、げっそり顔のリーダー。食事するからと、この場を逃れ、さらに、そのまま自室へは逃げ込むのだが。


「う、うそ・・・・」


 リーダーの部屋には、決裁書類が置かれていた。それも山積みで。結局、寝ても覚めても書類とにらめっこになる。全てが終わったのは、1週間後。リーダーは、数kgも体重が減ったのである。

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