それぞれの思惑~鳥さんの暴走~
プロジェクトリーダーは、ある部屋を訪ねていた。
「今、時間あるか?」
ノックも無しに、いきなり部屋の扉を開ける。
「!」
「そんなに。驚くことは無いだろう?」
「ノックも無しに開ける方がどうかとおもいますけど?」
「あ、悪い悪い」
悪びれたふりをするだけのリーダーに、部屋の中に居た男は、しかっめつらである。
「貴方はいつも、そうやって誤魔化す」
「誤魔化してなんかないぞ」
押し問答になるよな気がした男は、これ以上の突っ込みは諦めていた。
「なにかご用ですか?」
「ああ、すまん。確認なんだが・・・・」
ジンの操縦する機体は、ジョワンの生まれ故郷である村まであと少しのところまで来ていた。ただ、サミアを出てすぐ、盗賊団と思しき集団が、その進路を妨害しようとしたが、そんなことなどお構いなし、跳ね飛ばすように突破していた。その際、若干、機体が揺れたことで、夕食の準備をしていたリアエルに、少しばかりの被害と言えないほどの被害を与えてはいたが、それ以外は、これと言った支障もなく、ユイキュル・エキスプレス社2号機は、夜の静まりかえった街道を、轟音とともに街道をすすんでいた。
「みなさ~ん、簡単ですが、もうすぐお食事ができますよぉ~」
リアエルは、サミアの露店で買ったパンと他の食材から、バゲットサンドをせっせと作っていた。その数は、一人が2~3個食べても大丈夫なほどである。
「リアエルさん、これは?」
「ハムと、それから、野菜を挟んだものです。特製ペーストを塗ってます」
「特製ペースト?」
「はい! 、何かあっても大丈夫なように、常温保存できるペーストを持ってきてまして」
そういうとリアエルは、手持ちのカバンから、何かの容器をとりだす。
「料理長のベイツさんから、いつでもどこでも、使える万能ペーストっていうのを教えてもらってたので、それと、さっきの市場で購入した食材を色々混ぜて、サワーペースト、ストロベリーペースト、チーズペーストとかいくつかを簡単ですが作って、それを使ってます」
リアエルの説明に、ルーモス達から歓声が上がる。
「これは、なかなか!」
「この甘さは何ともよい」
「具となじんでなんとも言えない!」
そんな声に、リアエルは
「ジョワンさ、君、お味の方はどうですか?」
「うん、おいしいよ、リアエルさん」
ジョワンのこぼれんばかりの笑みに、リアエルは、なんだか、お顔が真っ赤になる。
「嬢ちゃん、これは、なかなか凝ってるな?」
機体の操縦を部下と交代して、ジョワン達のいる客室へやってきたジンじぃも一つつまむと、その味に賞賛する。
「はい! えーっと、お飲み物も用意しますね!」
ベイツ料理長から教わったとは言え、リアエルは、自分が作った料理を、ジョワンだけでは無く、みんなに褒められたことに、照れてしまい。客室に併設されている給湯室へと慌てて駆け込んでいく。さすがに狭い機体の中、照れて真っ赤になったリアエルは、いつかのように、真っ赤になっても走るようなことは無かった。
「それはそうと、カーネル、あの連中だが」
「あの連中?」
「ああ、盗賊団の連中だ。あいつら、どうしてあの場所にいたんだと思う?」
「どうしてとは?」
「いや、わしらがこのコースを使って移動することは、サミアに来てから決めたことだよな? 本来なら、このコースをこの時間に通ることはなかったんじゃが」
実際、2号機の陸上走行試験は、ジンがサミアで即断するまで予定されておらず、本来であれば、明け方の馬車便か、1度王都へ戻り、ナッツ湖からチエーロへと流れるプリーメ川を下り、海沿いをシュートへ向かうという二便が予定されていた。
「つまりじゃ、あいつらは、儂らが使う経路を知っておったということじゃろ? サミアに来てすぐに申請した経路だぞ? それも、カーネル、おまえさん達に無理言って許可を取ってもらった経路であるんだぞ?」
ジンにすれば、輸送会社の移動経路は、盗賊団の被害が出始めてからは、夜間の移動は避けている。それにもかかわらず、今回は、明らかに盗賊団が、準備をした上で、待ち伏せをしていたようであり、移動経路が、盗賊団へ漏れた可能性があるのではないかという疑問をジンは考えていた。
「カーネル、お前さん自身どう思う?」
「確かに、腑に落ちない点がある。もし内通者がいるとすれば・・・・サミアの守備隊や警備隊を監査する必要がある・・が・・・」
一方、大佐達にすれば、王国軍の軍人として、王国内の治安維持のため、盗賊団やその関係者を捕らえることもその任務の一つである。特に、今回のように、進路を妨害したうえで襲撃をしてきた盗賊団への対処も重要な任務ではある。が、ジンの操縦する2号機は、加速する勢いのまま、襲撃者を蹴散らした後、その場にとどまることなく、その場を後にしたため、襲撃してきた盗賊団を捕らえるということはなかった。仮に、その場にとどまり、盗賊団を捕らえたしても、本来の任務を優先する立場上、サミアへ戻るという選択肢は大佐には無く、捕縛した盗賊団の処遇について困ることは明らかであったことから、不本意ではあるが、蹴散らした盗賊団については、その場に放置していた。タイミングさえ良ければ、警備隊の巡回時に捕らえられるであろうことを期待して。
「おやっさん、そのあたりのことは、管轄権を含めて、かなりデリケートな問題を含んでいるから、こちらの方で何とかできないか手を打っておくよ」
「そうか、悪いな。盗賊団さえなんとかなれば、わしらの輸送ももう少し楽になるんでな。頼むわ」
このあと、これといった問題もなく、予定通り、シュートへの中間地点であるyジョワンの産まれ阿村へと到達する。時間は、深夜、当直の職員を叩き起こすと、そこで少しばかりの荷下ろしをすると、そのまま、夜の街道をシュートは向かう。その速度は、水面を走るのとほぼ変わらなく、夜の闇を引き裂くように進んでいく。
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「さてどうしますかね」
男は、ほんの少しばかり思案していた。このまま街道筋をサミアへ向かうか、それとも、サミアを経由しない経路を使うかを。屋敷では、陸路以外の経路も示されてはいたが、男からすると、カーネル大佐が、そこを使う事は無いだろうと判断したため、どの陸路を使うかで思案していた。
「サミアを経由せずにシュートへ向かって居るのなら、私がこのままサミアへ向かっても、途中で接触するチャンスはありませんね・・・・一応、目的地がわかってますしからどちらを使っても、問題はありませんが・・・・」
男は、そうつぶやくも、懐にしまい込んでいるもののことを思い出していた。
「これがありますからね・・・・」
それはレジーナからあずかったものであり、男以外であれば、途中で捨ててしまうであろうが、侯爵の下で活動をする男にとって あとから少しでも詮索をうけてしまうことになる行動は、許容できないものであった。
「まあ、最悪、シュートの軍施設にでも預けてしまえば問題はないですね。さて、問題は、どこを進むかですが・・・」
男は、「サミアを経由するか、しないか」で、思案顔である。
「サミアを経由する必要はないですね。仕方ありません、脇道をつかって、向こうの街道を使うとしますか」
男は、馬の手綱を引く。
「どれほど急ごうとも、この馬を私が使っている限り、どこかで追いつけるでしょう」
ふふふっという笑い声と共に、男は、街道沿いをしばらく進むと、脇道へと入っていった。
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もうどれぐらい時間が過ぎたであろうか、ユリカは無限に時間が続くように感じていた。次第に、ユリカへと近づいてくる音、ユリカは、死を覚悟はしていた。それでも、わずかな可能性でも助かるためにと、身構えていた。ユリカは、顔をなでる風を感じ、目を開けた。
「え?」
銀色の塊は、ユリカの眼前で止まっていた。ユリカは混乱していた。目の前に存在する銀色の塊に、ただ、落ち着いてよく見ると、それは、鳥の形をしていた。
「大丈夫か! ユリカ!」
「ユリカ、急いで離れろ!」
二人から、ユリカに対して、声が飛ぶ。
「え? まさか? どうして??」
二人の声が聞こえているのか聞こえていないのか、ユリカ、目の前にいる存在している”それに”驚きの声をあげる。クラウドが、いち早く、ユリカの手をひっぱるのだが
「待って! 待って! クラウドさん! ハッシュも!」
ユリカの目の前に浮かぶ銀色の塊は、鳥であった。それも銀色に鈍く光る鳥。それは、ほんの少し前に、ユリカが見たことのある鳥と何気なく似てはいるが、同じではなく。その鳥が、猛烈な羽ばたきで、空中停止していた。
「いや、でも、まさか? ジョワン君のところにいた鳥さん????」
見れば見るほどに、見た目が違ってはいるが、それでも、スプリットでジョワンの周りを飛んでいたときの面影がある。鳥は鳥で、ユリカの気配を覚えていたため、慌てて飛んできたようである。鳥は、ユリカの言葉に反応すると、ジョワンの肩にのるように、ユリカの肩へとちょこんと乗る。ただ、その仕草が、なんとも人間の振る舞いのようである。なので、クラウドもハッシュも、ユリカが大丈夫と言っても、この鳥に対して、警戒感をあらわにしていたが、鳥は、そんな気配どこ吹く風といった感じであり、何故か妙にユリカに懐いているという状況が、警戒感満載である二人の男を、次第に苛立たせていった。
「ユリカ! そいつはなんだ!」
苛立ちと警戒感からハッシュが、声を上げる。
「ああ、そうか。鳥さんのこと紹介しないとね」
ユリカを、肩に乗る鳥を見ると、鳥は頭を傾げる仕草をしていた。
「この鳥さんは、名前は知らないんだけど、決して、悪いものでは無いわ」
「どういうことだ?」
「この子の飼い主を知っているからよ」
{!」
二人は、一様に驚く。
「ハッシュさんは、派遣協会理事長をご存知ですよね?」
「ああ、フォルテラ理事長だな」
「そう。クラウドさんは?」
「知らんが、フォルテラという名の凄腕女狩人なら知っておる」
「ああ、そっちの方が有名ですね。その狩人の旦那さんが、今の派遣協会理事長なんです」
「ほう。で、それが、その鳥とどう関係する?」
「はい。理事長夫妻の下に、訳あって、遠縁になる男の子が預けられてたんだけど、その子が飼っているのが、この鳥なんです」
「はぁ?」
クラウドにしてもハッシュにしても、ユリカが派遣協会スプリット支部長であり、理事長のところいる子どもがいることを知っていても、そのペットまで知っていると言われても、納得できるわけも無く。
「じゃあなにか、子ども飼ってる鳥がここに居て、飼い主のこどもまでここに居るというのか? それも我々より先に!」
ハッシュは、ユリカが子どもと説明したことから、\ジョワンの事を幼い子どもと、大きな勘違いしたようである。
「もし、そうなら、早く助け出さないといかん」
クラウドの言葉に、ユリカは
「あっ、言葉が足らなくてごめんなさい。ジョワン君は、子どもと言っても、もう成人してます」
「なんじゃ、そうかと、簡単に納得できる話ではないぞ。どのみち、そのジョワンとか言う小僧が、
ここに迷いこんでいることは確定だろ? ペットが勝手にここに来るなんて聞いたことないからな!」
「ユリカ、そのジョワン君か? 特徴は?」
「えーっと・・・二人とも、ちょっと待ってください・・この子の飼い主であるジョワン君は、時間的に考えて、ここいるわけ無いんです」
「どういうことだ?」
「アテンザの枢機卿のところに行っているはずで、アテンザと言うよりエヌグランドから、ここまでは、そんなにすぐ移動出来る距離ではない事ですし、この子だけがここに来たんだと・・・思うんですけど・・・」
「アテンザ? エヌグランド? どうして、ユリカ殿が知っておる?」
「それはですね。枢機卿に、ジョワン君が会えるように、私がお願いしたからで・・・・なので、ジョワン君が、すぐに、ここに来るのは、無理かなっと」
ユリカの説明に、困惑顔のハッシュとクラウド。鳥はというと、首を傾げる仕草をしつつ、周りを警戒しているようであり、その動きは、ハッシュとクラウドからすると、鳥とは思えずうさんくさかった。
「この子、私が初めて見たときも、かなり特殊な動きをしてましたし・・・」
ユリカの脳裏には、スプリット支部の仮事務所内での、鳥の鳥らしくない振る舞いを思い出していた。
――――――
「ジョワンさ、君、そういえば、鳥さんを見かけないんですけど、お屋敷において来ちゃいました?」
時間は、ほんの少しだけ遡り、王都とサミアの中間点にさしかかる頃
リアエルがふと気がついたかのようにジョワンに尋ねるのだが、そのときまで、ジョワンは、いつもなんだかんだと一緒にいる鳥さんが、いないことに気がついた。
「え? 鳥さん? いつものようにそとを飛んでるとは思うけど・・・・」
そう答えると機体の右側の窓から外を見る。日は傾きだして、西の空は、青から薄いオレンジ色へと変わりつつあった。
「あ、忘れてた!」
「ジョワンさ、君・・・・」
ややあきれ顔のリアエル。ジョワンは、いつも、どこかに居るはずの鳥、機体の外にいるかもと思い。
「あれ?」
反対側の窓から、同じように外を見るのだが
「あれ? ・・・いない・・・・???」
いつもなら、いつの間にかいる鳥が、どこにも見あたらなかった。
「おかしいな・・・見当たらない・・・・リアエルさん、マリーさん、二人は、鳥さんを見なかった?」
・
・
・
鳥は、アテンザに行く前に比べると、その能力は大幅に増加していた。しかお、その見た目まで変化していた。空中で急ブレーキを掛けるという非常識なことをやってみたり、わずかな隙間を、高速で通り抜けてみたり、これまでも、壁に向かって飛び、壁でターンするという芸当をしていたのだが、それをかなり高速でやってみたり、以前までなら、高空からの滑空をやったり、入り口が無い部屋へ、いつの間にか侵入したりと、室内で、高速機動により、敵認定した者を切り伏せたりと、鳥の振る舞いとしては非常識ではあったが、それに輪を掛けるように非常識な力を鳥は手に入れていた。ただ、そんな鳥も、アテンザから戻った次の日、いつもなら、あさも早くから、なんだかんだと飛び回っているのだが、前日の反動からか、この日の鳥は、早起きでは無かった。ジョワンが、朝寝違えていたこともあり、鳥の状況を見ていなかったのだけなのだが、珍しく、寝ていた、それも、どこからともなく引っ張り出していた枕の上で、まるで人が眠っているかのように、仰向けで、もし、その状態をジョワンが見たとしたら、鳥のあり得ない寝姿に、おそらくは慌てたであろう。だが、ジョワン自身、そのときは、首を寝違え痛めていたことと、その後、やってきた大佐の話で、急遽、シュートへ行くことになり、そのために必要なものは新たに全て購入したため、結局、朝、部屋を出てから戻ることがなく屋敷を後にしたため、鳥のそんな姿を見ることがなかっただけであった。
鳥は鳥で、前日の反動で動けなかったというより、深い眠りの中にいた。目が覚めたとき、鳥は、ジョワンやリアエル、マリーの気配を感じられなかった事に慌てており、留守番としてやってきていたレジーナの気配を警戒していた。それでも、3人が、屋敷に居ないことだけは、理解していたが、
鳥としては、常にジョワンのそばに居ることが、鳥として存在意義であった事から、かなり焦っていた。もし、鳥が言葉を話すことができたなら、この場で自分に対して悪態をついていただろう。それほどまでに焦っていた。そんな中、鳥は、異質な気配を感じていた。レジーナ以上に警戒しなければいけない気配を。それは、ヘンリー侯爵の命を受けた男である。鳥は、己の気配を消し、ジョワンの部屋から抜け出すと、男の気配がする方へと向かう、その気配は、近づけば近づくほどに、異質なものであり、鳥の警戒心は、いわゆる最大警戒状態である。
「カーネル大佐は、こちらにおいでになると伺ったのですが?」
「どちら様でしょうか? わたくしは、このお屋敷の留守を任されておりますレジーナ・メディシスと申します」
男は、ふかぶかと頭を下げると
「これは、誠に、申し訳ございません。軍本部よりの内密な話でございます。ご容赦のほどを」
男は、目の前にいる女性がメディシス中将の身内であったため、咄嗟に、いつもの偽名を名乗らずに、誤魔かしに徹した。レジーナは、男の言葉に、疑問は思ったものの、軍人でも軍属でも無い自分が関わるべきではないことを十分理解していたことから、それ以上のことは聞かなかった。
「カーネル大佐は、この屋敷の主であるフォルテラ氏を連れて出かけられましたよ?」
「間に合わなかったか・・・」
「ああ、でも、つい先ほどですから、今追いかければ追いつきますけど?」
「そうですか・・・・追いつけるかなぁ・・・カーネル大佐は、急いで動かれることが多いので・・・」
困ったような顔をする男を見て
「ご存知だとは思いますが、遠出なさるとか言ってましたし、少し急げば追いつくと思いますけど?」
レジーナは、気の毒に思っての言葉ではあるが、男は、カーネルやジュワン達の行く先を聞き出したかった。
「それでも、目的地までの行き方は色々ありますから・・・・追いつかずに、目的地までって事もありますし・・・・」
「そういえば、そうですね・・・・プリーメ川を下ってチエーロから海路で向かうか、サミア経由の陸路かによって、違いますものね・・・・・」
レジーナは、距離が長いが足の速い船を使うか、それとも、距離が短いが、船より遅い馬車でひたすら移動するかという返事をしたのだが
「そうですよね? 目的地であるシュートまで掛かる時間は余り変わりませんし・・・」
男は、レジーナの答えから目的地をうまく割り出したようである。
「まあ、それでも急げば、まだ王都を出ておられないと思いますわ。ほんとについさっきですから」
「そうですか。わかりました」
男は、軽く会釈をすると、この場を離れようとしたのだが
「あっ、そうそう、ついでにお願いしたいんですけど、これを忘れてるみたいなので、ついでにお願いできますか?」
レジーナは、小さな鞄を男に預けた。その様子を、鳥は、影ながら見ていた。鳥もジョワン達の目的地がシュートである事を、このとき知ったのだった。鳥は、男が屋敷から出て行くと、警戒心を解き、男と同じようにジョワン達を追いかけることにした。
そして、鳥は、レジーナに気づかれること無く屋敷の窓から外へ飛び出ると、目的地であるシュートへ向かうことにした。スプリットにおいて、ウエスト街区よりイースト街区へ、スプリット川を超えた時と同じように、高高度からの滑空を試みようとした。ただ、目的の高度まで、垂直には上昇できないため、斜めに上昇していく。ただ、その速度も尋常では無かったのだが、目的高度に達すると、目的地まで滑空する。結果的に、弾道軌道を鳥は描くことになる。このときは、鳥は、少しばかり計算間違いをする。自分の身体が、以前と比べて成長していると事を。そのため、軌道がわずかにずれ、鳥は、慌てて制動を掛けるのだが、そのタイミングもずれ、シュートに到達するはずが、ウエステ湖を超えて、海へ落下軌道となるのだが、その進路の脇にある始まりの塔の方へ軌道修正を行い、塔を使って、鳥は、その速度を殺す事にした。始まりの塔のサイズや外壁の堅さに対して、鳥のサイズは、小さく弱い。誰が見ても、そのままでは、当然、鳥はぺちゃんこに潰れて終わりなのだが、音速を超える速度で飛来した鳥は、外壁に小さな穴を開ける。穴が開いた場所は、塔のB387と書かれた場所であった。
始まりの塔B387、ここは、塔の他の階とは大きく異なっていた。B390階から上5階層分が吹き抜け構造となっており、その分、他のどの階よりも堅固に作られていた。この吹き抜けは四等分に分けられており、季節毎の自然環境を再現していた。この階へは、B385から降りるか、B395から専用通路を昇るの二通りしか無く、ユリカ達が、発見した扉が、この通路への入り口であり、その通路を使ったことで、B390階へと到達していた。が、ユリカ達は、今、どこに居るか、このときはまだ知る由も無く、鳥は、鳥で突入した階から外へ出ようとしたのだが、突入した箇所は、すでに修復されており、塔の中に閉じ込められた恰好になっていた。そこから助走をつけて壁を突破しようにも、うまくいかず、壁を抜けようとか色々やろうとしたのだが、結局、なにをやっても、鳥は、閉じ込められた状態であった。そんなとき、鳥は、自分が、よく知る気配に気がつく、ユリカの気配である。鳥は、一路、その気配の元へと向かう。
「ジョワン君は、一緒に来ているの?」
ユリカの問いかけに、鳥は、首を傾げる。
「ピュル? ヒョーピリル?」
鳥もユリカに何かを尋ねているようであるが、ユリカには、鳥の言葉はわからない。
「鳥さんに、聞いても答えられるわけ無いよね・・・・」
鳥は、人の言葉を理解出来ていたが、話すことはできなかった。意思の疎通はできなくとも、ユリカ達3人と鳥1羽は、B390にあり、おそらくは滝の裏側にある洞窟で合流することとなった。
――――
ジョワンは、生まれ故郷の村を寝ている間に通過したようで、目が覚めた頃は、まもなくシュートに到着するという頃であり、東の空が白み始めていた。王都エヌグラントから、二箇所ほど経由しながらも、約18時間でシュートへ到着するというのは、これまでの記録を大幅に塗り替える驚異的なものであった。
「おはようございます。大佐、ジンさん」
「おっ、起きたのか坊主。よく眠れたか?」
「ジョワン君、おはよう」
室内は、半分、照明を落とした状態で、もう半分も、少し照明を落とした状態である。リアエルとマリーは、少し仕切りをした場所で、横になって休めるようにと、ジン達が用意していたが、ジョワンは、大佐の部下達と同じように、座席を少し倒した状態で、薄い毛布をかぶって睡眠を取っていた。
「はい。なんとか休めました。ちょっと身体は、痛いですけど・・・」
「わるいな、坊主、嬢ちゃん達は、横になって休めるようにしたんだが、まあ、坊主は、男だし、問題なかっただろ?」
「ははは、そうですね。リアエルさんやマリーさんには、ちゃんと横になって休んでもらいたいですしね」
とはいうものの、前日寝違えたこともあって、本音はゆっくりと横になって休みたかったジョワンである。
「ところで、今、どのあたりなんですか?」
ジョワンは、機体の窓を見るのだが、そこは結露により、外の様子をうかがい知ることが難しく。自然とジョワンから出た言葉である。
「このまま何も無く、この速度で進めば、1時間余りでシュートじゃ」
「もうそんなに来てるんですね」
「まあ、夜中、街道を行き来する者は、おらんから、いくらでも速度は出せる。その分、目的地には早くつける。昼間だとそうはいかんからな」
ジンじぃは、そういうと、ニカっと満面の笑みを浮かべていた。
「一応、シュートについたら、荷卸しをしなきゃいかんが、予定を変更したから、おそらく、積み荷の調整で時間が空く。その合間にでも、お前さんらを塔まで送るが、それで問題ないか?」
「おやっさん、それで問題はない。予定より早く塔に着けるだけでも十分だ」
「そういってもらえると、儂もうれしい」
「ジンさん」
「なんだ? 坊主?」
「シュートに着いて荷卸しとかは、すぐ終わるんですか?」
「いや、それ以外にも色々やることがあるから、時間がかかると思うが、どうしたんじゃ?」
「えーっと、ばあちゃんに顔を見せてこようかと思うんですけど?」
「ほう。坊主のばあちゃんか? まあ、それぐらい会いに行く時間は、十分にあるぞ」
ジョワンの言葉に、ジンじぃは、感心するように答えていた。
「ジョワン君、私も同行していいかい?」
「大佐も? ばあちゃんに用事ですか?」
「ははは、いや、要請に基づいて、シュートに到着したことと、始まりの塔へ向かうことを協会本部に行っておかないとダメなのでね」
ジョワンが会いに行くばあちゃんとは、フォルテラ理事長夫人のことである。その理事長夫人は、フォルテラ理事長とともに、派遣協会本部裏に用意された理事長専用の住居に住んでいる。
「えっと、わかりました!」
と、元気よく返事はしたのだが、内心は、『ばあちゃん優先! じじぃは、どうでもいいや』である。ともあれ、まだ、外は暗く、夜明け前、ジョワンたちが乗る2号機は、シュートへ快調に進む。
「ジョワン君、おはよう。みなさんもおはようございます」
「あっ、マリーさん、おはよう」
「ジョワンさ、君、おはようです」
「リアエルさん、おはよう」
リアエルやマリーも起きてきたころ、夜も明け、シュートまであとわずかであり、やがて、機体の速度は低下していく、ジョワンは、結露した窓を、拭う。そこから見える景色は、ジョワンが、ついこの前まで見ていた景色が広がる。
「そろそろ、シュートに到着するぞ」
ジンじぃの声が、室内に響き渡り、シュートにある輸送会社の営業所へと入っていく。機体から響いてくる音は、やがて小さくなる。浮き上がった感覚が次第になくなるとともに、機体は、停止する。
「良し、到着!」
こうして、ジョワンたちは、シュートへ到着すると、ジュワンは、大佐とともに協会本部へと向かう。ちなみに、ユリカから
「ジュワンがやってくるかもしれない」
と聞いて、そのジョワンが来るのを今か今かと待っていた理事長夫人が、ジョワンに会うなり狂喜乱舞したことおは言うまでも無いかった。
「自動修復機能は、大気中に散布されている量によって決まります。ただ、その代わり、電波を使う事ができなくなりますし、マイクロウエーブによる送電もできなくなりますが、良いでしょうか?」
「それは、う~ん・・・まあ、便利さを求めすぎて、今の状況になってるんだし、その辺は、最終要件を満たした際には、使用可能としておけば良いだろう・・・電気だけは使えるようにはしておきたいからね」
「わかりました。それでは、その方向で調整しておきます。それから自動修復ですが、システムのバックアップ機能についてもどうします?壊れるにくくはしていますが?」
「二重化で、それと、定期的に、自動生産させて、常に安全マージンを取るように頼む」
「それだと、二重化を複数作ることになりますが、良いですか?」
「うん。そこは、気にしないでくれ。彼奴の方にも協力を頼んでみるよ」
「ああ、なるほど。それではお願いしますね」
リーダーは、男の返事を聞き終える間もなく、部屋を後にしたのだった。




