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王様との遭遇

それは謁見の間で

『いよいよ、職業のお披露目か』理事長は、大佐やジョワンに聞こえるか聞こえないような声で、一言つぶやいていた。思えばジョワンの職業が確定してから、その職業について『明かすことなかれ』となり、6年。最初は、『システムの間違いか?』と確認したこともあったのだが、間違いではなかった。


 システム、それはこの世界で最大の信者を抱えるエル教の所有する職業の判定を行う装置であり、この社会を維持するために必要な人材を探し出すものであった。ただ、それがいつから存在し、誰が作ったものであるかは不明なまま、その装置は存在していた。人は、いつからか『職業判定システム、アルナック・ハーミュア』という呼んでおり、この世界の住人は、満14歳になると、協会の事前調査から推挙を受けた子ども達を中心に、将来就くべき職業の判定を受けることが義務付けられていた。そして、今から6年前ひとりの少年14歳になったとき、『職業を明かすことのないように』との、条件がついた形で職業判定を受けていた。


 儂は、エル教の最高司祭から公開禁止の申し送りとして、ジョワンの職業を聞いたとき、『なるほど』と納得した上で、訓練学校での4年間と協会での研修2年間が終わり派遣される日まで、本来であれば、王宮詰めとなる職業は事前に王宮へ知らすのじゃが、上級職である事のだけで他の情報はすべて伏せたものじゃから、そのあと王宮ともめたのう。

 理事長は、あの日のことを思い出しつつも、6年間のすべての基本訓練終えたジョワン・フォルテラを連れて今日のこの日を迎えたのである。


 ユイルキュエ国国王としてのロベールは、在位数十年になったというのに、新たに協会から派遣される弟子との謁見でこれほどまでに不安感と焦燥感に包まれたことはなかった。6年前、ショルテ弟子派遣協会からある知らせが届いた。それは王宮詰め職業の上級職が職業認定されたというものだけであった。国王は、どういう職業であるかをエル教教会に、そして、弟子派遣協会に説明を求めたのであるが、宮廷詰めのエル教教会の神官長からは、『神の御名において職業は、派遣されるまでは明かすことを禁ずる』と、御告げがあったことより断られ。また、派遣協会からも、エル教教会の許しが無ければ知らせることができないとされた。だが、国王にすれば、王宮の関わる上級職という内容だけしか知らされなかったことと、国王である自身からの命令であっても、完全に拒否されたことから国王としての立場がないがしろにされたのではないかという気持ちになっていた。そこで取り巻きの貴族でもあり、国王にとっては義兄にあたるヘンリー侯爵に、秘匿(かく)された職が何であって、どこの誰であるかを探らせたのである。侯爵は、エル教教会の司祭や弟子派遣教会の職員の裏事情や弱みを握るという事に長けていたこともあり、秘匿(かく)された情報も容易に得ることができると思っていたが、うまくいかずに失敗したのである。侯爵にすれば国王に失敗したという事実を告げられないことから、『国王の存在を脅かす職である』言うところまでは判明したと嘘の報告をしていたのだ。国王ロベールにすればその報告だけで自分の子らや貴族たちがその地位を世襲として必ず継ぐものでありエル教協会であれ派遣協会であれ、それを変えることできないという王国建国以来の不文律が覆されたような気がして不安感が募らせていくだけであった。そこで、国王は、自分の治める王国を守るためいう大義名分だけで、自身は手を下さないまでもその日に職業判定をうけた子ども達をあらゆる手段を用いて排除していったのだ。王国内で不審な事故が散見され、王制反対派と呼ばれる活動家の存在が明らかにされたのは、ちょうどそのころからである。今日、謁見という形で職業が公開されると決まり、それが誰であるかはっきりしたのだが、その結果、何度も不自然な事故などが起こっていた。今日も居室で、どこからか聞こえてくる爆音を聞き、国王は内心、『これで、やっと厄介者を始末できた』とほくそ笑んでいた(のちにこの爆音はリアエルの全力疾走だったことを聞いて、呆然としていたのは、内緒である)。が、いま、この時、謁見の間のロベールの前に、排除したはずのジョワン・フォルテラと言う名を持つ青年が立っているのだ。


 本来であれば何事も無かったように、謁見の間にて、侍従長や衛士から、王城近辺で反国王派の襲撃があり、民間人の死亡者がいたと聞いて、適当に悲しいフリをし軍部に反国王派の取り締まりを強化するというシナリオを描いていたのだが、目の前に一人の青年、ジョワン・フォルテラが、自分の前に立ち、敬うしぐさで一礼したのだ。当然ではあるが描いたシナリオが崩れこれまで無関係であっても同じ日に判定を受けた者を用心のために次々と排除してきたにもかかわらず、一人の青年が目の前にいる。このことは、罪悪感と焦燥感と恐怖心が入り交じった感情の波にロベールは王である身分をかなぐり捨てて逃げ出したくなるぐらいであったが、青年を連れてきた派遣協会理事長のフォルテラやカーネル大佐や、謁見のために侍従長などの立ち並ぶ前で、威厳を保つために顔色を変えずに必死であった。


 理事長は、侍従長から促されるように国王に一礼すると、国王の取り巻き貴族であるヘンリー侯爵や、今回のお披露目が特別なこともありエル教教会から王宮付きとして派遣されているエル教神官長までもが並ぶ中、口を開いた。


「ロベール陛下、本日は、このような謁見の場にて、この青年、ジョワン・フォルテラの職業お披露目をさせていただきありがとうございます」


 国王は頷くだけであり、理事長は続けて。


「神官長、この青年の職に関しての公開してよろしいですかな?」

「フォルテラ理事よ、かのものの職業についての公開を許可します」


 神官長は、理事長に静かに告げた。


「ロベール陛下、今回、王宮詰めとなりますこの青年の職業につきまして、本日まで公開禁止とされておりましたが、今日のこの日をもってお知らせさせていただきます。システムによって判定された職業名は『王の弟子』。これまで、誰一人として判定されたことのない職であり、今後は、陛下直属となる職でございます」


 謁見の間は、王の弟子という聞いたこともない職についてどよめきが生まれたが、国王としての立場で、ヘンリーから報告を受けていた(嘘の報告が事実となったのではあるが)自分や自分の子らへ脅威となる職である事に改め恐怖した、当然、嘘の報告をしたヘンリーは、顔色を変えてはいなかったが嘘から出た真実であったことに、冷や汗を流しておりヘンリー自身すぐに顔に出てしまうことから、国王と目を合わさずいた。当然国王はヘンリーに視線を向けつつも、言葉も無くうなずくだけであった。そこへ神官長が、


「陛下、エル教教会の最高司祭様より、国王陛下にこの度の職業について、色々思うところはあると思いますが、この国にとって最重要な職であるので、よろしくと、つたえるように言われております」


 神官長の言葉で、ロベールは、すべて見透かされているような感覚につつまれたが、一切表情に出さずに、けだるそうな雰囲気を出していてごまかそうとしていた。ただ、理事長が一人の青年を紹介しようとしている素振りだけは認識できていたが、あまりに激しい動揺の中にあった。


「あら・・・紹・・・・いたしま・・・この・・年、・ョ・ン・フ・ルテ・・、『王の弟子』で・ざ・・す」

「・・・・・・・・陛下、お初にお目にかかります。この度、王の弟子としてこちらに派遣されました、ジョワン・フォルテラと申します。本日より、こちらでお世話に・・・・」


 国王ロベールは、それでもなんとか平常心(へいじょうしん)になるや、目の前の少年に関心無さげな態度をとりつつ見やり


「そちの名は、ジョワン・フォルテラと申すのか?」

「はい! 陛下、僕の名はジョワン・フォルテラと申します。今後『王の弟子』としてよろしくお願いします」


 国王ロベールは、紹介を受けても、ジョワンの扱いをどうするか考えていた。


「ところで、陛下、この場をお借りして気になることがございます。お聞きしてよろしいでしょうか?」

「国王陛下の前で、無礼であるぞ!」

「侍従長よ。気にすることはない。余の前で臆さずに聞きたいことがあるとはな」


 侍従長は、ジョワンを諫めたのだが、国王ロベールはジョワンの言葉を続けさせた。


「国王陛下のご先祖様は、この世界の危機を救った英雄と伺いました。僕自身、小さなころに両親から昔話として聞き、また、学生のころは学校に厳重に保管してある英雄譚を読みました。僕はその内容にすごく憧れました。そして今、こうしてその英雄の子孫の方であろうロベール陛下の弟子として仕えることになり、大変光栄です」


 目をキラキラさせて自分を見つめる青年を見て、『ほう、わが祖先にあこがれていると。これは、使えるな』どうやら、ろくでもないことを思いついたようである。


「陛下のご先祖のご職業は、やはり英雄という御職業だったのでしょうか?」


 ジョワンは、この場の雰囲気の飲まれることもなく好奇心の赴くままに、国王ロベールに質問したのではあるが、理事長も侍従長も、ジョワンが矢継ぎ早に質問をし始めたことから


「国王陛下がお許しになったとは言え。慎まれよ」

「これ、ジョワン、陛下に対して無礼であろう」


と、ジョワンが無礼なことを話はしないかとはらはらしていたのだが、大佐は、その様子を「ほう」と面白そうな表情を浮かべ、国王陛下の前で臆しない青年の様子を興味深く見守っていた。その大佐の下へ部下がそっと耳打ちをした。


「陛下。よろしいでしょうか?」


 大佐は、国王とジョワンの謁見ではあるがそれを遮るように一言いうと


「大佐、国王陛下が、ジョワン殿との謁見中であるぞ、何事か?」

「侍従長、今朝方、巡回中の兵士が発見しました王宮への道路が大陥没していた件につきまして、部下より新たな事実が判明しましたのでご報告いたします。ジョワン殿もこちら来る際、巻き込まれた可能性もありますゆえ」

「大佐、謁見中でありますぞ、それにたかが陥没事故に、なぜジョワン殿が巻き込まれたかもしれないというのか? いい加減な報告など、後にせい!!」

「侍従長、その陥没の原因が爆発物であってもですか?」

「なんと」


 侍従長は、爆発物と聞いて思わず息を飲んだ。


「侍従長、道が陥没した原因が爆発物と聞いては、余も黙ってはおれぬ。一体何があったか、国を治めるものとして、心配である。それに『王の弟子』ジョワンが巻き込まれたかもしれぬとなれば、ますます聞いておかねばなるまいて」


 心にもないことを国王は言葉にしていたが、その表情は、変わりなくそのままである。


「大佐、国王陛下が、こうもうされたのだ。手短にねがいますぞ」

「はっ!」


 大佐は、今一度敬礼をすると


「陛下、王宮への道の陥没事件ですが、何者かが何らかの爆発物が詰め込まれた箱のようなものを道に仕掛けて爆破したようです。また、箱には王政反対派のマークが入っていました。被害については、現場近くで意識不明の負傷者を1名保護し、現在、道が通行不能となっているとのことです。理事長とジョワン殿が乗った馬車がもしそこを通るようなことがあり、その時爆発するように仕掛けられていたとも考えられます。あと、負傷者ですが、全身打撲で意識不明です。意識が戻り次第身元の確認を行います」


 侍従長は、大佐の説明ではジョワンが巻き込まれる危険などなく、この場で報告が必要なことでもなかったことから。


「大佐、その報告のどこかジョワン殿に害をなそうとしたものとわかるのだ? その時そこを通ればというのは偶然ではないか?」


「それはそうなのですが、爆発物の入った箱に時限信管が見つかったことから、そこを通る時間を設定して命を狙ったと考えられます。ただその爆発時間を特定しなければいけませんが、それはこれからになります。また、あくまでも推測ですが、爆発する時間を間違えたのではないかと小官は考えております。」


 侍従長は、大佐の言葉を聞き、なるほどとうなずいた。


「大佐、あくまでも、可能性があるということだな?」


「そうです。時間が特定できれば、誰を狙ったか、もしくは狙わなかったかどうかがわかります。ですので、王城内でその爆発音を聞いたものがいるか確認いたします」


「ところで理事長、ジョワン殿、ここ数日の間で身辺で何か不審なことや人物を見かけてないかな?」


 大佐が報告をしつつも理事長とジョワンに尋ねた。国王ロベールはというと、理事長とジョワンに気遣う振りをしていた。


「なるほど、余としても、理事長や王の弟子であるそなたが、なにやら事件に巻き込まれずに済んでなによりじゃ。ところでどうじゃ? 大佐も聞いておるが、誰か見かけたのか?」


 国王ロベールは、大佐の報告にあった意識不明のけが人を気にした素振りもせず、ジョワンを気遣うような言葉をかけているが、内心はひやひやである。なぜなら、意識不明の負傷者が、目の前にいる青年を排除するため、ヘンリー侯爵が手配した手の者である可能性があったのだ。国王のロベールは、それが気にはなったが、それでも威厳を保とうとはしていた。


「国王陛下、お顔の色がすぐれませんが、どうかされましたか?」


 大佐は、ふと声をかけるのである。


「大佐、国王陛下のお気持ちをお考えか?」


 侍従長は大佐を諫めるも


「よいよい、侍従長、報告にあった反王国派のことは気なってのう。この国を治めるものとして、余が嫌われておるのかと思えば、何ともいたたまれないものよ」


 国王ロベールは、


「王の弟子ジョワンよ。余として、大変な日に謁見となって申し訳なく思う」


 自己紹介をしていていたはずなのだが、ふと気が付いたら空気のような存在と化していたジョワンに一言を告げた。


「滅相もございません。陛下のお心遣い感謝いたします。大佐、ここ数日の不審な人物を見ておりませんし、変な出来事が起こっておりません。参考にならず、申し訳ありません」


 ジョワンは不審な人物には会ってはいなかったし見ていなかったが、一人の見知った女性が、いつもジョワンの周りで騒動やトラブルが起こるたびに、巻き込まれていたり、助けたりし、見かけたりしていた。その女性の名は、マリーという。ジョワンがいつも買い物に行く店の看板娘でもあった。彼女とは、いつも話をしているほどの顔見知りであり、ここ数日も当然買い物に行けば会っていたこともあり不審人物でもなんでもなかった。


「そうか、大佐、王の弟子ジョワンもこう申しておる。余も、今回の件を気にはなるが、今は、報告を受けるときでは無かろう、後の報告を頼むぞ」

「かしこまりました国王陛下、詳細につきましては後ほど報告いたします。ジョワン殿も後で少し状況の確認をしたいので、協力を頼む」


 内心は動揺しているのだが、あくまでも、平静を保つ国王ロベール。ジョワンの存在などそこに無いかのごとく、あとで、今回の失態の責任をだれに取らすかを思索をめぐらせてつつ、邪魔なジョワンをどうにかできないか考えていた。そこで、唐突に国王ロベールは、理事長やジョワンの虚を突くかのごとく。


「ところで、王の弟子ジョワンよ。貴公は、先ほど余の祖先に憧れを抱くといっておったが、それは王の弟子というのが関係しておるからか? それとも、余の祖先が英雄としてこの国を建てたように、そなたは王制反対派として余に近づき王である余りを倒してこの国を奪い取ろうなどと考えておるからではあるまいな?」


 あまりにも急に、国王が王位の簒奪をするつもりかとジョワンに問いかけたのだ。ジョワンにすれば思わず何を言われたのか把握出来ずポカーンとしていた。自分は、憧れを述べただけであってそんな意思などまったくないにもかかわらずである。そして、国王のその一言から、その場にいる全員のジョワンを見る目がひときわ険しいものになったのだが、『ほう、国王もお人が悪い。このジュワンという若者を試しておられる。』国王の思惑など知らない大佐は、ジョワンを試していると思っていた。大佐は、この若者がこの場をどう切り抜けていくのか、少々見守ることにした。


「陛下! お待ちください。弟子派遣協会理事長として、今のご発言は!」

「理事長殿、国王陛下は貴殿に、尋ねておるのではない。王の弟子という立場のジョワン殿に尋ねられておる。控えられよ! それとも、貴殿の協会が謀反の企んでおられるのか?」


 理事長が、ジョワンに謀反の疑いがありと言われたことに対して、変わりに理事長として答えようとしたのであるが。侍従長から、派遣協会自体に対する謀反をおこすのかと言われてしまい。二の句も告げずにいた。ジョワンはというと、自分が急に疑われるという意味不明な状況に多少混乱はしていたが、国王の方へ向き直りまっすぐなまなざしで、投げかけられた言葉に対して、慎重に言葉を選びながら


「陛下、私の職について御懸念されておられるようですが、私自身、若輩者の身でありこの国、いや、この世界について陛下ほど精通しておりません。そんな私が陛下にとって代わろうなど大それたことなどできましょうか? それに、この国は、陛下の治世にあって安定した生活を私も含め送っており、不満などあるわけがございません」


ジョワンは、そういうと、


「私の職がお気に召さなければ、今この場で理事長とエル教神官長に、職を辞さしてもらう申し出ようとおもいます。神のご意思に背くことになろうとも、陛下に逆らい、あまつさえ簒奪(さんだつ)などと言う意思はございません」


 理事長は、ジョワンの言葉に『こやつ、後先も考えずに言っておるな。』と複雑な表情を浮かべつつも、視線を国王ロベールにむけていた。国王は、ジョワンの言葉を聞き、『これなら、余が、こやつの職が謀反の象徴であるという理由で、早々に処分できるな。』と思った。ところが大佐がいつもより鋭い目つきで、この場を見ていることに気づき『あれは・・・もしや』と、ジュワンにかける次の言葉を飲み込んだ。


「陛下、恐れながら、ジョワン殿が大それた事を考えておらぬことは、その言葉からわかるかと存じます。もうこの辺で、ジョワン殿をお試しになるのはよろしいでは?」


 大佐は、この青年を見て、そしてその言葉を聞き、自身の能力行使から、その言葉に嘘が無いことを見抜いていた。


「なんと、貴公は、この青年の言葉に嘘偽りが無いなどと、なぜ言い切れる?」


 先ほどからジョワンに険しい視線を向けていた一人である侍従長は、大佐にそう問いかけると


「やめぬか、侍従長。大佐、そなたは、余に無断で能力を使い判断したのじゃな?」

「陛下、この場での能力行使を許可なく行いましたことは、お詫び申し上げます。されど、国家の治安にかかわると判断しましたが故、独断ではありますが行使いたしました」


 大佐は、そういうと国王に深く頭をさげて詫びたのだが、侍従長は、大佐の能力特性については、軍務を取り仕切るのに必要な能力であるとしか知らされていなかったのである。なので、大佐の言葉に対していぶかしげな表情を浮かべたままだった。大佐が軍を指揮する立場で、それが能力行使での効果であることまでは想像できてはいたが、よもや、言葉の虚実を暴くことなどできるなどは思っていなかったのだ。


「恐れながら、陛下、大佐がそのようなことができるとは聞いておりません。誠でございましょうか?」

「侍従長よ、余が申しておることに 嘘があると申すか?」

「滅相もございません。王の弟子とはいえこの青年が陛下に害なすことこそ国家の一大事でございます。それを、大佐の持つ能力ごときで言葉に嘘があるなしを判断できるなど、この場で何も言われましても信じがたいことでございます。ましてや、神聖不可侵な陛下の御前でそのようなことを無断で行うとなどといった蛮行は許されざることでございましょうか? それに、私としては、まだ、こちらの派遣協会理事が結託して謀反を起こそうとしているのでは疑っております」


 侍従長は、『陛下は、大佐の能力かなにか知らないが過大評価されておられる』という不満顔でいうと、理事長と大佐に非難めいた視線を向けつつも自分自身にやましいことが無いにしても自分に使用されてはたまらないと背中に冷汗が流れる思いであった。


「大佐、余の許可なく能力を使ったことは、許されることではないが、国を思ってのことじゃな?」


 大佐は、頭を上げると


「はっ、国よりも国王陛下の御身を案じてのことでございます」


 そう答えるだけであった。大佐にしてみれば自身の能力が諜報能力であり、その派生能力として言葉の真偽の判定を行えるなどということは公にしていない。なぜなら、この能力を持つと知れ渡ってしまうと、国外だけでなく国内での活動に支障をきたすからである。そのため彼自身、能力行使については制約をかけていたが、今回に限っては、本来許されることの無い謁見中に、その能力を使ったのだ。なぜなら、彼の言葉の真偽を確認したかったからであるという理由だけではなく、陛下が戯れで目の前にいるジョワンという青年を試しており、それがすでに度を超していると思ったからである。だからと言って陛下へ「陛下、この青年でお戯れのお試しはほどほどに!」というわけにはいかなかったからである。


「理事長、弟子派遣協会は、余に謀反を起こすつもりはあるのか?」


 理事長も、陛下に深く礼をすると


「国王陛下、滅相もございません。弟子派遣協会にそのような不届きな考えを持つ者などおりません。それにこのジョワン・フォルテラにしてもそのような大それた事を考えるほどの者ではございません。それは理事長としてお約束いたします」


 理事長にしてみれば、侍従長からかけられたような謀反の疑いは、いずれ掛けられるだろうとは思ってはいたが、まさかこの場で掛けられるとは思っていなかっただけに、少々あわてはしたが、大佐の能力行使やジョワンの弁解でかろうじて晴れた事にほっとしていた。それでも内心『あやつは、もう少しものごとを考えてしゃべらないと、この先、またあらぬ疑いを掛けられて話をややこしくなるかもしれん・・・どうしたものか・・・だれかお守り役をつけねばならんか』

『王の弟子』とは言え、王宮詰めでは下っ端となるジョワンのこの先のことを考えると、理事長は、顔には出さないまでも、どっと疲れが出てくるようなそんな気がしていた。


「大佐、そなたが、王の弟子の言葉に嘘偽りが無いとうのであれば、それはすべて真実であるとということじゃな」


 国王ロベールは、大佐が余計なことをしてくれたと思ってはいたが、こちらの腹の中まで探られてはたまらないとの思い。


「王の弟子・ジョワンよ。貴公の職については、まだまだ未知の職であると聞いておる。余も、我が一族に伝わる伝承の中にもそのような記録を見たこともない」


 国王ロベールは、そういうと、


「今一度問う。弟子派遣協会理事長、これまでの協会記録に、王の弟子などと言うものは、存在しておらぬのじゃな?」

「陛下のお言葉通り、これまでの協会の記録にはございません」

「そうか、なるほどのう。今回の『王の弟子』、エル教教会の加護を持つ弟子である以上、余も邪険にもできまいて・・・」


 わざとらしくはあるが、国王はロベールは大きなため息とともにつぶやくように言うと。


「カーネル大佐、『王の弟子』である以上、余の直属の弟子という立場にはある。が、この青年、『王の弟子』については、ひとまず見習いとしてそなたに預けるとしよう。そなたの能力を疑うわけではないが、もし、何かあれば余に知らせるのじゃ」

「はっ、国王陛下のご下命とあらば、小官が『王の弟子』であるジョワン殿について責任をもってお預かりし、何か事が起こりましたら、必ずや国王陛下にお伝えいたします」


 国王は、何とも言えない気持ちではあったが、あくまでも平静を装い。この国にとって必要ではあるが、油断ならない能力を持つ大佐にジョワンを預けてしまうことで、あわよくば二人とも処分してしまうことも可能だろうという考えていた。大佐は、大佐で、陛下の戯れから一人の青年、ジョワンを助けたという意識と、この青年、単純に面白いと考えていた。互いのまったく異なった思いが交錯した微妙な空気が、謁見の間に漂っていた。しかし、侍従長たちには、その空気を読めるはずもなく、また国王ロベールの言葉に逆らえるわけでもないので、


「陛下、それでよろしいのですか?」

「侍従長よ、そちは余の決めたことに逆らうのか? 逆らうのであれば、余に対する謀反を企てたとしてて、この場で死罪を申し渡すがよいか?」

「へ、陛下、滅相もございません。私は、陛下の御身のみを考えておりますゆえ、陛下の決定に逆らう気などございません」


 侍従長は、そういうと、深々と頭を下げた。


「ならば、余が決めて大佐に申し渡したことで良かろう。大佐、不服は無いな?」

「「かしこまりました」」


 侍従長と大佐が、意識したわけではなかったが、二人の返事が重なった。


 そんな重々しいやり取りが繰り広げられていた中、当のジョワンは、自分の言葉から、国王に疑惑をかけられて、潔白を主張するためとは言えども、大きな事を言ってしまったことから内心盛大に混乱していた。

『これ協会へ戻って理由説明したらどうなるんだ自分、というか、この後のじじぃが怖いんだけど、どうしよう・・・・』とか、『いっそのこと世界の果てまで逃げて逃げて逃げまくろうか』とか、ものすごく後ろ向き、そして、既に心、ここにあらず状態にたっしていた。


「・・・ンよ、貴公の言葉に嘘無きことは、・・・」


 ジョワン自身が心、ここにあらずなのだから、国王と大佐や理事長たちのやりとりなど、どこか遠い世界の話感覚であった。そんな中で、急に名前を呼ばれたのだ。当然、まったく気付かずにいた。ジョワンは、『あ~、やっちまったよ。本当に・・・自分のアホさ加減にあきれるよ。もう少し考えればよかった。というか、じじぃがこわい・・・・』と、ひたすら後ろ向きでであった。

 ただ、目の前の国王陛下から、「帰れ」といわれる覚悟だけを決めていた。


「・・・の、余としては、貴公の言葉を余と侍従長を含めこの場におるものすべてを納得させるための証しを求めたいと思うのだが。・・・どうじゃ?」


ジョワンは、自分が呼ばれていることに、まだ気づいていなかった。


「・・ワン殿、どうされた?」

 大佐が、ジョワンに声かけたとき、ようやく、ジョワンは自分が、どこにいて、今何をしているのかを思い出したが、心、ここにあらずの上の空であったために、尋ねられたことに何も答えられずにいた。

 それでも、ひとつだけ理解できたのは、自分に向けられた言葉がいわれる覚悟をしていたものと違っていたということだけだった。


「ジョワン殿、国王陛下よりのお言葉であるぞ。何をだまっておるのか?」


 侍従長は、何故か呆けているように見えるジョワンに返事を促すのだが、自分の言葉か引き起こしたトラブルを大佐の機転で救われたことや理事長含めて、弟子派遣協会まで疑われたことなどもわかっていないのだから仕方ない。ただ、ジョワン自身に向けられた言葉が、協会へ帰れと言われなかった事だけを理解しただけであり、何がどうなってこうなったかやはり理解できないままであった。

 理事長は、ジョワンが呆けているのは、心、ここにあらずである事に気がついて、『あやつは、儂の心労で殺すつもりかと』にらみつけていたのだが、ジョワンの目は思い切り泳いでいた。


「はっ、私、ジョワンは、王の弟子として陛下のお言葉謹(つつし)んでお受けいたします」


 微妙に返事としては、かみ合ってはいるのだが、その反面、まったく噛み合っていない返事をしていた。まあ、当たり(さわ)りのない返事をすることだけで精一杯だったのだが・・・


「『王の弟子』ジョワンよ。そなたの覚悟、余は満足じゃぞ。ところでじゃ、この国は、豊かで平和ではある」


 国王は、ジョワンから大佐へと視線を変え


「それはカーネル大佐以下が、余の命により動いているからこそ表立った騒ぎはなっておらぬだけである」


 そして、わざとらしく憂いがあるかのように頭を一振りし


「じゃが、『王の弟子』ジョワンよ、一歩間違えば巻き込まれたであろう事件が起こるほどに、この国は平和な国ではない」


 再び、謁見の間にいるすべての出席者を見渡し、最後にその視線をジョワンへと向け


「大佐に『王の弟子』を見習い扱いとしてとして預けるのは、大佐に付き従いこの国の現状と民の不平不満を治めてみせよということであり、それが成したなら皆も『王の弟子』ジョワンを認めるであろう」


 そう言うと、視線を侍従長に向け


「そなたも、これでジョワンが民の不平不満を治めることができれば、システムにおいて判定された『王の弟子』ことに対して納得するであろう? どうじゃ?」

「陛下のご賢察、誠に、素晴らしきものでございます」


 先ほど余計なことを言って自分の立場が危うくなりかけたことから侍従長は、国王がなにを言ったとしてもすでに太鼓持ちと化していた。


「ジョワン殿、国王陛下に対する不平不満をいう民など、貴公の手ですべて処分されよ。国王陛下がこの世を治めてこそ・・・」


 侍従長はひたすら、太鼓持ちとしての太鼓をたたき続けている。その姿は、憐れみすら感じさせていたが、国王にすれば、うるさいだけであった。しかも王の弟子を処分するための隠れ者である王制反対派、義兄であるロベール侯爵の手ごまかもしれないものを処分しろと言っている侍従長の言葉を聞き、こいつも処分してしまおうかと思っていた。


「もう良い。」


 一言で侍従長の言葉を遮り、


「そなたの忠義は、わかっておる」


と、さもけだるそうに言うと


「『王の弟子』ジョワン、今回の件については、余からの勅命とし、民の不平不満を治めてその身の証しをたてて見せよ」


 ジョワンは、話の流れを完全には理解出来ていなかった。それでも自分が何かをさせられようとしていることだけは、辛うじて理解した。そして、王の弟子である自分が、どうしてカーネル大佐預かりとなっていると言う状況に、なにがなんだか解らなくい状況で混乱していた。その間理事長の心労は『あやつは、本当に儂を心労で殺す気か』と、どんどん溜まっていった。大佐は、国王ロベールの言葉を受け、ジョワンに、


「『王の弟子』ジョワン殿、国王陛下から私が預かる軍務とその任務について説明しよう。国王陛下、それでよろしいでしょうか?」


「良きに計らえ」と、言葉にはしなかったが、合図をするだけであった。


 国王ロベールにすれば本音をこの場で言うわけにいかず、この謁見を終わらせようとしていた。


「今日は、王宮に新たな弟子を迎え入れることができなかなか実りのある謁見であった。今宵は、このものを迎えての宴を催そうぞ。侍従長よ、支度せい」


と言うと、国王は謁見の間から去っていった。一同は、国王に対して深々と礼をする中、侍従長の


「かしこまりました」


という声だけが謁見の間に響いていた。


 国王が去った謁見の間、この場に居合わせた者は、思い思いに『王の弟子』と言う職業のことを、いろいろと小声で話をしつつ、ちらちらとその姿を見つつ思い思いに退席していくのだった。

 侍従長は、


「大佐、そやつの管理、頼みますぞ」


 そういうと、宴の準備へといそいそと向かい。そのあと、職公開の許可の後、成り行きをなにも言わず静かに見守っていたエル教神官長は、何か思うところがあったのか理事長のそばにより一言二言言葉を掛けていた。理事長は、その言葉に少々驚いてはいたが、神官長そのまま理事長に一礼し謁見の間から去っていった。


 大佐は、神官長と理事長のやりとりが気にはなったが、理事長とジョワンに


「歓迎の宴まで、まだ時間があります。先ほどの説明もあるので、我々の作戦室におこください」


と、大佐は、そう促し謁見の間をあとにしようとしていたが、理事長はその場で一言


「こりゃ、ジョワン、陛下に対して適当な返答をしておったな、それに、おまえは、ほとんど上の空で他の事をかんがえておったのじゃろ?」


と、心労をおわされたジョワンに言うと


「じ、理事長先生、僕は上の空なんかしてませんよ。ただ、気がついたら、大佐預かりってなってただけです。」


と大まじめな顔で答えていたが、しっかり、上の空であったことを白状しているのは、ジョワンらしいと言えばらしい。


「カーネル大佐? 、僕は、いったいどうなったんでしょうか????」


 後日、ジョワンは、このときの話を聞くことにはなるのだが、自分が王の弟子として王城で国王と謁見し、そのまま何事も無く王宮詰めの弟子だと予想していたのに、斜め上の展開になってしまったということを聞き、遠い目をして

「帰りたい」

と、つぶやいたことは、内緒である。


 控えの間で、謁見が終わるまで待機していたメイドのリアエルは、ジョワンたちが戻ってくると、大佐に、そのまま一緒についてくるように言われて、「なぜ」とは、思いつつも大佐達の部屋に向かうことになった。


 謁見の間を後にした国王ロベールは、王の居室に戻る最中、今回王宮派遣されてき国王の弟子であるジョワンという青年を見て、これまで容易く排除できると思っていたが、それができなかった理由が、一筋縄ではいかない相手であると認識を新たにしていた(・・・・ものすごく勘違いしているだけなのだが・・・・)。そして、影に向かって、意識不明の負傷者の事もある。次の手を打たねばならないが、ヘンリーに動いてもらうかと、ささやくようにかたりかけると影がわずかばかり揺れ、ロベールは、ふと笑みをうかべて居室へと入って行った。


 ちょうどその頃、救護室では、

「わたしは、・・・・・ここは、どこ?」

と、負傷者は意識を取り戻していた。

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