盗賊
「きゃあああああっ!!!」
「男やジジイは殺せ!女は奪え!抵抗するようなら殺すんだ!」
村は酷い有様だった。民家に放たれる火矢は、壁に触れると同時に燃えだした。おそらく魔法で出された火だろう。
老人や若い男を殺しているのは、どう見ても盗賊だった。
「教官殿!早く助けなければ……」
「ああ、そうだな。」
腰に下げていた魔剣を引き抜く。剣は早く血を吸わせろとでも言うようにキラリと光る。
「輝く氷の蛇よ。それの全てを縛れ。氷蛇魔法!」
ステラが氷の魔法を唱える。
氷でできた蛇は、盗賊たちを容赦なく締め上げる。俺は、彼女が残した盗賊たちを斬る。女もいたような気がしたが関係ない。もっと、もっと殺したい。
「教官殿、こいつらを殺していいのか……?」
「構わない。存分に殺せ」
「……………分かった。」
彼女は一瞬悲しそうな表情を浮かべたが、すぐにそれは消えた。
締め上げられてる盗賊の元へ行き、作り出した氷の刃で喉を貫いた。
「本当にありがとうございます……」
深々と頭を下げるのは、生き残りの村人たち。残っているのは大体が若い女性と子供、男は何人か残ってるだけだ。
金の入っている袋を取り出し、中から持てる限りの貨幣を取り出す。
「これを使って、傭兵でも雇え」
「え?……あ、ありがとうございます!」
何かもてなそうとしたが、それを断り地図を貰った。古く所々破れてるがかなり正確だ。
地図を見て、この近くに旅人の扉があるらしい。そちらに向かうことに決めた。
『ねぇ、セリム。あの村って……』
「騙している事か?」
「え?どういうことだ?アルラウネ、分かるか?」
どうやらステラは分かっていなかったようだ。
『ステラって、あれで気づかないの?バカだね?』
「む。その言い草はないだろう。」
『バーカバーカ。バカステラー!』
「そっちの方がバカだ!バーカ!チビ!」
手を上下に動かしながら、少し涙目になって彼女は怒り出した。ガキそのものだ。
「低レベルな喧嘩はやめろ。俺が教えてやるから」
「教官殿は優しいな。それと比べて……」
『何だよー?』
言い合いを始めようとする二人を放っておき、騙したということについて説明する。
「あの村は多分、盗賊とグルなんだろう。盗賊を殺した時に僅かだが怒りの表情が見れた。盗賊に襲われているフリをし、同情を誘うような口ぶりで金を取る。あと、殺された男と老人は多分、幻覚魔法で作り出されただろうな。」
『サキュバスー。つまりどういうこと?』
『だから、道行く力を持つ旅人を騙して金奪ってたってことよ。人間は浅ましいわね。金なんか奪い合って、挙句には動物なんかも滅ぼしたりする。』
『それは自分たちが最強の種族だーっ!て思い込んでるからじゃない?』
『最強の種族は、竜族しかいないのにね。』
『ねー。』
頭の中で会話が繰り広げられる。最強の種族はドラゴン。昔からそれは決まっている。ドラゴンよりも強くなろうとしている人間はバカなのだろうか。
「んっ……ふぁあ……」
ステラが大きな欠伸をした。
今いるのは旅人の扉……の近くにある宿屋だ。今日は、色々と疲れた為明日出発するつもりだ。
さて、ただの旅人だと言ったが、あいにく部屋は全て満室だというので、一つだけ空いているダブルベッドが真ん中にドンと置かれている部屋に案内された。
あまり、客はいないのでこれは遊ばれてるんだろう。そうに違いない。
「ふかふかのベッドだな。」
そういって彼女はベッドの上で跳ねて見せた。なくなった狼耳と跳ねるとチラリと見える人間の耳は、人間化の魔法をかけたからだ。
『あらあら……精力剤と媚薬いる?』
サキュバスは、ニヤニヤと笑いながら赤の液体と、青の液体が入った小瓶の二つ取り出して言った。
『アルラウネー。アレなーに?』
「僕にも分かんないや。」
「ん?ビヤク?何だそれは?」
『試してみる?』
実体化して、媚薬を渡そうとするサキュバスを阻止する。
だがそれも虚しく、媚薬はステラの手の中に渡ってしまった。
「案外少ない量だな。……飲んでみてもいいか?」
「やめろ。おい、飲むな!」
瓶の蓋を開け、中身を飲もうとする彼女を押し倒し、気の緩んだ隙に手から瓶を奪い取る。
「むっ……。教官殿、それを返してくれ。」
彼女は不満気に言った。彼女の瞳を見つめ、言葉を紡げる。
「だーめーだ!お前が飲むもんじゃない。お前はジュースでも飲んでろ!」
「返すんだ。それは私がもらったものだ!あと私は大人だ!」
「お前にこれは渡さない!」
「渡せ!くすぐるよ?」
「ふん。俺は英才教育を受けてきたんだ。くすぐり如きでこれを渡してたまるか!」
『……元気ね。二人とも』
『そうだね〜。』
呆れたように眺めるサキュバス。何処からか取り出した熱々のココアを飲んでるウンディーネ。幸せだった。
ステラが、部屋に備え付けてある風呂に入った。
ベッドの上には脱ぎ捨てた服と、彼女の背負っていた刺繍の入った袋が置いてある。
青いワンピースとダボっとした青のズボンは年頃の女性だというのに、非常に味気ないものだ。逆に、袋の方は光が当たるとキラキラと輝く星と青い花の刺繍が美しい。
「………ん?」
袋から何かが転がり落ちた。拾うと、それは綺麗に磨かれた石のようだった。中心が濃い赤で、外側に向かっていくにつれ薄いピンクになっている。
『あ、珍しいね。英知の宝石だ〜。』
『こんな所で見るなんてね。』
「それは何だ?」
『簡単に言うと、知識が詰まった宝石だよー。』
『持ち主の欲しい知識が手に入る最高の宝石。競売にかければ高く売れるわよ。あまり人間の世界には出回ってないけどね。何であんな子供がこれを持ってるのかしら。』
「そうか。………となると、ステラの魔法はこの宝石から得てるのか?」
『そうかもね。』
「ふーん。」
宝石を手の中で転がしていると、頭の中に何かが流れ込んできた。
それは、シルシについてだった。
情報は、大量にあったが全て記憶できた。それはこの宝石の力だろう。
『あれれ?黙っちゃってどーしたの?』
ウンディーネが不思議がって、聞いてきた。
「いや……ちょっとな。」
言葉を濁して、何があったかを教えない。
『教えてよー!』
「いや……えっと……。」
実体化されて迫られる。
どうしようか迷っていると、ステラが風呂から上がってきた。
「教官殿。風呂が空いたぞ。」
「ああ。分かった。ウンディーネとサキュバス入ってくんなよ。」
ステラが出てきたおかげで、答えずに済んだ。彼女は、外で魔力を発散させてくると言い残し宿屋を出て行った。




