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星より眩く  作者: Letterake
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第1話 輝く翼

 舞い上がる風船とライトウィングが描く文字が空を彩っていた。

 誇らしげに胸を張る秀才がいた。

 笑いながらも目が潤んでいる天才がいた。

 家族と笑いあう凡人がいた。

 男同士で肩を組み合い、ポーズを決めて写真を撮っているむさ苦しい連中がいた。

 抱き合っているカップルがいた。

 色んなやつがいて、皆笑顔だった。


 今日は成人式だ。

 スペース・シティ「ラダン・シティ」の成人式兼基本教育課程の卒業式でもあった。


 皆が笑いあっている中、微妙な顔した友人がためいきをついている。

 俺も傍から見ると、微妙な顔をしているだろう。


「まじかよ……あいつらもう、ライトウィングパイロットになることが確定みたいに言ってたぞ」

 

 そういってまた大きくため息をついたのが友人のアベル・ラダンだ。黒髪黒目におちゃらけた表情が特徴だが、いつも楽しそうに笑っている顔が今はまじめな硬い表情を浮かべている。

  

「小さい頃からライトウィングの勉強や、トレーニングをしてパイロットになったって話しょっちゅう聴くからな、フィデールは努力してた……なるだろうなライトウィングパイロットに」


「嫌味なエルネストの野郎ならともかく、フィデールや挙句の果てにはサラにまであんなこと言われるなんてさあ……思わないだろ……」

  

「あんなもんじゃないのか? 本気でライトウィングパイロットになりたいなら」


「お前はどうなんだよ! お前もライトウィングパイロットに成りたいって言ってただろ!」


「俺は特に何もしてこなかったぞ? 俺がライトウィングパイロットに成りたいって言ったのは一般的なラダン市民としての淡い憧れみたいなもんで、本気でライトウィングパイロット目指してるかって言うと……どうなんだろうな?」


「じゃあなんだよ俺はライトウィングパイロットに成れないって言うのか!」


「そんなことはないだろ今の飛竜王は20過ぎてから先代の飛竜王に才能を認められてライトウィングパイロットなったって聞くし。そう考えたら俺たちはまだ15、今年で16歳だ。今からでも努力すれば成れるさ」


「そうかなあ」



――――――――



 それは成人式の大事なイベント、我が校の校長や、ラダンシティのお偉いさん(アベルの父親)などのありがたいお話が終わり、成人式の目玉イベントであるライトウィングのショーを見るために講堂の外へ出た後のことだ。

 講堂を出て直ぐに人ごみのなかからアベルが声をかけてきた。


「レオ! いやーたいくつな話だったなあ! ライトウィングがよく見える場所まで行こう。フィデールとサラも見つけないとな。これからライトウィングパイロットを目指す4人で写真を撮ろうぜ!」


「エルネストはどうなんだよ」


「エルネスト? あいつはなあ……まあしょうがないあいつも入れて5人だ!」


 フィデールとサラは直ぐにみつかった。

 というよりアベルが見つけた。

 2人は笑顔で何か喋っている。

 アベルは人を見つけるのがうまい。

 どんなところにいても直ぐに見つかって、アベルの思いつきの行動に振り回される。

 アベルの思いつきのせいで被害を被ることは多々あったが、それでもなぜか憎めない。

 アベルはそういうやつだ。

  

「おーい! フィデール! サラ! 一緒に写真とろうぜ!」


「あ、アベルにレオ! ちょうど今フィデールとそういう話をしていたの。5人で写真撮りたいねって」


「誰かに携帯端末を渡して写真を撮ってもらおう」

  

 多くはいないが珍しくもない紺色の髪に暗い茶色の目、平均的な身長にまあまあの顔、平均的な成績と平凡を地で行くような見た目を持つ真面目な男フィデール。

 肩まで伸ばした赤髪を後ろで1本に纏めている明るい少女がサラ。

 お調子者でラダン・シティの統治者ラダン家の三男アベル。

 淡い金髪と金の瞳が特徴なのが俺、アウレオール・アウレリウス。通称レオ。

 4人は幼馴染だ。

 10年間の基本教育課程の中で別々のクラスに分かれたことはほとんど無い。大体いつも同じクラスだった。

 最近はこの4人にたまに1人加わる。

 エルネストだ。

 基本教育課程は3年間づつ、初級教育、中級教育、上級教育の3つプラス最後の1年の計10年間に分かれている。

 エルネストは中級教育から上級教育に変わったときに同じクラスになった。

 そして4人でライトウィングの話をしているときに割り込んできたのだ。

  

「君たちはライトウィングパイロットにあこがれているのかい? 僕はエルネスト。ライトウィングパイロットになってランク1位、次代の飛竜王になるつもりだ。よろしく」


 そのときの微妙な空気は今でも鮮明に思い出せる。

 いきなり現れて次代の飛竜王になることを宣言したのだ。


 ライトウィングパイロットはこのスペース・シティでは花形職業だ。

 ラダン・シティは他のスペース・シティに比べてかなり大きい。

 広大な空間が存在し、地上から青空を映し出しているパネルまで千メートル以上あるため、スペース・シティ内部であっても航空機が飛ぶ余裕があるほどだ。


 ラダン・シティが広大なスペース・シティだとしてもずっと住んでいればメジャーなレジャー施設は遊びつくしてしまう。

 ラダン・シティに生まれた人間はそれに不満をもたないが、外部から来た人間が一定以上いる軍人は違った。

 特にラダン・シティ周辺は平和な場所、ごくまれに小さな戦闘が発生するくらいで、戦争とは無縁だ。

 暇をもてあました軍人はシティ外周の宇宙空間で訓練機を使ってレースを始めた。訓練機は広大な宇宙空間ではぐれても見つけやすいように特殊な光を出しながら飛ぶ。光は数秒で消えるが、これまた特殊な探知機を用いると一定時間内ならばその光の粒子が残っているため訓練機が飛んでいった方向がわかるようになっている。

 それを公務に疲れ、たまたま普段は足を運ばないシティ外縁の通路を歩いていた当時のラダン家当主が目に止める。

 シティ内部からは上方向の宇宙空間しか見ることができない。

 特に昼間は青空が天蓋のパネルに投影されているため、太陽の強い光以外は宇宙空間の様子が全く見えないようになっていた。

 シティ中心部から遠い外縁部の通路に来る物好きはそう居ない。

 宇宙を眺めたかったら夜に上を見れば良いし、外縁部の狭い通路には外部から来た軍人がつまらなさそうな顔で歩いているばかりで、用もないのに行くような場所ではない。

 だからパトロールの任務を放り出して遊んでいることはばれないはずだった。


 翌日ラダン家当主に呼び出された軍人たちは青い顔で再就職先を話し合っていたが、当主は面白いからシティの内部でレースをやってみろと言った。

 遊ぶくらい暇ならシティの住人全員を楽しませるような最高の舞台を用意する余裕くらいあるだろう。

 そう言われた軍人達は頑張った。

 安全なコース作り、自腹を切って、高名なエンジニアに頼み込み戦闘機を目立つ色に塗装し、遠目から見てもわかりやすいように訓練機が通ったあとにでる光の帯を派手に煌めくように改造して、より派手に光がでるようにした演習用のミサイルを積んだ。

 戦闘機が出す光の軌跡による空中文字、レースに、派手な爆発光が飛び交うドッグファイト。

 戦闘機のショーは大盛況だった。

 光の帯を出しながら飛ぶ戦闘機はライトウィングと呼ばれるようになった。

 以降のラダン・シティではイベントのたびに光の空中文字が描かれるようになり、レーシングやドッグファイトを観戦したり、勝敗を予想して賭けに興じたりするようになった。

 

 ラダン・シティで育つ住民はシティのどこからでも見えるライトウィングを見て育つことになる。

 ライトウィングパイロットはラダン・シティの成りたい職業ランキングの1位をずっとキープし続けている。

 そんなライトウィングパイロットのランキング1位の人間につけられる称号が飛竜王だ。

 飛竜王になるのはどれだけ難しいことだろう。

 すくなくともラダン・シティでは一番成るのが難しい職業だ。

 上級教育に上がったばかりで成人になるまでは4年近くあるとしてもある程度の現実は見えてくる。

 ライトウィングパイロットに成るのが夢だと言う人間はまだまだ多いが飛竜王を目指すという人間は多くない。

 言うとしても冗談交じりに言うのがほとんどだ。

 そんな中大真面目な顔で飛竜王になると宣言したのがエルネストだ。

 

「君たちがパイロットになるなら僕のライバルだね。共に切磋琢磨して行こう。ところで君たちはどんなトレーニングをしているんだい?僕は今基礎体力をつけるために走り・・」

 

「ちょっと待って!トレーニングって何のこと?私たちがパイロットになるためのトレーニング?」

 

 戸惑うサラ。

 

「それはそうだよ。君たちはトレーニングや勉強はしていないのかい?」

 

「トレーニングって・・・俺たちはまだ上級教育に上がったばかりで、パイロット訓練校に入るのはまだまだ先だぞ?」

 

 鼻白むアベル。

 

「君たちは訓練校の倍率を知らないのかい?今から勉強とトレーニングをせずにどうするんだ……」

 

 呆れたようにいうエルネストにアベルは食って掛かる。

 

「その勉強のために上級教育が終わった後の1年間があるだろうが、今のうちからそんなことばっかりやってたら思い出も何もない悲しい学園生活になっちまうだろうが」

 

「後悔するよ」

 

  呆れるエルネスト。

 

「……」

 

 フィデールは馬鹿みたいに口をあけてポカンとしていた。

 面白い展開になったと思い俺は一歩はなれてその様子を眺めていた。

 それ以降もエルネストは良く絡んできた。

 勉強はしなくて良いのか、トレーニングはどうなんだと。

 そんなエルネストをアベルはいつも馬鹿にしていて、喧嘩にならないようにサラやフィデールがフォローしていた。

 俺はというとお前ら仲良いなとかそんなようなことを言いながらその様子を眺めていた。

 

 意外と仲良くやっていたと思う。

 アベルはエルネストを嫌なやつだといつもいっているが、嫌味を言ってくるエルネストを無視することはなかったし、本気で怒ることもなかった。

 エルネストはアベルにいつも嫌味を言っていたが、いつもアベルに対して話しかけていたし、アベルのことが嫌いではなかったのだろう。

 

 俺はフィデールに少し嫌われていた。

 エルネストに感化されてトレーニングを行うフィデールを見て大変だなと笑ったのだ。

 フィデールはむっとして言った

 

「お前は楽そうだな。……後で苦労するぞ」

 

 それ以降フィデールの俺に対する態度が少しそっけなくなった。

 

 

―――――――――――――



 そんな感じで成人式までやってきた。

 

「ふっふっふ。今日この日のために撮影ドローンを持ってきた!」

 

 得意げにドローンを組み立て始めるアベル。

 

「わあ!準備いいね!変な荷物持ってると思ってたけど写真のためだったのね。あ!エルネストいるよ。エルネストー!こっち!一緒に写真撮ろうよ!」

 

「えー、あいつ呼ぶの」


 文句を言うアベル。


「今日ぐらいは仲良くしないとだめだよ」

 

「しょうがないな」

 

 普段ならここで食い下がってぶーたれるアベルも今日ばかりは素直に引き下がる。

  

「写真かい?良いよ。良い記念になる。撮影用ドローンだなんて手が込んでるね」

 

 いつもは仏頂面のエルネストも今日は笑顔だ。

 

「だろ?さあ撮るぞ。もっとくっつけ! 入らない!……よし!」


 アベルが撮影用ドローンを丁度いい位置で空中に固定してこっちに向かって走ってくる。

 5人で肩をくんでくっつく。


「後10秒だ! 変な顔する用意しとけ!」


「卒業だー!!」

 

「「「イエー!!!」」」


 基本教育課程の本当の卒業式は約1年後だが、成人式が実質の卒業式になっている。

 ラダン・シティでは16歳から成人扱いになる。成人になる年の初めに成人式を行うのだ。

 成人式以降の1年間は職業探しのための1年間で、色んな職業を体験、もしくは専門学校に入るための勉強をしたりするための期間だ。

 だからこれ以降はほとんど学校に来ることが無くなる。

 来たとしても教員や進路相談員などに相談をしたりするためなので他の生徒と顔合わせることはほとんど無い。

 

「オッケー。いい写真が撮れた。明日からはパイロット訓練校に入った後のための勉強だな!」

 

「……」


 空気が変わった。

 

「え?アベル勉強とかトレーニングしてなかったの?」

 

 不思議そうな顔をするサラ。

 

「君は表面上はふざけていても裏でしっかり努力する人間だと僕は思ってたんだが」

 

 呆れるエルネスト。

 

「俺もそうだ。アベルはなんだかんだ言って遊んでるだけじゃないって」


 困惑するフィデール。


「な、なんだよそれ……勉強するためにこの1年があるんだろ? お前らもエルネストみたいに飛竜王とか目指してるのか? 俺は飛竜王にはなれなくたっていいし、それに勉強はともかくトレーニングってなんだよ! ライトウィングに乗ってトレーニングするわけじゃないだろ! できないだろ!」


 集中攻撃を受けてたじろぐアベル。

 戸惑う他の3人。


「ライトウィングに乗れなくたってトレーニングはできるよ。コックピットに座ってはいるけれど長時間のレースやドッグファイトに耐えるために基礎体力は必要だし、マルチタスク能力や反射神経、バランス感覚とか……ライトウィングにのらなくても必要な能力のトレーニングはできるよ……訓練校に入る前に体力の試験とかあるんだよ」


「でも、上級過程が終わった後の1年間で勉強して、トレーニングして、それで訓練校に入ってパイロットになった人間だっているだろ?ロズリーヌ先輩だってそう言ってたし」


「それは……いるけれど、一部の本当に才能がある人だよ。先輩は天才だしなんでもできたから。アベル、訓練校の倍率知ってる?もっと前から準備しておかないと難しいよ。私たちはちゃんと準備してたけど」


「ああ、僕たちはライトウィングパイロットに成る。君はどうするんだ?」


「なんだよそれ……お前らいつからそんな真面目ながり勉人間になったんだよ……もういいよ……俺はこの一年で勉強してパイロットに成るからな」


 そう言ってアベルは去っていった。


「レオは?」


「え?」


「レオはちゃんと勉強してるよね? パイロットになりたいって言ってたよね? 一緒に訓練校にはいるよね?」


「えぇっと……いや……俺は勉強はあまりしてないよ……この一年で色々見て自分に合った職業を探そうかなって、パイロットには成りたいけど、どうしてもって言うほどじゃないし……もしかしたら他にもっと良い仕事があるかもしれないし」


 そっか、5人でパイロットに成れるっておもったんだけどな……」


 サラは悲しそうだった。


「まだわからないよ、俺もアベルも諦めた訳じゃない」


「サラ、レオとアベルには俺たちとは違う考えがあるんだ、心配することはないよ」

 

 フィデールがそういってサラを慰める。

 耳が痛かった。

 考えなんて何も無い。

 居づらい空気だ。


「アベルを探してくるよ」


「また今度」


「ああ、また」

 


――――――――――――



 そして、ライトウィングショーが良く見える湖の辺の柵にもたれながらため息をついているアベルを見つけて今に至る。

 

「でさあ、これからどうすんだよ俺ら」


「とりあえず5月に訓練校の試験があるそれを受けてみよう。それがだめでも年の終わりのほうにもう一回試験が受けれる。だめだったら来年受ければ良い」


「そうだな、そうしよう! 俺はやるぞ! なんだあいつらのあの目! 見返してやる!そうと決まれば今日から特訓だ!」


 もう回復した。

 調子の良いやつだ。


「おお、頑張れ」


「お前もだよ!」


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