三
充喜がいなくなった時と比べて動揺が少ないと、真砂子は驚くほど冷静に思った。決して祖父が大嫌いだからいなくなればいいと思っていた訳ではなかった。それは充喜に対しても同様であったし、生まれた時から一緒に暮らしてきた祖父には反発しながらも家族としての愛情があった。
――でも、どうしたらいいの。みんないなくなっているというなら探しようがないもの。
万物の霊長と言われる人類なのに、一人一人は無力だ。
真砂子は昨日の母や祖父のように、ぼんやりとテレビを観続けていた。
昨日行方不明になっていた少年が十五歳の誕生日の今日、戻ってきたと新しいニュースが流れた。
十五歳になれば戻れるのか、だとしたら充喜は今度の誕生日まで会えないのか。でも、その少年は昨日一日どこにいたのか。ただ十五歳の少年なので報道規制があって、画面に映し出されないし、詳しい事情も明かされない。
続いて、もうじき一歳を迎える子どもが母親に殺されたとニュースが流れた。十五歳になって戻ってくるなら、一歳になるとどこへともなく消えていくのだと思うと耐えらないと犯行に及んだという、ニュースも大事だが、心の問題をどう整理したらよいか誰も判らない。
夕方、真砂子は家族のための夕食の準備を始めた。両親が帰ってきた。
「今度は一斉にお年寄りがいなくなった。病院や介護施設も空になってしまったそうだ」
「どうなってしまうのかしら」
泣き出したいのに涙一つ零れてこない。自分は冷たいのか。いいや、変化に一々反応していたら、心が壊れる。壊れないように、心は自衛している。
両親が翌朝消えた。
朝、起きても誰も居間や食堂に出てこないので、両親の部屋に行ってみたら、誰もいなかった。窓や玄関の鍵は掛かったままだ。
どうなったのか、テレビがつかない。停電している。何もかも電気を使う器具は使えなくなっていた。ラジオをつけてみる。何も聞こえてこない。
昼近くなって、ラジオから音がした。また、人が一斉に消えたとラジオは告げた。そのために電気も交通も麻痺に近い状態であるという。今回姿を消したのは、法律婚・内縁を問わず夫婦、または交際している男女であるらしい。
取材や放送がどこまで続けられるか不明、放送は不定期になりそうだと続けた。真砂子はへたり込んだ。一日、何もできない。ただ乾きや空腹を感じた時に動いて、台所にある物を摂った。
――怖い、怖い。でも外にも出てみるのも怖い。
家の中にいるのに、誰かに見張られているのかも知れない。外に出たら出たで、捕らえられるかも知れない。はぐれ者に絡まれるのも嫌だ。物音を立てないようにじっとしていた。
翌朝、真砂子は自分の部屋にいなかった。見知らぬ場所にいた。