六
ガラン、と金属音が響いた。音は三回続き、止んだ。
音は下から響いてきたようだった。長い廊下の突き当り、空間がある。階段になっているのだろうか。そっと見に行く者がいる。
突き当りの空間はやはり階段のようだ。
「階段があるわ。下に降りられるようになっているわ」
韋駄天走りでこちらに戻ってきて、話した。
――どうする?
――下に行ってみる?
無言の問い掛けが続いた。
廊下にいて嘆き合っていても何の進展がない。しかし、金属音が何かの合図だとしても、下に行ってみていいものか、それこそ、男の集団でもいるのか。
それも怖いし、気持ちが悪い。
――誰か様子を見てきてくれればいい。
口にしないが、皆が心の中で思っているのだろう。無言で時間ばかりが経つ。こんな中で真っ先に何かを言い出したら、自分が責任を取って行動しなくてはならなくなる。それが不安で、全員沈黙している。
重苦しさに耐えられなくなったように、階段を確認してきた女性が言った。
「わたしが階段まで行ってみたんだから、誰かその先を見てきてよ」
「……」
返事はなかった。
何があるのか不明だし、遭難時は動き回らないでじっとしていた方が安全と言われている。しかし、救助が来る保証はどこにもない。
年齢の近い女性ばかりで、誰かを頼りにしようと考えているだけで、何もできない。
真砂子は怖かったが、次第に気を揉みはじめた。このままそれぞれの顔色を見ていて時間が経ったら部屋に戻って引きこもるつもりだったら、何もしなくてもいい。だが、部屋には洗面台もトイレもなかった。時間の経過で生理的にどうなるか判っている。水分の摂取も用便も、そして逃げられるのかも動いて調べてみなければ、確かめようがない。
「わたしが行ってみる」
真砂子は声を上げた。深雪がびっくりした。
「本気なの?」
「本気よ。もしかしたら、怪物とか、変な男の人とかいるかも知れないけど、食べ物とかトイレとか、それと逃げ場所とかあるかも知れないもの。ちょっと降りてみる。
怖かったらすぐ戻る」
深雪がこくんと肯いた。
「深雪でも、誰でもいいから、誰か何人か後ろから付いてきてきてよ。転びそうになったり、攫われそうになったりしたら、引っ張り上げてよ。そうじゃなきゃ行かない」
「もっともだわ」
年長の女性が言った。
「わたしも一緒に行くわ」
先行する者が決まったので、後に続くと手を挙げる者が出てきた。
「わたしは真砂子」
「亜以子と呼んで」
真砂子と亜以子が二人並び、数歩遅れて深雪と四、五人が付いて歩きはじめた。