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大きな騒動~その3・・・End gameⅠ

状況は、人が絡み合うことで瞬時に変わって行く。劣勢が優勢に、優勢が劣勢に

 ここは、スプリット軍管区本部入り口。


「おまちください!」


 スプリット軍管区における副官、少将の副官とも言えるシンゾン大佐は、強い口調の声で、目の前に立つ男が本部へ入るのを止めていた。


「貴公が、宰相令をお持ちであっても、トランフ少将の許可が無ければ、ここをお通しするわけには参りません!」

「それは、宰相の命令には、どうあっても従わないとうことかね?この命令書には、王弟陛下の署名が入っていてもなのか?」

「王弟陛下や、宰相閣下の命令には従わないとは、言っておりません。少将が、お越しになるまで、お待ちくださいと申し上げているのです」

「それじゃあ、トランフをさっさと呼んでよ」


シンゾンの脇に控える将官たちは、直属の上官を呼び捨てにした男に気色ばむ。トランフ少将の名前を呼び捨てにしているのは、ロナルド・バーグブレッドであるのだが


「おいおい、ロナルドの大将、さすがにそれは、まずいって、皆さん怒ってらっしゃる」


 男のそばに立つのは、守備隊の大隊長、イルファンである。ロナルドとは、古い付き合いであり、ほぼ悪友と言った間柄である。ただ、この場で、敬称に『大将』を付けるのは悪手ではあるのだが・・・


「う~ん。それでも、検問の件もあるし、宰相閣下のお墨付きあるからね。というわけだ。入れてくれないなら、軍の指揮権をすぐに引き渡しなよ」

「ですから、なんども申しておりますように、少将が来られるまで、少しお待ちください」

「宰相の命令書を無視するなら、それでもかまわないが、国家叛逆罪として、おまえらを拘留することになるが良いか?」

「・・・・・少将の指示が無い以上、その命令書にしたがうわけには参りません。拘留なさるというなら、どうぞ、やってご覧なさい。ここの兵士は、誰一人して、貴公の命令には従いますまい!」


 ロナルドが、シンゾンの言葉を聞くなり、そんなことは気にも留めないという態度で、シンゾンのそばに立つ将官達を見る。


「おまえらも、こいつと同じで、宰相令に逆らうのか?重罪だぞ?連座制で親兄弟も罪に問われるぞ?それでも良いのか?」


 ロナルドは、大袈裟に親兄弟にも、その累が及ぶという。将官達は、シンゾンの方をチラチラ見ながらも、返事をせず、黙りこくっている。


「トランフに対して、結構な、忠誠心だな」


と、ロナルドはややあきれ顔である。


「ロナルドの大将、ちょっと待ってやれよ。皆さん、かなり困っていらっしゃる」


イルファンは、ロナルドを、やんわりと止める。


「しゃーねーな、じゃあさ、町の出入り口の検問について、一時的に停止命令だしてよ。自由交易都市として、このスプリットにそぐわないからさ」

「・・・・・・・少将のご命令があれば、解除しますが、貴公の命令でそれはできません!」


 シンゾンは、ロナルドからの命令をつっぱねる。「こいつ、優秀な武官か、それとも、頭の固い底抜けのアホだだな」とロナルドは思っていた。本部入り口で、なんだかんだと同じ事の繰り返しでの押し問答、同行のイルファンから見ると、ロナルドはそのやり取りを楽しんでいるように見え、ややあきれ顔である。


「ロナルド、それ以上は、さすがに無理だって、それに、一応、検問のところは、うちの部隊が見てることだし、ここで、少将閣下が来るのを待とうや?」

「やだぜ。ここをさっさとおわらせて、ユリカちゃんの顔を見にいくんだから!」


 シンゾン達は、ロナルドに対して決して譲ることはない。ロナルドは、ロナルドで、引くことはない。「こいつ、力ずくの無茶をするときは、勢いとごり押しでなんでも解決するんだけど、こういうときは、ダメダメなんだよな・・・・」と、ロナルドを見つめるイルファンは遠い目をしていた。

 時間は、ほんの少し前に遡るのだが、ロナルドが軍本部へ来る前、検問での出来事をイルファンは思い出していた。そこで、久しぶりにロナルドに会うことになったのだが、


「どけどけどけ!ロナルド・バーグブレッド様のお通りだ!」


 馬に騎乗したロナルドは、町の入り口で、旅行者や商人、町に出入りする人々を片っ端から調べている検問所へと問答無用で突入していく。当然の事ながら、検査待ちの商人や旅行者は、猛スピードで突っ込んでくる馬に気がつくと、慌てて、道を空ける。驚いた兵士たちは、駆け込んでくるロナルドに対し、町へ侵入を阻止するように、動く。


「待て待て待て待て!ここは、王国軍により管理している。馬から下りて、こちらの指示に従え!」


 ここの責任者でもある部隊長が、声を張り上げ、ロナルドを止めようとする。部下の兵士たちも、その声に従うように、ロナルドを取り囲もうとするが、ロナルドは、その手綱を緩めず、兵士たちの中へ突入する。まさかの事態に、兵士たちは、パニックである。


「愚か者!ひかえろ!我は、メディシス宰相の命により、領主代行補佐権限を賜ったロナルド・バーグブレッド。宰相とわがバーグブレッド家に対して、文句のあるものは、前に出ろ!」


 兵士たちは、ロナルドの名乗りに、躊躇する。それでも、部隊長は、


「貴様、宰相閣下の名をかたるとは、不届き千万!とらえろ!」


 檄を飛ばす。兵士たちは、思い思いの武器を手に持ち、ロナルドへ迫る。


「このバカ者が!これを見ろ!」


 ロナルドは、そういうと、内ポケットから、宰相令のかかれた証書をとりだす。部隊長も、兵士も、その証書を見る。


「領主代行補佐、ロナルド・バーグブレッドの命により、この場の兵士は、直ちに検問所を閉鎖、退去せよ!」


その気迫に圧される。


「し、しかし、少将の命令で、ここの管理を任されておりますので、宰相令と言えど、本部からの指示を仰ぎませんと、閉鎖および、退去はできません」

「だから、領主代行補佐命令だと言ってるだろう?」

「そう言われましても・・・・ここの管理を放棄することはできません!」


 ロナルドが、どうしたものかと思案したのだが、検問所に騒ぎを見ていた守備隊の隊員が、何事かと様子をうかがっていた。ロナルドは、守備隊隊員に気がつき、を呼び寄せると、「守備隊の大隊長って、今も、イルファンか?」と確認をすると、すぐイルファンを呼ぶように命令していた。隊員は、なぜ命令と思ったが、領主代行補佐の証書をみると、あわててイルファンのもとへと走っていくのだった。数分後、守備隊大隊長のイルファンが来るのだが


「よう、イルファン、元気か?」


とは、ロナルドのイルファンへの挨拶である。まあ、そのあいさつで、イルファンは脱力していた。


「お前かよ。ロナルド。一体、何だ?」

「ここの検問所の管理、おまえのところの守備隊で面倒を見てくれない?」

「え?なんで、お前が、そういうこと言ってんの?」

「あ、今、俺、領主代行補佐なんだ。で、ここの兵士を退去させるんだが、ここを空にできないというんだよね。それでだ」

「おい、まさか」

「察しがいいね。代わりに、守備隊が代わりに常駐してくれないか?」

「まあ、もともと、ここには、守備隊が常駐してたから構わないといえばかまわないが・・・」

「じゃあ、たのんだ!」

「面倒を押し付けてくる・・・・全く・・・・」


 ロナルドに押し切られるように、イルファンは、守備隊の手配をする。イルファンは、ロナルドのことを昔から嫌いではなかったのだが、たまに、こういう強引な押し付けをしてくることには、抵抗があった。それでも、いつの間にか、そのペースに巻き込まれてしまったこともあり、慣れてしまっていた「ああ、また、流された・・・こいつには、かなわんな」と、いうのが、イルファンの本心である。


「で、お前が、領主補佐代行ってことは、このあと、領主代行に・・っと、今リタ様は、誘拐されて、行方不明なんだ。それでお前が来たのか?」

「ん?リタ王女が誘拐?今、始めて聞いた。そうなのか?」

「軍からの発表でな。昨日から、町は厳戒態勢なんだ」

「そうなのか・・・じゃあ、ちょっと軍本部へ行って、聞くか。イルファン、暇だろう?暇だよな?ちょっと、ついてきてくれ」


イルファンは、「忙しいから無理だ」と、言おうとしたのだが、それを遮られ、そのまま、スプリット軍管区の本部へと連れてこられ、気がつけば、ロナルドとシンゾン副官との不毛なやりとりを見ることになっていた。


「こいつは、昔から、代わらないのはいいけど、もうちょっと空気読めよ!」とは、イルファンの心の声である。


「おい、ロナルド、そこまでにしておけって、それ以上は少将殿が来られてからでも良いだろう?」


 守備隊大隊長イルファン、少将が、この場に到着するまで、ロナルドがシンゾン副官をおちょくり続けないように、注意し続けることになるのだった。



 --

 少将の乗る馬車は、ロナルド・バーグブレッドが現れた軍本部へと急いでいた。凍ったスプリット河の川面をひたすら対岸へと進む。川面の氷はかなり分厚いようで、ここまで凍ったことから、昨夜は、夜半過ぎからかなり気温が下がっていたようである。とは言え、夜が明けて、次第に、気温も上がって来ていることから、所々、氷の薄いところが見え始めていた。夜明け前後の早朝ならまだしも、そろそろ氷の上を渡るのも危険な時間に入ろうとしていた。


「アスワイ、この氷原を見ろ。何の障害も無いように見えて、すでに氷が薄くなっているところもある。なにも考えずに氷の上を歩いて渡ろうとするものは、油断して川にはまりよる。まるで、わしの立てた計画で、愚か者共は、罠にはまり、臆病者共は、なにもできず、ただ、黙って我にしたがう。同じように見えんか?」

「閣下のおっしゃる通りでございます」


 馬車は、やがて河を渡りきる。少将たちに馬車が、ウエスト街区の川岸にたどりついたあと、氷の上に残る轍は、すべて割れていく。融けかけた氷だからである。さらに氷のひび割れは、広がっていく。それは、川を渡るためには、そろそろ船が必要となることを意味していた。


 少将を乗せた馬車は、スプリット川を後に、軍本部へと向かうのである。




 --

 ボーズ亭3階の角部屋、ジョン・スミスいう名前で宿泊している男の部屋である。


「やれやれ、全く持って、ひどい目に遭いましたね」


 ボーズ亭の一室、全身煤けた男がそこにいた。少将のイースト街区での指揮所であり、隠れ家でもある自警団本部は、どこからともなく受けた攻撃により、爆発炎上した。咄嗟のことではあったが、辛うじて逃げ出してはいたか、少しばかり、煤けていた。ただ、ほんの少し気が付くのが遅ければ、死んでいたかもしれなかったのだが・・・・


「よもや自爆するような仕掛けがつけれていたとは、下品な男ですが、用心深い事ですね」


 男は、自嘲するかのように呟いていた。まあ、それどころか、部屋の、いや、建物の爆発から逃れた足そのままで、川を渡り、怪我すら無く、宿へ戻って来ていたことから、この男の実力は計り知れない。それでも、爆発の原因は、男が言うように自爆ではないのだが、男には、それを知る由もなかった。


「咄嗟に、こんなものを持ってきてしましたが、これは何ですかね・・」


 咄嗟とは言え、調べていた部屋から書類の束を持ち出していた。男にとって、その書類の束は、取るに足らないもののように思えたのだが、いくつか見ているうちに、男の気を引くものが一枚だけあった。


「命令書?いや・・・ふむ・・・『捜索に関わる通達』なるほど」


 通達書には、リタ王女誘拐事件やイースト街区における殺人事件等の犯人捜索において、軍本部から自警団への協力要請と、取り締まりにおいて、その身分は軍属扱いとし、軍部隊に同行する限り、あらゆる行為・行動の保証をする旨が、書かれていた。


「この通達は、少将のサインが入ってますね・・・あらゆる無法行為に対する許可書ですか、ほぼ、主犯がだれなのか決定ですね。一応、念のため確認しないと駄目ですね・・」


 すすけた服を脱いで、軽く体を拭き、服装を着替えると、男は、さも先ほどまで眠っていましたと言わんばかりに、遅い朝食を取りに、一階の食堂へ向かった。そこで、宿屋の娘とたわいない話をした後、「港の方へ行く」と、言い残し宿を後にした。



 --

 少将の馬車から遅れること半時間、ジョワン達を乗せた馬車は、凍っていたスプリット川の岸辺に到着していた。


「大佐、周辺の氷が、割れかけてます!」


ジョワンは、川面の氷が所々融けたり、割れたりしているのを見た。


「仕方がない。渡し船乗り場へ」


と、大佐が御者のメイドへ声をかけるよりも早く、一行を乗せた馬車は、割れかけた氷の川面へと進路を変えた。


「カーネル様、これぐらい凍結しているのでしたら、再度凍結させるのも容易でございます。ご安心ください、皆様を向こう岸まで問題無く、お送りいたします」


 メイドは、そう言うと、馬車の前に広がる溶けかけ、氷の破片が浮かんでいる川面が、まるで「ビシッ」と音が聞こえてくるかのように、再び凍結していく。御者をするバーグブレッド家メイドは、自身が持つ能力を使っているようである。その能力は助凍結。水をそのま凍結させることは、出来ないが、凍りかけ、融けかけているものを再度凍結させることができる。便利そうに見えて、使い勝手の悪い能力である。ただユニークな事に、彼女が能力を制御するための補助器具が、ジョワンたちが、乗る馬車自体がそれであった。


「すいません!ちょっと凍らしすぎたみたいで、馬車が跳ねます!気をつけてください!」


と、馬車は、勢いよく跳ねる。


 ゴツン!


 ミリーは、そのバウンドで馬車の天井に頭を打ちつけていた。


「痛いですぅ」

「ミ、ミ、ミ、ミリ、ミリ、ミリー、さ、さん、痛!」


 当然、ジョワンも馬車の振動で激しく飛び上がり、舌を噛んでいた。


「ジョワン君も、ミリー君も、少し落ち着着きなさい」


 大佐は、事も無げである。


「すいません。なぜかうまく再凍結ができなくて」


 御者のメイドは、首を傾げながらも、馬車を進めていく。気のせいか、馬車の窓からの見える風景が、上から見下ろす感じになっていく。


「もうすぐ渡りきりますが、ちょっと荒っぽくなるので、気をつけてください!」


 いつの間にか、馬車は、緩い坂を登る感じになっていた。反対側の川岸にたどり着いたとき、馬車と川岸の高低差は、40 cmほどとなっていた。


「衝撃に注意してください!」


 メイドの一言に、身構えるのは、ジョワンとミリー。


 ふわっとした感じが、ジョワン達を包むと、立て続けに、激しい衝撃が、襲いかかる。


 ドスン!


 馬車は、無事に川を渡りきったが、ミリーは、再び、馬車の天井に頭をぶつけて涙目である。ジョワンは、先ほど舌をかんだことから、今回は、噛まないよう身構えていたようである。


「お怪我はありませんか?いつもなら、こんなことにならないんですが」

「頭が、痛いですぅ。もう少し穏やかにお願いしますぅ」


 ミリーは、抗議の声を上げる。


「ミリー様、申し訳ございません。カーネル様、病院へ向かえばよろしいでしょうか?」

「済まないが、部下に指示をだしておきたいので、フェルミ亭へ入る通りで一度止めてくれ」

「畏まりました」


 馬車は、少しスピード落として、町の大通りへ入る。やがて、フェルミ亭に入る通りに近づくにつれ、さらに速度を落とし、やがて停止した。大佐は、止まった馬車から降りると、フェルミ亭へと慌てるかのように駈けだしていた。なぜなら、尾行や監視を避けるように張られていた防御陣が全て消えていたからである。


「全員無事か!」


とは、大佐が、大慌てで、フェルミ亭に入ってきた時の第一声である。この後、部下から、防御陣が消えている理由が、派遣協会スプリット支部長である事を聞き、ホッとするのだった。部下たちは、当然、消えた防御陣を再生することになる思っていたが、大佐は、それよりも査察等の実施準備を部隊長に命じたが、部隊の中から、4人ほど選びだし、その内の2人には、バーグブレッド家で保護している人々の安全確保に行くように、残りの2人には、これから向かう病院についてくるようにとそれぞれ指示を出すと、部下2人を連れて馬車に乗り、一路、病院へと向かうのだった。



 時を同じくして、少将を乗せた馬車は、軍本部前に漸く到着していた。副官のシンゾンが、少将を迎えようとするのだが、


「少将が参れた。全員、下がれ!」


との、シンゾンの声もむなしく、守備隊大隊長を含む守備隊、及び、ロナルドに従う一部の将兵達は、道を空けず少将の到着を拒むように軍本部を取り囲んでいた。ロナルドの引き起こした騒動を聞きつけた少将に不満を持つ将兵も集まってきていた。


「えーい、下がれ!下がれ!用の無いものは、下がれ!」


 シンゾンは、本部警備の兵に命じて、なんとか本部前までの道を確保させると少将の乗る馬車が、本部前と乗り付ける。この道を確保する際に、ロナルド達は、本部前から離れた所へと追いやられていた。それでも、ロナルドは馬に騎乗すると、本部前へとその歩みを進める。



 --

「カーネル様、間もなく病院に到着いたします」


御者のメイドが、到着を告げる。


「ミリー君、アリッサさんの病室は?」

「ママの病室は、あっちの奥にみえる建物の中」


それを聞いた同乗する部下の一人が、


「大佐、あそこは、隔離病棟です。許可のない者は誰も入れません」

「ミリー君、許可証は?」

「無いよ?でも、院長先生が、特別に面会しても良いって」

「そうなのか?我々もついて行って良いだろうか?」

「ユリカさんも、一緒に会いに行ったことあるから、大丈夫だよ。それより、早くママのところへ行こうよ」


 ミリーは、アリッサのことを心配していた。あそこで見たのは、母であるアリッサに間違いないのだが、アリッサは、病室で、ずーっと目を覚まさず眠ったままである。ミリーにすれば、母の身に何か起こったと考えるのは当然である。


 馬車が、病院の前に止まると、ミリーは、一番に馬車を降りて入り口へ向かう。


「ミリーさん、待って!」


 ジョワンが後に続く。


「周囲の警戒を頼む」


 大佐は、部下にそう告げ、ジョワン達の後を追うように馬車を降りるのだが、御者のメイドは、大佐に


「カーネル様、わたくしは、この場にて、お待ちしております」

「ありがたいが、今すぐ引き返さないと、屋敷へ戻れなくなるのでは?」

「はい、ですが、もう、この時間でございます。馬車を渡し船に乗せて戻りますので、お気になさらずに」

「了解した。感謝する」


 大佐は、部下二人に、馬車を中心に警戒するよう告げ、ジョワン達の後を追い掛けた。ちょうど、その頃軍管理の病院、その院長室では、


「ヘインリーさま、先ほどご報告いたしました。研究材料でございますが、当病院に、アリッサ・オコーネルの娘と共に、来院したようです」

「ほう、それは僥倖よ。すぐに確保するように、よいか?」

「はっ、畏まりました」


 ヘインリーの部下、バーグブレッド家襲撃に同行していた男は、礼をして、院長室を後にした。


「実験体のライスリーと言い。新たな実験体が手にはいるとは、研究が捗る」


 ヘインリーは、自身の研究が捗ることに喜びを感じていた。計算外なのは、この病院に、カーネル大佐がジョワンと共に来ていたことを知らなかったことである。


 病院の受付には、一人、手慣れた感じの事務担当兵士がいた。


「ミリーさん、アリッサさんのお見舞いですね。いつもの順路に沿って病室へ向かってください。ご同行のこのおふた・・・カ、カーネル大佐!」


 兵士は、慌てて立ち上がる。過去、カーネル大佐と行動を共にした兵士である。秘密裏に行動をしていた大佐にすれば、予想外の出来事である。

 兵士は背筋をピシッと正すと、大佐に敬礼をする。


「ほ、本日の、御用向きは、何でありますでしょうか?」


 カチンコチンの兵士である。


「そう緊張しなくても良い。ミリー君の付き添いでアリッサさんのお見舞いに着たんだが、よいだろうか?」

「はっ!確認を取ります。お待ちください」


 兵士は、慌てて確認のために、上官の元へ走る。予定外の訪問者に、病院内は、騒動となる。ヘインリーの部下も、実験材料としてジョワンを捉えようとしていたのだが、カーネル大佐の事を知ると、慌てて院長室へ戻ると、ヘインリーに、報告していた。


「ここで、カーネルに会うわけにはいきませんね。少将からいただいた実験体は、まだ、運び込んでませんね?残念ですが、その実験体以外は、他に新しい実験体を手に入れられないのは、残念ですが、全て放棄して、ここを離れます。急いで準備しなさい」

「よろしいのですか?」

「責任は、トランフ少将にとっていただきましょう」

「畏まりました」


 院長室に、兵士から大佐来訪の知らせが届いた時、ヘインリーは、急な出張で、留守となっていた。


 アリッサのお見舞い、あのとき見たのは、誰だったのかという疑問は残るものの、ミリーは、病室の母親を見て一安心していた。その一方、病室に近づくに連れて、ジョワンのポケットは、ほんのり光を放ちだしていた。ジョワンと大佐が、病室に着いた頃には、その光は、ジョワン達も気が付くほどであった。


「大佐、これ、多分、あれがいるんじゃないかと思うんですけど・・・」

「ジョワン君、それは確かかい?」


 大佐、ベッドに横たわるアリッサを見て、異常が無いか確認していたが、これといった問題も無かった。それは、病室に入ってから、ジョワンの持つアクセサリーの光は、仄かなものへと変わったことからも当然であろう。


「ジョワン君、ここに異常はないが・・・」


 大佐は、ジョワンを伴い病室の外へでる。


「大佐、光が!」


 光が強くなる。何もないのにである。


「このあたり、危険な感じはしないが・・・」


 確かに、何の危険も感じないのだが、ジョワンのアクセサリーが、ポケットの中で、まばゆいばかりに光り輝いている。


「ジョワン君、どの方向が一番強く光か見てくれないか?」


 ジョワンは、ポケットの中の剣の形をしたアクセサリーを取り出す。かなりの光を放っているのだが、それを持って歩いていると、微妙な光り方の違いがあることをジョワンは、感じていた。


「大佐、階段の下の方に向けると光が強くなります」


 ジョワンの言葉に、大佐は、地下へ続く階段を下りていく。が、途中で、鍵のかかった扉があり、その横に、守衛室がある。顔色の悪い男がそこにいた。生きているのかいないのか男は微動だにしない。大佐は、守衛室へ向かうのだが


「大佐、まって!その人、人間じゃない!」


 ジョワンの手にある剣のアクセサリーは、見ていられないぐらいの光を放ち始める。ジョワンは、ジョワンにしか見えない剣を握りしめていた。男は、何の反応もしない。ジョワンが、守衛室へ近づくと、その光に照らされた男は、すーっと消えていく。それは、少し光が弱くなったものの、まだ光っていた。そして、男のいたところには、何も残っていなかった。


「ジョワン君、何かするときは、一言言ってくれ。それから危険な事はしないように」


大佐は、ジョワンの咄嗟の行動に注意する。


「すいません」


とは、ジョワンである。守衛室は、無人であり、扉の鍵も見当たらなかった。


「少将の許可無く立ち入りを禁ずる」


扉には、そう書かれており、鍵が無きこととあいまって、地下へ、入ることができなかった。


「ジョワン君、いったん戻ろう」


大佐は、ジョワンにそう促すと、アリッサの病室へ戻る。


「弟子さん、大佐さん、どこへ行ってたんですか?」


 ミリーは、病室の前で、二人の顔を見てお冠である。二人は、ミリーに事実を言うわけにもいかず、平謝りである。ミリーはと言うと、アリッサに代わりのないことを確認できたので、報告のために協会支部へ戻りたかったのだが、黙って行くわけにもいかないので、二人を捜していたのだった。


 3人は、馬車にもどる。大佐は、部下の一人から報告を受けたあと、もう一度受付に戻り、受付の兵士とその上官に対して部下を一人残していくが、後で地下の件を確認に来ることを告げ、再び馬車へ戻ってきた。


「カーネル様、この後どちらへ向かわれますか?」

「軍本部へ向かってくれ、あ、途中、組合通りへ入り口へ寄ってくれ」

「畏まりました」


 なお、このとき、すでにもう一人の部下は、フェルミ亭へと向かわせていた。「軍管区本部への査察を実行する」という、大佐からの命令を伝えるために。



--

ところ変わって、軍本部前、少将に対して領主代行補佐であるロナルドが、指揮権の委譲を求めて一方的であったが、少将が、本部に到着してからは、その流れも怪しくなりつつあった。それは・・・


「ロナルド・バーグブレッド、貴公のバーグブレッド家には、王国への叛逆の嫌疑が掛かっておる。反逆者に、領主代行補佐や軍の指揮権など渡せるものか!我が勇敢なる兵士諸君、ロナルド・バーグブレッドを捕らえよ!」


この一言で、副官のシンゾンや、その部下達は、ロナルドを拘束に動き出す。ロナルドを支持していた兵士たちも、少将の号令に、戸惑いが隠せない。


「バーグブレッドに支持したものであっても、その反逆者を、儂の前に連れてきたものの罪は問わぬ!」


ロナルドは、意味不明な嫌疑に言葉を失っていたのだが、


「じじぃ、なにを根も葉もない言いがかりをつけやがる。我が一族は、悠久の昔よりエル教との盟約に基づき、王国を守護せし一族。王国に叛逆するなどあるわけ無かろう!」


 エル教の名を聞き、ロナルドを拘束しようとする兵士たちは、一斉に少将の方を見る。


 互いに相手を牽制し、牽制される。将兵たちは、両方の主張に挟まれ動きがとれなくなっていた。その時、ロナルドの馬が、ひときわ大きく嘶く。


「どうした?相棒?」


馬の頭上には、この場の中で誰も見たこともない鳥が飛んでいた。


「ん?あれは?」


それが、ジョワンの鳥であることを知るものはこの場にはおらず。そして、それが、この状況を動かす時が来ようとしていることを告げるものであることを知る者も当然いない。


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