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星より眩く  作者: Letterake
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第6話 光の先へ

 

 いつのまにか8月になっていた。

 一年ももう半分以上過ぎてしまっている。


 かなりまずい状態だ。

 このままだと職業訓練施設に強制的に入所させられることになる。


 

 家でぼーっとゲームをしていたら窓が叩かれた。

 アベルだろう。

 窓を開けてやるとそこからアベルが侵入してくる。


「よう、役所の面接はどうだったんだ?」


「駄目だったよ」


「まあ、そんなもんさ気にするなよ」


 正直なところメンタルはぼろぼろだった。

 平気なそぶりを見せてはいたけれどライトウィングの訓練校で試験官に俺だけが出口を示されたこと、フィデールの言葉、サラの悲しそうな表情、エルネストの様子がぐるぐると頭の中を回っていた。

 就職先を探す気力はなかった。



 

「それでさ、俺は気づいたんだ。このシティは俺に合っていないって」


「ふーん」

 

 アベルの言葉が耳を通り過ぎていく。

 無気力だった。



 ………………。

 …………。

 ……。


 

「だからさ、このシティを一緒に出よう! レオ」


「ん? ……このシティを出る?」


「リッツさんの話を聞いただろ? このシティはどこかおかしいんだ」


「そうか? つまらんシティだとは思うけどな」


「そうだ! こんなつまらんシティで一生を終えてどうする! 宇宙は広いんだ!」


「このシティに旅客機はないぞ」


「問題ない」


「このシティは出入りの管理が厳しいし、そもそもどうやって宇宙を渡るんだ?」


「問題ない、その辺は解決済だ」


「本当か? それはいいとしても外に出てどうするんだ。金も技術もない俺たちが外に出ても野たれ死ぬだけだ」


「コア・シップのパイロットになるんだよ」


「お前は何を言っているんだ」


「コア・シップパイロットだよ。リンク・システムと脱出機構がついた宇宙船だ。ほぼ一人で巨大な戦艦すらも動かすんだ。選ばれた宇宙船乗りだよ」


「リンク・システムと脱出機構がついた宇宙船? 聞いた限りだとライトウィングより難しい操作と高いリンク・システム適正が必要そうに聞こえるけど?」


「そうだ。コア・シップはライトウィングより遥かに複雑で難しい技術を要求される。ライトウィングの上位互換だ」


「ライトウィングパイロットになれない人間がなれるわけないだろ」


「なれるさ! コア・シップパイロットに成りたがる人間は少ないんだ。新人はのどから手が出るほどほしいらしい。このシティの人間なら誰もが成りたがるライトウィングパイロットとは違うんだ」


「どこの情報だよ」


「隠し部屋の中に色んな本があるんだ。そこにあったのを一つ盗ってきた」


「お前また親父に殴られるぞ。」


「このシティとおさらばするから問題ない」


「外の世界のことをなにも知らない俺たちで何かできると思うのか?」


「俺とレオ、二人でなら何だってできるさ、余裕だ!」


「俺とお前で何か成し遂げたことがあったか?」


「教頭のヅラを吹き飛ばしてやっただろ!」


「その後ばれて大目玉くらったけどな」

 

「で、実際レオはどうするんだ? 俺と一緒にここを出るのか?」


「……」


 シティを出る。

 俺にとっては魅力的な言葉だ。

 このシティは嫌いじゃない。

 でも、外の世界にあこがれていた。

 シティ外縁部の通路でよく宇宙を眺めていた。

 たまに通り過ぎる軍人に変な顔をされながらもずっと外を見ていた。

 星の光が俺を誘っているように見えた。


「行くよ俺も。外に出る」


 満面の笑みをアベルが浮かべる。


「そうこなくちゃ!」

 

「シティの外に出る方法は決まっているのか?」


「それはお楽しみだな、行こうレオ、直ぐに荷物を纏めるんだ。俺も手伝う」


「まて!? もう出るつもりなのか!?」


「そう、今出る。何か未練でもあるのか?」


「未練……」


 家族の顔、友人達のの顔が浮かぶ。友人……きっと俺は友人失格だった。

 サラは悲しむだろう、俺とアベルとサラは初級教育に入る前からの幼馴染だ。

 サラは幼馴染全員でパイロットになりたがっていた。


 フィデールは中級教育に入ってから同じクラスになったのを期に仲良くなった。

 クラス替えで中が良い友人とはぐれてしまったのか、元々孤立気味だったのかはわからない。

 休み時間に一人で本を読んでいたフィデールをアベルは引っ張りまわした。

 フィデールは直ぐに馴染んだ。

 特にアベルと仲が良かった。アベルの無茶な行動に振り回されていつも困っていた。

 それでもいつもアベルの後ろのいつもくっついていたし、アベルの頼みを断ったことも無かった。

 俺もフィデールとは仲良くやれていた。


 トレーニングに勤しむフィデールを笑うまでは。


 今ならあの時俺がなぜフィデールを笑ったのかがわかる。

 当時、必死でトレーニングするフィデールを見てなぜか笑いがこみ上げたのだ。

 気心の知れた友人に対する軽い調子の軽い笑い。その笑いの本質を俺はわかっていなかった。

 俺はライトウィングを心のどこかで馬鹿にしていたのだ。

 何かあれば外縁部の通路に行き、宇宙を眺めていた俺は外の世界にあこがれていた。

 宇宙を旅する人間からすればライトウィングパイロットは数ある職業の中にある一つの職業にすぎない。

 技術者である父は外の世界から来た。若いころは色んなスペースベースやスペースシティを回ったらしい。

 父は外のことをを魔物と盗賊と狂った魔術師、科学者が跋扈する危険な世界だといっていた。それ以外に外の世界に関して父は多くを語らなかったがそれでも俺は外の世界に惹かれた。

 魔法! 魔物! 剣に銃! 

 子供の頃に読んだおとぎ話の冒険譚のような世界が広がっているのかもしれないのだ。

 ラダンシティに魔術師はいない。盗賊や魔物だって居ない。

 外の世界について話すときの父の表情を見るに決して生易しい世界でないことはわかる。だとしても見たこともない外の世界を想像する時、そこには冒険とスリルとロマンがあった。

 いつだったか何か嫌なことが在った時にどこまでも走り、外縁部の通路にたどりついた。

 外縁部の通路からは外の景色を見ることができた。

 どこまでも広がる闇の中で恒星は光り輝いていた。星の光を見ていると安心することができた。

 外の世界に憧れた。色んな星を見て周りたかった。

 だから、フィデールを、ライトウィングを馬鹿にした。俺の中でライトウィングはちっぽけな存在だったのだ。

  

 エルネストはアベルにいつも嫌味を言っていた。けれども俺に嫌味を言ったことはなかった。思い返せばエルネストのほうから話しかけられたことも無かった。

 エルネストは見抜いていたのだろう。俺が他の3人ほどライトウィングに情熱を持っていないことを。

 

 アベルはライトウィングに本気の情熱を持っていた。上級教育に入ってエルネストに言われた時に気づいたはずだ、勉強とトレーニングを始めなければライトウィングパイロットになれないことを。

 アベルはただのお調子者に見えるけれど決して馬鹿ではなかった。友人は皆それを知っていた、アベルが誰よりも行動力と知恵を持っていることを。

 エルネストに言われた後でアベルは誰よりもライトウィングパイロットになるための努力を始めるはずだったし、それを誰も疑わなかった。口ではエルネストを馬鹿にしつつも裏でこっそり努力を始めるのがアベルというやつだった。

 でもアベルは努力をしなかった。何故か?

 俺がいたからだ。

 ライトウィングパイロットになるための努力をしない俺を見ていたからだ。

 上級教育が終わってからでも間に合うと怠けていた俺に釣られたのだ。

 アベル自身もエルネストに対して「上級教育が終わってからでも良いはずだ」と、一度とっさに言い訳をしていたから俺の言葉に納得し、疑問を持たなかった。

 俺がいなければアベルはライトウィングパイロットになっているはずだ。


 就職活動に対する無気力の正体にも気づいた。

 俺は訓練校の試験官やフィデールの言葉にの言葉傷つき、無気力に陥ったわけではなかった。

 試験の結果やフィデールの言葉はきっかけでしかなかった。

 俺は最初から無気力だった。

 それが表に出てきただけだ。

 このシティで一生を終えるのが嫌だったのだ。


「未練か……親に手紙を書いて、それで終わりだ。準備をしよう、何を持っていくのがいいかな」


 親にだけは自分の決意を伝えてから行こう。

 いつか、機会があればその時は育ててくれた恩を返そう。

 友人達には何も伝えずに行こう。

 シティを出ればきっともう合うことはないだろうから。

 もし、また合うことがあれば、そのときは感謝を伝えよう。





 窓を開け、上を見る。

 宇宙に輝く星に魅せられた。

 星の光が無限に広がる闇を貫いている。


 光の先へどこまでも行こう




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