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中くらいの騒動~その2~

ジョワン君は、裏方さん?それとも?そして、大きな騒動へ

 12月30日、スプリットの夜が明ける。トランフ少将は、前夜、張り巡らせた罠により、聖女とまで言われた王女ならば、必ず名乗りをあげる。それは、少将にとって、王女を捕らえることができる絶好の機会になることを確信していた。それゆえに、手駒であるライスリー、少将の熱烈な支持者である自警団の混成部隊派遣したことで、その成功を早々に確信していた。少将は、少将で、完全なる慢心に陥っていたこともあり、屋敷に戻ると、その吉報を待つとともに、祝杯をあげていた。


「儂ほどの力と知恵さえあれば、この世の中、思う通りにならぬ事など無い」


 と、独り言とともに、その自らの言葉に酔いしれていた。それは、これで王女を手に入れることができれば、王弟であるランベールを排除、あわよくば、国王すら排除できるとすら考えていた。それはつまり、国の支配者となることすら容易いと思ったからで少将はなんとも言えない笑みを浮かべていた。トランフ少将が、どういった計画を立て、どうやって自らの手を汚さず、スプリットから王族を排除するのか、その全容を知る者は、少将以外には、その少将に心酔し、また信奉する数人の幹部のみであった。

 ただ、少将の計画は、初期段階こそ、計画通りであったのだが、次第に、その歯車が狂い始めていた。「今回の作戦で、その狂いは全ては修正する」少将は、そう確信していた。だが、それも、夜明けと共にもたらされる知らせにより、自警団の本部屋敷へ向かった際、その自信を、その自己陶酔は全て吹き飛ばされ、苛立ちを呼び起こす。さらに、眼前には、ボロボロになったライスリーの姿を見ることで、苛立ちは、少将のやり場のない怒りへと変えていく。


「か、かっ・・」

「ライスリー、なんたるざまだ!」


 ライスリーは、少将からの受けた命令に実行に失敗した。ただそれだけであった。少将から預かっていた部隊は、一個大体規模であったにも関わらずである。たとえ、そこに、兵士ではない自警団員を含んでいたとしても、一人を捜索するために向かわせた人数としては、破格であり、失敗することなど考えられない話であったにもかかわらず、ライスリーは失敗した。不運にも、相手が悪かっただけなのだが、だれが相手であったとしても、少将は、この失敗を許すことなど考えるはずもなかった。この場で、ライスリーを一瞥し、なにかを言おうとするたびに、常にそれを遮る。少将自ら認識の甘さを考慮に入れるべきでもあるに関わらず、こみ上げてくる怒りが、誰に対するものなのか明白にするために


「面目ござい・・」

「おまえには、これまで散々目を掛けてきたというのに、なんたる失態か!」


 ライスリーは、スクレマ家邸突入後、カーネル大佐の罠にはまり、歩くこともままならならず、この場では、部下に支えられてようやく立っているという状態でしかなかった。それでも、そんな状況など、知らぬとばかりに、少将は、ライスリーを罵倒する。そこにはいたわりやねぎらいの言葉などない。


「満足に儂の使いすらできないのか!」

「・・・いえ、かっ・・」

「黙れ! こいつは、もう不要だ、処分しろ!」


 ライスリーの顔色が、一気に、青くなる。少将に不要と言われ処分しろと言われた以上、処刑されることになるからである。弁明の機会さらう与えられず、処分される我が身を呪うだけだった。


「少将、お待ちください」


 そんな中、少将の秘書役として、今日は朝から付き従う男、彼の名は、アスワイというのだが、この男が、ライスリーの処分を止めようとした。


「なんだ? 儂の決定に逆らうのか?」

「いえ、差し出がましいことではありますが、ライスリー少佐に、もう一度、機会を与えてみては、いかがでしょうか?」

「アイワイ、おまえは、なぜ、こんなやつを庇う? 理由によっては、貴様も」


 少将は、親指で首を切るぞと言う仕草をする。


「私には、この男を庇うつもりも、理由すらも、毛頭ございません。ただ、少佐の部下からの報告を聞きますと・・・どうも、腑に落ちない点が、いくつかございます」

「なんだと?」

「それは、少将のご意向に逆らう者、少将への悪意をいだくものが、この町に入り込んでいるように感じられます」


 少将は、アイワイの言葉に耳を傾ける。


「アイワイ、どうして、貴様に、それがわかる?」

「今回、派遣いたしました部隊は、閣下の直属の精鋭であり、その麾下(きか)にあるものでございます。つまりは、”閣下の御旗を掲げる者達に対して、何の臆することなく手を出してきた”といことにかわりありません」

「なるほど、だからといって、どうしてそれが、我が意思に逆らうのもなのだ?」

「閣下、今回の手勢は、未熟な自警団の者を含めましても、一個大隊規模。恐れ多くも、皆が閣下に、厚く忠誠を誓う者達のみの部隊でございます。それに対して、(やいば)を剥け、あまつさえ、その全てを行動不能にするなど、私には、閣下のご意向に対する叛徒の存在、あるいは・・・・」


アイワイは、言葉の最後を濁すのだが


「では、アスワイ、貴様は、その叛徒ども、リタ王女と結託していると申すのか?」

「それは・・・・・」


少将は、アスワイの方を見ながら、


「ならば、王女が儂に対する叛徒、つまりは、王国への叛逆者であるとして、捕まえてしまえば良かろう?」

「閣下、お待ちください。私といたしましては、それ以外の可能性も考えております」

「アスワイ、遠慮せず、申してみろ?」


 アスワイは、少将への説明をためらっていた。それは、昨日の昼間も同じ事を言ったからであるのだが


「それは、閣下より上位の者による命令を受け、且つ、王都から、それも中央軍から部隊が派遣されている可能性でございます」

「アスワイ、貴様、昨日もその話をして、探らせると申しておったな。儂も、そのことについて考えてはみたが、どう考えても、その可能性は低いぞ・・」


 少将は、アスワイの言葉に反論するも、黙り込む。それは可能性が限り無く0であっても、0ではないからであり、わずかほどの可能性が残されていたからである。


「閣下|」

「いや、やはり、ランベールが王都へ向かってからを考えると、こんな短時間ではありえん! もし、そうだとしてもだ、こんな事かできるのは、カーネル以外考えられん・・・が、奴らが来たならば、儂の耳に入らんわけがないであろう?」

「はい、それはそうなのですが、それでも、可能性が0では無い限り、用心しておく方ががよろしいかと存じます」


 もし、カーネル率いる部隊が、この町に入り込んでいたならば、仮にも軍管区トップである自分の耳に入らないはずがないという自負を持つ少将にとって、自分より階級が下であるカーネルが、単独で、動き、ここで何かをするとは思えず、王弟や宰相が何かを命じたとしても、こんな短時間で動いてくるとは考えられなかった。


「そんなありえない話に、兵を回して、リタを確保できなければ、意味がない。それに、わしは、この管区のトップだぞ! スクレマ家の連中がやったのではないのか? わしのことをいつもばかにするヘンリー侯爵の縁者だぞ!」


 このとき、輸送会社であるユイキュル・エキスプレス社の新型輸送機が船に偽装されていたことや、その偽装と共に、王都からのサミア経由でここまで来たとは届け出ず、あくまでサミアからと、届け出ていたこと、また、カーネル大佐の部隊が、部隊としてでは無く、個別に町へ入っていたこと、そして、ジョワンや大佐が遭遇した管理官が、賄賂を得るため、入港・接岸に関する書類を上程せず、抱え込んだままであったため、軍の注意がユイキュル・エキスプレス社に向かなかったことなど、少将にとっては、不運が重なり続け、結果、管区トップである少将の元へは何の報告も上がらず、なにも知ることもなく。唯一、憎いジン・マクスウェルが船でスプリットへやってきたことだけを、直属の偵察部隊からの報告で少将が知り、怒りを爆発させただけであったからである。


「誠、閣下のおっしゃるとおり、スクレマ家の手のものとも考えられますが・・・」


 アスワイは、そう答えると、少将の方を見る。


「ですが、閣下、やはり念のためとはなりますが、たとえ、あり得ないこととは言え、カーネル配下の部隊が入り込んでいないか、再度の確認を命じておきましょう」


 少将は、不満顔であったが、念のためという言葉には、同意していた。


「ライスリー、お前には、今一度だけチャンスを与えてやる。アイワイ、コイツをあそこへ連れていけ、確か、実験の協力者を欲しがっていたはずだ」

「畏まりました」


 ライスリーは、少将の後ろ盾でこの地位にある以上、どれほど罵声を浴びせかけられようとも、何の弁解も出来なかった。ただ、処分される場合は、何としてでも逃げ出すつもりであったが、歩くこともままならない状況では、それすらあきらめざる得なかった。アスワイの助言を少将が受け入れたことで、自分の命は救われたのだが、ライスリーは、アスワイには感謝などしなかった。それは、実験体として、この後、使われるからであり、傍若無人に振る舞える現場への復帰は、潰えたしまったからである。





 軍本部を後にした男は、町の中を歩き回りながら、ヘンリーから受けた命を果たすため、カーネル達の行方を探っていた。


「しかし、連中、見あたりませんね・・・軍本部に来歴記録が無かった以上、仕方無いですかね・・・」


 男は、カーネル達がどこにいるのか、手掛かりも無く、偶然に依存するようなことは、

彼にとってあり得ない話である。


『ここの連中が、来ていることを知らないと言うことは、ここには来ていないか、隠密に調査をしていると言うことでしょうか・・・ヘンリー様の言葉に嘘はありませんから、何かの不正を調査していると考えるべきですね・・なら、ここは、人目を避けますか』


 男は、内心、一つの結論を導き出すと、辺りを見回し、人目に付きにくい裏通りへはいる小路を探していた。


「そこの男! 身元の証明するものを提示しろ」

「はい? ああ、これは失礼。こちらでよろしいですかな」


巡回中の衛士は、そんな男を呼び止めたのだが、少し遅れて、衛士の上司がやってくる。


「ん? あんたは、朝の人かい」

「これは、これは、朝方は、どうも。ご紹介いただいた宿で、無事、部屋をとれました。ありがとうございます」

「おお、そうか、それは良かった。娘さんによろしく言っといてくれ」

「隊長、お知り合いですか?」

「朝方、ボーズ亭を紹介した旅行者だ。何かあったのか?」

「いえ、不信と思われる者に対しては、全員身元確認との事でしたので」

「おかしなところはあったのか?」

「いえ、ありませんでした」

「よろしい。任務に戻りたまえ」

「はっ!」


衛士は、敬礼をすると、身元確認という任務へ戻っていった。


「何かあったのですか?」

「いや、ご領主様のご息女であらせられるリタ様が誘拐されたと知らせがありましてな。その捜査に、我が隊も参加しておるんです」

「そうなんですか」

「ええ、ですので、できれば、あなたを含め旅行者の方々は、宿から出歩いて欲しくはないだが、そうもいかんてしょう」


隊長は、そう言うと、困ったものだといったボーズをとっていた。

「大変ですね」

「それが仕事ですから、そちらも、お気を付けて」 


隊長は、一礼すると、男のもとを離れた。


「思ったより、行動に制約を受けますね・・・一度宿に戻って出直しますか・・・」


男は、そうつぶやくと、宿へ戻ることにした。宿に戻ると、守備隊の申し入れなのだろうか、宿屋の娘が、夜出かけるのは、危険だと止められたこともあり、「今日は、1日大変だったので、朝まで眠ります。起こさないでください」と、早めの夕食をとり、部屋に戻っていた。


「さて、これから、どうしますか・・いや、どこをしらべますか」


 自問自答していたが、カーネル達の行動が、調査名目であるならば、今は、秘密裏の行動であろう。ならば・・・。


「夜、動いている可能性が高いですね・・・手掛かりとしては、弱いのですが、リタ王女の件、少しつついてみますか」


 実際のところ、カーネルの部下は、昼間、動いており、男の想定とは異なっていたが、結果的には、この判断が、功を奏することとなる。

 男は、宿屋の角部屋であったことから、人目に付きにくい方角にある窓を開けると、そこから夜の町へと飛び出していく。目指すは、対岸への渡し船乗り場であった。





ここは、バーグブレッド邸、


「リタ殿、ただいま戻りました。執事殿、こちらの方々の保護をお願いしたい」


ナインは、バーグブレッド邸へ戻るなり開口一番、そう告げる。戻ってきたのは、案内に出たメイドとナイン、そして、スクレマ家当主一族と、その使用人全員。


「ジ、ジョワン様は?」

「あいつは、カーネル殿と足止めすると屋敷に残っている」


ナインは、自分が、足止めに残れなかったことに苛立つ感じで、リアエルにそう答えていた。そんな中、スクレマ家当主は、リタの姿を見るなり、その前に、跪き頭を垂れる。当然、当主のその姿に、全員が、一斉に跪いていた。


「姫様! 誘拐されたと聞き心配しておりました!」

「面をあげてください。私の前でそのようなことは、不要です」

「で、ですが!」

「それに、私は、誘拐などされておりません。訳あって、身を隠しているだけです」


リタは、そう答えた。


「皆様には、軽いお食事とお部屋をご用意しております。こちらの方へお越しください。御当主様ご家族には、別途、お休みいただく部屋へ、ご用意いたしますので、後ほどご案内させていただきます」


 リタの言葉の後 、バーグブレッド家執事が、案内を始める。スクレマ家の面々は、急に屋敷から避難しろと言われたことで、動揺していただが、リタや執事の言葉で、一応に、ホッとした。そうはいっても、避難しろと言われた理由が、屋敷に軍が突入して来るとわれた事である以上、彼らが困惑したことには変わりなく、


「姫様、私どもは、この後、どうなるのでしょうか?」


と、不安を口にしていた。


「お父様が、お帰りになるまで、こちらの屋敷に隠れていていただきます」

「ランテール王弟陛下は、いつお戻りに?」  

「お父様には、何度もお手紙しているのですが・・・・いつもでしたら、すぐお返事があるのですが、今回は無くて、ですので、いつお戻りになるのか、私にもわからないのです・・・」

「そ、そんな・・・・」

「ですが、王都より来られているカーネル大佐と私の友人が、今、この町でなにが起こっているのか調べていただいております。それがはっきりすれば、私も皆様も、隠れている必要も無くなるでしょう」


リタは、そう言うと、王女としての風格か、力強く全員を見回した。


「もしもの時は、この私、リタ殿を含め全員お守りする」


と、ナインは、リタの言葉に、更に力強い言葉を添える。


「姫様、カーネル大佐とは、あの特務の? それに、我々をここまで護衛してくださったこの方は?」

「そうです。そして、こちらは、お父様が、派遣協会に依頼して来ていただいている。ナイン・C ・エシャロット様です」

「えっ、この方が、あの有名な? 騎士のナイン卿?」


リタは、しずかにうなずくのだが


「私は、まだ、見習い騎士ゆえ、卿などとおこがましい」


と、謙虚に答えつつも、若干、照れているナイン。ただ、高名なカーネル大佐や、ナインが、リタのために動いていることを、スクレマ家当主は、聞き、ここに避難してくるまで張り詰めていた空気が、緩む。だが・・・


バタン


急に扉が開く。





「た、大佐、少しペースを落としてください。僕、囮役からずっと走り続けているような気がするんですが」

「ジョワン君、リタ王女やリアエル君が、待っているだ急ぐぞ」

「えーっ」


冷たい雨の中、スクレマ家に突入した部隊をほぼ壊滅させた2人は、バーグブレッド家屋敷へ暗闇に紛れながら、戻るところであった。


「!」


突然、大佐が立ち止まる。


「うあっと、と、とおぁぁぁぁぁ」


びちゃ。冬の雨で出来た水たまりのなかへ、ジョワンは、頭から突っ込む。


「た、大佐、急に止まらないでくださいよ! もう、全身びしょびしょ・・・」


全身泥だらけのジョワンは、立ち上がると、大佐に、文句をいうのだが


「しっ!」


大佐は、少し険しい顔をしてジョワンに、声を潜めるようにと、口の前で指を一本立てる。


「えっ・・・どうか」

「しっ! 静かに!」


ジョワンは、再び、静かするように命令された。


 この時、少し離れた所から、2人を見ているものがいた。カーネル大佐を探していたあの男である。イースト街区へ渡った後、リタ王女の件を探るため、領主の館へ向かっていたのだが、異様な数の兵士に、尋問されるのはごめんとばかりに、軍本部の時と同じように、どこにでもいる特徴のない兵士のふりをしていた。


「おい、お前、手が空いているなら、ライスリー隊長の部隊のところへ手伝いに行け」

「どこへ行けばよろしいのでしょうか?」


男は、間の抜けた返事をする。兵士は、使えん奴だなという表情を浮かべながらも


「おい、今、隊長は、どこへ向かっている?」

「中尉、隊長は、オーガスタ邸へ突入している頃かと」

「そうか・・・おい、お前、スクレマ家の屋敷へ行け! 隊長達が来るまで、そこで屋敷を見張れ、いいな? 屋敷から出てくる奴を見かけたら、全て逃亡犯として殺せ! わかったらすぐに行け!」

「・・・」

「復誦は?」

「スクレマ家屋敷に向かい、住人を見張ります」

「もう一度!」

「スクレマ家屋敷に向かい、住人を見張ります。屋敷から出てくるものは、全て逃亡犯として殺害します」


 中尉は、下品な笑みを浮かべていた。


「よし、すぐに行け!」


 男は、兵士として(・・・)敬礼をすると、スクレマ家屋敷に向かう。ただ侯爵家の縁家であるスクレマ家、その屋敷の住人が、屋敷から外へ出たら逃亡犯として殺せと言われた際、命令した中尉に対して、男は、ほんのわずか一瞬、殺意を向けたのだが、これが、カーネル大佐やナインであれば、ギョッとしたであろうが、単なる一般人である中尉には、その殺意を感じとることは出来なかったようである。


「ヘンリー様の縁者に対して、何ですか、あの下品な態度は、許せませんね」


 男は、スクレマ家屋敷へ急ぐ、


「しかし、思った以上に、トラブルが起きてますね・・・これは、先に、スクレマ家の御当主様を侯爵家の別邸へお連れした方が良さそうですね・・・・」


 そうつぶやくと、男は、異常とも思える速さで走り出す。

 後少しで到着すると言うところで、彼の前に4人の人影が同じようにスクレマ家へ向かっているのが見えた。


「先行する兵士か? ん? いや、あれは?」


目を凝らし、最後尾を走る男の姿を見る


「私は、なんと、運が良い。カーネルじゃないですか!」


 男は、カーネル達が、どうしてスクレマ家へ向かっているのか、その理由はわからなかった。だが、いま、イースト街区にいる兵士たちとは、異なった理由であることは、予測していた通りであることには違い無かった。


「ん? 少し厄介な騎士が、中に居ますね。気づかれても困りますから、このまま、様子を窺いますか・・・・」


 この時点では、ジョワンが居ることに、彼は、気がついていなかった。それは、血気盛んなナインのすぐ後ろをおいて行かれまいと必死に走っており、殿(しんがり)の大佐は、背後を振り返り、注意を払いながら走っていたからである。


 男は、大佐たちが屋敷の裏側から中に、入るのを見ていた。程なくして、先ほど先頭を走っていたメイドが、スクレマ家の当主やその家族、使用人たちを引き連れて屋敷を出てくる。冬の夜、ポツポツと雨が降り始めていた。その集団は、ナインを殿(しんがり)にして、闇に紛れながら、屋敷を離れていく。彼は、厄介な騎士とヘンリー侯爵の縁者が、離れていくのを見て、内心、ホッとしていた。


「と言うことは、中には、カーネルとその部下ですか・・・・いや、ヘンリー様から伺っていたジョワンとかいう男ですか・・・」


 男が、妙に納得していた。そして、屋敷から避難していく集団の気配を感じられなくなった頃、中尉に命令されたのであろう兵士たちが、屋敷に集まり始めていた。彼は、裏を見張りに行くと、他の兵士たちに言うと、その場を立ち去り、様子を窺うことにした。他の兵士たちも、それが当然であるかのように返事をするのみだった。

 それから小一時間たった頃、ライスリー率いる部隊は、わずか数名を残して壊滅状態となる。男は、それを見て、相変わらず凄まじい力を使うカーネル大佐のことで苦笑いをしていた。ただ、一点、切り傷だらけの怪我人が若干含まれていたことを不審に思うのだった。


「さて、下品なパーティーも終わりましたし、スクレマ家御当主様をどこに避難させたか、案内していただきましょうか」


 屋敷から出てくるであろうカーネルを外で待っていた。


 大佐は、ジョワンを引き連れ、冷たい雨の中、バーグブレッド家へ急いでいた。ジョワンは、ふと鳥が居ないことに気が付き、「鳥、鳥さんは、どこ?」と立ち止まる。


「ジョワン君、急いで!」


大佐の呼び掛けに、不意にいなくなった鳥の事を気にしながらも、置いてけぼりにされては困るとばかりに、ジョワンは、慌てて駆け出した。


「ん? 気配を殺しているというのに、ジョワンという男は、私に気づいた?」


 男は、ジョワンが、立ち止まった理由が、気配を消して忍んでいる自分の存在に気づいた。と、思っていたが、そのとき、ジョワンの顔を見ることになる。男は、一瞬にして、怒りが爆発した。


「あれは、あのときの小僧!」


 大佐は、あまりにも激しい殺気に足を止め、ジョワンは、水たまりにダイブする羽目となる。男は、この場で、ジョワンを殺そうと思えば殺せたが、カーネルが一緒とあっては、難しく。スクレマ家御当主の行方を知ることが、最優先であることから、剥き出しになった殺意を一瞬で消していた。。


「私としたことが、へまをしてしまいましたね。それにしても、いけませんね。最近、独り言がふえすぎました」


 男は、自嘲気味に、つぶやく。


「あの男が、ヘンリー様の言うジョワン・フォルテラですか・・・忌々しいですが、ヘンリー様のご許可をいただいてから、やりますか」


 割と軽い口調ではあったが、ジョワンに対する殺意に満ちたつぶやきをしながら、カーネル達の後を気配を消した状態でつけていく。ジョワンと大佐は、それに気づかないまま、バーグブレッド家へと向かう。


「なるほど、バーグブレッド家ですか・・・・ここなら、余程なことが無い限り、安全ですね・・・・さて、どうしましょうか・・・・」


 いつもなら、忍び込みをおこなうのだが、バーグブレッド家の屋敷については、屋敷の外観とは裏腹に、警戒が厳重なため、その侵入は非常に困難なものであったからだ。そして、男は、「一つ調べておきますか」と、何かを思いついたかのように、夜の闇へと消えていった。


 ジョワンと大佐が、バーグブレッド家に帰り着いた時、何故か、ミリーが、避難してきたスクレマ家の面々、リタ、リアエル、ナイン達の中心で、宴会芸をしていた。ジョワンが戻って来たことに気がついたリアエルが、ジョワンのところへ駆け寄ってきた。


「ジョワンさ、君、大佐、お帰りなさい」

「リアエルさん、一体、何が? というか、ミリーさん、何をやってるの?」

「えっとですね・・・・話せば長くなることながら・・・」


 リアエルは、やや困惑の表情をしつつ、状況を説明し始めた。ナインが、スクレマ家から大勢を引き連れて戻って来たところから話しだした。それによると、ジョワン達がスクレマ家へ行く前に眠ってしまったミリーが、騒々しさに目を覚ますと、眠り込んでいた部屋から、勢いよく飛び出してくると、その雰囲気を察したのか、場を盛り上げようといきなり宴会芸をやり始めたと、ただ、ジョワンには、ミリーを追いかけて協会支部へ行くときに通った狭い路地での過酷な体験をなんとなく思い出していた。


「だれも不思議に思わないのかな・・・あれって、どこから出て来てるの?」

「えっ? そう言われれば・・・・・あれ????」


 ミリーは、いつの間にか、天井から垂れ下がったロープや、小さなブロックを使って、いろいろな芸をしていた。たしかに、バーグブレッド家の天井からロープが垂れ下がっているなど、あり得ないはずなのだが・・・・。そんなこんなで、ミリーの宴会芸で、場の雰囲気を盛り上げつつ、疲れた者達や、スクレマ家当主家族は、それぞれに用意された部屋へ案内され、各々が、それぞれに、休息を取ることとなった。場を盛り上げていたミリーはというと、いつの間にやら、先ほど眠っていたというか、夕食をとっていた部屋で、すやすやと寝息を立てていた。当然というのだろうか、先ほど天井からぶら下がっていたロープや、小物はいつの間にか消えており、リタもナインも、ジョワンやリアエルに指摘されるまで、その事について気がつかなかったようで、ナインは「恐るべし、支部長補佐!」と驚愕の表情を浮かべていた。


 そして、12月30日の朝がやってきた。夜半の雨は止み、スプリットにしては、珍しく霧も無く、放射冷却の効果であろう、町の沖合を暖流がれているにも関わらず、朝方の気温は、氷点下を記録していた。異常に寒い中、怒りで熱くなっているのは、トランフ少将のみであった。


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