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それぞれが考えたこと~理事長夫人、リタ王弟姫・・・・~

C.E.3711. 07.15 12:30


そこは、元々、地下であったため、当然、壁に仕切られていたのだが、今は、強度計算をした上で、何階かぶち抜いた形で、室内公園というには、広すぎる緑の草原と低木に茂る森が広がっている。


「そろそろ、昼か・・・」


リーダーは、ふと手元の見ながらそうつぶやく。


「とうちゃん!これ何?」


少し離れた所から、女の子が元気よく、リーダに声を掛ける。


「ん?えーっと、それはだな・・・・、あれは、なんだっけ?」


横にいる母親訳の研究員に、こっそりと確認をする。


「あれですか?ヴィオラ・トリコロールですね。比較的すぐ育てられる植物で、少し前、種子庫へ行った際にいくつか持ち帰って、増してたんですよ」


リーダーは名前を聞くと、にこやかな笑みを浮かべながら


「それはだなヴィオラ・トリコロールっていう花だ」


と、女の子に、返事をした。


「あそこは、被害が無かったのかい?」

「はい、対象から外れていたようです。ただし、現在の地上からだと、切り立った断崖が数Km続いていると言ったところでしょうか?」

「なるほど、施設自体は無事だけど、地上からは、普通には行けないか。あそこは重要な施設だし、いつでもいけるように、何らかの対策を講じる必要はあるね」

「そうですね」


研究員は、そう答えると


「そろそろ、お昼にするわよ。戻っておいで!」


花を熱心に見ている女の子に、そう声を掛け、「は~い」と言う返事を聞きながら、すぐそばにある崖にを偽装場所の正面、植林されたばかりで、あまり育ってはいない低木に囲まれた広場へ行くと、おもむろに、端末を操作する。


ブ~ン


と低い音がすると、そこには、野外用にテーブルと、椅子が現れた。


「それは?」


その様子に驚くリーダー


「え?ああ、これは、例のシステムを汎用的に使えないかと、おもいまして、こういったものを構築するツールを試作できないかとお願いしたんです」

「なるほどね。う~ん、なかなか面白いもの作ったね。構築するときはどうやってる?」

「設計図になるものを組み込めば、何でもできるとかって、聞いてます」

「ふむ」


やや考え込むリーダー


「とうちゃ~ん!」

「おう、おう、おう、どうした?」

「これ、あげる!」


女の子は、先ほど見た花を摘んできたようで、満面の笑みでリーダーに手渡していた。


「おお、ありがとうね!」


リーダーは、それを受け取ると、にっこりと微笑み返していた。


 マリーは一人、ジョワンたちの元から少し離れたところにいた。そこは、青々とした木々がおいしげってはいるのだが、なぜか、その場所には、休息するのにちょうどサイズの石が、椅子のように置かれている、彼女は、そこに腰掛けながら、ジョワンやリアエルから掛けられた言葉を思い出し、困惑していた。


「どうして、私のことを心配してくれているの?」


 マリーは、誰に聞かれるでもなしに、そうつぶやき、自分の身に起こった事を繰り返し思い返す。そして、どうして自分自身に対して、リアエルが「心配していた」と言ってくれたのかをもう一度、はじめから考えていた。


「あの子は、なぜ、そう言ってくれたの??」


 何度も、何度も、自分に問いかけるのだが、その答えが出てこないばかりか、気が付けば、自分のことよりもマリーのことを”なぜか”心配しているジョワンのことを考えていた。


「ジョワン君も、どうして私のことを心配してくれるの?」


 マリーは、二人で上階から降りて来るときの出来事を、思い返していたのだが、やはり何も答えが出せないままだった。


「どうして・・・・?どうして、あなたたちは、どうして?」


 マリーは、繰り返しつぶやきながら、ただ、ジョワンたちのことを眺めていた。


「どうして?」


 マリーの主であるヘンリー侯爵からは、常日頃から『主』の身の安全だけを求められ、どんなときであれ。それを褒められることもなく、ましてや、その身を心配してもらうことなど皆無であった。なのに、いま、自分は『心配』という言葉を投げかけられ、その言葉の意味にただひたすら混乱し困惑していた。


「どうして、二人は、私のことを心配してくれるの?」


 そんなマリーの視線の先で、理事長夫人に抱きかかえられているというより絞め技が決まっているのだろうか、半ば意識朦朧としているジョワンの姿と、それを見て、慌てる」リアエルの姿があった。


---シュートにて


 シュートの町にある派遣協会本部の廊下を、この日の当番理事である男が何かに追い立てられているかのように慌てていた。彼は、理事長室と書かれた扉の前に来ると、勢いそのままに部屋へ転がり込む。


「理事長!理事長!」


 男は、相当慌てているようで、ぜぇーぜぇーと肩で息を切らせていた。


「なんだ、どうした?慌てて騒々しいい。それより、廊下を走るなと何度言わせれば気が済むんじゃ!」

「あっ、す、すいません!」


 男は一言謝罪すると


「で、なんだ?また、問題でも起こったか?」


 ユリカ達の捜査にジョワンや大佐が向かったのはよいが、そのあと、ジョワンが行方不明になったという知らせを聞き、理事長は、協会として、人員を派遣することができず、大佐に捜査について任せるしかなく、歯がゆい思いをしていた。なので、これ以上何かがあれば、すぐに打てる手はなかった。


「いえ、違います。その反対です。ユリカたち調査隊が発見されました。全員無事とのことです」

「なんと、やはり、無事じゃったか!」

「はい!」


 理事長は、ほんの少しだけほっとしてはいたが、それでも、険しい表情は崩さない。


「そうか、そうか、それで、ジョワンも行方不明と聞いておったが、そっちはどうなっておる?」

「はっ、はい。そ、それが・・・・」

「どうした?何かあったのか?」

「いえ、ジョワン坊ちゃんは調査隊と一緒に居たと報告がありました」

「なんと、行方不明だと聞いて心配はしておったが、あやつが、ユリカたちを見つけたということじゃな?」

「えっ、えーっと。その辺りについては、はっきりとししたことはわからないのですが、坊ちゃんと一緒に居るところを奥様達が発見したという報告が先ほど参りました」

「そうか、そうか。取りあえずは、一安心じゃな。あとは、ジョワン達が戻り次第、詳しく話を聞くことにしよう・・・・」


 理事長は、安堵の表情を浮かべつつ、遠くに見える始まりの塔を見る


「まあ、あれが付いていっておるから、さほど心配することでもなかったんじゃがな・・・」


 理事長は、男の方へと振り返ると、威厳に満ちた声で


「すぐに、ユリカ達、いや、ジョワンたちに迎えの馬車をむかわせてくれんか?詳しい事情を聴きたい」


 と、命じると、男は


「はい、理事長!」


 と、返事をすると、馬車の手配のため理事長室を飛び出していく。


「何はともあれ・・・皆、無事で何によりじゃて」


 再び安堵の表情を浮かべると、理事長は、椅子にゆったりと座り直すのだった。



---


 理事長夫人の絞め技で半ば意識を失いかけていたジョワンや理事長夫人や、大佐達一行は、この階のベースとしている場所まで戻っていた。


「ところで、父さん?父さんのことだから、この辺りの地図は作ってるんでしょ?出してくれませんか?」


 と、大佐は、この上もないほどにこやかな顔で、父であるクラウドに詰め寄るのだが、


「え?な、なんのことだ?」


 クラウドはというと、よもや息子に詰め寄られるとは思っていなかったようではあるのだが、とっさの話に、うまく対応できず、答えながらも、なぜか視線を合わさず、遠くを見ている。


「だから、この周辺、あと、父さん達が使った通路の先も、すでに、調べ上げてるんでしょ?この後の調査は、我々が担当しますから、資料一式を出してくださいね?父さん」

「いやいや、そんなものあるわけないだろ?というか、儂らを排除する気か?」


 クラウドは、かたくなに、無いと言い切りながらも、上層階の調査を断念しろという息子に対して、抗議をしながら、誰か味方になってくれるものは居ないかと、考えを巡らす。


「おい、ハッシュ、ユリカ、ここでの調査は終了しろと言われておるぞ」


 と二人を煽ろうとするのだが


「もともと、そう言う約束でしたし、ここで、調査を交代してもらえるのでしたら、ありがたいですよ」


 と、ハッシュが答え。


「私も、スプリットの支部を空けたままにしているので、調査を交代して戻れるなら大歓迎ですよ」


 と、ユリカも答え、クラウドの意見に同意してもらえなかった。


「ぬ、主らは、それで良いのか?」

「ええ、あくまでも、緊急事態とのことで、受けた仕事ですからね。それに僕にとっては、本業の研究の方が大切ですし」


 ハッシュの言葉に、取り付く島もない。


『考えろ、考えろ、俺。なんとかもうすこしここを調べたいから、考えるんだ俺!』


 やはり、ここにクラウドの味方は居ない。大佐は、それを見透かしたように、声を掛ける


「ハッシュ君、ユリカ君、ここまでの調査結果について、引き継ぎをお願いしたい。で、父さん!」


 追い込まれたのか、だらだらと、変な汗が出るクラウド。 


「それにしても、良い天気だなぁ~、おお、鳥が飛んでる」


 ここは、始まりの塔の中、天候と言うほどものも無く、鳥はと言えば、ジョワンのつれている鳥が、相変わらず、様子をうかがうように、木々の間を飛んでいる。なんとか、この時局を乗り切ろうと必死にとぼけているようである。そんな父親の姿にあきれ果てる大佐ではあるのだが


「ところで、ユリカ君、うちの父なんだが、いつも君たちのそばにいたかね?」

「え?えーっと・・・・」

「そばを離れて、ほとんど居なかったんじゃないかな?」


 大佐は、ユリカにクラウドが、何をしていたかを尋ねるのだが


「ハッシュ、どうでしたっけ?確か、ちょっと様子を見てくると、居なかったような気もするんですが・・・」

「ああ、クラウドさんは、気がつけば、居なかったよ。戻ってくると、何か、ウキウキしてたようだけどね」


 クラウドはといえば、色々と、行動を暴露されて、足下に水たまりができるのでは思うほどに汗を流している。


「やっぱりですか。この後の調査は、本当に我々だけで行います。父さん、地図を出してくださいね?」

「いやいやいやいや、息子よ。おまえ達、それほど人数はおらんだろ?」

「父さん、ご心配には及びませんよ。そろそろ、チエーロからの部隊も、シュート、いや、もう、こちら到着している頃ですからね」


 事実からクラウドに詰め寄る大佐。


「それに、地図なんて持ってないからね?」


 あからさまに怪しい態度のクラウド、なんだかちょっぴり口調も怪しくなる。


「父さん!」

「はて何のことだか・・・」


 大佐達親子のやりとりをただぼーっと見ていたジョワンは、自分たちはどうなるのだろうかと疑問に思ったようで、


「あのう・・・大佐」

「ん?どうした?ジョワン君」

「僕たちは、この後どうなるんでしょうか?」

「その前に一つ確認なんだが、ジョワン君とマリー君の二人は、この階よりもさらに上の階へ行っていたという話だそうだが、それは事実なのかな?」

「はい、気がついたらB350と言う表示がありました・・・おそらくは、ここからずっと上の階だと思います」

「な、なんだと、坊主、おまえ、そんな上まで行ってたのか?うらやましい!」

「父さんは、黙って!なるほど、あそこから、そこまで運ばれたと言うことか・・・・」


 思案顔の大佐と、なんだか釈然としない顔のクラウド。


「で、B375という印のある階ところで、ユリカさんに会えたんです」

「ユリカ!、おまえ、儂を差し置いて、どうしてそんなところへ行ってるんだ!」

「父さん!いい加減にしてください。これ以上騒ぐようなら拘束しますよ?」

「な!」


 息子である大佐に厳しく言われて黙りこくるクラウド。


「ユリカ君、ジョワン君に言っていることは事実かな?」

「ええ、そうよ。B375ってとびらを開けると、最初、霧のような者が立ちこめてたんだけど、霧が晴れると、そこに二人がいたわ」

「なるほど、ユリカ君は、どうしてそこへいこうと?」

「ああ、それは、ジョワン君の鳥が、私を導いたとしか言えないわね」


 大佐は、なぜか警戒した状態で、ジョワン達の上を飛ぶ鳥を見る。


「ところで、ジョワン君、君の鳥は、いつここに?道中見なかったんだが?」

「えーっと、それが、僕にもさっぱりで・・・ユリカさんと一緒に、鳥さんが飛んできて、びっくりして・・・」


 鳥が、『どうして、この塔に居るのか』という謎が、この場に、生じたようではあるのが、まさか、鳥が弾道軌道で、この塔へ至ったという事を思う者など誰も居ない。


ピュ~イ


 集まる視線に、軽く、一鳴きする鳥である。


「あら、それなら、簡単に説明できるわよ」


 とは、理事長夫人である。


「あれは、あの小娘からもらったものなのよね?リアエル?」

「は、はい、エル教の主神様からのジョワン様へ使わされた鳥さんです」


 久々に、リアエルから”様”付きで呼ばれて、ジョワンは、むず痒さを感じて、久しぶりに訂正をしようとしたのだが、


「あの小娘のことだから、きっと変なものをジョワンちゃんに渡したに違いないわ!」


 ジョワンを遮るように、理事長夫人は、ひとこと言うと、鳥に対して、敵意を向ける。それに何かを感じたのか、鳥は、


ピュヒューイ!


 と、警戒するかの鳴き声と共に、先ほどよりも高度を取ったようである。


「ばあちゃん、鳥さんをいじめないで。鳥さんは、困ったときに助けてくる大事な友達だよ。大丈夫だから!」

「まあ、もう、ジョワンちゃんたら、小娘の鳥に惑わされちゃって、もう!」


 何やら憤慨しているような理事長夫人である。


「理事長夫人、ジョワン君の言うとおりです。これまで、スプリットへの移動中や、サミア、スプリットで、彼も含めて我々が何かに襲われそうになりましたが、それを撃退したり、襲撃者の排除したりと色々と手伝ってくれましたから」

「カーネル君、それはどういうこと?ジョワンが危険な目に遭ったって事?」


 大佐の説明の中に、理事長夫人が看過できない内容があったようである。


「ええ、そうです。これまで無害とされてきたフォグモンスターに、私も含めて襲われましたが、ジョワン君の活躍で、事なきを得ましたし・・・」


 大佐は、サミアの町での出来事や、スプリットにおける救出作戦などを説明した。当然、理事長夫人からすると、あり得ない出来事をジョワンが防いだと言うことで、その表情は怒りからにこやかなものへと変わっていく。


「まあ、まあ、ジョワンちゃんたら!頑張ったのね!」


 と大満足ではあるのだが、スプリットにおけるトランフ少将の件を聞いた夫人は、


「叩っ切る!」


 と、あからさまな殺意が夫人から漏れ出し、大佐の部下数名が、それに当てられて、青ざめていた世であるが、すでにトランフ少将が死亡している事を訊いて、その怒りも治まったようである。


「父さん!どこへいくんですか?」

「え?あ、うん・・・・」」


 まあ、その合間に、その集団から逃げだそうとしたクラウドは、大佐が発する一言の牽制で、身動きが封じられ、夫人から漏れ出た殺意に、あてられたのか、足元には水溜まりができていた。


「わかったは、カーネル君。あなたの言葉を信じましょう。でも、ジョワンちゃんを危険な目に合わせたら、わかってるわね?」

「彼を危険目にあわせることは、ありません。それは、軍として保障します」

「ジョワンちゃんも、私がいないところで危ないことはしちゃだめよ?」


 ものすごく過保護な理事長夫人である。


「で、ジョワン君、話の続きなのだが、上層階についての聞き取りのだが、先に、身体に異常が無いかを確認をしてもいらいたい」

「は、はい。ということは、シュートへ?」


 ジョワンは、始まりの塔における活動はこれで終わりになるのかと、肩を落とし、がっかりするのだが


「確認が終わり次第、上層階の調査に同行してもらいたいので、塔へ戻ってきてくれ」

「はい、わかりました。シュートに戻って、おと・・・え?戻ってきていいんですか?」

「そうだ。戻って、調査に同行してもらいたい」

「はい!」


 大佐の言葉に、ジョワンは、ほっとしたのだが、その話に釈然としない男がここに、約1名いた。


「おいおいおい、わが息子よ!儂は、ダメでどうして、この坊主は、OKなんだ?儂の方が経験豊富で、この坊主よりはるかに役に立つだろうが!」

「ええ、そうですね。父さんの方が、”確かに”経験が豊富ですよね。”素行”がよければという条件付きですがね?それより、会社の方はどうするんですが?ジンじぃのことほっといて知りませんよ?」

「ぬぬぬぬ・・・・・たしかに、ジンのことは気になる・・・だが、それより、儂がついて行く方が、いざというときに、安心できるだろう?」


 クラウドは、豊富な経験を前面に押し出して反論するのだが、そんな主張が、大佐に通るわけも無く


「何といわれようと。ダメですからね?さて、ハッシュ、ユリカ、うちの馬鹿親父を連れて、シュートに戻ってくれたまえ。君たちも行方不明だったわけだし、身体に異常が無いか調べてもらった方がよいからね。そのあとは、・・・・」

「いやいやいや、息子よ。儂を見ろ、ほらこんなにピンピンしとるんだから、そんなもんせんでも大丈夫!」


 なぜか、屈伸運動を始めてアピールをするクラウド、当然、取り合ってもらえない。


「カーネル君、ジョワンちゃんを連れて、ここより上の階へ行くのね?」

「ええ、そのつもりです」

「そう・・・・じゃあ、決めたわ、ジョワンちゃんのことが心配だし、久しぶりにこの塔の中を歩き回ってみたいから、私もついて行くわ!」


 いつの間にやら、理事長夫人が、ジョワン達に同行することが決まったようであり、その言葉に、なんだか、ますます渋い顔のクラウド。


「わかりました。それでは、理事長夫人、同行の方、お願いします」


 ニコニコ顔の理事長夫人である。


「なので、父さん、さっさと地図を出してください。それからハッシュ、ユリカ、父さんをつれて、シュートへ行ってください」

「いやいやいや、違うだろ!」


 納得がいかずに必死の抵抗をするクラウドなのだが


 バタン!


 と、大きな音を立て、突っ伏すように、クラウドは、その場で倒れた。


「私がついて行くんだから、クラウド、貴方は、退場なさい」


 とても、良い笑みを浮かべた理事長夫人がそこに居た。結局、クラウドは、意識を失ったまま、大佐の部下に抱えられ、ハッシュやユリカ、ジョワン達と共に、シュートに戻ることになる。その意識が戻ったのは、翌日ではあったが、なぜか、足の関節が外されており、それから3日ほどは、動くことができなかったという。


---


 同じ頃、男は、始まりの塔にいた。シュートの町で立ち入り制限がされて。軍や派遣協会関係者しか入れないと聞いていたこともあり、チエーロからの派遣部隊に紛れ込むような形で、塔までやってきていたのだが・・・


「これは、いったいどういうことでしょうか???」


 男は、目の前の状況に、困惑していた。なぜなら、塔への入場が制限されていると聞いていたのに、来てみれば、その制限が解除されていたからである。


「おい、そこのおまえ!」


 男は、事態の把握できずに居たのだが、突然、呼ばれたようである


「おい、聞こえんのか?おまえだ!」

「!」


 いつもなら、誰に気づかれることも無いのだが、なぜか、このときは、誰かに気がつかれたようで、そのことを一瞬理解できなかったようである。が、男は、怪訝な顔をしながらも、声のする方を見ると、少しばかり年配の軍人が立っている。


「見慣れない顔だな?おまえは、どこの部隊の者だ?」

「貴殿は、どなた様でしょうか?」

「俺か?チエーロ軍管区所属、派遣部隊部隊長の・・・いや、待てよ、おまえ、おれのなまえを知らんのか?貴様、何者だ!」


 チエーロからの派遣部隊の部隊長であるこの男、名をスコット・ヴェルジーと言う。スコットは、目の前の男に警戒しつつ、さらに問いただそうとしたのだが


「失敬失敬、これは、私のミスですね・・・・」


 男は、目の前に居る男が、誰であるのかを完全に思い出したようで、


「これはこれは、伯爵様・・・」


 そう言うと、スコットの前から、男の気配が消えていく。


「何?」


 スコットは、気配が消える前に、男を捕縛しようと前に出るのだが、景色に溶け込むように男が消えていく。


「この場は、一度、失礼いたします・・・」


 その言葉と共に、男の気配も完全に消えていく。



「な、なんだ?何者なんだ?あの男は?他国の者か?それとも誰かの手の者なのか?」


 目の前で起こったことに、スコットは、ただ、そうつぶやくことしかできなかったのだが


「・・・・この後、何かあって、俺に責任にされても困るな・・・仕方がない、でカーネルにでも話しておくか・・・」


 スコットは、もう一度辺りを見回すのだが、そこには、男がいた痕跡を示すものは何一つ残っていなかった。


---


 ほんの1月ほど前まで、町全体が殺伐とした雰囲気だっとことが嘘のように、穏やかなスプリット。ウエストとイーストを繋ぐ橋の建設も、ようやく始まり、この地域を治めるランベールにすれば、長年の懸案がやっと片付くと、ほっとしていたのだが


「お父様!リタです」


 そんな、ほっとできる日常が続くわけもなく、娘の一言によって容易に破られる。


「お父様!いらっしゃるのはわかってるんです!お父様!」


 ランベールは、大きなため息を一つつくと


「リタか?入って参・・」


 ランベールの言葉を最後まで聞くまでもなく、執務室の扉は、やや乱暴に開けられる。


「やっぱり、いらっしゃいましたね!お父様!」

「どうしたんだ?リタ、騒がしいにもほどがあるぞ?」

「お父様が、悪いんです」

「いや、だから、何の話なのだ?私はこの後、視察に出なければいけないんだぞ?」


 ランベールは、娘のリタに手短に説明を求めるが、その話の内容については、およそ見当は付いている。


「では、手短に話しますわ。わたしくしを王都へ行かせてください!」

「ああ、そのことか」

「そのことかでは、ありませんわ。わたしくしは、何度もお願いしておりますわ」


 リタは、やや怒気をはらんだ声で、父であるランベールに抗議するが


「ナイン殿に、王都までの護衛は頼んでおる。が、ユリカ殿が戻るまでは、待ってくれと言われておる。リタよ、もう少し待てぬか?」

「お父様、それでしたら、もう出発の準備をしてかいませんですわね?」

「どういうことだ?」

「はい、ユリカさんが、間もなく、帰ってこられるとききましたので、よろしいですわね?お父様?」

「私は聞いておらんが?それは真実か?」


 ランベールは、リタが知るよりも早く、ユリカが戻ってくることを知っていたのだが、リタの言葉に知らない振りをする。


「ええ、支部長代行のミリーさんから、直接伺いました。ですから、お父様、ジョワン様の買われている鳥の名前をつけると、わたくしは、約束をしましたし、王家の者としてその約束を果たすために、王都へ参りたいと思います」


 リタが王都に行く理由にしているは、ジョワンとの約束を果たすためではあるのだが、そのジョワンが、今はシュート出向いていることをランベールは知っている。が、ここでそれを言てしまうと、娘のリタに、確実に嫌われると思ったのと、トランフ少将の一件で、愛娘が狙われていた事を、バーナビーから内密に聞かされていたこともあって、できれば、リタを町から出したくないというのが、ランベールの本心なのだが・・・・


「わかった。わかった。そのかわり、ジョワン殿が、王都の屋敷に在宅かどうか、確認してからであれば、リタが王都へいくことを許そう。ただし、ナイン殿の同伴条件だ。よいな?」


 リタは、どうし父であるランベールが、ジョワンが王都にいるか確認しろというのか理解できなかった。


「お父様、ジョワン様が、王都にいらっしゃらないわけないでは無いですか?変なお父様」

「もしもと言うこともあるであろう?念のためだ。よいな?出なければ、王都へ行くのは禁止する」

「わ、わかりました。では、すぐにでも、ジョワン様が、王都にいらっしゃるか確認しますわ!」


 リタは、そう言うと執務室を後にした。まあ、このあと、ランベールが頭を抱えたことは、言うまでも無く、数日後、ユリカがからジョワンが王都では無く、シュートにいることをリタが聞かされ呆然とはしたのだが、ジョワンからリタに返事が来たのは、それから数日後であったという。


「お父様!ジョワン様は、今、王都にご在宅とのことですので、出かけますわ!」

「わ、わかった。リタよ。私の方でナイン卿と、王都へ戻られるバーナビー殿に王都までに護衛をお願いしてある。準備ができるまで少し待て!」

「ナイン様が護衛にですか?」

「そうだ。だから、リタよ。少し待て、なに、焦らずとも、あさってには、出発はできる」


 ランベールは、今にも飛び出そうとするリタを、なんとか思いとどまらせた。その翌日、娘には内緒で、ナインと、バーナビーをこっそりと呼び寄せ、


「ナイン卿、リタのことで、苦労を掛けるが、王都までよろしく頼む」

「王弟陛下、ご心配なさるな。リタ殿を、無事、お連れすることをお約束しよう」


 ランベールは、そう言うと、バーナビーの方を向き


「バーナビー殿、娘のためとは言え、この町に長期の足止めをして、誠に申し訳ない。カーネル殿に、よろしくと伝えてほしい」

「ランベール様、大佐からも、王弟陛下からの依頼には柔軟に対応するように言われておりますので、問題はございません」

「そう言ってもらうと助かる」


 ランベールは、二人に、頭を下げる。


「およしください。ランベール様、王弟陛下が頭をさげられるなど、いけません」

「いや、この場は、娘の父として頭を下げているのだ。二人とも、娘のことは頼むぞ!」


 ランベールの謝罪にナインもバーナビーも、困り顔であったことは言うまでも無い。


食事を終えた2人と、女の子は、椅子に座ってゆっくりとくつろいでいた。


「とうちゃん!あっち見てきて良い?」

「ああ、良いよ?その代わりあんまり遠くに行かないこと、約束できるかな?」

「うん!」


女の子は、満面の笑みを浮かべて駆けだしていく。それを見送りながら


「その装置だけど、人間のイメージするものを装置がくみ取ることができれば、設計図を組み込む必要が無くなるね?」

「ええ、そうですけど、そんなことは難しいのではないですか?」

「確かにね・・・・う~ん、でも、今後のことを考えると、そう言うツールがあった方がよいような気がするんだけどね」

「それはそうですが・・・・」


このあと、2人は、この装置の有用性について、全体会議にて話し合うことして、会議に提出する際に問題点になることをこの場でまとめることになる。様子見ということで、休息がてら、ここに来ていたのだが、結果として、仕事をすることなる。途中、女の子は、何度も、リーダーや母親役の研究員のところへ戻ってきては、周りを見にいくを繰り返したことは言うまでも無い。


「さて、そろそろ、戻るか」


リーダーは手元を見てそうつぶやく


「お~い、そろそろ帰るよ?」

「え~、とうちゃん!まだ、遊びたい!」

「だめだめ、そろそろ戻らないとね。また今度、連れてきてあげるからね、今日は帰るよ?」

「ほんとに?絶対だよ?」

「ああ、約束だ」


女の子は目をリーダーの言葉に目を輝かせ、2人の元へ戻ってきた。


「それでは、このテーブルと椅子は、ここで固定しておきます」


研究員は、そういうと、端末を操作した。


ブ~ン


また低いおとがすると、目の前のそれは、椅子の形をした大きな石へと姿を変えた。


「なるほどね。これだと劣化しないな。考えたね!」


そう言うと、リーダーは笑い出すのだった。


---

王国歴10469年1月20日


 雑貨屋の女店主は、目の前に浮かぶ何かを見ていたのだが


「あら、懐かしいわね・・・・」


 そこに映し出されているものを見てそうつぶやいた。


「あれは、お母様が作り出したテーブルと椅子を片付けた物ですわね」


 そう言うと、女主人は、目を細め、何かを思い出すかのように微笑んでいた。

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