こちら、恋愛お助け部。/学園コメディー(絵・晶(出戻り)さま)
晶(出戻り)さま(http://20410.mitemin.net/)のイラストに文章を付けさせていただきました。
ジャンルは指定なし・必須要素は「名前『小野寺 海』、高1の16歳」の作品です。
『あなたの恋、お手伝いします』
段ボールを解体して作った手作りのプレートに堂々と書き付けて、海は満足そうに笑みを浮かべた。
「ねえ、ほんとにやるの?」
「もっちろん!」
不安そうな渚をよそにプレートの掲示場所を探して周囲へ視線を巡らせる。小動物のようにキョロキョロしている海を面白がって、スズランテープを持った汐里が妙な提案をした。
「海っちさぁ。その看板、首からさげちゃえば?」
「お~ぅ! ナイスアイディア!」
「ねぇ……、嘘でしょ? 海ぃ、汐里ぃ……」
縋るような渚の視線を無視して、海と汐里は段ボールのプレートにせっせと穴を開けている。
事の発端はといえば、渚が思い付きで言った「実録恋愛小説を“作ろう”」という戯れだった。
ドラマチックな恋愛なのに実録となれば、世間一般の興味を引くことができるのではないか。しかし。普通に生活していて劇的な瞬間に出会うことはそうない。ならば作れば良いのだ。
劇的な瞬間になり得る、そんな状況を。
小説家志望で文芸部に入部した渚は、自身の淡い夢も交えた冗談のつもりで海と汐里にそんな話をしてみた。すると想定外に感銘を受けた海が先頭を切って「恋愛お助け部」なる架空の部を設立してしまったのだ。
海、渚、汐里の三人で協力してクラスメイトたちの恋愛をドラマチックに成就させ、それを渚が小説に起こして出版社に持ち込む。そこまでが海の考えたシナリオだった。
「さ、行くよ!」
「レッツ・ゴーっ!」
元気よく海と汐里が飛び出して行く。
乗り気ではないが、言い出しっぺの渚も付いて行かないわけにはいかない。念のためにと携帯用の小さなリングノートとボールペンをポケットへ忍ばせて、文芸部の部室を出た。
「お! 小野寺。またヘンなことやってんだなー」
「もうっ! ヘンとか言わないでよ」
廊下へ出るなり海がクラスメイトにからかわれている。高校に入学してまだ日が浅いというのに、海の知名度は学年でも一、二を争うレベルだ。
ハツラツとした可愛らしさで人目を集め、飾らない性格が彼女の周りに人だかりを作る。
昔から変わらないことだったが、渚は感嘆せずにはいられなかった。
「えー、恋愛お助け部ですっ。恋愛でお困りの方、ぜひぜひ声をかけてください」
廃品回収の業者よろしく声を張り、首からさげたお手製プレートを左右へ振ってアピールして回る。汐里もそれに合わせて仲の良い子に「どう?」と誘いをかけていた。
「いやー……、海ちゃんって話しやすいけど秘密ダダ漏れしそうだし」
苦笑いで遠慮され、海の表情が固まった。
彼女の指摘は正しい。否定のしようがないほどに正しい。それ故にバツが悪そうな顔つきで汐里に視線を向けた。
お喋り好きの海は、秘密を秘密のままで留めておくのがどうしても苦手だった。
「……あ。でも渚さんだったら……」
少し距離を開けて後ろをついて歩いていた渚を見つけ、一人の女子が漏らす。それを聞いた瞬間に海の目が輝いた。
「それでは! 潜入捜査行ってきますっ!」
普段とは違う水色のセーラー服を着た海が放課後の校舎へ向かって駆けていく。
それを見送る渚と汐里はいつもの紺のブレーザー姿だ。
初めての依頼は同級生からだった。
相手は通学で使うバスに乗り合わせる男子生徒で、近くの私立高校の制服を着ている。彼はいつも他の男子二人と一緒に行動しており「ソラ」と呼ばれているらしい。しかし、学年などは一切不明だった。
汐里のいとこがその私立高校の卒業生だったこともあり、制服を借り受けることが出来た。サイズが合ったのは海で、三人を代表して学校に潜入することになった。
完全に行き当たりばったりの作戦だが、これが一番効果的だと判断したのだ。
同級生の情報によると、問題の「ソラ」は背が高く眼鏡をかけた学級委員長タイプの生徒だという。その情報を頼りに校庭や生徒玄関を見て回るが、それらしき姿は見当たらなかった。
「すみません。『ソラ』さんを探してるんですが……」
こういう時は通りすがりの生徒に聞くのが一番早い。
自力での捜索を早々に諦めた海は、適当な男子生徒に声を掛けた。
「……え?」
彼は怪訝な顔をして眼鏡を押し上げた。不躾なまでに海のことを頭のてっぺんから足の先までなめるように見回される。
他校の生徒だというのがバレてしまったのだろうか。
緊張に身体を強張らせながら、海は逃げる準備に入る。そこへ、男子生徒の仲間と思われる他の男子二人がやって来た。
絶体絶命だ。
「おいソラ、そこで何やって……って!」
「……え?」
海と二人きりでいる所を見つけた友人が冷やかそうと頬を緩めるが、そんなことには構っていられなかった。
「あなたが『ソラ』さんなんですか?」
「……あ、ああ……」
瞳を輝かせる海に、明らかに「ソラ」は引いていた。
しかし彼の答えは肯定だ。ということは、今やってきた二人が「ソラ」といつも一緒にいる生徒なのだろう。
他の二人と比べれば背も高く、眼鏡をかけている。学級委員長というよりは漫画研究会の会長といった雰囲気だが、恐らく彼で間違いないだろう。
「すみません、連絡先を教えてください!」
渚から借り受けた携帯用のリングノートを差し出しながら頭を下げた。
海の熱烈な申し出にうろたえながら、書け書けと友人に促されて「ソラ」は渋々ペンを手に取った。
「……ネットに晒したりとか、しませんよね?」
書き終えたメモに目を落とした「ソラ」は不安そうに声を漏らした。その不安を打ち消すように海は大きくかぶりを振る。
「ぜーっっっったいにそんなことはしません! 『恋愛お助け部』の名に懸けて!」
「恋愛、お助け部……?」
「っ! いけないっ……」
口を滑らせたことに慌てて、ひったくるようにメモを受け取って海は逃げ出した。「ソラ」たちは呆然としてその様子を見送った。
その後、メールでのやり取りを経て同級生の彼女とソラは付き合うことになった。二人を結び付けたメールのやり取りにも海たちが一枚かんでいるのだが、渚の小説が書籍化されるまでそのテクニックは企業秘密にすると海が宣言している。
「こちら、恋愛お助け部ですっ!」
『あなたの恋、お手伝いします』
可愛らしい字で書き付けられた、手作りのプレートを首からさげた海が声を張る。
その周りには救いを求めた生徒の人だかりが……――などということはなく、相変わらずからかいの言葉が飛んで来るばかりだ。
「小野寺、次こそ本命と結びつけてやれよ」
「あーもうっ! うるさいなぁ!」
いつまでも人の失敗を引きずることないじゃない。愚痴をこぼして頬を膨らませる。
メールでやり取りするうち、趣味の話で意気投合した二人はデートをする運びとなった。そこで初めて海の人違いが発覚したのだ。
「ソラ」の通う学校にはもう一人「ソラ」という名前の生徒がいた。そちらは生徒会長を務める、アニメに登場しそうなイケメンだ。
彼女が片想いをしていたのは生徒会長の方の「ソラ」なのだが、海が連絡先を聞いたのはマン研の「ソラ」だった。
初めは人違いにショックを受けていた彼女も、マン研の「ソラ」の人柄に惹かれていき今に至る。
「海ちゃんのおかげで、人って顔じゃないなって気付いたよ」
彼女の一言に間違った自信をつけた海は、文芸部の部室の一角を借り受けて「恋愛お助け部」の活動場所まで作ってしまった。
文芸部の先輩部員たちは優しい人ばかりで、面白い子がいたら創作の刺激になるから、と海の活動を受け入れてくれている。
汐里は海を焚き付けては空回る様子を見て腹を抱えて笑っていて、青春を絵に描いたような生活を送っていた。そんな中。ただ一人、この状況に異を唱える人物がいる。
「海ぃ、まだやるのー……?」
「もっちろん。渚は短編専門なんだからさ、短編集が作れるくらい頑張らなきゃ!」
気合の炎をメラメラと燃やす海に、困り顔の渚は肩を落とす。
部室のドアが開いて、一人の生徒が入ってきた。
「すみません、ここで恋愛相談に乗ってくれるって聞いて……」
「はい! 喜んで!」
海が満面の笑みで出迎えた。
晶さんの描かれる子は元気があって、書いていてとても楽しいです。前回に引き続き暴走気味ですが…(笑)
学園コメディーってこんな感じでいいのかな?