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今の話と昔話

支部長代理はミリーです

 ウエスト街区のやや港湾施設のそばに、歩哨が立ち警備している建物、それは、この地区を統括する軍の本部施設である。


「さてさて、カーネル達がここに来ているか確認しますか、どうしましょうかね・・・」


 歩哨の目には、男の姿が見えていないようである。このまま入り口から堂々と入るのも手ではあるが、男の気配に気づくものがいた場合、単に確認するためだけに騒ぎを起こすことになり、それは、男の主が課した任務ではないことを彼は理解していた。


「ヘンリー様に、ご迷惑かけれませんからね・・・だからと言って、聞いてハイそうですかと教えてくれるものでもないですからね」


 カーネル達の動きによっては、ここには来ていない可能性が高いのだが、だからといって調べないわけには行かなかった。


「!」


 遠くから蹄の音が急速な近づいてくる。歩哨達もその音に気がついたのか、音のする方を見ていた。やがて、馬に乗る兵士が建物の前に着くや、歩哨達は、何事かとその兵士に、声を掛けると


「少将からの命令である!」


 一言言うと


「王弟陛下ランベール様のご息女、リタ王女が誘拐された。全軍を持って王女の捜索及び犯人逮捕をせよ! との仰せである!」


 歩哨達は、スプリットの聖女とよばれる王女が誘拐されたと聞き、動揺が広がっていく。


「何をしておるか! ただちに、兵をあつめてこんか!」

「は、ハイ!」

「兵士が揃い次第、捜索に向かえ、私は、それまでに、副官殿のところへ行ってくる」

「イエッサー!」


馬上の男は、馬から下りると、建物の中へと入っていった。残された歩哨達は、事態が飲み込めずバタバタしていた。が、辛うじて非常呼集を掛けてはいた。


「これは、チャンスですね。しかし、リタ王女の誘拐ですか・・・まあ、私には、関係有りませんね」


男は、そうつぶやくと、いつの間にか軍服に身を包み、誰に見咎められるでもなく建物の中へと入り込み、ここ2~3日の記録を確認するために、内局の事務方の部屋へと向かっていた。彼は堂々と廊下を進むが、平時であれば、彼の存在は気づかれるのだが、先ほどのリタ王女誘拐の知らせで、慌ただしく人が往き来していたこともあり、これと言って気がつかれていなかった。それでも、途中、稀ではあるが、すれ違う兵士に、


「非常呼集だ、急げよ」


などと声を掛けられてはいた。そんなときは、適当に返事をしていたが、男は、ようやく目的の部屋へ到達していた。本来なら誰か居るはずだが、部屋には鍵が掛かっており、どうやら非常呼集で、事務方まで出て行っているようである。だが


「鍵は掛かっていますね・・・これぐらいは、まあ、問題無いですね」


 彼は、そうつぶやくと、゛カチッ゛と、鍵を開けると部屋の中へと入っていく。それからしばらくして、部屋を空けていた事務方の兵士が戻ってきたのだが、掛けたはずの鍵が掛かっておらず、部屋の様子が変わっていたことから、何かものかが侵入した形跡に気づくなり、本部施設全体に侵入者警報が発令された。しかし、そのときには、彼はカーネル大佐を探しに町へと向かった後であり、リタ王女誘拐と本部施設への侵入者という2つの事件に、兵士達は、しばらく振り回されることとなる。




 夕暮れの渡し船乗り場、最終便までは、まだ何便かあるのだが、ジョワン達は、協会支部から、早々に移動し終えていた。ナインが、リタを心配して、ジョワンとミリーを置き去りにするが如く急いだからである。ミリーは、なんだかんだとナインに遅れる事もなく、気がついたらナインより先に、渡し船乗り場に着いていた。


「先輩、ちょっと急ぎすぎです。待ってください!」

「遅い! おまえのような奴が良く弟子として派遣されたな!」


ジョワンは、ナインのような前衛戦闘職ではないと言いたかったが、後が怖かったので、そこはぐっと我慢する男の子である。実際、ナインの強さは破格であり、ユイキュル王国内で彼女を配下に迎えたいと思う者は、王族・貴族から商人に至るまで、大勢居るのだが、本人は「まだまだ、私は、未熟で修行の身」と、誰からの任官要請も固辞し続けていた。


「それにしても、ミリー殿には、感服です!」

「みゅ?」

「私より先に、船着き場に着くとは」


にへらぁ~とミリーは、笑みを浮かべていた。ジョワンは、「訓練のつもりだったんかい!」と、突っ込みたかったが、やはり怖かったので、我慢する男の子であった。


「何かいいたいのか?」


と、問いかけられても、ジョワンは、高速で首を違う違うと振っていた。


『・・・時発、イースト街区行き、間もなく乗船開始です。本日は、乗船前に、身元確認、手荷物検査させていただきます。お客様には、ご不自由、ご迷惑をお掛けしますが、ご容赦いただきますよう、よろしくお願いします』


乗船案内が、アナウンスされると、イースト街区へ帰る者達が、一斉に乗船口へと向かっていく。


「身元確認?手荷物検査?」

「ジョワン、貴様何を惚けている?」

「えっ?いや、先輩、身元確認って、どうすれば?」

「先ほど、ユリカ殿から、もしもの時は、見せるようにと渡されたであろう?」


 支部を出る際に、ユリカから渡された紙がそれである。ジョワンは、゛あ!゛っと、思い出したかのように、何も考えずに懐に仕舞っていた一枚の紙を取り出し、その内容を確認していた。どうやら忘れていたようである。


「貴様のそのいい加減さは、我慢ならん」


とは、ナインの独り言である。ミリーは、派遣協会支部長補佐として有名人なのか、身元確認は、顔パスであり、ジョワンとナインは、ミリーに連れられて派遣先へ行くと言うことで、簡単な確認を済ませるだけで船に乗り込むこととなった。




イースト街区にある屋敷、トランフ少将は、リタ王女、ハンス親子の行方について、部下からの報告を待っていた。


「閣下。依然、奴らの行方については、つかめておりません」

「王女の件は、誘拐事件として、軍を動員しておるのだぞ?」

「はっ。全く持って」


朝からずっと少将の補佐をしている男がそう告げると、トランフの苛立ちは、ますます強くなる。


「失礼いたします!」


護衛の一人が、少将のいる部屋へ入ってくると、何かが書かれている紙の束を取り出し


「本日、川をわたった者のリストでございます」


そう告げると、少将の補佐をする男に、リストを渡した。


「閣下」

「なんだ?」

「リストに、バーグブレッド家への訪問者の記載がございます」

「それがなんだ?」

「派遣協会員が三名、この町の者でない者が二名とこの町の者が一名・・・ん?商人が一人、向かったようでございます」

「して、名は?」

「それが、協会の身元確認書提示のみしかしてないようでして・・・商人の方は、ジョン・ドウとい・」


少将の顔色が急に変わる。


「なんのための乗船者確認だ!」


と、声を荒らげるのだが


「閣下、恐れながら、申し上げますが、こちらの手の者ではございませんので・・・それは難しいかと・・・」

「すぐに、直属のものを代わりに送り込め!」

「はっ!そのように」


男は、少将に頭を下げると、リストを持ってきた護衛の男に一言二言告げると、その男は、部屋を慌ただしく出て行った。


「閣下、バーグブレッド家への対応は、どういたしましょうか?」

「外の家へ向かった者は、おらんのか?」

「はっ、後、商人や医者が向かった家が数軒ございます・・・」


少将は、リタ王女やハンス親子を匿っているものが、イースト街区の住人にいることは、ここまで見つからない以上、容易に想像出来てはいた。ただ、どうやって炙り出すかの手を考えていた。


「・・・今から、それらの家に踏み込めるか?」

「踏み込ませるのでございますか?それには、兵士の数が足りません・・・今の手勢では、一つの家を調べてから、次の家へとなりますが・・・」

「かまわん。時間が掛かろうが、その家の者は、すべて拘留しろ」

「閣下、拘留となりますと、罪状が必要となりますが?」

「そんなもの適当に、決めれば良いだろう?そうだな、例えば、リタ王女誘拐の疑い、ハンス婦人殺害容疑者の隠蔽、いくらでも、作って使えばよい。拘留した者は、複数犯の一人として、死刑判決をだし、処刑は、明日とでもしておけばよかろう」


少将を補佐する男は、怪訝な表情を浮かべていた。


「はあ・・・よろしいですか?」

「何軒か踏み込み、その家の者を処刑するとなれば、あの王女の事だ。必ず出てくる」

「さすが、閣下。敬服いたします。では、すぐそのように手配いたします」


男は、少将に一礼すると、部屋を出て行こうとしたが


「待て、念のため、あれを用意しておけ。必要になるかも知れん」

「あれでございますか?準備に時間が掛かりますが、よろしいでしょうか?」

「仕方なかろう。直ちに手配。明日の炙り出しに使え!」

「畏まりました。直ちに、そちらの手配もいたします」


部下が出て行った部屋に、一人残された少将は


「これで王女やハンス親子を確保出来れば、私の計画は、成功する・・・ハハハハ」


落ち着いて考えれば、あちらこちらに穴だらけの計画であるのだが、少将は、自分の立てた計画に酔いしれていた。そして、夜も更けようかと言う頃、イースト街区の一軒の家に、軍が突入した。家人で、突入に抗議する者は、抵抗したと見なされ、その場で処刑。抵抗しなかった者は、リタ王女誘拐の共同謀議の疑いで、逮捕拘留、家捜しの後、ありもしない証拠品により死刑判決をその場で下され、拘留施設へと連れて行かれていた。当然、これらの騒動は、夜の街区にあっても、街中に広がって行くことになり、ナインなどは、義憤にまかせてバーグブレッド家から飛び出そうとしたのだが、執事や大佐によって「これは、王女をおびき出すための手だ」と言われ、止められていた。




 時間は、少し戻る。ジョワン達がバーグブレッド家に帰り着き、リタたちがくつろいでいる部屋へ入ると、留守番をしていたリアエルが


「おかえりなさいぃ、ジョワンさ~ま~」


と、ジョワンに猛ダッシュで駆け寄り飛びついた。ただそれが、結果的に、ジョワンを驚かすことになり、びっくりして後ろに下がったことで、リアエルがジョワンにタックルをするような態勢になり、その勢い殺せずジョワンが、床に叩きつけられるように倒れ伏した。そこは、ご愛嬌かもしれない。


「リアエルさん、流石に痛いよ」


とは、ジョワンの言葉である。後にナインは、「あのタックルは、私にも、かわせない」と言ったとか言わないとか。ただ、かなりの衝撃を受けたもののジョワン自身に異常は無かったようで、何事も無く立ち上がると


「カーネル大佐は?まだ?」


と、リタや執事に訊ねていた。


「まだ、戻られておりません」

「そうですか」

「ナインさんと一緒にもどられたんですね」

「リタ殿、不本意ながら、ジョワンと戻ることになってしまった。リタ殿、私がいない間、こやつが何か悪さをしなかっただろうか?」

「いえ、ジョワン君は、わたくしに、旅のお話を色々してくださいました」


と、目をきらきらさせながら答えるリタ。何故か、ナインの怒りのメーターが上がっていた。ジョワそんな気配を察したジョワンは、ナインから少しずつ離れようとするのだが、むんずと、襟を掴まれ、冷や汗だらだらのジョワンである。ところで、リタは、この二人に同行者がいることに気がつき


「そちらの方は?」


と、二人にたずねながらミリーを見ると


「あ、これは失礼した。こちらは、派遣協会支部長補佐をしておられるミリー・オコーネル殿です。事情を説明したところ、要請依頼に対して、リタ殿を保護するということで、ご同行していただきました」

「どうも、ミリーだよ。ユリカさんの代理できました!」


元気一杯ミリーである。


「ミリーさんですね。よろしくお願いします」

「えっと、支部建物がぶっ壊れているので、ミリーがこのままここにいますぅ」


多分、この場に支部長がいたら、ミリーは、頭をおさえることになっていたであろう。が、今は、ミリーが協会支部長の代理である。威厳は、無くとも力強く王女に返事をしていた。そして、鳥は、戻ってくるなりリアエルやリタの頭上を飛びながら、部屋にあるテーブルの上に、ちょこんと降り立つと、ナインに、まさしく首根っこを押さえられているジョワンを見て、やれやれといった仕草をしていたが、ジョワンとナインは、それどころでは無く、その仕草を見ていなかった。それでも、部屋にいた残りの全員がそれを見ており、当然のことながら、頭上には、「鳥だよね?」とか「?」を浮かべているようだった。


「ナイン様とジョワン君は、仲がよろしいのですね」

「リタ殿、冗談でもそういうことは、言わないでいただきたい。こいつは、ここで〆ておかないと、リタ殿を保護するという王弟陛下と協会任務の障害に!」


と、リタの一言で、ナインは、手を止めそう答える。そのおかげか、ジョワンは、ナインから離れ、〆られるのを辛うじて逃れるや、リアエルの後ろへと回り込んだ。リアエルは、リアエルでナインがジョワンに向けて放っていたプレッシャーに、ジョワンを助け出す隙が見つからず、立ち尽くしていたのだが、ジョワンが後ろに回り込んだ事で、ナインとの壁になろうとしていた。リアエルを挟んでの二人の戦いをリタは羨ましそうに見ていた。


「ふったりとーも!いい加減にしっな、さーい!」


そんな二人に、流石のミリーも呆れたようで


「ミリーでも怒るよ!」


と、ぷんぷん顔。


「「ミリー殿さん、申し訳ない」」


と、二人は謝罪の言葉を口にし、頭を下げていた。ただ、それが、ほぼ同時であったごとから、リタは、思わずその光景に「仲がよろしいんですね」と言うと、二人は否定していたが、リタの顔には笑みがこぼれていた。この状況、若干カオスではあったが、リタが、この屋敷に来てから、纏っていた重苦しく張り詰めた空気が、いつの間にか消え、ちょっぴり温かく心地よい空気にリタは、包まれていた。ジョワンと共に戻った鳥はというと、リアエルの頭の上に飛び乗り、二人を見てため息をつくような仕草をしていた。




スプリットで、ジョワン達が、騒々しくしている頃、王城のある部屋の扉が叩かれていた。


コンコン


「どうぞ」


カリーが扉を開けて部屋へと入ってきた。


「マリーさん、何か急用とか?」

「はい・・・カリーさん、先日のジョワン君のお供にという話の件ですが、」


ジョワン達が、スプリットへ向かって3日。マリーは、カリーが一時的に用意した部屋に移っていた。ただ、この部屋の前では、先日の騒動のこともあり、警備の兵士が立っていた。


「お受けしようと思います」


カリーは、その言葉に安堵の表情を浮かべて


「そう、良かったは。もし、断られたらどうしようかと思ってたのよ」


もし、マリーが断っていたら、彼女の身元がなぜかはっきりしないため、彼女の安全が確保されたとしても、この先、軟禁状態になる可能性があったのである。


「でも、今は、ジョワン君達、留守だから・・・そうね、しばらく私のお手伝いをしてもらえるように、侍従長にお願いしてみます」

「・・・お願いします」

「彼らが帰ってくるまでに、用意しておかないといけないものも多いし、私としても助かるわ。あ、でも、明日からになるけどよろしくね」

「はい・・・あのう・・」

「ん?どうしたの?」

「部屋から出ても良いんでしょうか?」

「そうね・・・ここにずっとだと、息が詰まるわね・・・わかったは、外の兵士が付き添うことになるけど良いかしら?」

「はい・・・かまいません」


ひとりで出歩くことは出来ないことに、マリーは、少し落胆はしていた。


「それから、ジョワン君達が戻る頃には、貴女も含めて、別の部屋を用意します。それまでは、窮屈でしょうが、この部屋で我慢してね」

「ありがとうございます」


カリーは、マリーの落胆は、ジョワンが、今ここに居ないことなのだなと思ったことから改めて部屋を用意すると言ったのだが、マリーの落胆は、主である侯爵に連絡をとるため、ひとりで行動することが、出来ないことへの落胆であった。


「他に何か困ったことがあれば、外の兵士に言っておくので、対応してもらうようにね」

「はい」


マリーの返事を聞き、カリーは、部屋を出ると兵士に一言二言告げ、侍従長の下へ向かった。




「大佐、支部長に個人リストは、駄目と言われたんですが、行方不明や病院に入院している派遣協会員のリストは、写して持って行っても良いと言われたので、写してきました。これが、そのリストです」

「・・・・」

「大佐?」

「ん?ああ、ジョワン君、ありがとう。そのリストを見せてもらえるかな?」


 大佐は、ジョワンとナインの混沌した状態の中へ戻ってきたのだが、その中にいたミリーを見るなり、「どこかで見たことがあるな」と、記憶の糸をたどっていた。ジョワンはジョワンで、ナインやミリーの事を紹介するよりも、先に、大佐から頼まれていたリストの事を話し出していた。初めての任務と言えるのだろうか、その仕事を達成したことでに舞い上がっていたのではあるが・・・。


「なるほど・・・・ん?アリッサ・オコーネル?アリッサ・・・・・アリッサ!」

「ミリーのママだよぉ」

「おおそうか、君は、アリッサの娘さんか!」

「カーネルさん、お久しぶりですの、ママは、ここの病院に入院してますぅ」

「大佐、ミリーさんのことご存じなんですか?支部長から、アリッサさんの事は、聞いたんですが、『詳しい話は大佐に』って言われて・・・」

「こら、ジョワン、私のことを紹介しないか!」

「あっ!えっと、今、派遣協会支部長補佐をされてますミリーさんです。それと、昨日、リタさんの話に出て来たナインさんって言うのが、僕の先輩で、こちらのナインさんです」

「大佐殿、私は、ナイン・C・エシャロットと申します。ランベール王弟陛下から協会への緊急要請に基づき、リタ王女の警護をしております。また、本日、協会支部長より、王女の安全が確保できるまで保護任務に従事せよとのことで、警護を継続させていただいております」

「ナイン殿、お名前をかねがね伺っています」


 大佐は、ナインの方を向き、


「我々は、王弟陛下及び、宰相命令により、こちらへ調査に来ております。リタ王女の話と調査結果次第では、少々荒事になるかもしれません。その場合のことを考えれば、リタ王女の保護を派遣協会の方でしていただけるなら助かります」

「あいわかった。リタ王女に関しては、必ずや・・」

「ミリーが、支部長代理でがんばるのぉ!」


 ナインの覚悟の一言を、ミリーがかすめ取る形となっていた。


 大佐は、リストの中からアリッサの名前以外にも気になる名前を見つけることはできなかったが、その中で気になる能力を持つ者を数名見つけ出していた。


「ジョワン君、明日、このリストにある人のことを確認したいので、支部長に会わせてもらえないかな?」

「ミリ-さん、よいですか?」

「あいなの!」

「だそうです。ところで、ミリーさんのお母さんって?」

「ジョワン君、君は、どこまで話を聞いたんだい?」

「はい、能力を極限まで使って、心が壊れた?正気を失った?それで病院に入院していると聞きました」

「そうか・・・・どこから話そうか・・・・ミリー君にとってつらい話になるんだが・・・」

「ミリーは、大丈夫だよ!」


 大佐は、アリッサの話をすべきかどうか、迷っていた。それは悲劇であり、アリッサの娘、ミリーに関係する話である。大佐自身、ミリー本人に聞かせるのはと思っていたのだが、ミリーのひと言で、大佐は、思い出すかのように、アリッサの話を始めた。


「それは10年前の事、当時・・・・」


 植物学者のアリッサは、研究に必要な薬草採集のため、普段は立ち入り禁止である南の深森の最深部、アビスフォレストと呼ばれるところへ入る事を許可されたこともあり、立ち入っていた。たまたま、その日が休日でもあり、夫のユウキと娘のミリー、家族3人、ちょっとした日帰り旅行気分であり、運が良かったのか、目的の薬草の群生している場所を見つけ、採集し続けているうちに、気がつけば、かなり奥まで入り込んでいた。そして、晴れていた空はいつの間にか、曇り薄暗くなり、雲行きが怪しくなる頃、雨が降り出した。

 3人は、森の中、雨が降り始めるや、雨宿り出来る場所をさがしていた。次第に降りが強くなる頃、なんとか小屋を見つけたが、小屋にははいれなかったが、軒下で雨をしのぐことは出来ていた。ユウキは、雨宿りしつつ小屋の窓から中をふと覗くと、まだ、やまぬ雨の中、何を見たかは言わなかったが、ここから直ぐに離れると二人に言うと、アリッサは、ユウキの言葉を怪訝に思いながら、小屋を覗いたのだが、ユウキと同じく顔色を変え、ミリーに「見ちゃだめ!」と告げると、その手を取り一目散に、小屋から離れ駆け出した。ユウキは何かに気づいたのか。


「待って、こっちへ」


 アリッサは、ミリーの手を取り草むらと飛び込む。


「頭を下げて!早く!」


 アリッサは、ミリーに被さるように身を伏せた。3人の隠れているすぐそばを、数人の集団が、通り過ぎていく。幸い、気付かれなかったようで、集団が離れると、ユウキを先頭に、中腰でゆっくりとその場を離れていき、十分離れたところで、駆け出したのだが、小屋にたどり着いた集団は、ぬかるみに残った足跡から、誰かがここに来たことを知り、この小屋がばれることを恐れ、慌てて追っ手を出していた。


「いたか?」

「そっちは?」

「居ない!探せ!」

「見つけたら、始末しろ!」


 駆け出した3人の後ろから、アリッサ達を探している声が聞こえていた。その声が次第に近づいてくる。ユウキは、アリッサと娘のミリーに


「二人とも、このまままっすぐにげるんだ。あいつ等は、向こうへ引きつける」

「あなた・・・」

「大丈夫。後で合流しよう。ミリーを頼んだよ」


 ユウキは、そう言うと別の方向へ引きつけるように音を立てながら、走っていった。


「いたぞ!」

「捕まえろ!」


 アリッサは、ミリーの手を取り、ユウキの無事を祈りながら、走りつづけた。遠くで、微かに悲鳴が聞こえたが、アリッサは、ミリーを守るために走り続けた。



 ちょうどその頃、現中将であるメティシス大佐は、カーネル中尉を含む部下を引き連れて、誘拐盗賊団の捜査のためアビスフォレストへと、その範囲を広げていた。先ほどまで、降っていた雨もやみ、雲間から光が差し込み、雨上がりの森は、少しばかり霧に包まれていた。


「大佐、この近辺には、奴らの痕跡はありません」

「そうか・・・仕方ない、アビスフォレストまで捜索範囲を広げる。直ちに、全員に伝えろ!」

「はっ!」


 カーネル中尉は、部隊員に、捜索範囲を最深部まで広げると伝えると、アビスフォレストの入り口、森の中でも少し開けた少し小高い丘のようなところへと指揮所を移動した。見晴らしが良く、周囲の森を見渡せる場所であった。


「中尉」

「なんだ?」

「森の中から銃声が聞こえました」

「どのあたりだ?」


 部下が、地図の上で、大体の場所を指すと


「現場へ二個小隊をすぐに送れ」

「はっ!二個小隊、現場へ急行させます!」


 銃声は、ユウキが、アリッサとミリーから追っ手を引きつけるために、向かった辺りであった。


「中尉、偵察部隊より、武装集団発見、数5との事です」

「まだ、追尾中か?」

「はっ!」

「応援に\一個小隊、武装集団の確保」

「はっ、応援に一個小隊、武装集団確保します」


 部下が命令をもって出て行く。中尉は、誘拐された被害者をこれで確保出来るとは思ったが、武装集団の人数が、報告されている人数より少ない事を気にしていた。



「居たぞ!」


 アリッサは、追っ手に見つからないように、森の中を走り続けた。だが、地の利は、追っ手にあったようで、次第に、その距離は詰められていく。やや開けたところに、出てしまい。このまま進めば、間違いなく捕まる。アリッサは、天を仰いだのだが、まだ、その天はアリッサを見放していなかった。アリッサは、ペンダントをミリーに掛けると、別のペンダントを取り出し


「ミリー、良いこと?まっすぐ走っていくのよ。ママは、直ぐに追いかけるから」

「ママ、ミリーそばにいる」

「だめ!危ないから、早く行って!本当に直ぐ追いかけるから!!」


 アリッサの真剣な眼差しにミリーは


「きっとだよ・・・ママ」

「ママは、ミリーとの約束、破った事無いでしょ?だから、早く行きなさい・・・早く」


 ミリーは、アリッサの言葉に、


「約束だよ」


と、答えると、「誰か、連れてくる」と、駆け出した。


「ミリー、逃げて・・・」


 アリッサは、ペンダントを握りしめると、意識を集中した。やがて、アリッサは、夕暮れ前の太陽を背に、その頭上に、何か巨大で透明なものが形成していった。そのときアリッサ達への追っ手は、5人まで増えていた。


集束(しゅうそく)!」


 アリッサの頭上のそれは、アリッサのひと言共に、レンズのように薄くなると、迫ってくる追っ手に光が集束する。


「うわぁああああ!」


 追っ手の男は目が焼かれ、なおも、焼かれていく。アリッサは、さらに迫ってくる二人目に、続けて光を襲いかからせる。


「目、目がああああ!」


 追っ手の二人は、倒れ込むと、焼かれて視野を奪われたことより、焼かれた痛みでのたうちまわっていた。


「迂闊に近づくな!」


リーダーらしき男が、そう叫ぶが


「反射!」


 アリッサは、集束した光の焦点に、鏡のようなものをわずか数秒間作り出す。集束した光は、3人目の目を焼くのに十分な時間、襲いかかった。アリッサは、娘を守るためとは言え、自らの心が負担を掛け続けながら、過剰とも言えるほど力の行使をしていた。だが、その力の連続使用に、彼女の精神力が悲鳴を上げその限界に近づいていた。それは、頭上のレンズが、形を維持出来なくなってきたことからわかる。


「あの女の頭の上のあたりに、弾を打ち込め!」


 追っ手のリーダー格の男が、そう叫ぶが、残っているのは、自身と、もう一人だけになっていた。それでも、二人は、銃を撃つ。アリッサ本人に撃つと言う選択枝もあったが、光の方が、自分たちを焼くのが早いことは明白で、それならばと、光が発せられる頭上を狙う。


「うっ・・・・しゅ、収斂(しゅうれん)!」


 アリッサに、頭上に形成したレンズへの物理衝撃により、さらなる負荷がかかったことにより、よろめき、膝を突く、太陽は、アリッサの背中には、既になかったが、アリッサの言葉に、頭上のそれは、凹面鏡に形を変え、光の束が4人目に襲いかかる。


 ドカーン


 収斂された光が、男の構える武器へと到達する、暴発し、その衝撃で男は吹っ飛ばされる。光は、さらに男を襲う。男の周囲は、燃え上がり、その火は、男の服に燃え移るとそのまま、男を焼き殺すが如く燃える。うめき声も出す事無く、男はこときれていく。

 リーダーは、その地獄絵図に、逃げ出した。誘拐盗賊団の首領であると言うプライドを棄て、その恐怖に耐えられなかったのだ。

 光は、やがて、拡散するかのように消えていくのだが、アリッサは、片膝を着いたまま、力尽き、辺りには、目を焼かれた男達のうめき声と、離れたところで燻る死体だけを残し、森は元の静けさを取り戻していた。


 カーネル中尉は、森の中で光が集束するのを見ると、二小隊を引き連れて、その場へと向かっていた。途中、ミリーと遭うなり、「ママを助けて!」と言われるや、ミリーを小隊の一人に任せて、アリッサの下へと全速力で向かった。遠目にもアリッサが、何かを言っているのがわかる距離まで来たとき、その頭上に巨大な鏡が見えた。


「助けに来たぞ!」

「収斂!」


 アリッサは、振り向く事もなく、片膝を着くも、凹面鏡からまばゆいばかりの光が、森の中へ吸い込まれていく。


「大丈夫か!」


 アリッサから返事は無く、生きているのはわかるのだが、目を開けたまま、ホッとした表情を浮かべ、片膝をついていたのだが、そのまま立ち上がることも無く、目が閉じていき、ゆっくりと地面へと崩れ落ちていった。




 大佐、少し遠目をしていた。アリッサ達が、アビスフォレストへ許可を取って入っていたという記録があった事と、幼いながらもミリーの話、そして、捕まえた一味の事情聴取から、何があったのかは、判明していた。そして、あのとき、もう少し早く、アビスフォレストへ入っていればと、過去に、何度も後悔していた。


「その後、誘拐盗賊団のアジトを発見、首領は、逃がしたが、アジトの中の牢に、虫の息だった被害者を救出したんだが・・・近くで、男の遺体を発見・・・」

「それって?」

「ああ、後で確認できたのだが・・・ユウキ・オコーネル、ミリー君の父親だ」


リタも、リアエルも、ナインですら、沈痛な面持ちとなっていた。


「アリッサさんは?」

「捜索部隊で、彼女をスプリットまで運び、そこからアテンザへ搬送した。当時、司祭長だったアルフレッド卿に、何とかならないかと」

「どうして、アテンザなんですか?」

「スプリットの病院で、どんなに治療してもらアリッサが目を開けることがなかった。ジョワン君、フォルテラ理事長にも、目覚めさせる手がないか確認したんだよ」


「えっ」と声を上げるジョワン。


「限界を超えた能力、力の行使による副作用。過去にいくつか事例があるが・・・治療方法は無く、ひょっとしたらアルフレッド司祭長が知っているかもと言われてね」


 ミリーは、当事者ではあるのだが、大佐の話に、これと言って気にしている素振りを見せていなかった。


「それで、アテンザに向かったんだが・・・アルフレッド卿に言われたのが、『何をやろうとも、二度と心が戻ってくることは無い』と・・・・」

「大佐、それが、僕が支部長から聞いた正気を失い、心が壊れると言うことなんですか?」

「そうだ」

「・・・・ほんとに治らないんですか?」

「わからない・・・が、ジョワン君、君は、アルフレッド卿からアテンザへ招待されていると聞いたんだが」

「はい、一度、来るようにと」

「そのとき、聞いてみるとよいだろう・・・・少なくとも、私には、どうして無理なのか、その説明を受けたのだが・・・・理解出来なかった」


ジョワンは、大佐の言葉に頷いていた。大佐の話も終わり、場が重苦しいのだが


「あのう・・・ミリー、とってもお腹空いたんですけど!」


 ミリーの言葉に、全員がずっこけていた。


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