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星より眩く  作者: Letterake
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第4話 職探し

 職業探しを始めた。

 上級過程が終わるとアルバイトができるようになる。

 上級過程が終わった後の1年間ではいろんな職種を体験してみることが推奨されている。

 シティの企業もこの時期の学生のバイトを積極的に受け入れるようにしている。

 人気が高いライトウィングならともかく、他の企業は直ぐに受け入れてくれた。


「俺たちの仕事を体験したいって? いいぞ! 期間はどうする?」


「と、とりあえず1週間くらいで」


「よし!明日から三日間、その次を休日として、そこからまた三日間がいいだろう。肉体労働が多い、初めのうちはこまめに休日を挟まんと疲れてしまうからな」


「はい、頑張ります」


「「よろしくお願いします」」


「おう! よろしく!」


 ムキムキのおっさんにあいさつをした。 シティの壁の向こうや地下には都市のインフラを張り巡らせた空間がある。

 大量のパイプは常にどこかが詰まっていたり、劣化していたり、壊れていたりする。

 それを修理する仕事だ。

 

 

「新人!」


「はい!」


「これ向こうに持ってけ!」


「はい! ――重っ!」


「気をつけろよ! 足に落とすな!」


「はい!」


 重い、一体なんの道具なのだろうか。

 アベルのほうを見るとホバーリフトで廃材を運んでいるところを褒められていた。


「お前、ホバーリフトの操縦うまいな!」


「そうですかね、ヘッヘッヘ」


「ああ、うちに就職しろ!才能がある」


「ヘッヘッヘ、考えときます……はぁ」


 やっぱりあれが天職なのだろう。

 ホバーリフトは巨大なバーニアの上に台と操作盤が乗っているだけのデザイン性のかけらもない乗り物だ。

 サイドバーニアの出力は弱いが下部のバーニアの出力は凄まじいので横に動くときは遅いが、上に上がるときだけは良い速度で上がって行く。

 重いものを運ぶときに良く使われる。

 

 とにかくシティの湖に繋がっているパイプの交換が多い。

 ラダンシティは当時の技術の粋を集めて作った都市だ。

 都市の内部だけで循環し、完結する環境システムを目指したのだ。

 パイプの整備にこれだけの労力や資源が割り当てられるはずではなかった。

 それを変えたのがライトウィングだ。

 湖はライトウィングのコースに設定されていて、ライトウィングの部品や湖の近くで観戦している人間が捨てたゴミなどがパイプを詰まらせたり、傷めたりするのだ。

 ライトウィングのコースは湖の横にある岩場のコースが一番小さく、湖の上のコースはそれより大きい。他には天蓋と青空を投影したパネルの間のコースと宇宙空間のコースがあるがそれらは使用頻度が低い。


「はー疲れた。ライトウィングが嫌いになりそうだよ。今度湖にゴミ捨ててるやつを見かけたらぶん殴ろう」


「お前はいいじゃないかホバーリフトを使ってたんだから、俺は重たい道具をずっと運んでたんだぞ」


 昼休憩の時間にアベルと騒いでいたらムキムキのおっさんがやってきた。おっさんは他の作業員からリーダーと呼ばれていたからそこそこ偉い人なのだろう。


「おう、新人! 昼飯だ! 弁当持ってきてないならこっちで社員用の弁当を格安で買えるぞ」


 リーダーについていくとそこには巨大な箱から弁当を取り出して作業員のおっさん達に弁当を渡すおばちゃんの姿があった。

 それにしても、おっさん達から金を受け取って弁当を渡す一連の作業がかなり速い。

 あれが熟練の技か。

 弁当は安い割りにボリュームがある。少し肉が多めだが美味そうだ。

 おばちゃんから弁当を買ってどこで食べるか思案する。

 作業員のおっさん達は地面にブルーシートを敷いたり、ホバーリフトに腰掛けたりして思い思いの場所で食事を取っている。

 食事するおっさん達を眺めていたらリーダーに声をかけられた。


「新人! 就職活動中ならあいつに話を聞くといい。あいつは色んな仕事を知ってるぞ」


 リーダーはホバーリフトに腰掛けて食事を取る少し若いおっさんというよりは兄ちゃんな感じの青年を指差した。

 俺とアベルはホバーリフトに乗って青年の横に座る。


「仕事の話を聞きたいって? いいぜ、教えてやるよ。俺はリッツだよろしくな」


 そういってリッツさんは話し始めた。

 

「まずはどこでもいいからちゃんとした所に就職することだな。お前ら職業訓練施設は知ってるな?」


「はい」


「成人になった次の年でも就職できなかったら……」


「そうだ、職業訓練施設にぶちこまれる、広大なシティだからってただ飯喰らいををそのままにしておく余裕はないからな。施設にぶち込まれた後は強制的に仕事が割り振られる。この下層よりもっと下、最下層でゴミ処理の仕事なんかをやらされることになる」


「ゴミ処理かあ……」


「臭いがひどいからな、最初のうちは飯が喉を通らなくなる。それでもまだましだ。休日は上層で遊ぶことができるからな」


「最下層とか上層って初めて聞きます」


「普通に上層で暮らしている分には関わらねえからな。自分達が暮らしている場所が上層だってことにも気づかねえ。お前達だってこの仕事で初めてこの下層にきただろ」


「はい、地下にこんな広い空間が広がってることに驚いてます」


「居住区がない広い空間ってのは重要だ。下層には技術系の仕事が多い。騒音や匂いがでるような工場や実験場が有る。たまに新型のライトウィングが飛行実験をしていることもあるな」


「おお、新型」


 アベルが目を輝かす、さっきまでライトウィングが嫌いになりそうだとかいっていたのに現金なやつめ。


「とにかく上層でも下層でもいいから就職することだな。一度職業訓練施設に入ると再就職が難しくなって最下層のキツイ仕事くらいしか就けなくなる。訓練施設に入ったってことは怠け者の烙印を押されるに等しいことだからな。俺も実は職業訓練施設の出なんだがリーダーに出会ってここで働くことになったんだ」


リーダー、暑苦しいけどいい人だったんだな。


「そしてここからが重要な話だ。職業訓練施設に入れられた人間が一部行方不明になるって噂は知ってるか?」


「はい、シティの外壁の修繕や小惑星の採掘にいかされるからなかなか帰ってこれなくなるって聞きました」


 アベルが返事をする。シティの仕組みについて父親から何か聞いているのだろうか。


「それは一部正しい。施設の同期の中で施設を出た後に数人連絡が取れなくなったやつらがいた。俺はそいつらを探してみたんだが、お前の言ったとおり小惑星で資源採取をしているらしくてシティ自体になかなか戻れないやつがいた。他には軍の施設で雑用をしているから通信が使えない上に家が遠くて泊り込みが多いってやつもいた」


 リッツさんの表情が険しいものに変わる。


「俺はいろんなとこを回ったがそれでも見つからない奴がいた。俺の親友もその中に入っている。あいつが連絡をよこさないなんて絶対におかしい。家を訪ねてみたら解約されて売りに出されていたよ。なのに窓から家の中を覗いてみたらあいつの家財は全部残っていたんだ。家族の写真や秘蔵のプラモデルコレクションもそのままだ。急いでどこかに引っ越したとしてもおかしいだろ?」


 リッツさんの話はさらにヒートアップする。


「俺は軍の施設が怪しいと睨んでる。軍で雑用をしている奴から聞いたんだが外部の人間や一部の高官しか入れない区画があるらしい。軍には外部の人間が一定数居るが、外部の人間はほとんどその区画からはでてこないそうだ。何故外部の人間が軍にいるんだ? 外部で魔物や海賊と戦ったことの有る人間を雇っているとかお偉いさん方は言ってるがな。そもそもこのシティの他にはここの半分にも満たない広さのシティや小さい基地があるくらいでほとんどのスペースシティ計画は頓挫したか、頭のおかしい魔法使いのテロで壊滅したって話だろ? いったいどこから人間を雇ってくるんだ?」


「たしかに、外の情報ってほとんどありませんよね」


「そうだ! 第一魔法使いだの魔物だの海賊だのって説明も大分怪しい。魔法や魔物なんて見たことがない。それに宇宙海賊なんて連中がいるなら軍の連中はもっと忙しくしててもいいはずだ。俺が軍に所属してる奴から話を聞いたところどいつもこいつも暇そうな顔でパトロールって言う名の散歩をしているだけだって言ってた。スクランブルがかかるのを聞いたことがないとさ。本当は魔法使いや魔物なんて存在しないんじゃないか? このシティのお偉いさん方の話は嘘ばっかりだ」


 そして何かを諦めたような顔でボソッと言った。


「きっと俺の親友はもう死んでる、好奇心が強いやつだった。何か知ってはいけないことを知ってしまったんだ。」


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