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CAGELING  作者: 岩崎都麻絵
2/14

 充喜のように自分の意思で出歩く年齢の子どもとは違い、いなくなったのが幼児なら親は当然のことだろう。そんな様子に胸が痛んだ。同時に親を心配させ、ああやって祖父と諍いまで起こさせている弟がへらへらとして現れたとしたら、ビンタをしてやろう、それじゃなきゃ気が済まないと思った。ただの家出ならいいけれど、この様子は只事ではなさそうだ。落ち着かないが、とにかく自転車を力いっぱい漕いだ。

 高校に着くと、校門が開いており、教師も学生も集まっていた。しかし、半数しか来ていないようだ。登校している学生は体育館に集まるようにと、校内放送が入った。

 校長先生は不在で、教頭からの説明があった。

「十五歳未満の子どもの行方が一斉に不明になりました。校長先生はそのためにお出掛けしています。今後何があるか判りません、高校はしばらく臨時の休校とします。不要不急の外出はしないようしてください。今日登校していない皆さんにもこちらから安否確認を行っています」

 一旦教室に戻った。担任の先生は自分の子どもがやはり不明となり、来ていないため、別の教師が代わりに真砂子たち学生の出欠を確認し、解散となった。

「真砂子のとこの弟は?」

「朝、いなくなってた」

「深雪のとこの妹もいなくなってるって聞いたよ」

「なんなのよ、それ」

 変なことが起こっている。それしか判らない。寄り道をしないで帰れと言われていた。言われなくても、家に向かった。

 帰宅すると、父がいなかった。父は職場に行ったらしい。

 ただいまと告げても、お帰りの言葉がなく、ああ、と気の抜けた返事が聞こえた。出掛ける時は危ないとか言っていたくせに、祖父はわたしが無事に戻ってきたのをどうでもいいとでも考えているのだろうか。

 母が真砂子を見て、泣き笑いの表情をしながら、よかった、帰ってきたのね、と声を掛けてくれた。しかし、視線がすぐに移った。

 祖父と母がぼんやりとテレビを観ている。こんな時だが、テレビに情報を頼っているのだろう。

 真砂子は教頭やクラスメイトから聞いた話を聞かせた。大方、テレビで流れているニュースと同じようだ。一歳以上十五歳未満の子どもが性別に係わりなく日本中からいなくなった。情報が錯綜しているようだが、日本以外の国でも同様らしい。

 充喜だけではなかった。探しても無駄なのか。

 もう中学生が冒険で家出したなんて軽口も言えなかった。

 祖父はがっくりしている。同じ孫の真砂子より充喜が可愛いのだろう。真砂子は口を尖らせた。胸の内がもやもやとする。

 祖父自慢の充喜がいなくなって、自分は喜んでいるのだろうか。それとも家族の喪失を悲しんでいるのか。真砂子は突然の出来事に対処できずに感情が停止していると、乾いた気持ちになった。

 母が無言で機械的に夕食づくりをはじめ、真砂子はそれを手伝った。祖父はテレビを観続けている。同じニュースが繰り返されているだけなのだから、少しは動けばいい。しかし、祖父は動かない。

 父がくたびれきった様子で帰宅した。父も同じことしか判らない、しかし、仕事は仕事でこなさなければならないらしい。大人は難しい。

 夕食ができたと母が言うと、みな食卓に付いた。黙って食べ、後は片づけて、会話もなく、それぞれ休んだ。

 翌日、祖父がいなくなった。充喜を探しに出たのか。

 母は少しも驚かなった。父も仕事ついでに探してみるからと酷く冷静に言っただけだった。この日は、昨日休んだからと母も仕事場に出掛けた。

 真砂子が留守番をしながら、テレビを観ていた。ニュースで、六十歳以上の人たちが一斉にいなくなったと告げた。

 ああ、やっぱり。どこかで予感していたことだ。

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