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弟子派遣協会にて

理事長涙目。ダイアナさん、そのふりはやめて by ジョワン

ジョワン達が、スプリットに到着する少し前、シュートにある派遣協会本部では、スプリット支部が破壊された件と、それに伴う支部への支援をどうするかについて、理事達があつまり会議が開かれていた。


「理事長、今回の支部における破壊の程度ですが、調査員を派遣すべきかと」

「う~ん、そうなの?」


 理事長は、つい先ほど王都より戻ったばかりとは言っても、一度自宅に立ち寄ってからではあった。そのせいなのかは不明だったが、何故か死んだ魚のような目をしていた。職員たちは、「ああ」といった感じで何かを察してはいたが、あえて触れなかった。


「なにも、あんなに怒らなくても良いのに・・・」


 何やら、会議を上の空に、ぼそりとつぶやいていた。


「理事長、聞いてるんですか!」

「わ、わ、わかっとる。調査員の派遣しろか?」

「はい、どうなさいますか?」

「う~ん、王弟陛下より、スプリットの治安が昨今急速に悪化してると言う話は聞いておる」


 職員や他の理事たちは、自分達も聞いていない話を理事長がした事に少し驚いていた。


「とばっちりかもしれんのう」

「とばっちりですか?」

「大体、支部は、少々のこと、いや、破壊しようとしても出来ないぐらい頑丈な建物であろう? それが破壊されたというなら、故意に破壊されたと考えて問題無い」


 先ほどの死んだ魚のような目と違い、急に生き生きした目で


「よし! わしが直々に、調査員として行く!」


 理事長以外、全員、「あっ、家出だ」と思った。


「フォルテラ理事長、ジョワン君に同行なさった期間の各支部からの申請書類や派遣要請の書類の審査が滞っております。出来ましたら、別の者を調査員として派遣され方がよいかと」

「だから、なぜ止める。主らでも審査できるじゃろうが? わしが行った方が早いし、今、あそこには、ジョワンも行っておる、あやつに、手伝わせれば、調査も捗る!」

「はぁ、ジョワン君がスプリットですか」

「だから、わしが、行ってだな」


と理事長が次の言葉を言おうとしたとき、理事長の背後から


「あ、な、た、何を考えているのかしら~」

「!!」


そこにはいつの間にか、一人のご婦人が、迫力のある満面の笑みを浮かべて立っていた。理事長は、その声を聞くなり、会議の出席者達に「主ら、計ったな!」と、非難じみた視線をするや、いつかのリアエルのように、まるで「ギギッ」」と音がするかのように、振り返る。


「か、かあちゃん」


 この後、理事長がどうなったかは、誰も知る由もなく、12月31日23時59分まで、理事長室に軟禁されたという噂が協会本部内でまことしやかにながれたのだが、真相は不明である。会議の方は、このあと、支部への調査員を派遣、再建に関わる支援物資の手配、各組合本部への協力要請などが決定し、その即時、実施が決定された。また、スプリット滞在中のジョワンに接触できた場合は、協会としてジョワンに協力要請をすることと、とあるご婦人から預かった手紙を渡す事が、決定事項に追記された。


「わし、理事長なのに」


と、理事長室から聞こえてきたのは、ご愛嬌である。


 スプリット支部より、支援要請の知らせが届くのは、この決定がなされた二日後であったため結果的には、要請前に支援が決定しており、スプリット支部は予定より早く復旧が行われることとなる。余談ではあるが、ナインの報告書は、全てが解決したあとに届くことになる。



 ジョワン達が、バークブレッド家へにもつを届けに行ったあと、ウエスト街区に残ったジンじぃは、ジョワンに頼んでいたことを船が戻って来たことで確認すると、当然ウィルに手伝わせたのではあるが、事務所倉庫へ船を片付けた。あとは装置の収納であるが、これはウィルでもできることから、彼にまかせて、カーネルから頼まれた伝言を持って、ウエスト街区の繁華街にある指定された宿屋へと、出向いていた。

 事務所のあるスプリット川の河口の事務所地区から、道一本、街中へ入ると、冬の夜にもかかわらず、通りには多くの人がおり、通り沿いの店は混雑していた。明らかに旅行者とわかるもの達や、異国の衣装纏った船員なども、ちらほら見て取れた。ただ、数ヶ月前とスプリットの様子が大きく異なり。街の警備をしているのであろう衛士の姿が、街角ごとに見て取れ、人通りが多いものの、何故か、空気がピリピリしていることだった。ジンじぃは、ウィルから渡されたウエスト街区の地図を片手に、”フェルミ亭”という名前の宿を探していた。


「ここのことなら、大丈夫じゃわい」


と、最初ウィルからの渡された地図を受け取ろうと詩はしなかったのだが、数ヶ月前と街の様子が変わっているからといわれて仕方なしであったのだが


「ん? この通り、行き止まり?」

「あれ、ここに店があったはずじゃが???」

「なんと、元に戻ってしまったわい!」


と、思い切り道に迷っていた。ジンじぃが目印にしていた店が、更地になっていたり、通りの端が、瓦礫の山だったり、迷路にようにぐるぐる回って元に戻っていたり、したからである。ジンじぃは、地図を取り出すと、片隅に”12月28日版”とかかれており、先ほど通った道や店のところに大きな”×”印がついていたりしていた。ジンじぃは、地図の中に、目的の宿の名前を見つけると、そのまま地図を片手に、人通りの多い通りを二本ほど入った行き止まりのある小道に入っていった。その小道に途中に、”フェルミ亭”という看板を見つけ、その宿屋の入り口をくぐった。その宿は、表から見たよりも、中は広く、誰もいなかったが、いくつかのテーブルが置かれていて、その上にはメニューがおかれていた。ジンじぃは、その奥にある受付の方へと進んでいった。


 ”御用の方は、ベルをお願いします”


 受付にはそうかかれていたこともあり。おかれていた呼び鈴を押した。


チリンチリン


「いらっしゃい。泊まりかい? それとも食事かい?」


中から、小柄な女性が出てくると、ジンじぃに、声を掛けた。


「いや、カーネルの使いできたんだが?」


カーネルの使いと聞いて、女は訝しむ表情を浮かべ、ジンじぃを睨みながら


「あんた、なにもんだい?」


と、あからさまな警戒心丸出しで問い掛けてきた。


「怪しいもんじゃない。あいつから伝言を頼まれたんだが?」


女は、ジンじぃから目を離さず、片手で、受付の机下を探っているように見えた。ジンじぃは、


「伝言頼まれて、来ただけなんだが・・・・なんで疑われなきゃいけないだ! もういい、やつ伝言が要らないなら、わしは、帰る!」


そう言うと、宿の出口へと歩き出した。


「ジン・マクスウェル殿?」


ジンじぃの背後から、呼びかける声がした。そこには、ジンじぃのよく知る男が立っていた。


「やっぱり、そうでしたか! 女将さん、こちらの方は、怪しいどころか、いつも隊長がお世話になってる方です」


受付の女性は、この宿の女将さんである。


「そうかい、疑って悪かったね。最近、この町も治安が悪くなったからね」


と、先ほどとは、うって変わって柔和な表情であった。


「大佐からの伝言をここで聞くのは、不味いので、奥へどうぞ。女将さん、いいかな?」

「はいはい、良いわよ」

「じゃあ、此方へ」

「いや、わし、早く戻らんと、うちの連中が待っとるから、ここでよいじゃろ?」

「そうでしたか、ですか、我々は、今、調査でこちらに来てますので、少し待っていただけますか?」

「なんでじゃ? なにやら話がかみ合っておらん気がするぞ?」

「すいません。ジンさんが宿から出られるときに、こちらの護衛をつけます。手配が済むまで、少し待っていただけませんか?」


宿から外へでて帰るというのに、わざわざ護衛をつけるというのだから


「そんな手間はいい、早く戻らんといかんから、さっさとおわらせてくれ!」

「お気持ちは、わかります。が、今、この街は、ちょっと厄介な状況でして・・・」


ジンじぃは、街角の衛士のことを思い出していた。


「わかった、わかった待つにしてもだ。カーネルからの伝言だけは、先に伝えさせてくれ!」


 さすがに、カーネルの部下と言うべきか、ジンじぃは、相手が一歩も引きそうにないことから諦め、イースト街区のバーグブレッド家にカーネル達が出向いていることと、明日には、ここへ来ることを伝えると、護衛の準備が終わるまで、宿の女将さんに、メニューにある食べ物で持ち帰りができるものはあるかと確認すると、「おむすび」というのができると言われ、聞いたことがないものであったため、どういう食べ物なのかと聞くと、海の向こうの国から伝わったもので、王国では、ここでしか扱っていないと言われて、ありきたりのものではない物珍しさからいくつか頼みつつ、ジンじぃ自身も、その場で食べる分を注文していた。女将さんが用してくれたおむすびをジンじぃが食べ終わった頃、ジンじぃを送るための護衛の準備が整い、おむすびを手土産に事務所に戻るのであった。ちなみに、カーネルの部下達は、隊長であるカーネルが、予定よりも早くスプリットへ到着したことに驚きはしたが、先遣隊としてこの町に潜入し、調査をしていくうちに得られた結果。今後の行動について判断の必要がある事が多すぎたため、明日には合流できると聞きほっとしたところで、本音ではあった。ちなみに、サミアの待ちで別れた大佐の部下二人は、翌日の午後に到着し、大佐が先についているに、戸惑っていたようである。



 ジョワン達が、バーグブレッド家の客人として屋敷に泊まり、その夜が明けると、町は、沖合の暖流で温められ湿った風が吹き付けてくる中、スプリット川の冷たい水の温度差から、次第に霧が立ちこめはじめる。その霧も日が昇るにつれて、消えていく。いつもの風景、いつものウエスト街区、町はいつものにぎわいを取り戻していく。そんな中、全身をマントで覆い見るからに怪しい姿をした人物が、あたりの様子をうかがいながら、組合通りを目指していた。当然、その姿に、衛士から呼び止められることになるのだが、声を掛けられそうになると、すーっと、裏道に入り、撒いていくと言うことを繰り返していた。おかげで、朝早くから、衛士達との追いかけっこをしているかのようになっていた。


「これ以上は、さすがに逃げ回るのは、無理ね」


そうひと言言うと、身体能力が高いのであろうか、通りの角をまがり、あたりに人気が無いことを確認すると、ひょいとばかりに屋根の上へと飛び上がり、そのまま身を潜め、衛士達が通り過ぎるのを待っていた。


「おい! いたか?」

「隊長、すみません。見失いました」


 しばらくすると、反対側からも衛士が駆けつけてくる。


「そっちへ、向かったはずだが、どうだ?」

「いえ、我々は誰にも会いませんでした」


 隊長と呼ばれた男は、


「くそっ! 逃がしたか! このあたりに潜伏しているはずだ。探せ!」


 衛士達は、人が隠れられそうな所を、手当たり次第、探すのだが

「隊長、ここに、地下下水道への入り口があります!」

「でかした! よし、半数は、そこから地下の捜索へ向かえ。残りは、儂と一緒に来い!」


 衛士達は、捜索の範囲を地下下水道への拡げたようである。隊長と残りは、それぞれが来た道を戻り、地下から出てくる所を捕まえる気満々な様子で、その場を去って行った。屋根の上で、身を潜めながら、その光景の一部始終を見ていた人物は、


「下水道なんて入ったら、髪に匂いがついちゃうじゃない。冗談じゃ無いわ」


と、ひと言つぶやくと、羽織っていたマントを脱ぎすてた。そこには、キリッとした顔立ちで、腰には剣をさした女性が、姿を現した。この女性、ナイン・C・エシャロットである。

 彼女は、


「協会事務所まで、あと少しだし、ここからは、顔を隠さなくても大丈夫よね」


 そうつぶやくと、周りに誰もいないことを確認して、屋根から降りると、組合通りまで歩き出した。実際、日も高くなり、この後、人通りも多い所を歩くことになる以上、王弟邸で、襲ってきたような奇妙な連中に出くわすことはないだろうと判断したからであるが、途中、衛士達に出会うと、「怪しいやつをみなかったか?」と聞かれるが、”怪しい人はここです”と、内心思いつつも「あっちで、変なのがいた」と、別に衛士達の事を告げながら、派遣協会支部のある通りへと入っていった。


「えーっと、協会の支部はと・・・」


 ナインは通りを歩きながら、支部建物を探していた。


「えっ?あれ?」


支部の建物があった場所まで来ると、みすぼらしい小屋が建っていた。たまたま、スプリットの支部に立ち寄った際に、王弟依頼の話を支部長であるユリカから聞いたことで、リタの警護という仕事を引き受けたのだが、そのときの建物が、無くなっていた。


「・・・・何があったの????」


 呆然としていたところへ、小屋の扉が開いて、ミリーが勢いよく走り出してきた。


 ドスン!


 ミリーは、ナインに思い切りぶつかり、その場でしりもちをついていた。


「誰! ・・・って、ナインさん、支部長! ナインさんですぅ!」


 ミリーの声に、ユリカが、小屋の中から出てきた。


「ナインさん! 待ってたんですよ、急な派遣要請でも、日報は届けてもらわないと困ります!」


 ユリカは、ぷりぷりと、ナインにルールは守ってくださいと、怒っていたのだが、ふと、ナインの全身を見て”?”が浮かんでいた。


「ナインさん??? どうしたんですか?なんか、ボロボロですよ?」

「いや、それより、支部長、何が、あったのだ?支部の建物が、なぜ掘っ立て小屋なのだ?」


 二人とも、混乱状態であった。それもそうである。ナインがスプリットに到着したときは、支部は石造りのしっかりした建物であった。また、ユリカは、ナインの出で立ちが颯爽戸はしていたが、よく見ると服のあちこちに綻びがあり、また少し汚れているようであった。リタを連れて逃げ出し、川を渡って、街中で衛士と追いかけっこをしてきたことから、当然といえば当然である。


「ウィルさんとこに言ってきまーす!」


 ミリーは、そんなふたりの空気を気にもせずに、元気にお使いへと出たのである。

 二人は、仮事務所と書かれた小屋の中へ入ると、支部長であるユリカが、ナインに三日ほど前に、建物が急に焼け落ちた話をしたのだが、ナインは、石造りの建物が焼け落ちるなどという話を聞いたことも無かったため、驚きはしたが、けが人も無く、支部建物が焼け落ちた件についての詳細な報告書は、すでに、シュートの本部へ出したとの説明は受けた。その際、本部へ支援要請は出したのかと尋ねたのだが、支援規模の内容をまとめたものを、先ほど、ミリーが輸送会社へ荷物として出すために出かけたことを話すと、一瞬不安げな表情を浮かべ、大丈夫なのかと尋ねていた。


「ナインさん、街中のお使いですよ。いくらミリーがそそっかしいからといって、そんな不安がるなんて!」


と、笑いながら答えていたのだが、ナインは、王弟邸での出来事から、不安に駆られていた。


「いや、支部長殿、この町では、何か奇妙な事が起こっているようです。油断なさらぬ方が賢明です!」


 ナインは、王弟邸での出来事を支部長であるユリカ話したが、その内容については信じられないと言った感じであった。ただ、王弟邸へ派遣されていたナインからの連絡が3日間ほどなく、何かが起こっていることを示していたのだが、支部建物が破壊された件で忙殺されてしまい。それほど気にしていなかったにおだ。支部長として信じがたい話ではあったが、本部と王弟陛下に知らせるべき内容であったため、報告書の作成をナインに求めていた。彼女にしても事態が事態なだけに、支部長の求めにしたがい報告書を、狭くはあったが仮事務所で作成することとなった。

 丁度その頃、ジョワンは、バーグブレッド家で出された朝食を摂りながら、大佐と昨晩決めた今日の予定を確認し終え、川の渡し船の所へ向かっていた。バーグブレッド家を出るとき、留守番のリアエルは、リタの相手をすることで、納得はしていたが、それでも、ジョワンについて行きたそうにはしていたが、そこはなんとか我慢して、ジョワンの肩に乗る鳥へ、「ジョワンさ、君をお願いね!」と、声を掛けていた。まあ、鳥の方は、相変わらず「まかさんかい!」というような態度を取っていたようであるが・・・。ちなみに、大佐は、ジョワン達が出るよりも少し早くに同じく、イースト街区の宿屋を経営したハンスの元へと向かっていた。

 さて、ジョワンは、一人で、ウエスト街区の協会支部へ向かう予定であったのだが、ダイアナが、ライから預かった事務所の合い鍵-バーグブレッド家に泊めてもらったことで使わなかったのだが-返すためにイースト街区の事務所に寄ってから、ウエスト街区へ向かうのに、『街中が物騒で、危険過ぎる!!』と主張し、『私はか弱い』と、力強い演技をしていたことから、大佐はやれやれといった感じで、ジョワンにダイアナの護衛を頼んだこともあり、ダイアナに同行して、まずはライのいる事務所へと向かっていた。そのライは、『帰る』と言ったものの、副社長の事が心配で、戻って来ていた。そして、いつまで経っても戻らない副社長を朝まで待っていたようである。ダイアナは、ライに、バーグブレッド家に泊めてもらったことを話すと、何かほっとしたようではあるが、ジョワンに対して「それなら、護衛である君が、ここに知らせに来れたのではないか」と、ライ自身がここで夜を明かしたのは必然であったかのうようなことを言ってはいたが、そこを突っ込むと話が長くなりそうな気がして、理事長によって鍛えられスルースキルを利用して、華麗にスルーしていた。

 ダイアナがウエスト街区へ急ぐということから、ライの事務所を後にして、渡し船乗り場へと向かったのだが


「ダイアナさん、ウエスト街区へ渡ったら、僕は、協会支部へ行きますね?」

「ダメよ。坊や、ちゃんと、会社の事務所まで送ってくれないと、困るわ!」


ダイアナは、なぜか、『私は年寄りで、ものすごく身体が弱いんです』と言った雰囲気をかもし出しつつ、ジョワンに、事務所まで送れと言うのだが、それも人が多いところでやるものだから、周囲の視線が、ジョワンに突き刺さる。


「わ、わかりました。ダイアナおばさん、お送りしますとも!」


 おばさんと強調して言い返すのが精一杯のジョワンの抵抗であった。





「うぃるさーん!」


 元気な声と共に、ユイキュル・エキスプレス社西スプリット事務所の扉が勢いよく開けられると、派遣協会のミリーがひょこっと顔を出した。


「おや、ミリーか。今日は何の用だい?」

「えーっとね、シュートへ書類を届けてほしいので、頼みに来たんですぅ。ユリカさんからのお願いですぅ」

「ユリカさんからの依頼でシュートってことは、派遣協会本部へだね。今、年末等で届けるのに時間が掛かるけど良いかな?」

「どのくらい掛かります?」

「今、いつもより1~2日余計に掛かるかな」


 ミリーは、少し考え込んでいたが


「えっと、お願いします!」


 元気よく返事をしていた。それぐらいの遅れなら支部長に聞かなくても大丈夫と判断したようである。ウィルは、ミリーに一枚の紙を渡し、書類の届け先を記入して書き終えたら声を掛けてくれ言うと、ウィルは、昨日から積み上げたままの書類の山の、一枚一枚、内容を確認しながら片付けをしていた。ミリーは、そんな事務所に中で一生懸命に、シュートにある派遣協会本部の住所を受け取った書類に書き込んでいた。


「えっと、どこの通りだったっけ・・・・あ、そうか、”ローズ・アヴェニュー”だ。ん?番地、どこだっけかな・・・・うぃるさーん、派遣協会本部の番地って、何でしたっけ??」

「いや、知らんよ。ミリー、おまえさんのとこの本部だろ?」

「忘れちゃいました!」

「まあ、住所無くても、派遣協会本部宛てでも届くけどな」


 ミリーは元気よく返事をすると、ウィルはやれやれといった感じで、「ちょっと待ってな」と言うなり、受付カウンター引き出しを開けて書類の束を取り出すと、


「前に送った送り先で良いのか?」


と、ひと言聞くと、「ほんとはダメなんだがなぁ」といいながらも、一枚の紙を取り出して、ミリーに見せていた。


「ウィルさん、ありがとう!」


 ミリーは、受け取った紙に書いてある本部住所を見ながら、最後の番地を書き終えると、ウィルへ書類を手渡しいた。


 バタン!!」


「ジンはどこ???」


ダイアナは、扉を開けると開口一番、ジンじぃの事をウィルに尋ねた。ウィルは、ビクッとすると、


「ジン、ジンさんですか?表の所にいませんでしたか?」

「いないわよ。でこぼこコンビに聞いても知らないって言うし!」


 ウィルは、ミリーから渡されたを書類を確認しながら、ミリーに見せていた書類を何も無いよという感じで、するっとカウンターの下へ隠す。ウィルの額には、じっとり冷や汗が、浮かんでいた。

 

 「ダイアナさ~ん、ジンさん、戻って来てますよ?」


ジョワンは、ダイアナを追いかけて事務所に入ってくるなり、そう告げると、走ってきたのか、ぜえぜえと息を切らしていた。


「あら?そうなの?」

「はい」


ジョワンの返事を聞くなり、ダイアナは、ジンじぃに昨夜のことで文句を言いに事務所を出て行こうとした


「ダイアナさん、僕はこれで、派遣協会支部に行きますね!」

「あー、もういいわよ、ちょっと、ジン!」


すでにジョワンの事は頭にはなかったようである。おかげで、ウィルはほっとしたが、

「ん?支部?ですかぁ?」


 ミリーは、ジョワンのひと言に反応していた。


「おにーさん、うちの支部にご用ですかぁ?」


 なんとものんびりとした口調ではあった。


「君は?」

「えっと、派遣協会のスプリット支部事務係のミリーですぅ。おにーさんは?」

「はじめまして、ミリーさん、僕は、王城派遣の弟子で、ジョワン、ジョワン・フォルテラです。こっちの肩に乗ってるのは、お供の鳥さんです」

「ジョワンさんですかぁ。王城派遣の弟子さんが、どうしてここにぃ?」


 なんともゆっくりとした調子に、ジョワンのタイミングが、なんとなくずれて行く。


「えーっと、仕事で来てるんですけど、ミリーさん、詳しくは支部長さんにお話ししたいんですが?」

「なるほどぉ、ユリカさんに、会いたいんですねぇ?」

「ユリカさんって?」

「支部長さんですぅ」

「そうですか、じゃあ、そのユリカさんは?」

「えっと、支部にいますぅ」


ジョワンはなるほどと思いながら


「じゃあ、ミリーさん、支部長まで案内してもらえますか?」

「えっと、ジョワンさんは、何の弟子さんですかぁ?」


 話が堂々巡りになるような、空気が漂い始めていたのだが


「ミリー、早く戻らないとユリカさんに怒られるよ?」

「あ、そうだ。戻らないと、おにーさん、仕方無いから、支部まで案内しますね?」


 ウィルのひと言で救われたのか、ジョワンはほっとしていた。ただ、このとき、ミリーの頭の中から、ナインが支部に来ていることがすっかり抜け落ちていた。ジョワンは、ミリーの案内で、支部へとウィルのところから出ると、外では、ダイアナがジンじぃに、あーだ、こーだと文句を言っていたのだが、ジンじぃは、ジョワンに気づくと、


「坊主、ご苦労だったな!!」

「ご苦労って何よ!!」


ダイアナは、さらにジンじぃに噛みついていたようである。ジョワンは、そんなやりとりを見ながら


「ジンさん、スプリットまでありがとうございました!」

「おうよ、またな!・・・・おい、坊主、王都のうちの事務所に遊びに来いよ!」


ジョワンは、ジンじぃにお礼を言うと、ジンじぃは手を振り、ジョワンに声を掛けていた。ジョワンは、「必ず、行きますね!」と返事をすると、前を歩くミリーの後を急いで追いかけ、支部へと向かうのだった。

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