十二
どんな話をしようかと迷っている内に、誰かが駆け込んできた。亜以子だった。半泣きの顔をしていた。
「真砂子ちゃん……、わたし、顔とか手を洗いに来たの」
「わたしも手を洗っていたとこです」
亜以子は、さっきの真砂子と同じように水を強く流しながら、顔と手を洗った。やっとけがれを祓ったといった感じで、亜以子は二人に向き合った。
「見掛けない子だけど」
「十三江です。十五歳になったからだと思うんです」
と、同じような挨拶をした。亜以子は、そう、と呟くように肯いた。
「色んな事がまた起こるんだ。
突然、男の人と二人きりになって、びっくりして逃げてきたら、元の部屋に戻ってた」
真砂子は自分も同じだと説明した。男性に手を握られたのが嫌で手を洗いに来た。ついでに新入りさんを案内していた。
「そっか、真砂子ちゃんは、単に今日会った男の人が気に入らなかっただけ?」
「……?」
「質問を変えるわ、今まで好きになった男の人とか、恰好いいなぁと憧れたアイドルとかいた?」
真砂子は、何だろうと疑問に感じながら慎重に、いましたと答えた。
「そうか、今日は相手が悪かっただけなんだ。また、こんなことあるのかな?」
答えられなかったが、多分そうなるのだろう。
「わたし、今まで男の人を好きになったことがないし、魅力を感じたこともないの。気味悪がらないでね。わたし、同性の方に魅力を感じるの」
亜以子の言葉に驚いたが、真砂子は気味が悪いと感じなかった。十三江は、えっ、レズと呟いて、口を押さえた。
「どうなんだろう。男性と仲良くできそうもないけど、生殖能力のある女はどう扱われるだろう。これからが怖い」
「亜以子さん、わたしだって怖いですよ。こんな日々過してきて、なんかのよろめきドラマみたいに一目惚れ同士のカップルなんてできると思います? わたしは嫌!」
そうよね、と亜以子が真砂子の手を取った。亜以子の手は温かく、柔らかで、心地よかった。
「十三江ちゃん、この人は亜以子さんよ。お互い話したいこと、知りたいこと沢山あるみたい。付き合ってくれる?」
十三江は戸惑い交じりに肯いた。
夕方、鐘が三回鳴ったので、階下の食堂に行った。しかし、人数が減っていて、十二人になっていた。由紀生や深雪がいなかった。男性のいない環境に安心していると言っていたのに、今日会ったばかりの男性に付いていってしまったのか。
――人間は判らない。
真砂子は体の力が抜けていくような感覚だった。
十三江は真砂子や亜以子と打ち合わせをしていたように、新たに加わった者として、挨拶とこれまでどうやって過してきたかを説明した。
「十歳以上十五歳未満の女の子ばかりの所で、ここよりはもう少しボリュームある食べ物がありました。食事が終わると、外に出るように、とアナウンスが聞こえて、その日によって体操したり、ウォーキングさせられたりと、体を動かすようにと指導する大人の女性が現れて、終わるといなくなりました。
掃除や洗濯、食事の支度や片付けが要らなかったです」
成長期の子どもに合わせた生活をさせていたのか、と推察できた。大体成長期を終えて、繁殖に適した年齢の女性として、ここに分けられている……。情報や知識を与えられていないのは同じのようだ。
後は今日ここに残った者の体験談。真砂子や亜以子と同じように、今日、男性と会ったが、好みではなかった。いきなり襲いかかられそうになって逃げた。そんな似たり寄ったりの内容。
十三江はいきなりそんな所に放り込まれたのだと、憂鬱そうな顔をしていた。