五
思わず真砂子は尋ねた。
「どうしてそんなことが言えるの?」
「判らないの?」
説明する気にもならないと、その女性はよそを向いた。
「ペットショップや牧場の動物のように選り分けられたってあの人が最初に言ったでしょう」
悟ったように怯えを伝染させるグループもいれば、訳が判らないと口にする者たちもいた。
「人間がペットや牧場の動物みたいに?」
「一体誰が?」
「そんなの知らないわ。宇宙人か、優性思想にかられたイカれた人たちかのどちらかよ。
多分、知らない内に選り分けられたのだから、宇宙人かもね」
宇宙人……。
今の所はそんなふうに表現するしかないだろう。
「今まで人間が動物にしてきたみたいに、気紛れな愛玩に使われるか、鑑賞用にされるか、食用にされるか知らないけれど、ここにいる何人かは繁殖用に回されるのよ、確実に」
「繁殖用って?」
「その年齢でカマトトぶってないでよ。直接男と会わせてどうこうするか、人工授精みたいにされるかのどっちかで、子どもを作るのよ」
怯えている何人かは、その言葉に一層身を縮めた。
真砂子はイマイチピンと来ない。子どもがどうやって生まれてくるかくらいは知っているが、年齢イコール恋人いない歴だ。その分、自分が将来体験するかも知れない恋愛や出産について意識が希薄だ。だいたい自分はまだ二十歳にもなっていない。
現在交際中の男性はいないが恋愛経験がありそう、といった感じの二十代の女性が真砂子を見て言った。
「あなたは高校生くらいかしら? だから自分は関係ないと思っているのかしら?
甘いわよ。男から見れば高校生だって立派に女だし、それこそ繁殖用にと考えているのなら、若いうちから健康管理しなくちゃいけないものね」
「健康管理って……」
意地悪そうな声が続いた。
「そうよぉ。今でも純潔の娘とすれば性病が治るって迷信を信じている男がいるっていうし、若い娘は大事にされるのよ」
いやだ、やだぁと側にいた深雪が耳を塞いで喚きだした。先に騒がれて、真砂子は悲鳴を上げるタイミングを逃した。騒ぐ深雪を抱えるようにしながら、真砂子は声を絞り出した。
「そんな怖いことを言わないでよ。そんなことを言ってたら、ここにいるみんな同じじゃない。ひどいよ、ひどいよ」
「ごめん」
と意地悪そうな声の、さっきの女性だ。
「誰かに当たっても仕方ないよね。でもこんな訳の判らない状態、言いたくもなるよ」
「本当にわたしたちどうなるの……」
しばらくは鳴き声と悲鳴の合唱が続いた。
やっと知る人間と出会えて安心したかと思えば、また絶望的な状況であると察せられ、嘆き、倒れ込むしかできなかった。